Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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第79話「終戦からの交流戦勝会」

『タイムア――――ップ!!』

 

『ただいまを持ちまして、戦の終了を宣言いたしま――――す!』

 

 

 シンクたちの企画していた戦にパスティヤージュ共々、飛び入りで参戦させてもらったこの戦いもついに試合終了を迎えた。

 結果だけ見れば尊たちクロノスのメンバーは誰も撃破されることなく戦い抜いたが、やはりというべきか、予想通りかそれ以上の力を見せつけられた場面も少なくない。

 一対一で戦いながらも通りかかった戦場の各所を混沌の渦に叩き落したロゥリィとレオの戦いは結局勝敗がつかず、一か八かで横やりの奇襲をかけたクーベルが逆に返り討ちにあったり。

 ダルキアンに挑んだカエルは傍から見れば実力伯仲といった感じだったが、本人曰く元の姿で戦っていたら負けていたかもしれないと冷や汗を流した。

 序盤からしばらくビスコッティとガレットの騎士団長を相手に互角の戦いを見せた魔王は決め手に欠けると判断するや否や早々に引き上げ、以後は輝力の可能性を探りつつ時折その力を確認するかのように戦場へ現れては実践し、ほとんどの時間を輝力の特性把握に費やした。

 デナドロ三人集はジェノワーズを探していたようだが、最初のインパクトが強烈すぎたためか彼女たちが再戦を拒みひたすら密集した戦闘地帯へ飛び込んで撹乱しつつ、見事逃げおおせる大太刀回りをやり遂げた。その副産物としてか、ジェノワーズ全員のポイントを合わせるとガレットの総合ポイント割合の上位にランクインする大金星を挙げることとなった。

 また、ガレットの主戦力の一人であるガウルとタイマンを張っていたエイラは電撃系の輝力武装である獅子王双牙と相性がよく、そのまま押し切って戦闘不能に。追従していたゴドウィンは二人の戦いに邪魔が入らぬよう雑魚散らしに専念し、決着後はエイラの戦闘力から自分では太刀打ちできないと判断するとガウルを回収し撤退。

 ルッカやテュカたちはダルキアンたちとの戦闘から退却して以降レレイと合流し、隊長格の相手とは戦っていないが三国の兵士たちを相手に圧倒。しかしロボを攻めの起点にしつつ後方から輝力の矢と銃弾による一方的な砲煙弾雨もかくやな攻撃をしすぎたせいか、後半になるにつれてどの陣営も積極的な手出しを控えるような展開となった。

 そして尊とクロノは最後に参戦したサラと合流して輝力の連携技を研究しつつ向かってくる兵たちを一方的に蹂躙。尊と面識のある各陣営の隊長たちも同伴しているのがクロノだけならと思っていたが、遅れて参戦したサラの輝力武装を前に対応を改めざるを得なくなった。

 

 

「ん~~~ッ! たのしかったぁ!」

 

 

 大きく伸びをし、心底満足した様子のロウリィ。

 箱根での一件以降、大手を振って武器を振るう機会もなく、たまにクロノや尊たちの鍛錬に付き合うだけだったので今回の戦はいいガス抜きとなった。加えて、彼女と比肩しうる力を持ったレオの存在も大きいだろう。亜神として超人的な力を持つ自身と真っ向からぶつかれる存在など、特地でもそうはいないのだから。

 

 

「紋章術……とても興味深いものだった」

 

「まったくだ。紋章砲や輝力武装などある意味反則技の塊だ。発動させるための輝力と、それを顕現させるイメージさえ固められるのであれば、おおよそ何でもできる。しかし見た限り三国の連中でそれをある程度以上使いこなしているのは、戦闘経験が豊富な隊長以上の兵と勇者のガキどもぐらいだな」

 

「勇者三人が使いこなせるのは…まあ地球のサブカル――娯楽の影響が大きいんだろう。実際、サラも伊丹さんから提供されたアニメをベースに輝力武装を完成させたし」

 

 

 この世界特有の力に最も興味を示していたレレイと魔王も戦の内容を振り返り、尊は勇者たちが飛びぬけて輝力を使いこなす理由がアニメやゲームに由来するからだろうとあたりを付ける。特に身体能力で劣るレベッカはシューティングゲーム感覚で使いこなしたのだからあながち間違いでもないだろう。

 

 

「それにしても……いくら死にはしないとはいえ、アレ(・・)はちょっとどうなの……?」

 

「ああ……アレ(・・)ね……」

 

 

 ルッカのこぼした言葉に複雑な表情で同意するマールが思い返したのは、三人目の勇者として参戦したレベッカに挑んだシンクと七海、そしてそれを迎え撃ったミルヒの顛末だ。

 フロニャルドの戦は守護力のおかげでどれほど強力な攻撃を受けても死ぬことはなく、かわりに戦闘不能状態として"けものだま"と呼ばれる毛玉形態となって救護スタッフに回収される。だま化となるのは装備が貧弱な一般参加の兵士がほとんどで、しっかりとした鎧をまとった騎士団クラスとなるとだま化することはそうそうないが、高い火力の攻撃を受ければそのダメージは防具を貫通し同様の道をたどる。

 しかし、隊長以上の実力者となると輝力による身体強化が当たり前に使われるため、防具が破壊されたとしても"けものだま"となることはまずない。

 ではだま化するほどではなくとも、防具が木っ端みじんに破壊されるほどの火力を受けた場合はどうなるか――。

 

 

「――まさか服どころか下着まで破壊されるとは……。クロノス(うち)から被害者が出なくて本当によかったな」

 

 

 思い返しながら呆れたようにつぶやいたカエルの言葉に女性陣がうんうんと同意する。

 レベッカのバレットカードによる炸裂弾の直撃を受けた二人の勇者――シンクはぎりぎり下に着こんでいた水着を残したが七海はすべてひん剥かれ戦闘不能に。

 そのままビスコッティ本陣に強襲をかけたレベッカをミルヒが聖剣エクセリードで迎え撃つが、互いの攻撃が迎撃しあうことなく素通りし直撃。二人そろって防具どころか上着まで破壊されての相打ちとなった。

 

 

「ミコト。サラ。服破れる、しってたか?」

 

「あー……すまん、俺たちも目の当たりにするまで忘れてた」

 

「戦自体が久しぶりでしたからね……ごめんなさい」

 

 

 

 ――い、言えない…既に身をもってアレを体験しているとは……。

 

 仲間に謝罪しつつも二人の脳裏をよぎるのは前回の送還前に発生したハチ蜜騒動である。

 尊とシンクはどうにか凌いだが、サラを含め最初から参加した女性陣は二度も服を消し飛ばされ、様子を見に来たミルヒ、レオ、ダルキアンの三人まで巻き添えを食らう事態となったいろいろ気まずい出来事であった。

 そんな二人を他所に会場は結果発表へと移行。

 優勝はロゥリィと戦った余波で敵兵を巻き添えにしてトップの撃破ポイントを獲得したレオの率いるガレット獅子団。

 第二位はポイント差で惜しくも敗れたが、鬼札ともいえる活躍でクロノスを抑えて見せたダルキアンの所属するミルヒのビスコッティ共和国。

 そして空戦というアドバンテージがあったもののサラの輝力武装で戦力を一気に削がれてしまい、ポイントが稼ぎきれなかったクーベルのパスティヤージュ公国が今回の戦で敗者となった。

 クロノスと同じく飛び入りとはいえ、勝ちを狙っていただけにステージの上で悔しがるクーベルとそれをあやすレベッカの姿を微笑ましく見届け、それでとクロノが切り出す。

 

 

「これからどうするんですか?」

 

「さっきミルヒ姫様から提案があってな。泊まりの当てがないならぜひ城に来てくれと招待された。無論、全員でだ」

 

 

 勇者たちに加えガレットとパスティヤージュの重鎮たちも所用で二日ほどビスコッティで過ごすと聞いたため、翌朝にこの世界へ戻ってきた理由を説明するには非常にいいタイミングだったこともあり尊は二つ返事で招待を受けたことを伝える。加えて今朝に特地を出立して時の最果てを経由し、この世界へ来るなりあまり間を置かずに戦に参加と疲労もそこそこ蓄積されている。

 今夜は厚意に甘えて疲れを癒すことを優先させる運びとなり、一行は迎えに来たビスコッティ騎士団の案内の元フィリアンノ城へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

『『『『かんぱーい!!』』』』

 

 

 カチン、あるいはガキンとグラスやジョッキを合わせる小気味いい音がそこかしこで響く。

 フィリアンノ城のホールでは戦興業の打ち上げ兼ガレットとビスコッティの戦勝祝いというお題目で立食パーティーが開かれていた。

 加えてほとんど身内だけの集まりみたいなものなので堅苦しい作法もなく、突然の来訪にもかかわらず招待を受けた尊たちやパスティヤージュもご相伴にあずかることとなった。

 

 

「まさかお風呂だけでなくパーティーまでお呼ばれされるとは思わなかったわ」

 

「そうね。ミコトとサラの関係者ってだけですごい歓待だったし」

 

 

 グラスのジュースを傾けながらあまりの好待遇に落ち着かないルッカの言葉を肯定するテュカ。

 城に着くなりまずは汗を流してと大浴場に案内され、上がった順に案内されたのがこの会場だった。

 近くで二人の会話を耳にしたエクレとロランが改めてこの待遇の説明をする。

 

 

「先にお話しさせていただいた通り、皆様はミコト殿とサラ様のお仲間ですから。こちらに滞在中はお二人と同じ国賓としておもてなしをさせていただきます」

 

「彼らには春の戦で勇者殿と同じく、姫様を魔物から救っていただいた大恩がある。それに、ミコト殿は単身で星を滅ぼす可能性を持った魔物も倒してくれた」

 

「……プチラヴォスか」

 

 

 星を滅ぼす魔物と聞いてカエルがつぶやく。

 その言葉に「うむ」と答えロランは続ける。

 

 

「こちらでは現在、ダルキアン卿より提示された『星喰い』という名で通している。今回貴殿らがここを訪れたのも、それが関係しているのかな?」

 

「ああ。詳しい話は明日、ミコトから語られるだろう。俺たちがここにいられる時間も含めてな」

 

「承知しました。 改めてになりますが、どうぞごゆっくりご歓談ください」

 

 

 マルティノッジ兄妹が他の席へ向かい、傍で話を聞いていた魔王がフンッと鼻を鳴らす。

 

 

「星喰いか……どの世界でも、奴の目的は変わらんということか」

 

「あの様子だとミコトさんが私たちの世界に戻ってからは、特に問題はなかったみたいね」

 

「俺たちとしては、できればこのまま何事もなく時が過ぎて欲しいと願うばかりだな」

 

 

 そう言ってカエルは手に持った酒を流し込み、さてどうしたものかと視線を巡らせる。

 

 

「――ぶほっ!? なんだこりゃ!? 口ん中で弾けたぞ!?」

 

「えっ、コーラ!? なんでこんなところに!?」

 

「あ、俺が特地で買ったやつだ。みんなで飲めたらって思って出したんだけど、フロニャルドには炭酸ってないのか?」

 

「僕は見たことないですけど……身近だけどここにないものがあるってなんか不思議だなぁ」

 

「けほっ、なんだ、これシンクの世界にもあるやつか? けど、慣れるとうまいなコレ。シュワシュワした感じが癖になるぜ」

 

「味の濃い料理と一緒だと余計に美味いぞ。個人的には焼いた肉とか」

 

「マジか。クロノだっけ? これまだあるか? うちの連中にも飲ませてやりてぇ」

 

「いいぞ。シンクも飲むか?」

 

「いただきます!」

 

 

 未知の飲み物に興味を持ったガウルとは対照的に、見覚えのありすぎる飲み物がこの場にあることに驚いたシンクにペットボトルのコーラを渡すクロノ。

 

 

「――なんと、すべての矢雨をダルキアン卿お一人で?」

 

「でござる。御館様の実力はよくわかっているつもりでござったが、改めて尊敬したでござるよ」

 

「ルッカ殿たちの攻撃を容易く凌いだと耳にしたときはただ者ではないと思いましたが、まさかそれほどの実力者だったとは」

 

「ジェノワーズとの決着もまだついていないが、これは滞在中に是非とも一戦交えておきたいな」

 

「そうだ! 近々、拙者とシンクとエクレとノワの四人で一泊二日の修行を行うのでござるが、お手すきであればお三方もいかがでしょう?」

 

「ほう。それはなかなか魅力的な提案ですな」

 

「ガイナー、オルティー。明日にでも御館様に相談してみるか」

 

「うむ、異存はない」

 

「……うーん。ミコト殿も御館様と呼ばれていると、少々複雑な心境でござるな」

 

 

 忍者同士としてウマが合ったのか会話を弾ませるユキカゼとデナドロ三人衆。

 

 

「えっ!? マールさんも元の世界じゃお姫様なの!?」

 

「そういえば、ここにきた最初の紹介の時にカエルがそんなこと言ってたわねぇ」

 

「私たちもそれは初耳」

 

「あはは…あまり大っぴらに言うことじゃないし。私自身、王女を名乗るには未熟すぎるって自覚はあるから」

 

「未熟って思うんやったらサラ様に相談したらええんちゃう? あの人も元王女なんやろ」

 

「……そっか。そういえばそうだった。いつもミコトさんと一緒にいるから忘れてた」

 

「ミコトさんと言えば……サラ様とは今どんな関係なんです? 最後に別れたときはまだ恋人ととかそういう特別な関係にはなっていませんでしたけど」

 

「現時点デハ婚約者ですネ。一応サラさんの実母からお墨付きヲいただいていマス」

 

『『『こ、婚約ぅ!?』』』

 

「あら、あのふたりってまだ夫婦じゃなかったのぉ?」

 

「リサの家に泊まった時の様子からてっきりもうそういう関係だったのかと思っていた」

 

「あっ! じゃああん時の賭けってノワの勝ちやん!?」

 

「……ああ! おやつ一週間分が~!?」

 

「おやつゲット。いぇーい」

 

 

 勝ち誇った笑みでピースを決めるノワールと崩れ落ちるジョーヌとベールの姿にマールやレベッカたちから笑いが溢れる。

 向ける視線の先で和気あいあいと交流を深める仲間たちを見やり、カエルはフッと頬を緩めてグラスを向ける。

 

 

「ま、せっかくの宴だ。今は楽しむとしよう」

 

「――それもそうね」

 

 

 同感と言った笑みを浮かべてルッカが手にしたグラスを軽く合わせる。

 奏でられた心地いい音を耳に、この世界が自分たちの未来と同じ道を歩まぬようにと願いを込めて。


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