はやい(二ヶ月)
というわけで、お待たせしました。
今週の喰種を見てテンションが上がったので、一気に書き上げました。
なので、ちょっと雑なような気がしなくもないですが、許してヒヤシンス。
それと、7月4日はフランちゃんの日だったらしいです。何故かと思い調べたら、4月95日目だからだとか。考えた人凄いですね。
今回の話は前話との二部構成みたいな感じなので、サブタイトルは前回と同じく『きょうき』
個人的に今までで一番お気に入りのサブタイトルだったり。
太陽が沈み、静寂が空間を支配する丑三つ時。
しかし、寝静まったはずの街には、耳を劈くような金属音が幾重にも重なり、夜闇を静かに照らす満月の光が、地上で幾度となく交錯する剣線の残光を写し出していた。
有馬とユエの戦いは既に十分以上も続いていた。たかが十分とも思われるだろうが、戦闘においてその時間はとてつもなく長い。
さらに、有馬とユエのような実力者になると、その時間の長さはより大きいものになる。それは、周囲で二人の戦いを見守っている捜査官たちでも感じ取れるものだった。
二人の攻防は絶え間なく続き、息をつくどころか、瞬きする間も殆どない。一秒の間に、お互いの急所を狙った攻撃が三度は重ねられる。
頭を狙われればそれをかわし、喉を狙われるとパリィを使い、心臓を狙われれば防御する。時には動きを阻害する為に脚を狙い、攻撃手段を減らすために腕や赫子を狙う。
加速する意識の中、二人は筋肉の張り方、相手の視線、次の行動、そこから割り出される思考まで、お互いのことをくまなく観察し、次の手どころか三手先までも予測する。それに対し、次の行動を読まれないように、視線で、力の入れ方で、間合いの取り方も含めてフェイントを入れ敵を騙す。
圧縮された時の中で行われるこれらの攻防により、十分という短い時間は、一時間にも二時間にも感じられた。
戦いは一見すると有馬の有利に進んでいるように思えた。人間とは思えない速度で繰り出される斬撃は、ユエの脇腹を切り裂くなど、小さくない傷を負わせている。
比率でいえば、ユエよりも有馬の方が攻勢に出ているように見え、周囲で見ている捜査官たちも、その光景を明るい表情で見つめていた。だが、実際は周囲が思っているほどに有馬の状況は良いわけではない。
ユエの一番恐ろしいところは何かと言われれば、今まで戦ったことのある人物の大半は、その圧倒的な身体能力だというに違いない。実際、人間より身体能力が何倍も高い喰種でさえ、ユエのには遠く及ばない。
だから、その考えは間違っていないのだろう。しかし、今まで戦ってきた相手は知らないのだ。ユエの本領がどんなものかを――――
「またか……」
有馬の呟きと共に、手の中で幾つ目かも分からないクインケが砕け散った。素早く後退した有馬は、近くにいた捜査官から新たにクインケを借りる。
その隙を逃すかとばかりに、ユエが水晶を射出しながら驚異的な速度で距離を詰めるが、そのタイミングは一足遅く、有馬は新なクインケで攻撃を弾いた。
近くにいた捜査官は反応しきれず、有馬から逸れた水晶を顔面に受け、脳髄を撒き散らしながら倒れたが、二人はそちらを見向きをせず再び激しくぶつかり合う。
「アハハ!」
笑いながら振るわれた赫子が、有馬のクインケと衝突して火花を散らした。片翼の枝のような部分を絡ませ、一本の太い幹のようになった赫子の衝撃は想像以上のもので、有馬は強く踏ん張り対抗する。
それを予想していたように、地面から残りの三本の赫子が有馬を囲むように三方向から飛び出した。有馬は手首を使うことでクインケを上手く流すような角度に変え、押し込まれる力が弱くなった一瞬で赫子に当てたクインケを起点に跳躍する。同時に腕に強く力を込めることで、赫子による追撃を防ぎながら、反動により空中で体勢を整えた。
ユエは全ての赫子が先ほど有馬がいた場所に残され、防御する手段と攻撃に移ることができなくなる。有馬はそんなユエに向かって落下の勢いを利用した一撃を振り降ろそうとした。しかし、それすらもユエの手の平の上でしかない。一見隙だらけのように見えたのは誘いだったのだ。
ユエは地面に突き刺した赫子で体勢を無理やり変え身体を持ち上げると、クインケを振り上げて胴ががら空きの有馬に、サマーソルトキックのような蹴りを叩き込んだ。予想外の攻撃に反応が一瞬遅れた有馬は、何とか自分の間にクインケを挟み込むことに成功したが、いくら無理な体勢から放たれたとはいえ、驚異的な身体能力を誇るユエの蹴りだ。空中では踏ん張ることもできず、面白いくらいに吹き飛ばされる。
空中を吹き飛びながらも何とか体勢を整えるが、無茶な使い方をされたクインケは持ち手の部分を残して砕け散った。
「っ……」
着地には成功したが、それは明らかに無理な体勢だ。膝と手をつき勢いを止めることはできたが、次に動くまで二秒近い時間を要するだろう。それはこの戦いおいて致命的な隙だった。
思いっきり地面を蹴ったユエは、一瞬で有馬に接近し、頭と心臓に狙いを定めて赫子を突き出した。
決定的な一撃が有馬に突き刺さろうとして――――
――――ぞぷっ、
そんな音がユエには聞こえた。
◆
――嗚呼……音が聞こえた。
いや、本当に聞こえたのだろうか。
聞こえたと感じただけかもしれない。
そもそも感じることができているのか。
だって感覚を司るのは脳という機関だ。
だからきっと、感じているのではなく認識しているのだろう――
――――私の頭ニ、クインケが突キ刺さっていた。
ワタシの目がクインケで埋まっテいる。
あリマに赫ネがとドいてなイ。
ナんで?
クいンケはコわしたハず。
ジゃあさサッてるノは?
白いカたな。
シろいカたなガのウにめりコむ。
アたまがイたい。
ワれチゃう。
わレテる?
えキがこボれてル。
もっタイなイ。
ひダりガクらい。
くライノはこワい。
コわい。
こわイ。
こワi。
死ヌ?
シぬ。
siヌ。
し。
シ。
si。
死。
し。シ。死。し。si。死。シ。し。シ死sisiしシ死死シsiし。シし死siし死シシしし。シ死sisiしシ死死シsiしシし死s。iし死シししシnu死si死siしシ死死シsiしシし死siしし死シしし。シ死sisiしシ死死シsiしシし死siし死シししシ死sisiし。シ死死シsiし死シヌ。。し死siし死nuシシしし。しシ死sisiしシ死死シsiしシし死siしし死シししシ死si死siぬしシ死死。シsiし死シし死siしし死シsiししシ。死sisiしシ死死シsiしシ死し死死死siし死シしsiしシし死siしし死シし。しシ死sisiニしシ死死シsiしシシし、死siし死シししシ死sisiしシ死死シsiし死シし死sニiし死シシnuしししシ死sisiしシ死死シsiしシし死siしに。しnesi死シししシ死s。isi死s。iしシ死死シsiし死シし死siししsi死シsiししシ死sisiしシ死死シ。siしシ死しヌ死si死死siシし死シししししシ死sis、iしシ死ネ死シsiしシし死siしし死。シししシ死si死siしシ死死シsiし死シし死siしし死シsiしし。シ死sisiしシ死死シにsiしシni死し死死死siし死シしsiねしシし死siしし死シししシ死sisiしシ死死シsiしシシし死siし死シししシ死sinisiしシ死死シsiし死シし死siし死シシにしししぬシ死sisiしシ死死シsiしシし死siししsi死シししシ死sisi死siしシ死死シsiしね死シし死siししsi死シsiししシ死sisiしシ死死シsiしシ死し死si死死sineシし死シしsiししシ死sisiしシ死死シsiしシ死し死si死死siシし
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シぬ。
siね。
しni。
しにタい。
シねない。
死ナなイ。
――約ソく。
生きル。
イきなキャ。
たベナきゃ。
いヤダ。
タべたクナい。
シニたイ。
いキる。
シぬ。
――いシきなニタきイゃ。
おキエかタあさイドんウとシテのやイくキテそルくまンダもらロウ。
なくコちワゃごセキはエんたロべナクたナくなレい。きオもナちカスわるイタいこオわイいくるシソしウいつイらいイいニオやイだどクラうしエてわコたしロセがこコワんセ、
なめミンにあナコうワのにレテくいシかみがマにくエタいこノんシイなせサかいイはきコウらいアだせソかいボがにウくキュいこッわれろ。トなシテくなドれきカえンろしアねハたすハけハてハおとハうさハんおハハかハあさモん。ットやだアよしソボななウいでコひとワレりテはいコやワだシいっテょコワにレいロキよエういロただシきネますタおノいしシイいキあャはハハはハはハハはははハハはハハハハはハはははハハハははハはハハはハはハハはハハはハハはハハはハはははハははハはハハハはハハはははハハはハハはハハはハハはは――――――――――――
しヌ。
なra
死ね。
◆
決まったっ――!
捜査官たち誰もがそう思った。長く苦しい戦いが終わり、歓喜に顔を染め、勝利の雄たけびを上げようとして――――誰もが口を閉ざす。
空気が変わった。
その場にいた全員が感じられるほど、決定的に空気が変わった。言い換えれば、変わったのはそれだけだ。しかし、空気という曖昧なものにも関わらず、その場にいた全員が圧倒的なナニカを感じ取った。
確認するまでもなく、何が原因かを本能で理解する。全員の視線が集まる一点には、有馬の持つユキムラに左目を貫かれ、頭を貫通した状態で俯いているユエの姿があった。
見える部分は何も変わっていない。だが、纏う気配が、雰囲気が、先ほどまでとは全く違う。
一言で言うなれば”狂気”。ただ、そこに居るだけで気が狂ってしまいそうな、正気の世界の裏側に潜む、人間が触れてはいけないモノ。そんな感覚を捜査官たちは味わっていた。
ピクリとユエが動く。
たったそれだけの行動で、全員が恐怖に縛り上げられる。喰種を相手にする場合、再生が始まる前に攻撃を畳みかけるのが捜査官の常識なのに、誰も動くことができなかった。あの有馬ですら、何を考えているか分からない表情でユエの動きを観察している。
ユエが顔を上げた。頭を貫いたユキムラが、眼球を抉り脳髄を掻き乱す。しかし、それを一切気にした様子もなく、ゆっくりと、時間をかけて顔を持ち上げた。
ボロボロになった仮面が落ち、ユエの容貌が露わになる。左目の赫眼が潰されているというのに、それでも誰もが美しいと思った。何よりも惹きつけられるのは右目。赫眼ではないその瞳は、血のように紅く鮮やかで、縦に裂けた瞳孔は深淵を覗き込んでいるかのような不気味な色を湛えている。
顔を上げ、雑にクインケを引き抜いたユエは、嗤った。嬉しそうに、楽しそうに、悲しそうに、苦しそうに、辛そうに、全ての感情を掻き混ぜて溶かしたような笑みを口元に張り付けた。その笑顔を見た者は誰もが魅了された。目が離せなかった。
だが、同時に言いようのない恐怖を感じた。ただ漠然と、自分はここで”終わり”なんだと理解させられる。”死”などという明確なものではない。宇宙のような無限の混沌の中で、人が触れてはならない未知という名の狂気を詰め込み、世界に潜むあらゆる悪意を煮詰めてドロドロに溶かしたような、そんな重たい感覚だった。
誰も動けない。恐怖という感覚に支配され、狂気に当てられ精神を擦り減らしながらも、ただ茫然と立っていることしかできなかった。
そんな中、ユエが無造作に右手を上げる。
「キュッとして――」
可愛らしく、無邪気な言葉は、純粋な悪意にまみれていた。
「――ドカン」
一番近くにいた捜査官の頭が爆ぜた。
ただ立ち竦むしかない。何が起きたのか脳が理解することを拒絶していた。理解の範疇を越えているのだ。ユエが行ったことと言えば、右手をかざして何かを潰すように握り込んだだけ。それだけで、人ひとりの命がいとも容易く消し飛んだ。
呆然と佇む捜査官たちの前で、もう一度ユエが手を持ち上げる。その時になって、ようやく有馬が動き出した。
右手に持った半ばで折れているユキムラ1/3をユエに向かって投擲する。当然ユキムラは弾かれたが、意識が有馬に向いたことで少しの時間を稼ぐことができた。
勢いよく立ち上がった有馬は、近くに落ちていたクインケを二本手に取りユエに一瞬で詰め寄ると、かかげられた右手に向かって勢いよく両手を振るう。
片方のクインケが防御しようとしていた赫子を弾き飛ばし、もう片方がユエの右手を切り飛ばした。
「――残念でした」
そんな声が聞こえたと思った瞬間、十数人もの捜査官がまとめて弾け飛んだ。
何故――? そんな疑問が全員の頭を占め、ユエを観察することで答えに辿りつく。視線が集まる先は、握り込まれた左手。
「もう一回、ドカーン」
そんな言葉と共に再び左手が閉じられ、今度は数十人の捜査官が一斉に爆発する。たった十秒程度の間に捜査官の半分近くが殺された。
何もできないまま、隣にいた相手の臓物や血しぶきが雨のように降り注ぐ惨劇は、現実とはかけ離れているようで、いっそこれが全部夢であればどれだけ救われるのだろうかと、生き残っている者たちは願うように思うしかない。
「きゅっとしてぇ~」
言い切る前に、有馬の一戦がユエの左手を切り裂く。これで先ほどまでのようなことはできないと、誰もが希望を持った。しかし、そんな望みは数十人の頭と共に儚く砕け散る。ユエの
手で何かを潰すだけの簡単な動作を止めることは有馬にしかできず、周りの捜査官は、いつ自分が弾け飛んでもおかしくないという恐怖に怯えながら、ただ二人の戦いを見ているしかない。
左手で突き出されたクインケの一撃はユエの喉を貫くことに成功するが、攻撃を受けた本人は気にした様子もなく再び右手を前に出す。その手をもう一方のクインケで切り裂き妨害するが、今度は左手が持ち上げられた。
返した刃を左手に当てようとするが片翼に防がれ、残りの赫子が有馬の胴体を狙う。一瞬で引き戻した左手でそれを受けるが、圧倒的な力の差で大きく後退させられる。
「ドッカーン!」
捜査官がさらに減った。恐怖で逃げ出す捜査官もいたが、逃げ切る前に全員殺されている。
有馬は再び距離を縮めながら、両手に持ったクインケを投擲した。幸い、死んだ捜査官の分だけクインケが散らばっている。投げたクインケが赫子に防がれている間に新なクインケを拾うと、ユエに斬りかかった。
今までならば確実に回避に徹した急所を狙う攻撃。しかし、あろうことか、ユエはその攻撃に対して、自ら身体を投げ出した。吸い込まれるように突き刺さるクインケ。だが、それを痛いとも思っていないように身体を捻ると赫子を振り回した。抉られる傷口から血が噴き出すが、気に留めた様子は一切ない。そして、赫子はそのまま有馬に向けて振り切られる。これは流石に予想外だったのか、有馬はクインケを使い捨て、大きく吹き飛ばされながら、飛んでくる水晶で身体を切り裂かれた。空中でありながらも回避行動を行ったのか、致命傷には程遠いながらも、間違いなく今日一番のダメージを負った。
だが、有馬も流れ出す血を気に留めることはない。痛みはあるはずなのに表情にはそれを一切出さず、再びユエとの距離を詰めた。
何十回も赫子とクインケを打ち合わせながら、隙間を縫うような攻撃がユエの腕や急所を切り裂いていく。しかし、その傷は二秒もしないうちに完治し、次の行動に移っていた。
今までの相手はユエをここまで追い詰めることなど一度もできなかった。だが、有馬はユエを追い詰めたのだ。それこそ、ユエが死を感じる目前まで。だから、ユエは初めて自分の本領を発揮することができた。
ユエの本領――それは圧倒的な回復力。喰種と吸血鬼、この二つのハーフであるユエの回復力は異常だ。致命傷が二秒も立たずに回復してしまうし、喰種の弱点であるはずの赫包を破壊しても、吸血鬼の再生力で復活してしまう。だからこそできる無茶、防御の大半を捨てて攻撃にリソースを振るというのが、ユエが一番力を発揮できるスタイルなのだ。
何度目かも分からない致命傷。しかし、その傷は一瞬で治り何人かも分からない捜査官が四散する。既に空は白み始め、何度も何度同じ攻防が繰り返される中、突然転機が訪れる。
「――…あ、れ?」
ふらりとユエの身体が傾き、直後、首が刎ね飛ばされた。己の首から上が無い胴体が目に入り、思わず疑問の声が零れる。そのまま意識は暗闇の中に呑まれて行き――――完全に沈む直前で、強制的に引き戻された。
映像がコマ送りされたように視界が変わり、目の前には再び迫るクインケ。
先ほどと同じように首を切り落とす軌道のクインケをギリギリのタイミングで躱すが、それでも三分の一に切れ込みが入り、気管に流れ込んだ血液を口から吐き出す。
傷は一瞬で治ったが、その僅かな間でクインケが返され脚を切り裂こうとしていた。密着した状態で機動力を削がれるのは拙いと判断したユエは、すぐさま回避に移ろうとするが、クラリと先ほどと同様の感覚に見舞われ動きが鈍る。
一秒にも満たない一瞬の停滞。その僅かな時間が致命的なものとなった。
支えがなくなりユエの身体がバランスを崩す。そこを狙って、すくい上げるような刃が右腕を切り飛ばした。さらに続けて振り降ろされたクインケが、残光と共に左手も落とす。止めとばかりの一撃が胴体を両断しようとしたところで、何とか赫子の防御が間に合い、そのまま有馬を押し返す。
その間に手足は再生したが、立ち上がった足取りは、ややおぼつかないものだった。
「あはは……血が足りなくなっちゃった」
参った参ったと、おどけたように笑うユエ。その表情からは、とても参った様子など見受けられないが、事実、ユエの限界はかなり近づいていた。
確かにユエの再生力は常識を逸している。それはまさしく不死の王と呼ばれるに相応しいものだが、本当に不死というわけではなく、当たり前のように限界というものがも存在していた。
いくら再生力が高かろうと、流れ出た血は戻らない。当然血が足りなくなれば動きも鈍り、思考も纏まらなくなる。これは人だろうと喰種だろうと吸血鬼だろうと同じことだった。
「ここまで追い詰められたのは初めてよ」
「………………」
「貴方は私を壊せる? それとも壊せない?」
「…………君は」
「もうこれで終わりにしましょう」
そう言って笑うユエの顔は、どこまでも壊れて狂っているようで、しかし、昇った朝日を背後に受けながら煌びやかに光る金髪と相まり、儚く寂しそうな笑顔にも見えた。
「――……ああ」
有馬が飛び出したのと、ユエが右手をかかげたのは同時。
そして――――
有馬の右目が弾け飛び、
ユエの心臓が串刺しにされた。
周囲の人間は誰も認識できないような刹那の間。その攻防を制したのは有馬だった。
飛び出した有馬を阻むように六本の赫子が行くてを遮るが、全て躱しながら懐に入り込み、ユエの右手を切り裂きながら心臓に刃を突き立てたのだ。しかし、右手を切り裂くのと、手に力が込められたのはほぼ同時だった為、有馬の右目が持っていかれることとなる。
この行動が全て刹那の内に行われた為に、捜査官たちには右目が弾けた有馬と、心臓にクインケが突き刺さったユエという結果だけが見えたのだ。
「――ふふ……あははは……っ」
心臓を貫かれているというのに、口から血を吐き時折咳を交えながらもユエは嗤う。
「貴方は……貴方もなのね」
その声は有馬を嘲笑っていると同時に、自嘲が含まれているようだった。
「でも違う。私ではきっと貴方の望みを叶えられない」
「…………」
全てを見透かしたような笑顔を浮かべるユエ。有馬はその言葉に何も返さず、ただ沈黙を貫いている。その右目からは血が零れ、頬に跡を残していた。
愛おしそうに有馬の頬に手を伸ばしたユエは両手で顔を固定する。そして、右目があった場所に顔を近づけると、舌で瞼をこじ開け、かき回すようにして中身を舐めとった。
「全てを諦めたなら私のところに来て。そしたら、せめて欲しがっているものを貴方に上げる」
唇を鮮血で染め艶やかに笑ったユエは、そっと有馬の頬から手を放す。
次の瞬間、
ユエの身体が両断された。
そこに躊躇いはなく、容赦もない。しかし、戦いにおける大切な何かが欠如した一閃は、ユエの上半身を容易に刎ね飛ばした。
「ふは、アハハハハハ――――!」
身体が両断されても尚、ユエの顔には笑顔が張り付いている。そこに含まれた感情を読み取ることは叶わず、ユエはこの世の全てを嘲笑うような狂笑を響かせながら闇の中へ堕ちて行った。
◆
『 2002年 11月20日
駆逐対象「梟」による徒党で二区支部が二度目の襲撃を受ける。本局対策Ⅰ課特別編成チーム構成員である黒岩巌上等捜査官によるクインケの一撃で赫包に致命的なダメージを与えることに成功。しかし、「
後日提出された報告書より抜粋 』
戦闘に丸々一話使うのってどうなんでしょう?
私的にはまだ内容が薄い気がするんですが……気にし過ぎですかね。
これで一章は終了です。一章が終わるまで一年近くかかっているという……。
二章は原作に入るか、その前に何か話を入れるか迷ってます。プロットがないので気分次第で変わるでしょう。
本当は一章のラストはVS店長のつもりだったんですが、いつの間にか有馬になってました。行き当たりバッタリだと、こういうことが多々起きます。
皆、小説を書く時はプロットを作るんだ! 作者との約束だゾ☆
……はい。
以下本文の解説的な何か
【意識の加速】
・やりすぎな気もするが、有馬さんは金木君を二秒で殺せるとか言ってるから多分できる。……何だかあの人だけ別の漫画にいませんかね?
【ユエの身体能力】
・喰種が人間の4~7倍程度なので、ユエは10倍以上を想定しています。ふわっとしててサーセン。許してクレメンス。
【いシきなニタきイゃ】
・読み辛いけど、これだけ読めればOK。祈りを叫ぶということで今回のサブタイトルになっています。大したことは書いてないので、全文を読む場合は暇つぶし程度で。
【狂気】
・一周回って元の位置に戻った感じ。原作のフランちゃんのイメージ。
本当は母親譲りの髪の毛ぶった切って、さらに精神的に追い詰めようと思ってたけど、髪の毛も再生できる気がしたのでやめた。
【狂気表現】
・最近クトゥルフTRPGの動画をあさっていたので、それに引きずられた希ガス。
【きゅっとしてドカーン】
・一話目から出したくて仕方がなかった。満足した。
【捜査官虐殺】
・原作キャラは生きてる。狂気に染まって目的が、時間稼ぎ→殲滅→遊びになった為に爆発四散した哀れなモブ。
【顔を見られたけど大丈夫か?】
・大丈夫だ、問題ない。喰種の世界はどう考えても正体が分かるマスクなのに、バレてないからへーきへーき。ご都合主義は偉大です。
【血が足りない】
・斬られまくったら流石に負ける。勝敗は有馬の体力が切れるか、ユエの血がなくなるかだった。ユエが防御を続けていれば勝てた。尚、能力を最初から有馬に使っていれば楽勝だった模様。
【壊せる?壊せない?】
・狂える?狂えない? アンラベル聞いてると筆記がはかどる。
【有馬の右目】
・いずれ見えなくなるなら、なくしちゃってもいいよね☆ ダメだったら後で書き直す。
【欠如したもの】
・もしかして:愛
もしかしなくても:
【上下両断】
・6巻の金木VSエトのイメージで書いた。
最新話見た後、元々高かった有馬さんの株が急上昇した。有馬さんがヒロイン(!?)で作品が書ける気がする。有馬さんの設定的にBADエンド待ったなしだけど。