スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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フォトンがあれば飯も食わなくてもいい疑惑。
まあそのなんですか、
なんかそのあたりフォトンの充填装置みたいなのが
ほら、残っていたんですよ。


【挿絵表示】


表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
http://www.pixiv.net/member.php?id=10995711

登場人物紹介はこちら
http://novel.syosetu.org/61702/1.html

ファンタシースターオンライン2、通称「PSO2」を舞台にしたオリジナルの話です。
本来のストーリーモードの主人公とは違った視点で、
PSO2の世界を冒険していくという内容となります。
気軽に感想とか要望を書いてくれると作者喜びます


038.「私を、連れて行って」

「アンジュ」

 

彼女は一言ポツリと、自分の名前を言った。

ウェズたちは少女の後に続く。

彼女には寄り添うように

スノウバンサーが隣を歩いていた。

 

行きついた先は、洞窟の中。

そこには壊れた調査船、

半分くらいは無残に潰れてしまっている。

地面には外からえぐれて

続く跡があることから、

どうやら墜落して勢いで

洞窟に突っ込んだようだ。

 

「どうして調査船は墜落したんですか?」

 

レシアが尋ねると、

三つ編みをぶんぶんとアンジュは首を振る。

 

「知らない」

 

5年前のことだ。

今、目の前にいる少女は

もっと幼かっただろう、

覚えていないのは無理もない。

 

『……ライガン。

 レコードを確認して』

 

「うむ、わかった」

 

トゥリアの指示でライガンが

フライトログなどのデータを吸い出しに行く。

後でチームルームで解析することになるだろう。

 

「私と、父さんだけ生き残った」

 

彼女は手を握ったり開いたりする。

 

「危なかったから、私をこの体にして、

 その後に、さっきのやつに父さんは殺された」

 

たどたどしい話し方なのは、

ずっと会話を必要とする

生活をしていなかったからだろう。

 

整理すると、原因は不明だが調査船は墜落し、

アンジュとその父だけ生き残る。

けれど少女は危篤状態だった……、

まだ辛うじて動いていた調査船の設備で、

娘をキャストにしたのだと思われる。

その後にさっきの

ダークラグネに襲われたということか。

 

確かにマトモな食料もないような場所だ、

生身のままでは彼女は

数日と生き延びられなかっただろう。

 

「その狼たちは?」

 

ウェズの問いに彼女は誇らしげに笑い、

 

「私を育ててくれた」

 

スノウバンサーに寄り添う。

 

「トーチャ」

 

そう呼びかけると喉を鳴らして獣は応える。

洞窟の奥からもう一匹の

巨大な獣がのそのそと出てくる。

スノウバンサーは雄で、

今奥から出てきたのが雌のスノウバンシー。

 

「カーチャ」

 

ぺたんと座り込む。

その背中から

小さなスノウバンサーが飛び出してくる。

まだ普通の中型犬くらいのサイズで、

アンジュに飛びかかりじゃれている。

 

「この子がムーチャ、私の弟」

 

そして洞窟の入口には

ガルフルやフォンガルフルといった

小型の狼たちが

寄り添いあい寒さを凌いでいた。

その様子をメディリスが惚けたように

 

「凄い……この子は完全に群れの仲間なんだ」

 

その言葉に彼女は「違う」と言い訂正する。

 

「家族」

 

どういう経緯で彼女が

狼たちに助けられたかはわからない。

だが、この光景を見ていれば

良い関係を築いていたのは間違いないだろう。

幼かった彼女を保護したスノウバンサー、

そして少女はフォトンの力で

ダーカーから群れを守っていた。

持ちつ持たれつということだ。

 

「さてどうしたものでしょうか」

 

普通なら保護をすべきだ。

5年も凍土で生き延びたことは驚きだが、

きちんとした体の調整が必要だろう。

なにせ手足以外、彼女は生身。

キャストだからこそ

成長にあわせたチューニングは必須。

けれど、彼女の居場所はもうここにある。

種族は違えど、家族なのだから。

多分、アンジュも

オラクルに戻りたいとは

考えすらしていないだろう。

 

「……」

 

その時、動いたのはスノウバンサーだった。

彼女を鼻で優しく背中に当て、

ウェズたちの方へ押していく。

 

「トーチャ?」

 

不思議そうに育ての親を見返す。

獣は小さく唸り、彼女に伝える。

意思疎通ができているのか、

アンジュは驚いたように、

ウェズたちの顔を見て、

そしてバンサーの顔を見返す。

 

「行けって……でも」

 

それはそうだろう。

彼女が戸惑うのも無理はない。

近づこうとする娘に優しい獣は首を振る。

バンシーも寂しそうな

瞳をしつつも見つめているだけ。

唯一、何もわかっていない

バンサーの子が彼女にじゃれついていた。

獣たちは自分たちといるよりも、

ウェズたちと共にいた方が良いと……

それが娘のためと考えているようだった。

 

その光景に、ウェズは覚悟を決める。

 

「アンジュ、一緒に行こうぜ」

 

「え?」

 

「難しく考えることはねぇよ。

 嫌だったらまた帰ってくればいいだけだ。

 別に一生の別れじゃない」

 

手を差し出す。

 

「でもよ、一度ちゃんとした場所で、

 その体は見てもらわないと駄目だ。

 調子が悪くなったら、

 そいつらも心配するだろう?」

 

同意するように、バンサーも唸る。

 

「行って……私は何をすればいい?」

 

その問いかけにウェズはニカッと笑った。

 

「好きにしたらいいさ。

 うまいモン食うだけでもいいし、

 色んなモノを見たらいい。

 それでたまにはここに帰ってくればいいんだよ」

 

そう、彼女は自由なのだから。

 

「好きに、したらいい……?」

 

アンジュは振り返る。

スノウバンサーは頷き

 

「――」

 

彼女を励ますように短く鳴いた。

原生種は文明を持ってはいない……

けれど人と同じように、

家族を想う強い気持ちはあるのだと、

その場にいた誰しもが理解していた。

 

しばらく悩んでいたけれど、

 

「うん」

 

彼女は決意を決める。

 

「私を、連れて行って」

 

ウェズの手を握った。

 

こうして、スノーフレークは

狼に育てられた少女と出会った。

彼女が何を求め、何の為に生きるのか……

それはこれから、

一緒に探していくことになるのだろう。

 

 


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