スノーフレーク   作:テオ_ドラ

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スノーフレークはEP1.5編で完結となり、
EP2に関しては「スノーフレークⅡ」とタイトルが変わります。
↓同時連載中なので良ければスノーフレークⅡもあわせて読んでやってください。
https://novel.syosetu.org/75791/
スノーフレークⅠよりシリアスな展開となります。


105.「決まりましたか?」

「……」

 

メディリスはまるで超長距離から

狙撃でもするかのように

真剣な表情でそれを見つめていた。

今はクエスト中ではないが、

しかしながら「狙撃」というのは言いえて妙かもしれない。

ターゲットを撃ち抜く……

そのためには様々な要素を加味しなければならないのだから。

 

「随分と悩んでますね~」

 

どこかからかうような声。

それは奥に座る若い女性だった。

まるで潜入任務にでも従事しているかのような

黒ずくめの思面白いスーツで全身を覆い、

顔もマスクを被っていて素顔は窺えない。

元々はキャストのパーツなのだが

それをヒューマンでも着れるようにしたのが

彼女のバスクレプカというコスチュームだった。

まあ非常に「物騒」な見た目であり、

あまりに攻撃的であるために中々にお目に掛かれない衣装。

それを店内で着ている女性……

つまりは中々に個性のある人物ということだ。

 

――ウイン商会。

 

今メディリスがいるのは

ショップエリアの片隅にある「何でも屋」。

武器からクラフト素材、

マイルームグッズやら果ては怪しい薬品まで取り扱う

全容が把握できない謎の商店である。

目の前にいるのはその店主、

ウイン=ディライトだった。

 

「店長、例の奴ですが

 グダグダ言っていたので沈めておきましたぞ」

 

先ほども赤いラッピースーツを着た謎の人物が

そんな物騒なことを言って立ち去ったのがちょっと怖い。

 

「……これとかどうかな!」

 

メディリスがそんなところに来ているのは

武器の調達でもトラップの買い足しでもなく、

単に新しい衣装を買いに来ただけなのである。

ケーラが普段から贔屓にしている店らしく

たまたま紹介してもらったのだ。

半信半疑で来たものの、

ウイン商会はコスチュームの品揃えも良く

あれやこれやとどれにするか悩んでいた。

 

「うーん、アクエリアコートは

 ちょっとセクシーさが足りないかもしれませんね」

 

「えーと、セクシーさ?」

 

「ええ、貴方はスタイルが良いのですから、

 それを活かせる衣装の方が良いと思います」

 

「……難しい」

 

何故突然にコスチュームを買おうと思い立ったのか。

 

メディリスは危機感を抱いていたのだ。

最近、特にウェズとレシアの仲が良いと。

対して自分との距離感は縮まった気配がしない。

 

――今のままではダメ。

 

そう決意をした彼女がまず考えたのが、

イメチェンである。

今着ているのがバリバリの実用性だけを考えられた

レンジャー用の衣装「サウザンドリム」。

確かに露出は高いし

彼女の豊満な胸を強調するにはいいかもしれない。

けれど、そうではないのだ。

こう……もっと女性らしい衣装にしたい。

彼のハートを撃ち抜くような、

そんな決意を衣装に込めたいのである。

 

「ヴェルトラムとかどうです?」

 

「うーん、ちょっと私には可愛すぎるデザインかなぁ」

 

店に来て既に1時間。

あれやこれや店主に相談しながら

衣装を選んでいく。

それにしても本当に衣装の種類が多い。

どう見ても下着にしか見えないモノから、

オリエンタルな甲冑まで。

その全てがフォトン感応力を高める

「アークスの衣装」としての機能まで

持っているのだから驚きである。

多分、デザインした人間はアークスというモノに対して

何か致命的な誤解を持っているのではないかと思う。

まあ……選択の幅が広がるのは良いことなのだけれど。

 

「大事なことだと思いますよ」

 

「……可愛いことですか?」

 

「いや、たくさん衣装がある……

 それが『遊び心』を促します。

 アークスというのはいつ死ぬかわからない

 危険な職務を背負った存在」

 

ウインも、元々はアークスだったのだろうか。

マスク越しでどんな表情をしているかはわからないが、

けれどその言葉の重みは伝わってくる。

 

「だからこそ、日々楽しみが必要なんですよ。

 明日もまた戦えるようにと。

 そして一般人もアークスのために何かできないか……

 考えた時に手伝えることがこうした衣装作りなのです」

 

そう言われると、

このアークスのために用意された服が

とても大切なことのように思えてきた。

 

何気なく一つをとる。

そしてその名前を見て、先ほどのウインの言葉

「遊び心」というのを連想させた。

 

「店長さん」

 

「決まりましたか?」

 

「うん、この衣装に決めたから」

 

彼女が手に持っているのは肩を出し、

胸元を強調した衣装。

そこにワンポイントとなる赤いネクタイ。

ラフな感じの上着とあわせて下半身にはショートパンツ。

けれど膝にはプロテクターがついており、

手の穴空きグローブもあわせて中々にボーイッシュな感じだ。

恰好良さと、それでいてどこか落ち着いた雰囲気を持つ

戦闘中でも動きやすそうな衣装だった。

デザインが気に入ったのは勿論だけれども、

メディリスが一番目を惹いたのはその衣装の名前。

 

ハートブレイカー。

 

ウェズという男性の気を惹きたい、

その心を撃ちぬくのに、まさにうってつけの衣装ではなかろうか。

勿論、衣装の名前にフェロモンを出すような効果はない。

だけれど「遊び心」は私の想いに繋がると思う。

 

衣装を着替え、新しい自分になる。

メディリスは自分が一歩踏み出した……そんな気持ちになっていた。

 

 

しかしこの時の彼女は知らなかった。

次に行くクエストが、ナベリウスの凍土エリアという

極寒の世界であることを。

ハートブレイカーは、露出が高く防寒性能は控えめなのだった……。

 




みんな大好きウイン商会。
借金を返せない人はマグロ漁船に乗せちゃうぞ☆

表紙を描いてくれたRimiQwiさんのページはこちら
http://www.pixiv.net/member.php?id=10995711

登場人物紹介はこちら
http://novel.syosetu.org/61702/1.html

ファンタシースターオンライン2、通称「PSO2」を舞台にしたオリジナルの話です。
本来のストーリーモードの主人公とは違った視点で、
PSO2の世界を冒険していくという内容となります。
EP1が終わり、EP1.5は EP2との間の時間軸となります。

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