【ネタ】アホの子ルイズちゃん   作:花極四季

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シリアスじゃないよ!シリアスじゃないんだから!


第六話

こんにちは、私ルイズ。

破壊の杖奪還作戦が終わってからは、何も変わらない日常が戻ってきたんだけど、それはそれでつまらない訳で。

刺激を求めるという意味でも、最近はサイトと組み手をしている。

サイトは運動神経はいいんだろうけど、いかんせんそれに振り回されており駄目駄目状態。

ポテンシャルはきっと私よりもあるだろうから、今から手取り足取り技術を叩き込んでいけば、使い魔としてようやくらしい働きが出来るようになるだろう。

さて、今日もサイトを鍛える一日が始まるよ。

 

 

 

珍しく夢を見た。

ヴァルエール家で肉体の研鑽をしていた日々。

小舟の上で青空を眺めている自分を客観的に見る。

ここはお母様のしごきから解放された時、いつも立ち寄るお気に入りの場所。

喧噪とは無縁の穏やかな時間。

今でこそそんな時間が恋しく感じるが、幼い頃は今ほど体力作りが好きな訳でもなかったから、どちらかと言えばこの瞬間の為にしごきに耐えていたと言っても過言ではなかった。

 

「ル、ルイズ………」

 

そんな静かな一時に、若い男性の声が響く。

夢の自分と同時に振り返った先には、お母様のしごきでボロクソになっているワルドの姿があった。

服は埃だらけ、整った顔立ちは泥や汗で酷いことになっている。

 

「あらワルド。訓練は終わったの?」

 

「一応、ね。―――はは、情けないよ。君がケロッとしているのに大の男が同じ訓練でこうも疲労しているなんてね」

 

「まぁ、仕方ないわよ。自分で言うのも何だけど、私はあのお母様の娘ですし」

 

「………その一言で納得できてしまうことが、ある意味恐ろしいよ」

 

溜息ひとつ吐き、池のほとりの際にワルドが座り込む。

 

「それにしても、今でも本気なの?あの発言」

 

「あのって、婚約者のかい?」

 

「ええ。私なんかを婚約者にしたいからって理由で、あのお母様に勝とうとするなんて」

 

「だって仕方ないだろう?カリーヌ様が『ルイズが欲しいのなら私を倒してからにしなさい!』なんて言うんだから」

 

「お母様は何事も本気で望むからね………。仮に私が貴方の妻になることを望んでも、条件は絶対に変えないでしょうし」

 

「そうだね。………それに、僕達は未だ互いに模擬戦の勝率が五分を保っている。自分より弱い男に惚れないであろうことは、血筋を思えば予想がつく」

 

「そうね。私にとってワルドはライバルであり、恋愛対象にはならないわ」

 

「―――だからこそ、君に振り向いて貰う為に僕は頑張っているんだけどね」

 

「いいんじゃない?目標達成が困難であればあるほど、見返りは大きいものだし。私を手に入れられなくても、今回の経験は間違いなく貴方にとって糧となる」

 

「そんな未来で君が隣に居てくれれば、言うことないね」

 

「………なら、せめて私相手に勝率八割超えないとね。それでようやくお母様に一太刀入れられるかの瀬戸際だろうし」

 

夢の中の私が、杖を手に立ち上がる。

 

「ル、ルイズ?まさか―――」

 

「言いたいことはわかるわ。だけど、これでもお母様相手のトレースには弱すぎる。だからこそ、絶望的な差に今の内に慣れておけば色々と得じゃない?」

 

「いや、それは単に君が僕を的にしたいだけじゃ―――って、ちょっ、本気?いや、やめ、アッーーーーー!!」

 

 

 

「………目覚めがいいとは言い難いわね」

 

ワルドの情けない悲鳴が目覚ましの鐘だなんて、誰得なんだろう。割とマジで。

寝起きで固まった身体を動かし、外へと向かう。

毎朝の訓練メニューは欠かさず行わなければ、簡単に肉体は衰えてしまう。

それよりも、精神的惰性も身に付いてしまうのが一番恐ろしいんだけど。

 

「あ、あれはシエスタと………サイト。いつの間に知り合ってたんだろう」

 

広場に向かおうとしていると、シエスタとサイトが仲睦まじく会話しているのを発見。

今の今まで、二人がまともに接触している様子を見る機会はなかったけど、どうやら上手くやっているようでなによりだ。

―――でもあの様子だと、まだ朝練は終えていないのだろう。

それは良くないと思い、二人の下へ近づく。

シエスタが私に気が付いたらしく、それに続きサイトもこちらへと振り返る。

 

「サイト、朝練は終わったの?」

 

「は、朝練?そんなのとっくに終わってるっていうか、もう昼だぞ」

 

「え?」

 

「だから、もう昼なんだって」

 

―――まじか。

確かに太陽は真上を向いている。

朝にしては騒がしいとは思ってたけど、成る程。

 

「なんで起こしてくれなかったのよ」

 

「キュルケに止められたんだよ。お前、無理矢理覚醒させようとすると近くの人間に襲いかかるって聞いたから」

 

「あー………。だって、夜襲とかに対しての訓練とかもしてるから、身体が勝手に動いちゃうんだもん」

 

「だもん、じゃない。つー訳で自業自得な訳」

 

うー、なんか納得いかない。

 

「それよりも、俺が一番驚いたのはトリステインの姫が来訪したのに、それでも誰もルイズを起こそうとしなかったところだけど」

 

「え?」

 

本日二回目のえ?である。

 

「そうです!アンリエッタ姫が御来訪なされたんですよ、ミス・ヴァリエール」

 

「ぶっちゃけ王女の来訪というイベントに、体裁も何もかなぐり捨ててでも獅子の眠りを妨げないのは突き抜け過ぎだろって思う。教師仕事しろ」

 

「その獅子の一撃を受けてみる?」

 

「勘弁してくれ。………それよりも、王女様が何で学院に来たんだろうな。俺の勘だと、面倒事が舞い降りてきそうな予感がする」

 

「面倒事ね。サイトの勘とは違ってこっちには確信があるけど、間違いなくそうでしょうね。だってあのアンリエッタだし」

 

「そのあのを私達は知らないんですけれど………。それにしてもその物言い、ミス・ヴァリエールは姫殿下と面識がおありで?」

 

「ええ。………知っているわ。知っていますとも」

 

アンリエッタとの思い出を過ぎらせ、思わず溜息を零す。

 

「サイト。今日はしっかりと休養しておきなさい」

 

「あ、ああ」

 

さて、私の予感が正しければ―――今夜、私の部屋にアンリエッタは来る。

 

 

 

「いやね、フラグは立てたよ?でもあれは逆に来ないフラグでもあると思うんだ」

 

「どうしたのですか?ルイズ」

 

案の定と言うべきか。

夜遅くに不審者まっしぐらの格好で部屋に訪れたアンリエッタ。

事前に知らせてもらってなければ、無防備な延髄に一発かましていたところだった。

 

「なんでもないですよ、姫様」

 

「そんな他人行儀な………昔のようにアンと呼んでくださいまし」

 

「あらそう。じゃあアン、何しに来たのよ」

 

「………実は―――」

 

要約すると、

 

1.ゲルマニアに嫁ぐことになりました。

2.お国の為にこの身を捧げる私まじ悲劇のヒロイン。

3.でも、その婚姻が帳消しになる可能性がある。

4.その決定的材料になるであろう、ウェールズ皇太子当ての手紙(どうせ恋文だろクソが)を取り返してきて欲しい。

5.でもウェールズ皇太子のいる場所って、戦争真っ盛りのアルビオンなんだよねー。

 

「戦時中に一介の学院生徒と使い魔が隠密、ね。まともな判断じゃないわね」

 

「ええ、否定はしません。ですが、私はルイズなら出来るという確信があるからこそ、この場に赴いたのです。決して都合の良い関係を利用したいが為ではありません」

 

「だけど、ルイズが危険に曝されることに変わりはない。姫様、アンタとルイズは友人らしいけど、その友人に死刑宣告をしている気分はどうだ?都合の良い関係って、友人関係のことだろうけど、こうして密談での契約を取ろうとしている時点で、そんな言葉嘘っぱちにしか聞こえなくなるぞ」

 

まぁ、確かにそうだわな。

個人で出来ることには限界がある。

使い魔としては、そんな無謀極まりない行為に主を行かせようとする訳がない。

 

「―――しかし、このままではアルビオンは戦争に敗北。敵方であるレコン・キスタに手紙が渡ることになれば、同盟破棄は必至。王国内にこの情報が流れ、潜んでいるやもしれないスパイに情報が渡ろうものなら、その時点でお仕舞いです。公に事を構えることが出来ない以上、誰よりも心を許しているルイズ、貴方にしか頼ることができないのです」

 

私の両手を握り、潤んだ瞳で見つめてくる。

 

「最低な行為だとは重々承知しております。私がトリステインの姫として生を受けた以上、どんなに違うと否定しても誰もが畏まってしまう。言葉の裏に隠された真実を探ろうとしてしまう。そしてそこに何もないというのに、勝手に創り上げてしまう。………それは、責任という不可視の壁で隔たれた確執が原因です。トリステインは魔法至上主義国家であり、同時に身分に異常なこだわりを見せる傾向にあります。それは、貴族間でも変わりません。姫と一介の貴族の三女。平民からすれば同じようなものでも、そこには確かに割って入れない違いが存在している。―――どんなに友達だと思っていても、誰もが一歩引いてしまう」

 

「―――姫様」

 

サイトが呆然とした様子でアンを見つめている。

 

「ですが、ルイズ。貴方だけは違った。私が姫であろうとなかろうと、貴方はどこまで行っても貴方のままだった。我を捨てず、取り繕わず、誰よりも前を向いていた。そんな貴方がとても羨ましくて、近づきたくて、魔法も帝王学も世界情勢についても必至に勉強したのですよ?貴方がいなければ、私はただの飾りとして一生を終える可能性だってあった。そんな私に希望を、道を作ってくれたのは他ならない、貴方だけなのです」

 

アンはギリ、と表情を歪める。

 

「お気楽な考えで貴方の下にいるのではない。そうしなければいけないと理解した上で、貴方を頼る―――いえ、もう包み隠す必要はありませんね。貴方を利用しなければならない。一介の貴族の三女がアルビオンに行き、命を落としたところで王国関係者からは遠い以上、せいぜい莫迦な貴族が物見遊山の果てに死んだと認識される程度。名が通っているヴァリエール家ゆかりの者でも、です」

 

背筋を正し、真剣な表情で私達へと宣言する。

 

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、並びにその使い魔よ。アンリエッタ・ド・トリステインの密命を言い渡します。アルビオン皇太子ウェールズ・テューダーに送った密書の奪還を命ずる」

 

「はい。その命、確かに承りまし―――」

 

「話は訊かせてもらった!姫殿下、是非このギーシュ・ド・グラモンにもその旅に同行を―――ひでぶっ!」

 

「さっきからいることはわかってたけど、まさかこのタイミングで出てくるとはね。莫迦なの?死ぬの?」

 

空気も読めないギーシュに水面蹴りをし、無様に倒れた背中に座り込む。

 

「ああ、ルイズ。そんなはしたないことをしては」

 

「無法者に対して接するのに作法はいりませんことよ、アン」

 

ついでに座り込んだ体勢でギーシュの頭を踏む。

なんか嬉しそうにしているから、もっと強く踏んでおこう。

 

「アン。ギーシュも旅に同行させるわね。一応の友人が処刑されるのを見過ごす程腐ってはいないつもりだし」

 

「え、ええ」

 

そんなこんなで、夜は更けて行った。

 

※余談1

 

ギーシュを踏んでいる時にサイトが小声で「羨ましい」って言ってたから同じ風にやってやった。

そのせいでなんかルーンがめたくそ光ってたのですぐにやめたけど。

 

 




うちのアンリエッタは身近にルイズちゃんがいたせいで、原作よりも優秀です。ですが色ボケがなくなった訳ではありません。

ルイズちゃんがフリーダムなので、周囲の面子が空気になる傾向をどうにかしたい。

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