たっち・みー≧アーロン>武人建御雷ぐらいだと思ってます。
たっちさんの強さって、ワールドチャンピオンってのもありますけど普通の神器級アイテムじゃ傷一つ付けられない鎧の方がチートだと思うんです。
「すまんなたっちさん。態々決闘場まで来てもらって。」
「構いませんよ。ギルメン同士の戦闘はここでしか出来ませんし。それで、本気でいいんですね?」
「勿論だ。やはり、戦士職最強の本気を一度は味わってみたいのでな。」
「負ける気はありませんよ。これでもワールドチャンピオンなものですから。」
「安心してくれ。これは公式試合じゃない。負けても泥はつかんよ。」
「ふっ…それじゃあ、行きます!」
「推して参る!」
「うん……あれ、ここは……?」
「アァロン様 ドウカサレマシタカ」
そこはいつも変わらぬ夕日が差し込む私の自室。床を見ればアーロンである私の姿が目に入る。どうやら自室で胡坐をかいて寝ていた様だ。目の前には心配そうにこちら覗き込む闇潜みがいた。
「…あぁ、どうやら昔の事を夢に見ていた様だな。たっちさんと始めて戦った時の事だな。」
「至高ノ方々デ唯一 アノタッチ・ミー様ニ勝利ナサレタ時ノ事デスカ?」
「正直、この妖刀の力に頼りきった戦いだったがな。開幕腹切り2重エンチャントしてこちらの体力がつきる前に向こうを削りきるゴリ押し作戦だった。こいつのエンチャント時の特殊バッドステータス、『出血』が無かったら多分押し負けていたな。」
運営様々だよ、と口にはしないが心の中で呟く。
この『出血』のバッドステータスは無数にあるユグドラシルの武器の中でも、与えられるのがこの武器だけなのだ。効果は鎧、盾など、実際に肉体に攻撃を当てなくても一定量このバッドステータスが蓄積すると、蓄積した量に応じて相手にダメージを与えるというもの。モモさんの様に肉が無いスケルトン系や、霊体系の種族には効果が無いが、それでも充分に強い。ウロボロスを使った時に、運営に駄目元で頼んだ所、この様な仕様になって返ってきた。どう考えてもチートです本当にありがとう運営さん。お陰で三日天下が味わえたよ。
ちなみにこのバッドステータスの存在を模擬戦をした弐式炎雷さんは知っていたのだが、誰にも話さないで欲しいと頼んでいたのだ。
はっきり言ってあの戦闘は、たっちさんに不利過ぎた。腹切りのエンチャントによって、ほぼ無敵といって良かった純白の鎧の防御力を上回る事が出来たし、攻撃を受ければ見た事もないバッドステータスが溜って行けば、防御主体ではなく回避主体になる。
一言で言えばたっちさんはいつもの戦いが出来なかったのだ。
けどそんな事は知ったこっちゃない。勝ちは勝ち。決闘場からすっとんで帰りギルメンに自慢しまくった。最初は皆マジ?って感じではあったが、たっちさんの、
「不覚をとった。」
この一言で信じてくれた。いや~滅茶苦茶気分よかったよ。だってあのたっちさんに勝ったんだよ?もうワールドクエスト達成ぐらい嬉しかった。
が、そんな日常はすぐに過ぎ去った。
「アーロンさん。もう一度私と戦ってくれないか?」
たっちさんからの再戦の依頼。もちろん受けたよ。勝てる自信もあったよ。
結果は惨敗。たっちさんは戦闘開始の瞬間から一気に間合いを詰めて来て腹切りを使わせてくれなかった。結果、たっちさんのHPの半分も削れず敗北。ギルド内最強の名はたった三日で返す事になった。
「ソレデモ勝利サレタ事実は無クナリマセン 流石ハアァロン様」
「そうだな、そう言ってくれると自信が持てるな。さてと、私は王の元に行く。留守は任せるぞ。」
「畏マリマシタ」
礼をする闇潜みを部屋に残し、モモさんを探しに向かう。とりあえずモモさんの自室に行くと、そこにモモさんの姿はなく、代わりに一人のメイドの姿があった。
「ナーベラルか。」
「これはアーロン様。いかがなされましたか?」
私と同じドッペルゲンガーのナーベラル・ガンマ。プレアデスの一人だ。黒髪ポニーテルの大和撫子風のメイドで、同種族という事もあって一番のお気に入りの娘だ。
「王を探しているのだが、どこにいるか知らないか?」
「モモンガ様は先程お一人で外出されました。ですが、行き先までは把握しておりません。なんでも極秘に行いたい事があるとおっしゃっていましたので。」
極秘にやりたい事?なんだろう。けど困ったな。どこにいるか分からないのか…あ、そうだ『伝言』使えばいいだけの事か。
《モモさん、モモさん聞こえます?》
頭の中で念じるとすぐに返答が返って来た。
《はい、聞こえますよ。どうかしましたか?》
ユグドラシル時代と同様に使える事が分かった。『伝言』守護者達にも問題無く使う事が出来ると分かった。そして、私とモモさん以外のギルメンに送ってみたものの、返信が来る事は無かった。
《今どこに居るのかな~って思ったんだけど、極秘で動いてるなら無理に言わなくても良いんだけど。》
《あぁ、ナーベラルに聞きましたか。別にそんなんじゃないですよ。ただちょっと仰々しい態度に疲れたので一人になって休もうと思って。ナーベラルが近衛を付けるって聞かないものでしたから咄嗟にそう言ったんですよ。》
私は普段からロールプレイを楽しんでいたから守護者達のあの態度はあまり困らないし、まぁ天下無双は置いておいて王を守る騎士というのもいつも通りだけど、モモさんは一介のサラリーマンがいきなり魔王をやるようなものだから疲れるのも当然か。
《あ~成程。じゃあ行かない方が良いかな?》
《いえ、ぜひとも来て下さい。いましがたデミウルゴスに捕まっちゃって…中央霊廟の入口にいるので…》
《了解、すぐに行くよ。》
さてと、じゃあ行きますか。
「王の居場所が分かった。私もこれから向かうとしよう。
「近衛はいかがいたしましょう?」
う~ん、ここで断ったらなんかナーベちゃんかわいそうだし、連れて行ってあげるか。
「ならばナーベラル。私の護衛として付いて来るのだ。」
「畏まりました。」
私はモモさんから教えてもらったアイテムボックスに手を突っ込み、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを取りだす。これはモモさんから貰った58個の予備の指輪の内の2つだ。闇潜みともう一人に与えようと貰ったんだけど、後でまた貰おう。一緒に行動するなら必要だしね。
「さぁ、ナーベラルよ受け取れ。」
「そ、それは至高の方々のみ着ける事を許された至高の指輪!私の様な者が受け取れるはずがありません!」
やっぱりそういう認識なのか。個人的にはエリア移動が楽になる指輪ってだけなんだけど。ここはちょっと凝った言い回しをしてみますか。
「ナーベラルよ。これはお前の日々の働きの褒美でもあると同時に、今後のお前の働きへの期待の証でもあるのだ。」
「今後への期待、ですか。」
お、いいね食いついた。基本NPC達は期待されたり頼られるって事が嬉しいようだ。
「そうだ。現状私は指輪を使い瞬時に転移出来るが、お前はそうではない。それでは護衛として充分に役目を果たす事が出来まい。それに、この指輪をお前が持つ事で私や王がもしナザリック内で危険な目に会った時、お前なら一番に駆けつけてくれると信じているぞ。」
一瞬考える様な素振りを見せるナーベラル。だが、意を決した様子で私の手から指輪を受け取る。
「私にこれほどまでの褒美を与えていただき、ありがとうございます。今後一層の働きをお約束いたします。この命尽きようとも、至高の方々をお守りいたします。」
「簡単に命を掛けるな。真に忠義を貫くのであれば、いついかなる時でも共にある気構えでいろ。まぁ、一度ここを去ってしまった私が言っても説得力がないがな…」
「そ、そんな事ございません!お言葉、しかと胸に刻み込みました。いついかなる時でもお二人と共にあり、お守り致しましょう。」
私が頷くのを確認してナーベラルが指輪を着けるのだが、なぜか着けたのは左の薬指だった。う~んこれ意味を理解してやってるのかな?
「さてと、あまり王を待たせるのは失礼だな。行くぞ。」
「はっ!」
そうして二人で中央霊廟の入口に来ると、そこで待っていたのはデミウルゴス配下のイビルロード達であった。
「これはアーロン様。」
その場にいた12体の魔将達が一斉に跪く。その礼は悪魔とは思えない程綺麗で、流石はデミウルゴスの親衛隊だと感心させられる。
「楽にして良い。ここに王が来たと思うのだが、今どこに?」
「…いえ、ここにモモンガ様は来ておられません。」
あれ、おかしいなさっきここにいるって言ってたのに。けどここに居る魔将達は来てないって言ってる。なんで?
「ふむ…ならデミウルゴスはどうした?」
「デミウルゴス様は先程、ダークウォーリア―様なる方に付き従って行かれました。」
あ~なんとなく分かったぞ。多分モモンガって事がバレると結局いつもの感じになっちゃうから見た目と名前を変えて出てきたはいいものの、すぐにデミウルゴスに正体がバレてしまったってところかな。けど引くに引けずになんかしら理由をつけて押し通したんだろう。つまり魔将達は口止めされてるって事だね。
「分かった、苦労を掛けるな。」
「滅相も御座いません…ダークウォーリア―様はフライを使って飛んで行かれましたが、恐らく遠くへは行ってないかと。」
「そうか、助かる。ナーベラル行くぞ。」
そう言って歩き出そうとすると、後ろから声をられる。
「アーロン様!」
振り返ると、こちらに小走りで向かってくるアルベドの姿があった。
「アルベドか。お前は何故ここに?」
「はい、少しばかりデミウルゴスに用がありまして…はっ!こんな汚れた格好でアーロン様にお会いしてしまうなんて!すみませんアーロン様少しばかり湯浴みをしてきますので…」
汚れた格好っていうけど、ちょっと服の裾が埃で汚れてる程度だよ?けど綺麗な女の子が一生懸命に働いた結果がこれならフォローするのが騎士ってものだろう。
「気にする必要は無いぞアルベド。アルベドの美しさはその程度の汚れで損なわれたりはしない。それに、その汚れはナザリックの為、ひいては私や王の為駆け回ってくれた証拠だ。自らを厭わず働くお前の様な家臣を持て、私は幸せだよ。」
「く、くふー!う、美しいなんてそんな。も、勿体にゃき御言葉!」
噛んだ、可愛い。だが、その嬉しそうな顔はナーベラルの手の辺りに目が行った瞬間、無表情に変わった。え、なにそれ怖い…
「…アーロン様。お聞きしたい事が御座います。」
「な、なんだアルベドよ。」
「なぜ、ナーベラル・ガンマが、その指輪を、そこに、着けているのでしょうか?」
怪しげな微笑を浮かべながら質問してくるアルベドからは殺気に似た何かが漂っている。正直めっちゃ怖い。え、私悪いことした?周りを見ると、魔将達も先程まで跪いていた所から2、3歩下がった所に移動している。当のナーベラルは…あ、駄目だ固まっている。
「それはだな。少し外に出る用事があったのでナーベラルに護衛を頼んだのだが、護衛が転移出来なく私のそばを離れるなど本末転倒。なのでこれまでの働きと、これからの働きを期待しこの指輪を授けたのだ。」
アルベドはほんの一瞬、聞きたいのはそこじゃない、といった顔をするがすぐに微笑を浮かべる。この状況どうしよう、やっぱりアルベドも欲しいのかな。まぁ他の者が褒美を貰っていて自分は貰って無いという状況はやはり面白くはないだろう。
「そうだな。この指輪は守護者統括であるお前にも必要な物だろう。」
そう言って、もうひとつの指輪をアルベドに渡す。
「……感謝致します。」
ナーベラルと違ってすぐに受け取った事に若干の違和感を覚えたが、先程までの重い空気は霧散する。
「さてと、それでは行くかナーベラルよ。アルベドはどうする?」
「私は少し魔将達と話す事がありますので残らせて頂きます。」
「そうか、ではまたな。」
そう言っているアルベドは顔が崩れそうになるのを必死に堪えており、翼は小刻みに痙攣している。うん、嬉しいんだね。ここまで露骨に表れるのもどうかと思うんだけど。
そのままアルベドを置いて霊廟を出ると、後ろの方から「よっしゃ!」と逞しい声が聞こえたが聞こえなかった事にした。
確かモモさんは飛んでったんだっけ?アイテムボックスから飛行のネックレスを取りだす。
「フライ!」
重力から解放された私は、ふわりと宙に浮かびあがる。ひとまずは上から見下ろしてみますか。一気に加速しながらドンドン上昇していく。ナーベラルも『飛行』の魔法を使い追従してくる。
かなり上がった所でふたりの姿を発見した。モモさんは漆黒のフリューテッドアーマーに身を包んでおり、その後ろには半悪魔化したデミウルゴスが控えている。
近づくと二人は何か話しているようだった。
「この世界にどのような存在がいるかも不明な段階でか?ただ……そうだな。世界征服なんて面白いかもしれんな。」
あ、駄目だこの人。星空にあてられて頭が…
「それはあまりオススメしないがな、王よ。」
二人の間に割って入る様に止まる。ナーベラルはデミウルゴスの後ろに控えてる様だ。
「アーロンか。」
「遅くなって申し訳ない。だが、王よ。さっきのあれは本気か?」
「まさか。そんな事を本気で言うほど馬鹿ではないつもりだが。」
ですよねー流石にそうだよね。本気だったらちょっと引いてたかも。
「それにしても…美しいな。」
「あぁ、他の皆にも見せてやりたい。特にブルー・プラネットさんにはな。」
「多分あの人なら泣く程喜ぶだろうな。」
目の前に広がる星空を二人で眺めながら、仲間達を思い浮かべる。もしかしたら他の皆もこっちに来てるのではないか。今のこの状況がそもそも異常なのだから、未知の現象が起き誰かがこちらの世界に来ていてもおかしくはない。
「しかしこの世界に居るのは本当に…私達だけなのか?他のギルドメンバーも来ているのではないか?」
どうやらモモさんも同じことを考えていた様だ。
「ならば探しに行けばいい。見つからないなら向こうから来て貰おうじゃないか。」
そう、別にやらなきゃいけない事ががある訳じゃない。確かにこの世界の戦闘レベルの水準が分からない以上迂闊には動けないが、探しに行ったって良いんだ。もしも見つからなければ、向こうに見つけてもらえば良い。
「アインズ・ウール・ゴウン。そして、その支配者モモンガの名をこの世のすべての者が知れば、向こうから勝手に出て来てくれるさ。」
「なら、それこそ世界征服の方がいいのではないか?世界の長ともなれば、知らぬ者などいまい。」
「そんな面倒な事、私は御免だ。一体幾つの国を滅ぼすつもりだ?その後の管理運営を王一人でやるなら止めはせん。…そうだな…英雄になればいい。誰もが憧れる伝説の英雄にな。」
「英雄か。確かに、たっちさん辺りが来ていたとして、世界征服を目論む魔王なんてやっていたら怒られてしまうな。なら、英雄の方が聞こえはいいな。」
そんな事を話していると、地表の土がいきなり海原の様に動き出した。それらは徐々に大きくなり、ちょっとした小山程に成長しナザリックに押し寄せた。恐らくマーレに頼んでいたナザリック隠ぺいの為の作業だろう。ナザリックの外壁に土を被せていき、そこから草や木を生やして見た感じ自然の丘の様に見せるんだったっけ。
「『大地の大波』。それもスキルで範囲拡大してクラススキルまで使っているな。」
「流石はマーレといったところか。王の判断は間違っていなかった様だな。」
「モ、ダークウォーリア―様「モモンガで構わん。」モモンガ様、これからのご予定をお聞きしても?」
「マーレの陣中見舞いに行く。何が褒美として良いだろうか?」
「モモンガ様がお声を掛けるだけで、十分かと。」
その後4人でマーレの陣中見舞いに行き、私と同じ考えでマーレにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡そうとするモモさんだったが、ナーベラル以上に遠慮していたが、最終的に命令に命令という形で受け取った。
「デミウルゴスは…また後日としよう。」
「畏まりました。かの偉大なる指輪を頂けるよう努力してまいります。」
「そうか。ではすべき事も済んだ。私は叱られないうちに9階層に戻るとしよう。」
やっぱりナーベラルとアルベドに指輪渡したって事言っておいた方がいいだろうか。さっきマーレにお前が最初だって言っちゃってたしなぁ…
《モモさん。》
《どうしましたアーロンさん?こんな近くで…何か不味い事でも?》
《え~とね、さっき闇潜みと師匠に渡すつもりだった指輪を色々あってナーベラルとアルベドに渡しちゃったんだけど…大丈夫かな?》
《ええ。問題は無いと思いますよ。私もアルベドには渡すつもりでしたし。ナーベラルはまぁ…プレアデス達にも渡しておきましょうか。ガルガンチュアとヴィクティムを除いた守護者達と、セバス、プレアデスぐらいでいいですかね。》
《多分それで問題ないと思うよ。ごめんね、面倒掛けて。》
《いえ、気にしないで下さい。…それにしても英雄ですか。》
《似合ってると思うよ?》
《それこそ冗談ですよ。それじゃあまた。》
《うん、またね。》
『伝言』を切るとすぐさま転移していったモモさん。その場に残ったのはナーベラルとデミウルゴスだけだ。マーレはすでに作業に戻っている。
「それではアーロン様、私は少しアルベドと話す事がありますのでここで失礼いたします。」
「あぁ、分かった。デミウルゴス、王の護衛ご苦労であった。」
「労いの言葉など。配下として当然の事をしたまでです。それでは失礼いたします。」
そうしてまた、半悪魔化して霊廟の方へと飛んでいった。
「ナーベラル、お前もご苦労であった。下がって良いぞ。この後少し会いに行きたい者がいるのでな。」
「分かりました。それではアーロン様、失礼いたします。」
そう言って深く一礼をした後、ナーベラルも転移していった。
「さてと、それじゃあ行くとしますか。帰ってから三日も何してたんだとか言われそうだなぁ。」
私は、私が作った最後のNPCに会いに行く為に7階層に向かった。
残光ブンブンは許さない。絶対にだ。
次回はカルネ村になるのかな?多分なります。
そろそろアーロンっぽさを出さなきゃ不味いと思い始めた今日この頃です(主に腹切りとか)