スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
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Episode 1 :The flower of the snowflake blooms(森林編)
000.「プロローグ」+001.「……なんだか疲れました」


000.「プロローグ」

 

 

これはひとつのありふれた物語。

 

あなたたちが知っているのは、

たった一人の勇敢なアークスが紡いでいく

とてもとても大きな物語でしょう。

 

研修の修了演習から物語を始めたアークスの卵が、

瞬く間にたくさんの仲間たちと出会い、

多くの惑星を舞台にドラマを繰り広げ、

そしていつしかオラクルの運命をも左右することになるそんな英雄譚……。

 

「それ」に比べれば、これは語られることもない小さな物語です。

 

――想像したことはないでしょうか?

 

「あなた」が歴史を改変する物語の主人公だったあの世界で、

姿さえ見えない「その他の大勢のアークス」がどんな風に過ごしていたのか。

 

「あなた」がダークファルスたちとの決戦に挑んだあの時、

その周囲ではどんな戦いを繰り広げていたのか。

 

「あなた」が大切な決断し、そして悲しい別れを経験したように、

みんながどんな想いを抱えて冒険をしていたのか。

 

 

記録には残らないけれど、

オラクルを舞台にした物語はきっとそれこそたくさんあったのです。

 

 

今から語るのは、ひとつのありふれた物語。

 

 

 

けれど彼らにとってはかけがえのないたった一つだけの「特別」

 

 

――さあ始めましょう、ファンタシースターの冒険を

 

 

 

001.「……なんだか疲れました」

 

 

木々から漏れる淡い陽光が地面の花たちを照らす。

彼女はその光に惹かれるように、花の絨毯に仰向けで寝転がった。

 

ただ何も考えずに、小さく深呼吸。

どこからか聞こえてくる鳥のさえずりは心地よく、

気付いたら瞼を閉じていた。

 

腰まで届くであろう長い髪が広がる。

彼女が日頃から手入れを欠かさない自慢淡い銀髪を、

あたりに広がる白い花たちが包み込む。

彼女の着る黒を基調としたウィオラマギカが

周囲の白とのコントラストを描く。

彼女がベッドにしたのはスズランのような植物で、

ランプのように垂れ下がった花からは爽やかな香りがした。

 

「――」

 

彼女の小さな呟きは声にもならず、静かに消える。

 

 

自分がさっきまで何をしていたかなんて、

そんな些細なことはもう考えるのをやめてしまった。

こうしてただ静かに森の伊吹に体を委ねている方が

とてもとても有意義なことのように思えたからだ。

 

出来が良すぎる妹のこと、

自分には向いていないアークスの任務のこと、

今受けているクエスト内容のこと……

 

つらつらと取り留めなく思い浮かべていたが、

 

「……なんだか疲れました」

 

今がクエスト中だなんてことすら頭の中から消え

気付いたらもう彼女は眠りについてしまっていた。

穏やかな寝息を立て、気持ちよさそうに眠る。

 

きっとこれが彼女にとっての運命の分岐点。

 

彼女がここで居眠りをしなければ、「彼」と出会うこともなく、

ただ一人でこれから先も覇気のないまま過ごしていた。

そして彼と紡いでいく物語は始まらなかっただろう。

 

 

けれど彼女は偶然にも「彼と出会う」という運命を選んだ。

これから共に歩んでいく、とても大切な相棒となる彼と。

 

――何気ないこんな一幕が、そうこの物語の幕開け。

 

 


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