スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
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014.「俺はアンタが欲しい」

「ありがとう。

 あなたたちのお蔭で私もこの人も助かったわ」

 

ベットの上で彼女は力ない微笑みで礼を言った。

体を起こそうとするが

 

「お、おい……ミミ、無理をしてはいけない!」

 

慌ててライガンは彼女の肩を押してベットに戻す。

ぽすんとベットにおさまった彼女は苦笑する。

先日のファングバンサーから受けた傷は

想像以上に深かったらしい。

 

「もう……あなたは過保護なんだから」

 

ユニットが破損していたのがまずかった。

普段はユニットがフォトンを増幅させて、

様々な攻撃から身を守る。

けれどそれが壊れた状態で

ファングバンサーの爪を受けてしまった。

レシアが光のテクニックで癒すのがもう少し遅ければ、

本当に手遅れになったと聞かされた。

 

それでも彼女は後遺症を負ってしまった……

フォトンが使えなくなるという、アークスとして致命的な。

治るかはわからない、

そう医務室のフィリアは診断した。

 

それを聞いてからライガンは

先ほどの戦いでの堂々たる立ち振る舞いはどこへ行ったのか、

彼女の前では始終オロオロしぱなっしだった。

 

ミミ=ロミはヒューマンで、

小柄ではあるけれど大人びた雰囲気を持つ女性だ。

柔らか物腰と落ちついた口調。

黒髪を頭の横の高い位置でサイドポニーにまとめていた。

 

「そうは言ってもミミ、

 お前までいなくなってしまったらグレイシールドは……」

 

二人は「グレイシールド」というチームに所属するメンバー。

惑星ナベリウスでのダーカー大量発生事件の時に、

研修生たちを助けにいって壊滅してしまったチーム名だ。

救援に向かったメンバーの全員が生死不明であるが、

ライガンとミミは

たまたま別のクエストに行っていて生き延びた。

事件から3か月、生存者は見つかっていない。

つま、たった二人の生き残り……。

 

「もしかして二人は……」

 

「ええ……仲間の遺品があればと思って、

 定期的に探しに来ていたの」

 

「そう、だったんですね……」

 

マスターやマネージャーを失い、

役職も持たずチーム運営に関わっていない

二人だけが残された時点で既に

グレイシールドはチームとしての機能を失っていた。

それが、一人になってしまっては、

もうチームを解散せざる得ないだろう……。

 

「お、そ、そうだ、ミミ!

 リンゴを持ってきたのだった。

 ミミは好きだったろう、今すぐに皮を向こう!」

 

「お、おい。あんた落ち着けよ」

 

動揺しているのがありありと伝わってくる。

ラムダパシレイオンを持つ手が

見てて不安になるくらいブルブル奮えている。

というよりそんな大きなパルチザンで皮を向こうというのか。

 

その要素を見ていたミミは、

 

「……」

 

目を閉じて、一度深呼吸をする。

そして目を開いた彼女は静かに相棒の名前を呼ぶ。

 

「ライガン、お願いがあるの」

 

「お、おお!

 なんでも言うと良いぞ!

 なにか欲しいものがあるのか、それとも――」

 

「アークスを続けて」

 

息をのむ、それがキャストに対して正しい表現かはわからない。

けれど、そうとしか言えないくらい、

ライガン=ボルテックスは言葉を失っていた。

 

「ミミ……」

 

「あなたのことだから、

 アークスを辞めて私に付き添おうとしていると思ったの」

 

ミミは「違う?」と問いかける。

それが正しいということを

彼が返事をしないことが物語っていた。

 

「グレイシールドはダーカーを倒すよりも、

 困ってる人のために活動することを信念としたチーム。

 その意思を、引き継いで欲しいの」

 

「ミミ、私は……」

 

ライガンとてそう言われることは予想はしていたはずだ。

けれど実際に言われると、即答できなかった。

 

「なあ、ライガンさんよ」

 

そこで口を開いたの、ウェズだった。

 

「アンタの力、俺たちに貸してくれないか」

 

「ウェズ……」

 

レシアの顔を見て、ウェズは頷く。

 

「俺たちはまだ未熟者だ。

 アークスとしての自覚を最近持ったレベルなんだよ

 だから、頼れる人が欲しい」

 

そこで一度言葉を区切り、「いや違うな」とつぶやいてから

スノーフレークのマスター、

ウェズ=バレントスは手を差し出した。

 

「ライガン=ボルテックス。

 俺はアンタが欲しい。

 アンタだからチームにスカウトしたいんだ」

 

「……なんと」

 

キャストゆえに表情に変わりはない。

けれど驚いているということは声でわかった。

 

彼はミミの方へ視線を向ける。

すると彼女は微笑んで頷いた。

きっと、彼女は最初からこのつもりで、

わざわざ病室にウェズとレシアを呼んでいたのだ。

 

「あい、わかった」

 

迷う必要はもうない。

必要だとされたならば、

それに応えるのがグレイシールドの信念だろう。

 

「このライガン=ボルテックス。

 チーム『スノーフレーク』に入団させてもらう!

 ウェズ=バレントス、いやマスター!

 これからよろしく頼むぞ!」

 

差し出された手を力強く握った。

 

「いたたたたたたたたた!」

 

しかしキャストの腕力は力強すぎて

ウェズは悲鳴をあげる。

それを見てレシアは笑いながら

 

「マネージャーのレシア=エルシアです。

 ライガン、よろしくお願いします」

 

彼女は手を差し出すことなくお辞儀をした。

 

骨がバキバキにされる前に

なんとか解放されたウェズは手をさすりながら

 

「トゥリア!

 そういうわけだから

 ライガンをチームに入団させる手続きを頼むぜ」

 

チーム専属の補佐官に連絡をするが、

 

『……ごめん、

 見たい番組があるしもう今日は帰るから。

 ……また明日ね』

 

プツン。

 

通信を切られた。

 

「「「……」」」

 

スノーフレークに気まずい沈黙が落ちる。

 

そんな中、

 

「ふふ、賑やかなチームね」

 

ミミの楽しそうな声だけ響いていた。

 


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