スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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002.「絶対に許しませんから!」

「――!!!」

 

金属が軋む音のような不快な鳴き声をあげて、それは床に崩れ落ちた。

堅い甲殻に覆われた四足のモノ……

生き物のように見えるがそれはあまりも歪な姿。

それはダカンと呼ばれるダーカー。

アークスだけでなく原生種にも襲い掛かる誰にとっても「敵」。

 

「よし、完璧だな」

 

赤い霧となって四散していくダカンを見下ろし、

彼は満足げにカタナを鞘に納めた。

 

彼はまだ若いアークスであり、

つい2か月前に修了試験に合格して研修生から卒業したばかり。

彼の愛用する機動性を重視した戦闘服「フラメガッシュ」も

どこか新品のハリを残し、まだ体にきちんと馴染んでるとは言い難い。

 

好戦的に思わせるはっきりとした目立ちに

大雑把に切り上げたぼさぼさのくすんだ黒髪はどこか狼を思わす。

一応はショートウルフという髪型なのだが、

彼の場合はただ適当に髪を切ったらそうなったというだけである。

 

彼は満足げに愛刀であるシガルガの鞘をポンポンと叩くが、

クエストを始めてから実はまだダカンを3体しか倒していない。

ダーカーというのは非常に凶暴で危険な存在ではあるが、

それはあくまで一般人から見ての認識である。

このダカンはダーカーの中でも最も弱く、

並のアークスであるならばあっさりと倒せてしまうだろう。

 

劣等生……というのはさすがに言いすぎだが、

彼は同期と比べてもあまり優秀ではない。

中の下か、あるいは下の上程度の実力といったところか。

 

彼が今いるのは惑星ナベリウス。

比較的に危険が少ないとされる森林エリアが彼の主な活動場所であった。

今回受けた任務は「ダカンを50体倒す」という哨戒任務だ。

ダーカーは数が少ないうちに倒さなければ際限なく増える。

どういった原理でダーカーが増えているかはまだ解明されていないため、

地道に狩り尽くしていくしかないのが現状だった。

だから彼の様に新米アークスたちは

早期発見されてまだ比較的に数が少ない場所での討伐を依頼される。

 

「まったく……同じ場所で同じ任務ばっかり……

 いい加減にもっと刺激のある場所に行きたいモンだよ」

 

彼の実力では妥当なクエストなのだが、当の本人は不満を隠そうしない。

できるだけ簡単なクエストを任されるのは

フォトンの扱いが未熟というのも理由の一つだが、

実は彼のクラスにも関係している。

彼は「ブレイバー」という、カタナと弓を使う

「どんな場面でも活躍できる」というコンセプトで考案された

まだ運用からひと月も経っていない新設クラスなのだ。

ベテランといえるブレイバーのアークスが少ない今、

若手に対しては特に慎重になっている時期ともいえる。

 

「早くもっと刺激の強いところとか、

 凄いレアモノが出る場所に行きたいんだけどな」

 

まあ彼の場合はまだダカンにもてこずっているレベルなのだけれども。

 

あくびを噛み殺しながらダカンを探して歩く。

惑星ナベリウスの気温は少し肌寒いくらいだが、

暖かな陽気もあってとても凄しやすい。

青々と茂った森林に地面にはたくさんの色とりどりな花が咲いている。

彼に花を愛でる趣味はないけれど、それでも素直に綺麗だなと思った。

 

「……ん?」

 

その時、レーダーに反応する。

ダカンが出たのかと一瞬身構えたがどうやら違うらしい。

 

「アークスか……にしては動きがないな」

 

周囲を見回しても特別何か足を止めるような場所ではない。

休憩をするにも見晴らしが悪いから適さないだろう。

疑問に思いつつも近づいて行く。

 

するとそこには……

 

「うーん……ぁ、んん……」

 

花の中で呑気に寝ている少女がいた。

 

「……こんなところで昼寝とか正気かよ」

 

自分と同じような年齢に見えるが、

レーダーにはきちんとアークスの反応が出ている。

 

咲き乱れる白い花をクッションにして

銀髪の少女はだらしなく体を伸ばし、気持よさそうに眠っていた。

 

ここにはダーカーだけでなくアークスに襲い掛かってくる原生種もいる。

とりあえず起こそうとしたが、

自分がこうして真面目にクエストをしているのに

呑気に寝ている彼女のことが腹立たしくなり

 

「せっかくだし寝顔でも撮影しといてやるか」

 

端末を取り出してカシャッと撮影をする。

実に見事な間抜け面が撮れて意味もなくニヤッとしてしまう。

 

カシャッカシャッ

 

普段は撮影機能なんて使わないので、

初期設定のレトロなシャッター音が響き渡る。

何枚か撮影してどれが一番面白いだろうかと端末を見ていたが……

 

「あなた、何してるんですか……」

 

「あ」

 

シャッター音に少女が目を覚ましていた。

さっきまでの色白の肌はどこへいったのやら、

彼女は顔まで真っ赤にして彼を睨んでいる。

 

「いやー、気持ちよさそうに寝ていたのが面白くてな」

 

「なっ……あなたって人は!」

 

しかしよくよく考えれば、

寝ている少女の寝顔を撮影してニヤニヤしていたのだ。

彼女が怒るのも無理はない。

 

怒りでぷるぷる体を震わせる彼女が体を起こすと、

 

「……おい、ちょっと待て!」

 

「絶対に許しませんから!」

 

その手にはフォトンが収束した一枚の羽。

羽のような形をしたそれは、ローザクレインという

テクニックを使うための法具(タリス)。

真っ赤な色のフォトンは、炎属性のテクニックを使うつもりだろうか。

 

「って、アークスに向けて撃つとか正気か!」

 

「女性の寝顔を撮影して気持ち悪く笑ってるあなたに言われたくないです!」

 

慌てて逃げようとする彼に、少女はタリスを投げつける。

 

「フォイエ!」

 

静かな森の中に、絶叫が響き渡った……

 


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