オーバーロード ~王と共に最後まで~ 〈凍結〉   作:能都

9 / 13
追記:私の勘違いでブレインが御前試合で刀を使っている事になっています。
   大変申し訳ございません。


第8話

「主よ、今戻った。」

 

「ご苦労だったな、アーロン。」

 

 ニグン達をアウラとマーレに引き渡した後、村にも戻って来た。私の後ろには、闇潜みとニグンの部下数名を引き連れている。

 

「アーロン殿、ご無事で何よりです。」

 

 若干の警戒の色を浮かべてガゼフが労いの言葉を掛けてくる。

 

(まぁ、あれだけの敵を相手にして五体満足で帰って来たら警戒もするか。)

 

「ありがとう戦士長殿。いやしかし、流石は法国の特殊部隊。中々に手強かったな。」

 

「ご謙遜を。あの巨大な天使を一撃で屠る姿、しかとこの目で見ましたぞ。」

 

 確かに、あの大きさと光では村からでも見えるだろう。

 

「はははっ。流石にあれ以上の天使が来ていたら、こちらもただでは済まなかったよ。」

 

 これに関しては事実なのだが、ガゼフの表情を見る限りあまり信じてなさそうだ。

 

「…それで、敵の捕縛者はその者達だけなので?」

 

「あぁ、こちらも本気を出す必要があったのでな。半数近く切り捨てた時点で撤退していったよ。死んでない者に治療薬を使って捕縛して連れて来た。そちらに引き渡した方がいいと思ってな。」

 

「それは助かります。色々と、聞きたい事がありますので。」

 

 闇潜みに指示を出し、ガゼフの部下達に引き渡す。捕縛した者達には闇潜みの魔法で記憶操作がしてある。あいつ等から私達の情報が漏れる事はないだろう。

 

「さてと、報酬の件は先程の話した通りで宜しいですかな?」

 

「ええ、こちらが払える金額をお支払いするのでしたな。」

 

「金額に関してこちらから何か言う事はありません。戦士長殿を信じておりますので。」

 

「…信頼に応えられるよう、必ずや貴殿達に見合った金額をお支払いいたしましょう。」

 

 この辺りはモモさんに任せよう。武は任せて貰ってもいいが、文は正直自信が無い。それこそアルベドやデミウルゴスの方が役に立つだろう。

 

「この村に私の部下を置いておきますので、その者に渡してもらえれば結構です。私は旅の身ですが、私が魔法の研究をしている拠点には定期的に帰るのでね。」

 

「成程。それで、モモンガ殿達はどうされるのかな?私達はこの村で一晩休ませて貰うつもりなのだが。」

 

 モモさんからすればここに居る必要はもう無いので恐らくナザリックに帰還するのだろうが、私としてはガゼフにいくつか聞きたい事がある。

 

《モモさん、私は少しこの村に残りたいんだけど…いいかな?》

 

《ええ、構いませんけど…何か問題でもありました?》

 

《ニグンが言ってたんだけど、この世界には武技っていう特殊な能力みたいなのがあるみたいなんだ。魔法やアイテムが同じものがあるのは分かったんだけど、一応戦士職としてはこっちも確認しておきたいんだ。ガゼフなら知ってると思うし、出来るならこの目で見ておきたい。》

 

《あの時の会話は魔法で聞いてましたけど、確かに言ってましたね。情報だけならニグン達から得られますけど、実際見た方が色々と分かると思いますし…分かりました。何かあったら『伝言(メッセージ)』で。》

 

《了解。明日ガゼフを送ったら闇潜みの『転移門(ゲート)』で帰るよ。それじゃあ》

 

「主よ。私は一応今晩だけ残ろうと思うのだが構わないだろうか?まだ敵の残党がいるかもしれない。それに、同じ騎士として戦士長殿とは少し話してみたいのだが。」

 

「あぁ、構わないぞ。では私は先に帰っているぞ。」

 

 『伝言』での打ち合わせ通りに話を進める。モモさんは戦士長に向き直り別れの挨拶を告げる。

 

「それでは戦士長殿、私は魔法研究の拠点に一旦帰ろうと思います。少し調べなくてはならない事が出来たのでね。アーロンが貴方と話したいとの事なので、少しばかり付き合って貰えると助かるのですが。」

 

「それはこちらからもお願いしたい。アーロン殿の強さの秘訣、少しでもお聞き出来ればと思っておりましたので。」

 

 ありがたい話だけど、私としては話して良い事と悪い事の区別があまりつかないから質問されるのは困るのだが、そこは仕方が無いか。

 

「しかし、モモンガ殿。帰ると申されたが、こんな夜分からでは…」

 

 ガゼフの言葉を手で遮るモモさん。

 

「心配には及びませんよ、私には魔法がありますので。『転移門(ゲート)』」

 

 モモさんが言葉を発すると、目の前に『転移門』が現れる。それを見たガゼフの顔が驚愕のものに変わる。この世界では『転移門』がどの程度の魔法なのかは分からないが、この様子だとかなり高度な部類に入るようだ。

 

「では、またお会いしましょう。」

 

「モモンガ殿、この村を救って頂き本当に感謝しています。王都へ立ち寄った際はぜひ我が屋敷へお立ち寄りください。歓迎致しますぞ。」

 

「その時はよろしくお願いします。アルベド、行くぞ。」

 

「…畏まりました。」

 

 アルベドが一瞬こっちを見た気がしたが気の所為だろう。そのままモモさんとアルベドは『転移門』の中に消えていった。

 

「…さてと、闇潜み。お前は村の周囲の警戒にあたれ。何かあったら知らせろ。」

 

「畏マリマシタ」

 

 闇潜みに指示を出し、ガゼフに向き直る。

 

「すまないな、騎士としてこの国最強の戦士の貴殿と話してみたくてな。我が儘を言ってしまった。」

 

「そんな事はありません。先程も言った様にこちらもアーロン殿と言葉を交わしたいと思っていましたので。野営の準備が出来ています、大した物は出せませんが夕食を共にしませんか?」

 

 向こうから誘ってくれるのはありがたい。それに食事の席ならあまり気を使わずに話せそうだ。私はモモさんと違って普通に食事も出来るし問題無いだろう。

 

「それはありがたい。今思えば飯をどうするか全く考えていなかったな。お邪魔させてもらうとしよう。そういえば、兜をかぶったままというのも失礼だったな。」

 

 顔が変化するのを確認して、兜を取る。すると、ガゼフの顔が驚きで満ちる。

 

「なんと、アーロン殿は南方の出身でしたか。私もご覧の黒髪黒目。出身は違うのですが南方の血が流れていましてな。」

 

 私の外見的容姿は普通に日本人だ。個人的に外国のダンディな男性に憧れなかったのでこうなったのだが、この世界の南の方の地域ではこれが普通なのか。

 

「そ、そうなのだよ。この辺りでは珍しいらしくあまり顔を晒さなかったのだが、戦士長殿なら問題無いだろうと思ってな。」

 

「確かに、異邦の民というだけで厄介事に巻き込まれる事もありますからな。さて、そろそろ行きましょう。部下たちが飯の準備を済ませている頃です。」

 

 少し話しただけだが、少なくとも村に戻って来た時の様な警戒した様子はもう無い。この調子で良い関係を築ければいいのだが。

 

 

 

 

 

 

 食事を済ませた後、ガゼフと二人きりで話しをしていた。若干興奮気味で質問攻めをしてきた兵達から逃げて来たのだ。やはり、強者には興味があるのだろう。気さくな性格の者達ばかりで、皆ガゼフを信頼している様だ。

 

「申し訳ない。失礼の無い様にと言った筈なのだが。」

 

「いや、気にしないでくれ。変に気を使われるより全然良い。それにしてもいい奴らだな。確かあの者達は騎士ではなく戦士というのか?」

 

「あぁ。私は平民出身なのだが、平民に騎士を名乗らせたくない貴族達の為に王が創って下さったのが、私の『戦士長』という立場でな。なので、私の部下達は皆騎士ではなく戦士と呼ばれている。」

 

 どんな所でも貴族階級というのは面倒なものだ。立場的には、軍内トップに近いが政治的立場は殆ど無いに等しいらしい。

 

「王が貴族位を与えて下さると言った事があったのだがな。あまり政治闘争に関わりたくないので断らせて頂いたのだ。私はあくまで王の剣、重要なのはこれだけだ。」

 

「その思い、尊敬する。まさに戦士長殿は私の目指す騎士そのものだな。」

 

「何を言われるか。それほどの力を持って、私を目指すなど。」

 

「確かに私の方が戦士長殿より強いかもしれないが、そういう話では無いのだよ。純粋にその王に捧げる思いを、私も見習いたいのだ。」

 

 共にいると約束を交わし、それを破った。モモさんは気にする必要は無いというが、どうしても心のどこかで引きずっている。そんな私には、ガゼフが眩しく見える。

 

「…ならば、私は貴殿の強さを見習わせて貰おう。さぞかし、鍛錬を積まれたのだろう。詳しく聞かせて下さると助かるのですが。」

 

 そのガゼフの目は真剣そのものだった。国最強という立場に驕る事無い精神。これも見習う必要がありそうだ。

 

「色々あって何から話したらいいのか分からんな。来る日も来る日もモンスター退治に明け暮れていたら気づいたらこうだった、というのが一番しっくりくる言い方だな。」

 

「成程、やはり実戦あるのみという事ですな。しかし…貴殿のその刀を見ているとあいつを思い出します。」

 

「あいつ?私と同じように刀を使う者が知り合いにいるのか?」

 

 ユグドラシルのアイテムがあるのだから刀を使う人間がいてもおかしくは無いのだが、やはり気になってしまうのは仕方がない事だろう。

 

「ブレイン・アングラウス。かつて王都の御前試合の決勝で戦った相手です。勝敗は私の勝利でしたが、かなり厳しい戦いでした。奴とはそれっきりなのですが、私はライバルだと思っています。」

 

「戦士長殿と互角の力を持った刀使いですか。興味がありますね。詳しく聞かせて貰えないか?」

 

 ガゼフは快く承諾してくれ、御前試合の事を話してくれた。両者共決勝までは向かう所敵無しで、ほぼ一撃で勝敗が決していた。だが、その決勝では今なお語り継がれるほどの激戦が繰り広げられたらしい。そして、最後はガゼフの『四光連斬』によって勝負はついたらしい。

 

「…ガゼフ殿。その『四光連斬』とは一体?」

 

「当時の私が使えた武技の一つです。一太刀で4つの攻撃を放つ武技で、今では鍛錬を積み『六光連斬』まで使えるようになりました。」

 

 良い感じに話が運んだ。『武技』ユグドラシルには無かった能力。戦士職についてはかなり理解している方だと思っているが、今ガゼフが言った二つとも、聞き覚えがない。

 

「私の居た所には武技というものは無かったのだが、それについても詳しく教えて貰えないだろうか?」

 

「武技を知らない?ではアーロン殿は武技を使わずにあの者達を撃退したという事ですか!?」

 

「あ、あぁまぁそうなるのか?」

 

(一応スキルは使ってたんだけど…う~んスキルが武技に当たるのかな?)

 

「なんと…やはり私などとは格が違いますな。」

 

 何やら勘違いした様子でうんうん頷くガゼフ。誤解を解く必要もないので特になにも言わないが。

 

「それで、武技に関してでしたな。一言で言うなら戦士達が使う事の出来る魔法の様なものです。魔法とは違い精神力次第で複数同時に発動でき、魔力も消費しない。その代わり、肉体への負担は掛かりますが。」

 

 この話を聞く限りではスキルと武技は完全に別物の様だ。

 

「して、その武技にはどのようなものがあるのだ?」

 

「私が使える物は先程言った二つに、武器に魔法属性を付与する『戦気梱封』 攻撃の隙を失くし次の攻撃に移れる『即応反射』 神経と肉体の速度を上げる『流水加速』などがあります。」

 

(……え、なにそれ強くない?魔法職取って無いのにエンチャ出来たり、スキル使用後の硬直時間を無くしたり出来るって事?)

 

「…他には?」

 

「有名なものですと、攻撃を無力化出来る『不落要塞』などがあります。後は純粋に肉体強化や、精神強化の武技ですな。才ある者なら自分オリジナルの武技を編み出す事も可能ですから相手がどのような武技を使えるかは、戦ってみないと分かりませんな。」

 

「『不落要塞』とだったか?無力化というが具体的には?」

 

「『不落要塞』は肉体にではなく剣や盾、鎧に発動するもので、例えばレイピアなどでもグレートソードの様な質量の重い武器を受け止める事を可能にします。」

 

 どうやら武技というのはかなり厄介なものの様だ。常時発動し続けるのは確かに無理だろうが、打ち合う瞬間に『不落要塞』を使えばこちらの攻撃を弾くのは簡単だろうし、『流水加速』があれば回避も容易だろう。先程の戦いはマジックキャスターばかりだったので良かったが、これが練度の高い戦士軍団とかだったら結果は変わっていたかもしれない。やはり一度体感してみる必要がある。

 

「戦士長殿。一つ頼みがあるのだが。」

 

「何でしょう?貴殿の頼みとあらば出来る限り叶えよう。」

 

「私と、本気で戦ってくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 朝日が昇る頃に、私とガゼフは昨夜ニグン達と戦った草原に来ていた。

 

「すまないな、こんな頼みごとをしてしまって。」

 

「いえ、アーロン殿程の方と手合わせ出来る機会はそうそうありませんから。こちらとしてもありがたい。」

 

 ある程度距離を取り向かいあう。

 

「昨夜言った通り全力で来て欲しい。遠慮はいらない。」

 

「承知した。」

 

 短く返事をすると、腰から下げた剣を抜き放ち構える。ガゼフはこの国で一番の戦士。だが、彼に勝つ自信はある。目の前のガゼフを殺すべくやってきたニグン達を圧倒出来た私なら恐らく殆どダメージを負う事もなく勝利できるだろう。しかし、武技の存在がその自信を揺さぶってくる。今後の為にも確かめる必要がある。

 

「では…行きますぞ!」

 

 私に向かって一気に距離を詰めてくる。そのまま両手で持ったバスタードソードを振り下ろして来るが、それを妖刀で受け止める。

 

「うぉおおおおおお!」

 

 鍔競り合いに入るかと思い力入れた瞬間ガゼフは手に力を入れるのをやめる。その所為で私の重心が若干前に倒れる。その隙を狙いガゼフは膝蹴りを放つ。それを妖刀の長い柄を利用し受けると、後ろに吹き飛ばされる。

 

「っ!!」

 

 土埃を巻き上げながら後ろに飛ばされながら、地面に手をつき速度を落としつつ体制を整える。だが、そこを狙わない訳がない。先程同様間合いを詰め上段から斬りかかる。が、それは先ほどよりも距離がある。直感でまずいと感じ、無理やり横へ大きく飛ぶ。

 

「『四光連斬』!」

 

 常人には一度振り下ろした様にしか見えないだろう。だが、その一撃は神速と言っていい速度で4回放たれた。

 

「『即応反射』!」

 

 大技を放った後だというのにすぐさまこちらに向かって斬りかかるガゼフ。こちらも妖刀で迎え撃つ。バスタードソードから放たれる攻撃はまさに剛撃。それを妖刀を上手く使いながらいなしていく。

 

「流石はアーロン殿!武技も使わずにこの強さ、ますます尊敬しますぞ!」

 

 打ちあいながらガゼフから放たれる言葉は心底嬉しそうだった。

 

「それは光栄だな!」

 

 ガゼフの剣を弾くと後ろに大きく跳躍し、距離を取る。ガゼフも一旦剣を構えなおしこちらを見据える。

 

「あまりその間合いは得意ではないのだ。では、行くぞ?」

 

 言うや否や、スキルを使い20m程あった距離を一瞬で0にする。斬り上げから横に一閃。ガゼフはそれを体を捻りかわす。

 

「っ!『流水加速』!」

 

 崩れた体制を一瞬で整え、反撃してくる。その一撃が繰り出される前にスキルを使ってガゼフの間合いから離脱する。着いては離れのヒットアンドアウェイを繰り返す。だが、流石に合わせてくるまでそう時間は掛からなかった。

 

「おぉおおおおおおおお!『四光連斬』!!」

 

 間合いを詰める瞬間を的確に捉えての一撃。だが、私はそれをある程度読んでいた。ケンセイのクラスで習得できるスキル『幻狼』一瞬だけ自分を霊体化させ、相手の背後にまわるスキル。霊体化中は完全物理無効である。

 

(取った)

 

「『流水加速』!」

 

 だが、私の確信は武技によって阻まれる。私の一閃を防ぐ様に肘を蹴りその衝撃で後ろに飛び間合いをとるガゼフ。

 

「…流石だな、今のは勝ったと思ったのだが。」

 

「はぁはぁ…今のは危なかったな…」

 

 若干息が上がった様子で話すガゼフ。だが、一度大きく息を吐くと剣を構えなおす。

 

「貴殿との力の差は歴然…ならば、こちらの持てる全力の一撃にてこの勝負に幕を下ろすとしよう。」

 

「そうか、ならば来い。」

 

 力の差を理解しているが、負けるつもりはないようだ。

 

「『戦気梱封』」

 

 ガゼフの持つバスタードソードが淡く光り輝く。ガゼフの双眸はまっすぐにこちらを見据えている。

 

「「いざ!」」

 

 同時に地面を蹴り互いに距離を詰める。

 

 

 

「『六光連斬』!!」

 

 

 

 ガゼフの神速の六連撃が襲いかかる。

 

 

 

 そして、それを全て受けきる。

 

 

 

「…お見事。」

 

 

 

「『一之太刀・虚刀』」

 

 

 

 狙い澄ました一撃は、ガゼフのバスタードソードの腹を的確に切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

「やはり、私ではアーロン殿には敵いませんな。」

 

「そんな事は無い、何度か危ない所もあった。ありがとう戦士長殿、この一戦で多くを学べた。」

 

「こちらこそ、アーロン殿と戦えてまだまだ強くなれる事を実感させて貰った。感謝している。」

 

 二人で固く握手を交わす。そういえば、一応傷つけない為に武器破壊のスキルを使ってしまったが、大丈夫だったのだろうか…

 

「剣、すまなかったな。もしかして大事な剣だったか?」

 

「いえ、これは普通の剣ですので気になさらないで下さい。」

 

「ならいいのだが。何か代わりの剣でもあげられたら良いのだが…」

 

 基本刀使いなので、ガゼフが使う様な直剣や大剣を持っていないのがこんな所で響くとは。

 

「本当に気になさらないで下さい。剣一本で貴殿と戦う事が出来たと思えば安いものです。」

 

 これに関しては平行線になりそうなので大人しく引いておく。

 

「さて、武技についてかなり理解する事も出来た事だ、そろそろ主の元に戻るとしよう。」

 

「行かれるのか。モモンガ殿同様、王都へ寄られた際はぜひ我が館に来てほしい。歓迎しよう。」

 

「いつになるかは分からないが、必ず行くと約束しよう。闇潜み。」

 

「ハッ」

 

 後ろで控えていた闇潜みに指示を出し、『転移門』を出す。

 

「それでは戦士長殿、また会いましょう。」

 

「えぇ。それまでに、少しでも貴殿に近づける様鍛錬を積んでおきましょう。」

 

 ガゼフに背を向けて『転移門』に入ると、最後にガゼフから声を掛けられる。

 

「最後にもう一度言わせて欲しい。この村を救って頂き、本当に感謝している。」

 

 その言葉に手を振って応えると、そのまま『転移門』は閉じ見慣れた自室の風景に変わった。

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさいませ、アーロン様。」

 

 美人の奥さんがいたたっちさんはこんな気分を毎日味わっていたのだろうか。そこにはアルベドが待っていた。

 

「あぁ、今帰った。…態々待っていてくれたのか?ご苦労だったな。」

 

「そんな!愛する方の帰りを待つのは女の使命!苦労など感じる事はございません!」

 

「そ、そうか?…アルベド。」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 アルベドの私を愛しているという設定。それはモモさんが半分ふざけてやってしまったもの。その事を伝えるべきなのか正直迷っていた。だが、彼女には知る権利がある。コンソールが出てこない以上、彼女の設定を変える事は出来ないがやはり教えるべきだろう。

 

「闇潜み、少し席を外せ。」

 

「畏マリマシタ」

 

 部屋から出て行くのを確認する。そして意を決して話し始める。

 

「アルベド、お前の私を愛するという感情は私と王が歪めてしまったものなのだ。だから、その…」

 

(だから、なんて言えばいいの…例え歪めた設定だとしても、今のアルベドの気持ちには違いないんだから…)

 

「…お二人が変えられる前は、どのような私だったのですか?」

 

 ビッチ。なんて言える筈が無い。

 

「…これは私の個人的考えだが、守護者統括としてあまり好ましいものでは無かった。」

 

「ならば、私はお二人に感謝しなくてはなりません。守護者統括として相応しい私、そしてアーロン様を愛する事が出来る今をお創りになって下さったのですから。」

 

「…え~」

 

 若干勘違いしている様な気がしなくもないが、こう言われてしまうと反論しづらい。

 

「タブラさんが作った設定を変えてしまったのだぞ?」

 

「タブラ・スマラグディナ様なら、娘が嫁に行く気分でお許して下さると思います。」

 

 どうだろう、確かにタブラさんとは仲が良かった。私の話すダークソウルのギミックや設定に一番興味を持ってくれた人だ。

 

「そ、そうか?」

 

「重要な事は一つだと思います。」

 

 アルベドは寂しげに言葉を紡いだ。

 

「ご迷惑でしょうか?」

 

「い、いや迷惑では無い。…お前の様な美しい者に愛される事は嬉しい。だが、私の中でお前を歪めてしまったという事実があって、素直に喜べないのが正直なところなのだよ。すまないな、こんな不甲斐無い主で。」

 

 設定を変える事無く、アルベドに愛されたのだとしたら素直に受け止める事が出来ただろう。だが、今の私の気持ちでは彼女を受け入れる事は出来そうにない。

 

「アーロン様が不甲斐無いなどありません!私の事を気遣ってくださっているのにそれを不甲斐無いなど誰が言えましょうか!アーロン様が御心を痛める必要は御座いません!」

 

 アルベドのその眼差しは真剣そのものだった。

 

「アルベド…」

 

「アーロン様…」

 

 どんどん近くなるアルベドの顔。瞳は潤んでおり、妖しい美しさを醸し出している。が、私は動いてるつもりは無い。という事はアルベドの方から近づいて来てるという事。このまま雰囲気に呑まれそうになったその時

 

《アーロンさん、戻ってきてます?》

 

「……ちょ、ちょっと待てアルベド!王からの『伝言』だ!」

 

「っち!」

 

 一瞬凄い顔で舌打ちしていた気がするが、いつも通り気のせいだろう…多分。

 

《は、はい戻りました。今少しアルベドと話してまして。何かありました?》

 

《ナザリックの今後について話したいと思いまして。それに、武技についても聞きたいのでこれから執務室に来て貰えますか?アルベドにも意見を聞きたいのでそのまま連れて来て貰えると助かります。》

 

《了解。それじゃあすぐに行くよ。》

 

 アルベドの方を見るといつも通り微笑を浮かべている。やはり先程の舌打ちは気のせいだったのだろう。こんな綺麗な顔をしてるアルベドが舌打ちなんてする筈は無い…多分。

 

「王が御呼びだ。行くぞ。」

 

「畏まりました。」

 

 同じ9階層の執務室に移動する時後ろの方で、邪魔が入らなければ、惜しかった、落とせる、滾る、など聞こえてきたがもう気にしない事にした。その方が精神衛生上いいだろう。

 

 

 

 

 

 

 玉座の間には、かなりの数のシモベ達が誰一人として言葉を発さず、呼吸音すらも聞こえない程の静寂の中跪いていた。その中をモモさんの後ろに付き従う様に歩みを進める。そのまま玉座に座るモモさん、そして私はその右前方に立つ。

 

 玉座に座したモモさんは、黙って階段下に広がる光景を眺めていた。そこにはほぼ全てのNPCが揃っていた。私も圧倒されていた。その光景はまさに百鬼夜行というのが相応しく、多種多様な種族達がこの玉座の間に集まっていた。

 

「まずは、私とアーロンが勝手に動いた事を詫びよう。何があったかはアルベドから聞く様に。ではまず、重要な連絡から始めよう。アルベド、デミウルゴス。アーロンの横まで。」

 

「はっ!」

 

 階段下の私達に一番近い位置で跪いていたアルベドとデミウルゴスは、私の反対側へと移動する。

 

「今現在、ナザリックが別な世界へ転移した事は皆も承知していると思う。よってこの事態に対応するために指揮系統を明確にしようと思う。」

 

 一呼吸おいて、モモさんはこちらを向く。

 

「まず、私の補佐としてアーロン、アルベドの両名を任命する。これは戦闘能力や指揮能力などを考慮した結果だ。そして、勘違いしないで欲しいのがアーロンは私の友である事だ。確かに友であると共に私に仕える騎士ではあるが、立場に違いは無い。あくまで指揮系統を明確にする為のものだ。異論ある者は立ってそれを示せ。」

 

 モモさんの言葉に対し何かを言う者はいない。

 

「よろしい。さらに参謀の任にデミウルゴスを任命する。お前の智謀、期待しているぞ。」

 

「ご尊命、承りました。今まで以上にこのナザリックの為、そしてモモンガ様のお役に立てますよう、努力いたします。」

 

「お前たちのさらなる働きを期待している。」

 

「「「はっ!」」」

 

 あくまでは私は王に仕える騎士。これはモモさん相手でも譲れなかった。だからこそあの発言なのだろう。そこまでして友と思ってくれるのは素直に嬉しいものだ。

 

「ではこれから、お前たちの指標となる方針を厳命する。」

 

 モモさんは黙り、少し時間を置く。そして立ちあがり、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを床へ突き立てる。

 

「アインズ・ウール・ゴウンを、不変の伝説とせよ!」

 

 モモさんの覇気に満ちた声が、玉座の間に広がる。

 

「地上に、天空に、海に、この世界のすべて、知性のある者すべてが知るように、知らない者が誰一人としていないほどの領域にまで。アインズ・ウール・ゴウンの名を伝知らしめるのだ!そして、この世界に来ているかもしれない我が盟友達に知らしめるのだ!我らは、ここに居ると!」

 

 モモさんは両手を広げて声高らかに宣言する。そして私も一歩前に出て、声を上げる。

 

「我らは義の英雄となる!我々こそが正義であり、それに仇なす者には容赦はいらん!だが、例え人間であろうと、無辜の者に対する無用な殺生はこのアーロンが許さん。正なる者には施しを!不義なる者には鉄槌を!」

 

「「「「「正なる者には施しを!不義なる者には鉄槌を!」」」」」

 

 私の言葉を守護者達、そしてシモベ達が唱和する。

 

「今はまだ準備段階に過ぎないが、将来来るべき時の為に働くのだ!そして、アインズ・ウール・ゴウンこそが、もっとも偉大で正しきものであるという事を知らしめるのだ!」

 

 音を立てて一斉に玉座の間に集まった者達が跪く。興奮による熱気が渦巻く中、私はその神話的な光景に目を奪われていた。

 

 

 

 

 

 今こそもう一度誓おう。必ず、最後まで王と共に。

 





という訳で一巻分の話を書き終える事が出来ました。

初投稿という事でかなり拙い文だったかと思いますが、今後も頑張っていきますのでよろしくお願いします。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。