オーバーロード ~王と共に最後まで~ 〈凍結〉   作:能都

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第7話

「成程…確かに居るな。」

 

 ガゼフの隊からもたらされた一報を聞き、一度全員村長の家まで移動し様子を見ていた。見える範囲では3人。各員が等間隔を保ちながらゆっくりと村に近づいてくる。彼らは鎧や剣と言ったものを装備していない。そして横に並ぶように浮かぶ輝く翼をもった者、『天使』だ。これらが、彼らをマジックキャスターと教えていた。

 

「一体彼らは何者で、狙いはどこにあるのでしょう?この村にそんな価値が?」

 

「モモンガ殿に心当たりが無い…ならば、答えは一つでしょう。」

 

 苦笑いを浮かべながらそう答えるガゼフ。

 

「成程。やはり王直属ともなると、色々とあるのだな。苦労するな、戦士長殿も。」

 

「この地位に就いてる以上は仕方のないことだが…本当に困ったものだな。さて、天使を召喚出来るマジックキャスターをこれだけの数揃えられるとなると、相手はスレイン法国…噂に聞く特殊部隊、六色聖典の者だろう。全く、貴族達も面倒な事をしてくれる…」

 

 厄介だと言わんばかりにガゼフは肩を竦める。彼はどうやら貴族達に快く思われてはいない様だ。そんなガゼフから天使へと目を向ける。

 

(あれって確か『炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)』だっけ?世界は違うのに同じ魔法があるのか…モモさん、はもうとっくに気がついてるか。)

 

「…あれは『炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)』?外見は非常に似ているが…何故同じモンスターが?魔法による召喚が同じ?だとしたら…?」

 

 ぶつぶつと呟いているモモさんは恐らく考えを巡らせているのだろう。そんなモモさんにガゼフが話しかける。

 

「モモンガ殿。良ければ雇われないか?」

 

 モモさんの返事は無い。ガゼフを凝視しながらただ黙っていた。

 

「報酬は望まれる額を約束しよう。」

 

「…少し時間を貰えますかな?アーロン達と話して決めようと思うのですが、大して時間はかけませんので。」

 

 黙って頷くガゼフを尻目に部屋の隅へ移動する私達。

 

「さて、私個人の意見としては断ろうと思っている。相手の戦力が不明な以上余計なリスクは避けたい。だが一応意見を聞いておこうと思う。二人とも…どう思う?」

 

「私は、異論は御座いません。」

 

 アルベドは賛成の意を示した。私は一瞬ガゼフの方を見る。そして答える。

 

「…私は、あの者を助けたいと思う。」

 

「…理由は何かあるのか?」

 

「私は王の様に頭が良くないからな、助けるメリットなんて恩を売るぐらいしか思いつかん。ただ単純に彼を助けたいと思った、それだけだ。」

 

 そんな事を言ったがそれだけではない。私は、彼が羨ましかった。迷い無く王に仕え、そしてそんな彼を王は信頼しているだろう。そんな、私の目指す王に仕える騎士を体現している彼を死なせたくないと思った。

 

 そして、恐らく先の襲撃はこの村にガゼフを誘き寄せる為の策の一環なのだろう。彼の行く先々で村を焼き死傷者を出す。彼の事だ、負傷者を放っておく訳にもいかずそれなりの数の兵を置いて来てる筈だ。そして、遂にこの村で仕留めに来たのだろう。こんな事を平気で行う奴を、許しておけないのも本心である。

 

「はっきり言ってしまえばこれは私の我が儘だ。だから気にしなくていい。」

 

 だが、王に仕える騎士ならば私はモモさんの判断に従わなくてはならない。しかもそれが理に適っているなら、異を唱える必要すらない。後はモモさんに従うだけだ。

 

「…ならば決まりだ。戦士長殿を助けるとしようじゃないか。」

 

「…王よ。話を聞いていたのか?これは私の我が儘だぞ。」

 

「配下の我が儘一つ聞けない様な狭い器の持ち王にお前は仕えるのか?まぁ、さっきはああ言ったが、相手の戦力さえ確認できれば助けに入るつもりだったしな。こちらの世界の硬貨の入手。王国戦士長との繋がり。悪くは無いだろう。」

 

 そう言ったモモさんは私の方に向き直ると、『伝言(メッセージ)』を飛ばしてきた。

 

《アーロンさん。思った事があったらもっと言ってくれて良いんですよ?あんまり遠慮されるとこっちが困りますよ。》

 

《いやだってモモさん優秀だし、私が変な事言って邪魔しちゃ悪いと思って。》

 

《やっぱり…そんな事ないですよ。私としてはアーロンさんには同じ立場で色んな意見を出して欲しいんですよ。なんというか私の考える事って基本ナザリック以外どうでもいい感じの事ばかりなので…多分カルマ値が原因だと思うんですけど。》

 

《モモさんのカルマ値って確か、極悪の-500だっけ?まぁ仕方ないと思うけど。》

 

《アーロンさんは極善ですから、なにか思った事とかあったらいつでも言って下さい。それがナザリックの為になるかもしれませんし、そもそも私が間違っているかもしれませんし。いいですね?》

 

《う、うん。了解。》

 

 最後の方若干脅すような感じだったのは気のせいだろうか。

 

「さて、戦士長殿。話はつきました。微力ながら、お手伝いいたしましょう。」

 

「おぉ!モモンガ殿達が共に戦ってくれるならば千人力だ。御助力感謝致しますぞ。」

 

 心底安心したといった風で返事をしてくるガゼフ。モモさんが出した右手に対し、ガゼフは両手でそれを握り返している。

 

「報酬などの話は彼らを倒した後にするとして、まずはどうやって戦うかですが…アーロン、意見はあるか?」

 

 こちらを向きながら問いかけるモモさん。早速意見を言えという事らしい。

 

「そうだな…私が一先ず相手をし問題無いならそのまま撃退、主は後方支援を頼みたい。だが私一人で対処が難しい場合は主とアルベドも前線へ。戦士長殿達には村人の護衛、といった所か。」

 

「お待ちくださいアーロン殿。此度の戦い、原因は我々にあります。それなのにただ見ていろというのは。」

 

(まぁそうなるよね。けど、万が一本気で戦うとなると、人間じゃないのがバレる可能性もあるからなるべく傍に居て欲しくないんだけど…どうやって説得したものか。)

 

「…今回のこの戦、負けの条件は戦士長殿の死、そしてこの村の壊滅だ。向こうはいくつもの村を襲撃してまで戦士長殿をこの村に誘い込んだ。つまりはここで片を付ける用意があるという事だ。ここで戦士長殿が出て行くのは愚策中の愚策だよ。」

 

「…確かにそうだが。しかし…」

 

「ただ見ていろというわけではない。現状確認出来る者以外にも敵が居るかもしれない。それの相手をして欲しい。私と主だけでは村人全員を確実に守れるとは限らない。だが貴殿の部隊なら容易だろう。思う所はあるだろうがここは頼まれてくれないか?」

 

「……了解した。ここは貴殿達に任せるとしよう。」

 

「ありがとう、戦士長殿。主もそれでいいか?」

 

 一瞬考えるモモさんだったが、すぐに返事は返って来た。

 

「概ね異論は無いが、お前一人というのは少しな…アルベドは外せない以上…」

 

「なら闇潜みがいる、あれを貸してくれればいい。あれは主が召喚した者だからな。」

 

「ん?……あぁそうだったな、あれは私が召喚した天使だったな。それなら問題無いな。」

 

 どうやらこちらの意図を察してくれた様だ。一応村人達の間では闇潜みはマジックキャスターであるモモさんが召喚した天使という事になっている。本人には伝えてなかったが、伝わった様だ。

 

「では、私は先に出る。また後で会おう。」

 

 村長の家の扉に手をかけると、後ろから声を掛けられる。

 

「…アーロン殿。」

 

「戦士長、どうかしたか?」

 

「…モモンガ殿、アーロン殿。この村を救って頂き本当に、本当に感謝している。そして、もう一度だけこの村を救って欲しい。戦士長という立場にありながらこの様に頼む事しか出来ない無力な自分が、憎い…」

 

 そう言っているガゼフの手は、血が出そうな程に固く握り締められている。やはりこの人は私の目指すべき騎士なのだろう。そんな彼に抱く感情は、純粋な憧れだった。

 

「今差し出せる物はないが、報酬は御望みの物をお渡しすると約束しよう。このガゼフ・ストロノーフの名にかけて。」

 

 そこまで言って跪こうとするガゼフをモモさんが止める。

 

「元より、この村を救うつもりでしたからそこまでされる必要はありません。この村は必ずお守り致しましょう。このアインズ・ウール・ゴウンのモモンガと。」

 

「騎士アーロンの名に賭けて、な。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 村を出て少し歩けば敵の姿は見えてきた。人数は全部で45人。他にもいるかもしれないが、視界に入るのはそれだけ。だが、その殆どが天使を召喚している。そして、一番奥に居るデカイ天使『監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)』を含めるなら、総数は90近くになる。

 

「あのデカイのは確か視認するPTメンバーの防御力を若干上げるんだったか?よく覚えて無いな…闇潜み、お前は覚えているか?」

 

「アァロン様ノ仰ッタ通リデ間違イナイカト」

 

 大してこちらは私と闇潜みのみ。普通に考えれば戦力差は圧倒的だ。

 

「さてと、そろそろ向こうの指揮官殿に御挨拶といこうじゃないか。」

 

 そのまま歩みを進めるが、敵からの攻撃の意思は無い。ガゼフが出てくると思っていた所に正体不明の人物が現れて、様子を見ているといったところか。

 

「こんにちは、スレイン法国の皆さん。」

 

「……貴様、何者だ。ストロノーフはどうした。それに、そんな天使は見た事がないが。」

 

 敵の指揮官と思われる人物が疑問を投げかけてくる。

 

「私はアインズ・ウール・ゴウンのアーロンという者だ。我が主たる方と共にあの村を守りに来た。戦士長殿は村人を守って貰っている。それとこいつは闇潜み、私の部下だ。…さて、こちらは質問に答えたのだしこちらの質問にも答えて貰いたいのだが…」

 

「天使を部下だと?貴様ふざけているのか!?その様な不敬が許されるとでも…まぁいいどうせ死に逝く異教徒の戯言だ。」

 

 私の声を遮りながら一瞬声を荒げるが、すぐに平静を取り戻す。異教徒という言葉が出たが、スレイン法国では天使を崇拝する宗教でもあるようだ。

 

「あの村を守りに来たを言ったな。貴様とその偽りの天使だけで我々をどうにか出来るとでも思っているのか?無駄な足掻きだ。貴様を殺し、ストロノーフも殺す。そして最後はあの村だ。作戦に関係した者は全て抹殺する。」

 

「…なら、やってみるがいいさ。」

 

「っ!天使達を突撃させよ!」

 

 『炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)』ユグドラシルにも存在した召喚モンスター。第3位階の魔法で召喚されるその性能は、一言で言えば強くもなければ弱くもない。だからハッキリ言ってレベル100の私の相手では、

 

「無いのだよ。」

 

 アーロンの妖刀を横に一閃。それだけで十分だった。天使達が空中に溶ける様に消えていく。

 

「なんだと?っち、再度天使を突撃させよ!急げ!」

 

 動揺の色を隠せない指揮官。それはそうだろう。あれだけ自信満々に語っていたのだ。今の2体の天使で終わらせるつもりだったのだろう。

 

 さらに迫りくる6体の天使。何度やっても無意味だというのに。だが、まぁ付きあってやるか。

 

 突出してくる3体の天使。正面と左右から同時に紅蓮の剣を突き出してくる。その場でハイジャンプし剣をかわすと正面の天使へ大上段からの唐竹割。天使は両断されそのまま霧散する。続けて狙ってくる突きを大きくバックステップし回避し、スキルを使用し一瞬で間合いを詰める。その勢いのまま天使の頭を貫き2体目。天使の頭を貫いたままの妖刀で横薙ぎにし、そのまま隣の天使の首を落とす。

 

 遅れてやってくる天使達。消えていく天使を尻目に、居合の型を取る。

 

「『祖之太刀・不動』」

 

 妖刀のリーチを生かした不可視の一閃。それらは洩れなく天使達を両断し、一瞬空間すらも切裂く。血を払う様に刀を返すと、歩みを進める。私の後ろで遅れた時間が動き出す様に天使達が消えていく。

 

「全く、空間を切り裂き相手に大ダメージ、さらに斬った相手の動きを止める。これだけでもかなり強いのに、ワールドチャンピオンのスキルの劣化版というのだから困ってしまうな。」

 

 一瞬で6体の天使を屠った光景を今だ信じられんと言った表情で見ているマジックキャスター達。

 

「ニ、ニグン隊長。ど、どういたしましょう!?」

 

「て、天使を失った神官は再度召喚せよ!村に向かわせた班を呼び戻せ!召喚の終わった者は魔法を奴に集中して叩き込め。数はこちらの方が上なのだ!臆する必要は無い!」

 

 ニグンと呼ばれた隊長は自身に言い聞かせるように指示を飛ばす。そこからは流石は特殊部隊といった様ですぐさま行動に移す。

 

(やっぱり村にも向かわせてたか。まぁこれで後ろの心配はいらなそう。)

 

『人間魅了(チャームパーソン)』 『束縛(ホールド)』 『衝撃波(ショクウェーブ)』

 

 ニグンの指示通り魔法による掃射が始まるが、どれもユグドラシルで聞いた事のある低位魔法で、私の所有する特殊能力とアーロンの防具の魔法耐性や精神作用耐性を凌駕するものでは無かった。私はそのまま何も無い様に歩みを進める。

 

「何故だ!何故魔法が利かん!貴様はマジックキャスターではない!対抗魔法を使えなければ武技も使っていない!ならば何故平然としていられる!」

 

「ん?今聞きなれない単語があったな。武技、と言ったか。個人的にはそれについて詳しく聞きたい所だが…まぁそれは生け捕りにしてからでも遅くは無いか。」

 

 生け捕り。平然とそう言ってみせた私にニグンが見せるのは怒りと焦り。生け捕りという事は殺さずに無力化するという事。そして私とニグン達の間にはそれだけの実力差があるという事を意味する。馬鹿にされた事に対する怒り、そして本当にそれだけ力の差があるのではないかという焦り。それらを振り払うかのように指示を下す。

 

「全ての天使で攻撃を仕掛けろ!」

 

 総数にして40近い天使がこちらに向かってくる様は中々に絶景だが、これを一々切り捨てるのは流石に面倒だった。

 

「闇潜み、格の違いを見せてやれ。」

 

「畏マリマシタ」

 

 翼を動かす事無くゆっくりと私の前に出てくる闇潜み。4本ある腕を高く上げ交差させる。目前に迫りくる天使達を気にすることなく、掲げた腕を振り下ろしながら、無機質な声で魔法を発動させる。

 

「『闇の爆風』(ダーク・ブラスト)』

 

 ズンと大気が震える。光を覆い尽くす赤黒い炎が闇潜みの前に広がる。炎が広がった時間は一瞬だったが、その結果は一目瞭然だった。

 

「…あり、ありえない……」

 

 ニグンの呟きが風に乗って聞こえてくる。それだけ信じられなかったのだろう。総数40を超える天使。それらが全て闇の爆風によって掻き消されていた。

 

「…さて、お遊びは終わりか?」

 

「っ!!『監視の権天使』!かかれ!」

 

 今までの天使では歯が立たないと理解したのか、後方で待機させていた上位天使を差し向けてきた。片手にメイス、もう片方の手に盾を持ち長いスカートの様なものをなびかせ近づいてくる。

 

「闇潜み、下がれ。」

 

 命令を受けた上位天使は一気にアーロンの元までたどり着き、そのままの勢いで光の輝きを宿すメイスを振り下ろす。私はそれを受け止める事もなく、かわす事もなく、ただその肩で受けた。

 

 金属の割れる甲高い音が鳴り響きながら、天使の持っていたメイスが中心から粉々に割れていく。

 

「あぁ、すまんな。壊れてしまった。だが、もう必要ないだろう?」

 

 メイスを振り下ろした状態で止まっていた上位天使の首を横一文字に斬り付け、更に真向より斬り下ろし両断する。メイスの破片が僅かに残った夕日に照り返し、そして光となって消えていく天使。なんとも幻想的で魅入ってしまいそうだが、ニグンの声でそんな気分は掻き消えた。

 

「あ、あ、ありえるかぁあああああ!」

 

 ニグンの絶叫は荒野に響き渡る。恐らくは切り札だったのだろう。それが破られた以上はそろそろ潮時だろう。

 

「隊長!我々はどうすれば!?」

 

 部下達も完全に動揺している。だが、ニグンは不敵に笑うと懐から一つのクリスタルを取りだす。

 

「最高位天使を召喚する!」

 

 先程まで絶望で染まっていた彼らの目に光が戻る。ニグンが手にしているそれは『魔法封じの水晶』輝きからすれば超位魔法以外を封じ込める事の出来るものだ。

 

《アーロンさん。》

 

 こちらの戦闘は魔法で見ていたのだろう。向こうから『伝言』を飛ばしてくる。

 

《モモさん、ちょっと不味いかもしれませんね。ユグドラシルのアイテムがあるのが分かったのはいいんですけど、問題は中身ですね。》

 

《流石に恒星天以上は出ないと思いますけど…至高天が来たらアーロンさんだけでは厳しいかと思いますので、その時は私とアルベドも向かいます。》

 

《了解。それじゃあよろしくです。》

 

 私が『伝言』を使っている間に、ニグンの手の中でクリスタルが破壊され光輝く。まるで太陽がまた昇ったかの様に草原が白く染め上げられる。

 

 ニグンが歓喜の声を上げる。

 

「見よ!最高位天使の姿を!『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』!」

 

 それを一言で表すなら光輝く翼の集合体。翼の塊から笏を持つ手が生えているが、それ以外の足や頭というものは一切ない。異様な外見だが、正しく聖なるものであるのは誰もが感じる。

 

「最高位天使を召喚させたお前には正直、敬意すら感じる。誇れ!お前は凄まじい力を

持った騎士だ!」

 

 ニグンは勝利を確信した様子で、私に賞賛を送ってくる。だが、私はいまだに状況を理解できていなかった。

 

「……それで?」

 

「何?」

 

 ニグンは何を言われたか分からないといった表情だった。

 

「まさか…それを最高位だと思っているのか?『熾天使級(セラフクラス)』の存在を知らないのか?」

 

「な、何を言っている。この『威光の主天使』こそ、かの魔神すらも屠った最強の天使!都市規模の破壊も可能とする最高位天使だぞ!」

 

 どうやらあの様子だと、本当に知らない様だな。召喚魔法として天使達を理解しておきながら、その最高位をちゃんと理解していないのはよく分からないが。

 

《モモさん、援軍の必要はないです。お騒がせしてすいません。》

 

《いえ、私もまさか『魔法封じの水晶』を使ってまで召喚したかったのが主天使とは思ってもいなかったですし。》

 

《じゃあこのまま殲滅して何人か生け捕りにします。後はガゼフさんと報酬の話でもしてて下さい。それでは。》

 

「最高位天使を前に、何故そんな態度が出来る!」

 

ニグンの顔には先程までの歓喜の気配は掻き消え、代わりに不安と恐怖が戻ってきている。

 

「仕方がないだろう、最高位天使ではないのだからな。いや、流石に最高位天使が来たら私も余裕ではいられないぞ。」

 

「まさか…いや、ありえん!人類では勝てない存在を前に、ハッタリだ!」

 

 もはやニグンには私の言葉など届いていなかった。半狂乱といった様子で声を荒げながら主天使に命令を下す。

 

「『善なる極撃(ホーリースマイト)』を放て!!」

 

 主天使の持っていた笏が砕け散る。その破片は主天使の周囲を旋回し始める。

 

「人が決して到達する事の出来ない第7位階魔法。魔神すらも消滅させた神の御技を喰らうがいい!」

 

 轟音を響かせながら、聖なる一撃が放たれる。確かにゲーム時代に見たものとは迫力が違う。不浄なるものを浄化する聖なる光。大抵の者ではその一撃に耐える事は出来ないだろう。

 

 だが、私はその一撃を尻目に主天使の腹部辺りまで跳躍する。

 

『二之太刀・道辻』

 

 大きく縦に一閃、返す刀で横に両断する。切り裂いた傷は十字を象る。

 

 ニグンとその兵の勝ち誇った表情。それを見下ろしながら地面に着地する。

 

「な、なに…」

 

 ニグンの目には、主天使の一撃で死んだはずの私がいきなり目の前に現れた様に見えたのだろう。不安と勝利の喜びが入り混じった表情は一転して驚愕のものに変わる。

 

「何度も表情が変わって忙しい奴だな。もう少し落ち着いたらどうだ?」

 

「き、貴様、なぜ生きている…確かに『善なる極撃』を喰らった筈じゃ…」

 

「あれか?喰らったら痛そうなのでな、かわした。」

 

 『善なる極撃』は必中の魔法では無い。確かにMPを消費すればそうする事も出来るが、使用者の命令が無ければ発動しない。後は主天使の認識速度を超えて移動すれば、かわす事は大して難しい事ではないのだ。

 

「か、かわしただと…は、はったりだ。もう一度…『善なる極撃』を。」

 

 後ずさりしながら主天使を見上げたニグンの目に入ってきたのは、十字に切り裂かれ倒れながら消えていく主天使の姿であった。

 

「……な、なぜ…魔神すらも消滅させる最高位天使が…お、お前は一体…」

 

 ニグンはありえない者を見る様な目で訪ねてくる。

 

「始めに言っただろう。私はアインズ・ウール・ゴウンのアーロンだよ。」

 

 妖刀を構えながら歩みを始める。すると、陶器の壺の様に大きく空間が割れる。だが、それは瞬く間に元に戻る。

 

「ふむ、監視の為の魔法が無効化されたか。流石は王、抜かりはは無いな。さてと、遊びは終わりだな。」

 

「…ま、ま、待って下さい!アーロン殿、いや、様。私達の、いえ、私の命を助けて下さるなら望む物をお渡しいたします!ですから!」

 

(私の命、か…救いようの無い輩の事を考えても仕方がないか…)

 

「…関係無いな。お前は私の怒りを買った。無辜の民を殺し、王が手間を掛けて救ったあの村の住民を抹殺すると言った。それだけで、お前が死ぬ理由としては十分だ。」

 

 人間に可哀想という感情は湧いてこない。だが種族に関係無く、懸命に生きている者を蹂躙する輩を許すのは、私の目指す騎士道ではない。

 

「だが安心するがいい、命は取らない。代わりにお前達の全ての安寧を頂くとしよう。喜べ!お前達にはナザリックでの、苦痛と恐怖に満ちた毎日が待っているぞ!」

 

 私は両手を広げながら宣言する。絶望と恐怖に満ちた顔で見つめてくるニグンは、背後に迫る異形の存在達を感じ取り、恐る恐る振り返る。

 

 

 

 

 

「ようこそ、ナザリック地下大墳墓へ。歓迎しようじゃないか、ニグン隊長。」

 

 

 

 

 

 




アニメ11話のパンドラさんの声がハマり過ぎてて感動しました。

シャルティ…ゴホン ホニョペニョコ戦楽しみですね。

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