オーバーロード ~王と共に最後まで~ 〈凍結〉   作:能都

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第6話

 第7階層の端にある溶岩溜りの中に建つ、古い石造りの建物。そこに掛かる橋の上を歩きながら溜め息をつく。

 

「はぁ…」

 

 もうかれこれ三日連続でここに通っている。仕方がない、する事がないのだ。普通の社会人としての能力は持ち合わせているつもりだし、この体になったお陰で戦闘能力が格段にあがり、余程化け物じみた相手じゃなければ負ける事は無いだろう。だが、私に今求められているのは、このナザリックの支配者としてここを運営していく能力だった。はっきりいってそんな能力は持っていなかった。

 

「そんなの普通のOLだった私に求められてもなぁ…」

 

 そんな私に対して、モモさんの統率能力は滅茶苦茶高かった。ナザリック内部の現状と指揮系統の把握。周辺地理の調査に防衛網の製作。魔法やスクロールの使用に問題無いかの調査など、様々な事を行っている。自分では大した事はないと言っているモモさんだが、絶対にそんな事はない。アインズ・ウール・ゴウンでは基本多数決で様々な事を決めていたので、今まで能力が発揮されなかった様だ。

 

 私が出来ないのとモモさんが出来すぎるのが合わさった結果、私のする事がないという状況に陥ってしまった。正確には私が思いつく頃にはモモさんが済ませているという感じだ。そして建物に着くと私は膝から崩れ落ちてしまう。

 

「ししょぉ~…」

 

「ああ、またお前か。情けない声を出すな、馬鹿弟子が。」

 

  そこに居たのは全身をボロい黒色の布で包んだ女性だ。ローブやスカートで肌は殆ど見えず、目深にかぶったフードからは口元しか見えない。彼女が私が創った最後のNPCのイザリスのクラーナだ。闇潜みとチャリオットとは違い彼女は一作品前のダークソウルに登場するキャラで、主人公に呪術を教えてくれるNPCである。クールで素っ気ない態度で主人公の事を馬鹿弟子と呼ぶが、何かと主人公の事を心配してくれる良いキャラである。一部のプレイヤーからは師匠と呼ばれている。

 

 ここにいるクラーナは、レベル60の『呪術師(ソーマタージ)』で設定上私の呪術の師匠という事になっている。なので素の方の私で接しても問題無い数少ない相手だ。

 

 始めてここに来た時疑問に思ったのでモモさんに倣ってこんな事を聞いてみた。

 

「私はどんな存在?」

 

 すると、

 

「私を創った、才能の無い馬鹿弟子だ。」

 

 と答えが返って来た。つまり私の事を創造者と理解してはいるが、設定に従って師匠という立場にいる様だ。だから、ここ限定ではあるが上下関係は師匠の方が上である。ちなみに才能がないというのは純粋に私がソーサラー系のクラスを取って無いからそう言われている様だ。

 

「全く。こんな所に来ている暇があったら、少しはモモンガ様のお役にたってきたらどうだ?」

 

「…そのモモンガ様にやる事がないって言われたんですよぉ…」

 

 流石に何もしないというのも居心地が悪いので、先程モモさんに仕事は無いかと聞きに行ったのだが、

 

「ああ、大丈夫ですよ。今やらなきゃいけない事は殆ど終わっているので。あ、そうだアーロンさん。この『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)』の使い方分かりますか?……そんなに気を落とさないで下さい。大丈夫ですよ。今すぐ必要な訳じゃないですし。時間を掛けてじっくり調べてみます。」

 

 泣きそうになった。頼られているのにそれに応えられないというのはかなり辛いものがある。モモさんが必死に使い方を模索しているのに何もしないというのは居心地が悪かったので、そこはセバスに任せてここに来てしまった。

 

「ふむ…まぁお前は聡明なモモンガ様のように、頭を使った事に向いていないのは確かだな。まぁそう気にするな。お前が必要だったら、御呼びが掛かるさ。」

 

「そうですかね…」 

 

「…暇なのだろう。だったら私の話し相手でもしていろ。こんな馬鹿弟子以外ここに来る者は居ないからな。外の情報に疎いんだ。」

 

「…そうします。」

 

 気を使ってくれているのだろう。師匠の優しさに泣きそうになるが、なんとか堪えてここ最近の出来事を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

「それでですね、師匠《アーロンさん》…ん、モモさん?」

 

 十分程話した辺りでモモさんから『伝言(メッセージ)』が飛んできた。

 

《どうかした、モモさん?》

 

《えっとですね、こういうのは話し合って決めるべきだと思うんですけど、今から南西10km程にある村が武装した集団に襲われているので、私の戦闘能力を調べるついでに助けに行ってきます。アルベドを連れていくので…不味いな…すいませんもう切りますね!》

 

「え、ちょっと待ってっ!……置いてかれた!?」

 

「なんだ、モモンガ様からか?何と仰っていたんだ?」

 

「なんか、村を助けに行くって…」

 

「なら、こんな所に居ないでさっさと行け。モモンガ様を守るのがお前の役目だろう。」

 

 …そうだよね、多分置いてかれたんじゃなくて急を要するから先に行っただけ。そうだ、そうに違いない、きっと…ポジティブでいよう。私はいらない子じゃない!多分!

 

「それじゃあ師匠、行ってきます。」

 

「行って来い。怪我なんかするんじゃないぞ、馬鹿弟子が。」

 

 

 

 

 

 

 指輪を使って執務室まで転移するとそこにはセバスとアルベドの姿があった。

 

「間に合ったぁ、じゃなくて…間に合ったか。」

 

「アーロン様、どうしてこちらに?」

 

 そう尋ねるアルベドは、棘の生えた漆黒の鎧に完全に身を包み、漆黒のカイトシールドと緑色の微光を宿したバルディッシュを装備していた。

 

「なに、王の御出陣と聞いたのでな。供をするのが騎士の務めだろう。それにしても、いつものアルベドは綺麗だが、戦装束に身を包むと凛々しく見えるな。」

 

「ききき綺麗だなんて!く、くふー!そ、それに凛々しいという言葉はまさにアーロン様にこそふさわしい言葉です!」

 

「あ、ありがとうアルベド。それでは行くとするか。セバス、後は任せたぞ。」

 

 確信がある訳ではないが、私に対するアルベドの態度はモモさんに対するのとは違う。創造者という事に関しては一緒なのだが、やはりあの設定の所為だろう。なんか凄い悪い気がする…モモさんが悪いんだけど…

 

「畏まりました。アーロン様、アルベド様、お気をつけて。」

 

 深く礼をするセバス。それを横目で見ながら、アルベドを連れ『転移門(ゲート)』をくぐる。執務室から森林へ一瞬で景色が変わりそこには、モモさんと二人の少女。そして物言わぬ死体となった騎士だけだった。

 

「遅くなったな、王よ。」

 

「準備に時間が掛かり、申し訳ありませんでした。」

 

「いや、そうでもない。実に良いタイミングだ。アーロンもよく来てくれた。」

 

 そう言ったモモさんの目線は二人の少女に移る。私も二人の方を見るが、その前に騎士の死体へと目が行く。人が死んでいる。感じるのはそれだけだった。どうしてだろうと一瞬考えるも、そういえば今は身も心もドッペルゲンガー、つまりは化け物という事だ。今の私に取って人が死ぬという事は、蟻や蚊を潰すのに何も感じないのと同じなのだ。

 

 この現場を見る限り、あの二人の少女をこの騎士が追い回していたのだろう。一人は背中を大きく切られている。モモさんが急いでいたのはこの所為だろう。自分より弱い、しかも女の子を追い回し、挙句切りかかる様な下種に同情や憐れみといった感情は湧いてこなかった。

 

「それで…その生きている下等生物の処理はどうなさいますか?お手が汚れるというのであれば、私が。」

 

「この村を助けにきたのに村人を殺してどうするんだ。セバスから何と聞いてきたのだ?」

 

「……」

 

 聞いてないんだ。多分滅茶苦茶急いできたんだろう。私のように常時鎧を来てる訳じゃないアルベドは準備にそれなりの時間がかかる。魔法職の人間であれば、一瞬で着替える事も可能なのだが。

 

「取り敢えずの敵はそこに転がっている鎧を着た者達だ。アーロンも良いな。」

 

「了解だ。だが、まずはこの娘達をなんとかしなければな。」

 

 少なくとも私の騎士として振舞って来た部分が彼女たちを助けるべきだと訴えている。ドッペルゲンガーであっても私はあくまで騎士アーロン。目の前で死にそうな少女を助けないなんて事はありえない。

 

 私と同じ考えなのかは分からないが、モモさんがポーションを手に二人へ近づく。が、二人が座り込んでいるあたりが湿っていく。どうやらお漏らししてしまったらしい。

 

「……怪我をしている様だな。」

 

 モモさんのスルースキルはかなり鍛えられている様で、見なかった振りをしてポーションを差し出す。

 

 だが、改めてその光景を見てみよう。恐らく妹と思われる幼い少女、その妹を守る為怪我を負った姉。そして、いきなり現れた骸骨。そして怪しげな戦士二人。

 

 どう考えても悪役だ…そりゃ怖いよね…

 

「王よ、ポーションを貸してくれ。」

 

「ん、どうした?別に渡す程度「顔、顔。」顔?ああ…」

 

 私の言わんとする事を理解してくれたみたいで、私にポーションを渡してくれる。姉妹に近づきながら、兜の中で顔を変える。イケメンの顔になったと同時に兜を取り、姉妹と同じ目線になるように座り込む。

 

「驚かせてすまない、私達はこの村を助けに来た者だ。これは治癒の薬だ。早く飲むのだ。」

 

 一応人間の顔に安心してくれたのか、渡したポーションを恐る恐るといった様子で飲み干す。

 

「うそ……」

 

 自らの背中を触る。信じられないのか、何度か体を捻ったり背中を触ったりしている。

 

「痛みは無いか?」

 

「は、はい。」

 

「ふむ、この程度の傷なら下級ポーションで充分という事か。」

 

 少女の反応を確認すると、モモさんは成程といった様子で呟いた。すごいこの人、助けるついでにポーションの実験も兼ねてたなんて…

 

「お前たちは魔法というものを知っているか?」

 

 重要な現地人からの情報を得る為に質問するモモさん。それに恐る恐ると答える姉。

 

「は、はい。村に時々来られる薬師の…私の友人が魔法を使えます。」

 

「…そうか、なら話が早いな。私はマジックキャスターだ。」

 

 これで、この世界に魔法がある事が分かった。どんな物があるのかはいまだ不明ではあるが…

 

「して、王よ。戦況はどうなっている?」

 

「現在、私の召喚したデス・ナイトが村へ騎士共の掃討に向かっている。騎士事態は第5位階の魔法で容易く死ぬレベルだ。まぁ先程の騎士が特別弱かった可能性も無くは無いが、今だデス・ナイトは戦闘中だ。ならば、我々が本気で戦う様な相手では無いのは確かだ。」

 

 成程。防御よりなステータスなデス・ナイトのトータルレベルは35。それを倒せないのであれば、レベル100の私達の相手では無い。だがこの娘達はそうではない。もう一度騎士に襲われれば無事ではすまないだろう。一応護衛を残すべきだろう。

 

《闇潜み、今すぐこちらに来れるか?》

 

《畏マリマシタ アァロン様》

 

 先程まで『転移門(ゲート)』があった位置に、同じものが出来る。その中から、フードを被った堕天使が現れた。

 

「闇潜み、この二人を守れ。騎士の格好をした者が現れたら容赦はいらん。それ以外は敵対の意思があれば撃退しろ。」

 

「畏マリマシタ」

 

「ふむ、念のためだ。これをくれてやる。」

 

 そう言ってモモさんが放り投げたのは、『ゴブリン将軍の角笛』だ。確か多少強いゴブリンを10匹程度召喚するかなり名前負けしたアイテムだった筈だ。多分いらないアイテムの処理ぐらいにしか考えて無いのだろう。

 

 モモさんは村の方へ歩き出し、アルベドもそれに続く。

 

「こいつは私のシモベだ。お前たちを必ず守ってくれるだろう。だから安心してくれ。」

 

 二人に声を掛け、モモさんに続くべく歩き出すと数歩も行かないうちに声を掛けられた。

 

「あ、あの!助けて下さって、ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます!」

 

 目じりに涙を浮かべながら感謝の言葉を紡ぐ二人の少女にモモさんは振り返って短く答える。

 

「……気にするな。」

 

「あ、あの!お名前はなんとおっしゃるんですか!?」

 

 一瞬なんて答えるか迷った様に見えたが、すぐに問いに答えるモモさん。

 

「私の名はモモンガ、覚えておくといい。」

 

 

 

 

 

「王よ、これからどうする?村に向かうのか?」

 

「いや、私はこのまま村の周囲に展開している騎士共を殲滅してくる。逃げられては困るのでな。」

 

 どうやら、敵の配置などはすでに把握済みらしい。やっぱりこの人凄いよ。もしかしてマジックキャスターとしての知力補正とか掛かってるのかな?

 

「ふむ、そうか。なら護衛はアルベドに任せて私は一足先に村に向かおう。デス・ナイトで充分だと思うが、一応村人の安否も気になる。」

 

「分かった。何かあったら『伝言(メッセージ)』を使う。では、後でな。」

 

 そこでモモさんと別れると、私は走って村に向かった。大して時間も掛からず村に着くと、そこではデス・ナイトの蹂躙が行われていた。

 

「オオオオオオオァァァアアアア!」

 

 一人の騎士が腹にフランべルジェを突き立てられ絶命した。周囲に居る騎士達の士気は無いに等しく、各々現実から目をそらし、神に縋っている者もいる。

 

「ふん、非武装の村人を虐殺しておきながら自分が死にそうになれば神頼みか。反吐が出るな。…デス・ナイト、下がれ。」

 

 怒り。久しく思えるその感情は私の中で大きくなっていった。別に人を殺す事をどうこう言うつもりは無い。この世界ではそれが普通なのかもしれない。だが、少なくとも私の中では、少女を切りつけ村を焼く事は正しい事では無い。そして、それを許すのは私の騎士道が許さない。

 

「この世界のルールなど知らん。だったら、自分のルールに従い、事を成すまでだ。」

 

 デス・ナイトが私の命令に従い下がるのを確認して、『アーロンの妖刀』を取りだす。腹切りは必要ないが、全力だ。

 

「撤退だ!合図を出して馬と弓騎兵を呼べ!残りの人間は時間を稼ぐ!行動か・・・」

 

 距離にして20m程だろう。その距離を一瞬で詰め、おそらくこの集団の指揮官と思われる騎士の首を刎ねる。

 

 ユグドラシルで侍というビルドは二つのタイプを示す。一方は移動系のスキルをあまり取らずに、一足一刀の間合いを維持して戦うインファイタータイプ。そしてもう一方が、移動系のスキルを多数習得しどんな間合いでも戦闘が可能なオールレンジタイプだ。私は後者のビルドを選択しており、習得しているスキルの2割を移動系で占めている。基本的に私の戦闘スタイルはヒットアンドアウェイ。集団戦では、前衛を抜いて一気に魔法職に攻撃できるのでかなり嫌われた。

 

「ロンデスがやられた!」「もう駄目だ…」「神よ!」

 

 恐らくこの騎士はそれなりに腕の立つ方だったのだろう。ますます騎士達の絶望の色が濃くなっていく。

 

「安心しろ。私はデス・ナイトと違って優しいからな。一撃で神の元まで送ってやる。」

 

「う、うわぁあぁああぁぁ!」

 

 半狂乱といった様子で斬り掛かってくる騎士。それをあえて私は避けずに兜で受ける。

 

 キンッと乾いた音と共に、一気に振り下ろされた剣の柄。刃の部分は兜に当たった瞬間折れてどこかへ飛んで行ってしまった。成程成程。この程度の剣ではこのアーロンの防具を傷つける事は出来ない。なら全力と言ったが…少しばかり遊んでしまおう。

 

「良い武器を持っているじゃないか、少しばかり借りるぞ。」

 

 妖刀をアイテムボックスにしまい、目の前の騎士が持っている殆ど刃の無い剣を奪い取る。そして、棒立ちだった騎士の腹に力の限り突き立てる。

 

「ふんっ!」

 

 折れてしまった直剣を突き立てられた騎士は、くの字に折れ曲がり自らの背中から血と臓物を噴き出した。

 

「さながら致命の一撃だな。折れた直剣でこのダメージとは、初期ステータスの騎士より弱いんじゃないか?…さぁ、今度は後ろからだな。」

 

 土埃を巻き上げながら再度の高速移動。穴だらけの包囲陣の一番後ろにいる騎士の元まで移動する。

 

「ひ、ひいぃぃいぃい!」

 

 いきなり目の前に現れた私に驚き、振り返って逃げようとする騎士の頭を掴む。

 

「おいおい、後ろを向けて逃げる時はちゃんと距離を取るのが基本だろう?」

 

 先程の騎士と同じように背中に剣を突き立てる。鎧を穿ち背骨を砕いて折れた直剣は騎士の体を貫き、血と肉とそれらが混ざった物を勢い良く飛び散らせた。

 

「脆いな。王は第5位階で簡単に死んだと言っていたが、これなら第3位階でも余裕だろうな。」

 

「アーロンよ、そこまでにしておけ。」

 

 声のする方を見上げれば、そこにはモモさんとアルベドの姿。大して時間も掛からなかったという事は、向こうの敵もここの連中と同レベルだったのだろう。

 

 ゆっくりと降下して足を地に着ける二人。私は掴んでいた騎士の死体を放り投げモモさんの後ろに控える。

 

「はじめまして、諸君。私の名はモモンガという。」

 

 それに返事を返す者は居ない。

 

「投降するなら命は保証しよう。だが、まだ戦いたい者は、」

 

 モモさんが言いきる前に騎士達は一人、また一人と剣を捨てていく。生き残った幸運な4人の騎士は何も言わず、ただ怯えていた。

 

「…貴様ら、我が主の御前だぞ。少々頭が高いのではないか?」

 

 私の発言を聞いた騎士たちは、我先にと跪き額を地に着ける。その姿はまるで断頭台の死刑囚の様だ。

 

「…諸君には生きて帰ってもらう。そして諸君の上s、飼い主に伝えろ。この辺りで騒ぎを起こすな。もし起こすようであれば、今度は貴様らの国まで死を告げに行く、とな。」

 

 騎士たちは震える体で何度も首を縦に振る。

 

「行け。そして確実に伝えろ。」

 

 顎でしゃくると騎士たちは前のめりに転がりそうな勢いで一目散に走り去って行った。

 

「…演技も疲れるな。」

 

「頑張れモモさん。」

 

 小声で話しながら今度は村人たちに向き直る。ここからは頭を使った交渉になるだろう。下手な事を言ってモモさんの邪魔をしても悪いし、ここは任せよう。

 

「…アーロンよ、闇潜みは記憶操作の魔法を使えるか?」

 

「ん、あぁ問題無い筈だ。何か消す事が?」

 

「あの姉妹には顔を見られている。口止めだけでもいいのだが、一応な。」

 

 成程。今のモモさんは顔を変な仮面で隠している。通称嫉妬マスク。泣いているような怒っているような表情が派手に彫り込まれた南国風のマスク。クリスマスイヴの19時〜22時の間に2時間以上ユグドラシルに滞在していると強制的に所有させられる、ある意味呪われた装備品だ。

 

 やはり、異業種というのはどこでも受け入れられない者なのだろう。モモさんの正体を隠すなら記憶操作が一番確実だろう。

 

「分かった。闇潜みに指示しておく。」

 

「頼んだぞ。」

 

 それからモモさんは、私達を僻地のマジックキャスターとそのお供という事にして、村を救った対価として村長夫妻からここ近隣の情報や、貨幣価値などの情報を入手していった。

 

 それをただ待つのもアレなので、モモさんの事はアルベドに任せて闇潜みと共に焼き払われた家屋の撤去作業を手伝っていた。始めは闇潜みの姿を見てぎょっとしていた村人だったが、後から来た村長の婦人が、

 

「モモンガ様は高名なマジックキャスターである。」

 

 と、皆に教えてまわった為、デス・ナイトと同様にモモさんが召喚した物だと思った様で今では遠巻きに見ている様だ。デス・ナイトの方は流石に怯えてしまうので、村長の家のアルベドの横で待機している。私も先程遊びすぎた所為か、始めは怯えられていたが兜をとりイケメンの方の顔を出すとかなり好感触で、現在は問題無く村人と接している。

 

 撤去作業を手伝っていると、一部の村人が移動を始めた。気になって着いて行くと、そこは共同墓地だった。遅れてきた村長の後ろには、モモさんの姿が。

 

「もう話は終わったのか?」

 

「粗方、と言った所か。周辺国家やユグドラシルの貨幣の価値、様々な事が聞けた。かなり有益な情報だが、同時にもっと知るべき事が増えたな。」

 

「そうか…」

 

 話を区切り葬儀の方へ目をやると助けた姉妹、エンリ・エモットとネム・エモットの姿があった。

 

「お父さん…お母さん…」

 

 二人の両親は先程の襲撃の際、二人を逃がす為に騎士に飛びかかり殺されてしまったらしい。泣き続ける妹を抱きしめ、姉のエンリも涙を流していた。

 

「…」

 

「助けたいと思うか?」

 

 そう聞いてきたモモさんの手はローブの中に隠しているが、僅かに見えたそれは、蘇生アイテム『蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)』だ。確かにモモさんならこの村の住民全て生き返らせたとしても、まだ有り余るほど所持しているだろう。

 

「いや、そこまでしてやる理由も無ければ義理も無い。確かに可哀想だとは思うが、仕方の無い事だ。」

 

 この先どのような事が分かるか分からない。貴重なアイテムは自分や、それに近い者達の為に取っておくべきだろう。

 

「そうか。なら、いい。使う気は無かったがお前に頼まれたら使ってしまう自信があるぞ。」

 

「そうなのか?それは光栄だな。」

 

 そんな事を話していると、撤去作業をしていた闇潜みが近づいてきた。

 

「モモンガ様 アァロン様 後詰ノ者達ガ来タノデスガ ドウヤラ通達ニ不手際ガアッタラシク目的ガ村ノ襲撃ニナッテイル様デス」

 

「「は?」」

 

 指示を出したのはセバスだろう。村を助けに行くというのが何故村を襲撃するに変わるのか疑問だが、一先ず分かったのはセバスに伝令の才は無い様だ。

 

「…襲撃の必要は無い。すでに問題は解決した。それで、後詰の指揮官は?」

 

「ハッ アウラ様トマーレ様デス 構成ハ 主力ノ『八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)』ガ15 以下シモベ達ガ400デス」

 

「なら、アウラとマーレ、それと八肢刀の暗殺蟲を除いて他は撤収させろ。」

 

「畏マリマシタ」

 

 

 

 

 そして葬儀の後もモモさんの情報収集は続き、私と闇潜みの復興の手伝いも続いた。

結局モモさんの用が済んだ頃には夕日がはっきりと空に浮かんでいた。

 

「ふぅ。存外に時間を取られたが、それに見合うだけの情報が得られた。ここですべき事は終わった。アーロン、アルベド、撤収するぞ。」

 

「承知致しました。」

 

 作業を止めすぐさまモモさんの後ろにつく。闇潜みもそれに続き、すれ違う村人達から声を掛けられながら、村の中を歩く。

 

 そんな中、一人ピリピリとした空気を発しているアルベド。その理由を察したモモさんが問いかける。

 

「…人間は嫌いか?」

 

「好きではありません。脆弱な生き物、下等生物です。」

 

 まぁこれに関しては仕方がない事ではある。キャラの善悪を決めるカルマ値。アルベドはこれが-500と、極悪だ。だが、これから先人間と繋がりを持つ事もあるだろう。一応注意だけしておこう。

 

「アルベド、お前の考え方を変えろとは言うつもりは無い。だが、なるべく表に出ないよう努力するのだ。」 

 

アルベドは深く頭を下げる。

 

「……この村では冷静に、優しく振る舞え。アーロンの言う通り、演技というのも重要だぞ」

 

 モモさんが一言付け加える事でこの話は終わった。そしてナザリックに帰還するために村長に挨拶をしようとした所、その顔は険しくどうにも普通では無い。

 

「また、厄介事か。」

 

「王よ、仕方がないだろう。ここで投げ出す訳にも行くまい。」

 

 4人で村長の元まで近づく。

 

「…どうかされましたか、村長殿。」

 

「おお、モモンガ様。実はこの村に馬に乗った戦士風の者達が近づいてきてる様で…」

 

 村長を含め、村人達の縋る様な目線が私達に集まる。

 

「任せて下さい。村長殿の家に生き残りの村人を集めて下さい。村長殿は私と共に。闇潜み、デス・ナイトと共に念のため村長の家の近くへ。ご安心ください。今回だけ特別にただで御助けしますよ。」

 

「おぉ、ありがとうございます!」

 

 そうして、住民の避難が完了した頃馬に乗った騎士らしき者たちがすぐ傍までやってくる。その中から馬に乗ったまま、一人の男が前に出てきた。一行のリーダーらしく、極めて屈強な体つきをした偉丈夫だ。

 

「私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・スロトノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士たちを討伐するために王のご命令を受け、村々を回っているものである」

 

「王国戦士長……もしや、あの……?」

 

「村長殿、あの方はどういった方なのですか?」

 

 モモさんが聞いた情報にはこの人物の事は入って無かったのであろう。村長に尋ねてみる。

 

「商人たちの話では、かつて王国の御前試合で優勝を果たした人物で、王直属の精鋭兵士たちを指揮する方だとか……すみません。本物かどうかまでは…」

 

 モモさんと村長が話していると、ガゼフという男が馬上から話しかけてくる。

 

「この村の村長だな。そこの者達が何者か教えて貰いたい。」

 

「それには及びません。王国戦士長殿。はじめまして。私はアインズ・ウール・ゴウンのモモンガ。後ろに控えているのが部下のアーロンとアルベドです。この村が騎士に襲われておりましたので助けに来たマジックキャスターです。」

 

 モモさんは軽く一礼し自己紹介をする。それに対しガゼフは馬から飛び降りた。そして重々しく頭を下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉も無い。」

 

「ほぅ。」

 

 ガゼフには聞こえなかったと思うが、思わず声が出てしまった。先程まで、この世界の騎士というのにあまり好感を持っていなかったが、このガゼフという男は違うようだ。王国の戦士長というかなり上の立場である者が、身分も明らかでないモモさんに馬から降り頭を下げた。これだけでもガゼフの人柄を語っている。

 

「いえいえ、私達も報酬目当てですから。おきになさらず。」

 

「報酬目当て…という事は冒険者なのかな?」

 

「それに近いものです。」

 

「成程。それにしても後ろのお二人もかなり腕が立つと御見受けするが、モモンガ、アーロン、アルベド、この名は今まで聞いた事がありませんな。」

 

「こちらは旅の途中でしてね。今は昔チームを組んでいた者達を探していまして。アインズ・ウール・ゴウンというのはチームの名前の様なものでしてね。ガゼフ殿、この名に覚えは?」

 

「いや、申し訳ない。その様なチームは聞いたことがない。もしも耳にする事があれば、必ずやお伝えしよう。」

 

 こういう時に無理に会話に入ろうとすると、矛盾が生まれるものなので私は黙って話を聞いている。とりあえず私が気をつけるのはモモさんの事を王と呼ばない事だけでよさそうだ。流石に王国戦士長の前で王なんて呼んで変な誤解を生んでも仕方ないからね。

 

「この村を襲った者達について色々と聞きたい事があるのだが「報告いたします!」何事だ!?」

 

 ガゼフが本題に入ろうとした時、一人の騎兵が広場に駆け込んできた。騎兵は大声で事態を告げる。

 

 

 

 

「戦士長!周囲に複数の人影。村を囲むようにして接近中!」

 

 

 

 




この辺でアーロンさんの大体のステータスを書いておこうかなと。

アーロン

役職:至高の41人
   モモンガの近衛
   

住居:ナザリック地下大墳墓
   第9回層にある自室。

属性:極善 [カルマ値:300]

種族レベル:『二重の影(ドッペルゲンガー)』……1Lv

職業レベル:刀使い       15Lv
      ソードマスター   10Lv 
      ケンセイ      10Lv
      など


こんな感じだと思ってます。



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