スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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010.「……まあ、頑張ってね」

「はー…ったく、さすがに疲れたな」

 

マイルームに帰るなりウェズは

どかっとだらしなくソファーに寝転がる。

 

チーム設立の事務手続きをなんとか終えた。

大体想像つくように、ウェズはそういうのが苦手である。

 

「なんで俺がマスターなんだよ」

 

「いいじゃないですか、マスターって響き……良いでしょう?」

 

何故かついてきたレシアが部屋を見回していた。

 

「なんですか、この殺風景な部屋は」

 

「勝手に入ってきておいて、文句言うなよ」

 

なんでついてきたと視線で問いかけると、

「意味はありませんけど」と肩を竦めた。

 

彼女はベットに腰かけて呆れたように言う。

 

「本当にここで暮しているんですか?

 ベットとソファー、テーブルに衣装棚くらいしか見当たりませんけれど」

 

ウェズは天井を見上げながら、諦めたように溜息一つ。

 

「……アザナミさんがな、

 なんでかすぐにモノを壊してしまうんだよ」

 

「アザナミさんって、育て親……でしたか?」

 

「そう。悪気があるわけじゃないんだけど、

 なんか気になったモノはすぐ触って、結果何故か壊れる。

 そんな人とずっと生活していたから、

 なんかあんまりモノを置こうって気がなくてさ……」

 

苦笑しながら「がさつってわけでもないんだけどなぁ」とぼやく。

 

「そのアザナミさんとは一緒に暮らしてないのですか?」

 

「あの人は今、ブレイバークラス創設して忙しいからな」

 

レシアは「そうですか」とあまり興味がなさそうだった。

そこで机の上に置いてあるモノに気付く、

 

「ウェズ、何か手紙が置いてありますけど」

 

「ん、あぁ……多分、さっき話したアザナミさんじゃねーか」

 

「何故か隣にへし折れたペンがあるんですが……」

 

「……つい、折ってしまうらしいんだよ」

 

視線で問いかけると、

別に構わないという顔をしたので手紙を手に取る。

 

『ちわっす、ウェズ~元気してる?

 なんか最近新米の子とずっと一緒にクエスト行ってるって

 コフィーさんから聞いたけど……

 君は人を疑うのが苦手だから

 おねーさんは悪い子に騙されていないか心配だよ』

 

律儀に抑揚をつけて読み上げる。

 

「なんかイメージと違いますね。

 もっとこう……しっかりとした女性だと想像してました」

 

「あー……うん、良い人なんだけど、

 色々とそそっかしい人だからな……」

 

勿論、ウェズも嫌っているわけではないのだろうけど、

どこか達観したような表情を浮かべているところから、

なんというか関係性が想像できてしまった。

 

「何かついてますね……これは、ディスク?」

 

『そうそう、色々あってカタナらしい新しいPA考案したんだ。

 ディスク用意したから、一度使ってみ?

 あ、後で感想も勿論聞かせてよ』

 

最後には「たまには一緒に食事くらいしたい心配性の姉より」

という感じで締めくくられていた。

ちなみにこの短い文章の間に2回ほどペンが折れたかのように、

文字が大変なことになっている箇所があった。

余程勢い込んで書いただろうか、そのなんていうか。

 

 へえ、新しいディスクか。さっそく入れてみるか」

 

直径5センチくらいになる手の平に収まる小さな円盤。

それは「Photon Arts」……略してPA、

アークスが使う技のことである。

PAディスクにはそれを最適に使うための情報が入っている。

技は知っていればそれ自体を使うのは誰でもできるが、

武器が効率良くフォトンを解放するには、

やはりそれ専用の情報があると断然違う。

 

ディスクを受け取ったウェズはシガルガにセットする。

こうすることでシガルガを振るう時に、

きちんとそのPAを発動したら最適なフォトンが発生するというわけだ。

 

アザナミがPAの解説を簡単に書いてくれているが、

「よくわからない擬音が多すぎてわからない」と

ウェズは最初から諦めているので

ディスクの情報から自分でどんなPAなのかを確認する。

 

ピピピピッ

 

その時、二人の端末が同時になった。

顔を見合わせて起動されると……

 

『……初めまして、スノーフレークのみなさん』

 

通話ウインドウが開いて少女の顔が表示される。

まだ幼い小柄な少女であり、

亜麻色の髪を、左右にロールさせている特徴的な髪型。

少し化粧をしているのか頬が赤く、

薄青色のルージュをしているのがどこか背伸びをした感じに思える。

補佐官の制服、ナビゲータドレスを着ているので、

すぐに彼女が自分たちにつく補佐官の研修生だと察した。

 

『……この度、スノーフレークの専属補佐官として就任したトゥリアです。

 マスター、マネージャーこれからよろしくお願いします』

 

どこか素っ気ない感じの声。

 

「あ、ああ、よろしくな。俺はウェズ」

 

「私はレシア……えっと、トゥリアよろしくお願いしますね」

 

口調にあまり歓迎されていないのだろうかと少し戸惑いながら

二人は挨拶をするが……

 

「……」

 

「……」

 

『……』

 

お互いに黙りこくる。

 

『……それだけだけど?』

 

「え、いや、そう言われてもよ」

 

『……今、食事の準備中だから切ってもいい?』

 

「……むしろどうして食事の前に挨拶しようと思ったんですか?」

 

よくよく見れば彼女がいるのは明らかに私室っぽい。

こんな時間に事務所にも行かずに何故部屋にいるのか。

そして何をしているかというと本当に食事の用意をしているらしい。

 

「なんかこう、ほら、就任の意気込みみたいなのはないのか!?」

 

『……ふうん。

 ……まあ、頑張ってね』

 

もう話すら聞き流して作業している様子だった。

 

『……あっ……』

 

「どうしたんだよ?」

 

『……お風呂のお湯止めるの忘れてた』

 

「ああうん、そうなのか……」

 

『……チームに関する連絡があったらまた連絡するから。

 ……それじゃあ』

 

そして一方的に通話が切れた。

 

「ウェズ……いや、マスター」

 

「頼む、今はそっとしておいてくれよ……」

 

どさっとソファーに深く沈み込んだ。

 

コフィーも大した逸材を回したくれたモノだ。

あまりの期待され具合に涙が出そうである。

「未熟な子」とは聞いていたが、

自分たちと同じくらいかと思っていた。

けれどなんていうか、自分たちの方がはるかに真面目ではないかと思う。

 

 

スノーフレークの先行きに、二人が不安になったのは言うまでもない。

 

 

 


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