一年生。特に妹の簪がちゃんと臨海学校に行ってくれたので姉である楯無はほっと胸を撫で下ろした。本当だったら今頃整備室にこもりっぱなしだっただろう。短い学生生活のイベントだがら少しでも楽しんでほしいと思うのは当然であった。この件に関しては彼女、岸波白野に感謝する。ただ、彼女のおかげで厄介ごとが増えたのもまた事実だった。
「はあ……」
手元にある資料を見てはあと溜め息をする。今彼女の目の前にあるもの。それは岸波白野が倉持技研へハッキングしたときの資料だった。その枚数はたったの1ページ。
まず、更識簪の専用IS『打鉄弐式』の武装について説明しよう。
・春雷(しゅんらい)背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲。
・夢現(ゆめうつつ)近接武器である対複合装甲用の超振動薙刀。
最後にこれが一番重要である武装
・山嵐(やまあらし)打鉄弐式の最大武装。第3世代技術のマルチロックオン・システムによって6機×8門のミサイルポッドから最大48発の独立稼動型誘導ミサイルを発射するものであるが肝心のシステムが完成せず、現在は通常の単一ロックオン・システムが搭載されている。
機体本体は簪本人がほぼ完成に近づけているのでこれらは向こう側の仕事になる。
で、ハッキングして分かったことが岸波本人は何となく分かっていた、それ以外の人はその内容に言葉を失った。
簡単にいうと
完成率
春雷:0%
夢現:90%
山嵐:0%
だった。
この結果を見せたときの各人を反応は様々で、特に更識姉妹が酷かったことをここに記そう。妹の方は落ち込んで部屋から出なくなる(本音が懸命に励ました)。姉は授業サボって倉持技研にO・HA・NA・SIしに行こうとする(虚が必死に止めた)など酷いものだった。
倉持技研のこの体たらく。原因はただ単純に、技術の限界とプライドの問題であった。第二世代の『打鉄』は確かに性能のいい、扱いやすい機体だろう。だが、所詮それは第二世代だけ見ればの話だ。現段階で各国が第三世代の試作機を出している。試作機が出来ているということは、量産型に移るのは時間の問題でもある。急ぎ我が国でも第三世代を作る必要があり、それに相応しい性能をもつ機体を目標にした。
だが、これがいけなかった。
いざやってみたら、あまりにも技術的な問題が多すぎたのだ。しかし、既に公に公表してしまったからには後には退けない。意地でも造るという思いが、ここまで引きずってしまったのだ。
「まあ、これをネタに少しでも巻き上げられたらかんちゃんのIS資金に投じられるけど……どうだった?」
部屋に入ってきた虚に報告内容を聞く。
「結論から言って、収穫なし、です。岸波白野の過去には裏組織に繋がる何かは見つかりませんでした」
「そう……でも、な~んか引っ掛かるのよね~……」
彼女には絶対何かがある。ハッキングに関しては一種の才能だろう。だが、気にするのはそれではない。理由は分からないが、第六感のようなものを感じ取っていた。
「それに教師と生徒の関係とはいえあの“葛木宗一郎”と面識がある」
関係性は低いが相手が相手だけにどうしても頭から離れなかった。
この前の尾行していたときだ。ショッピングモールでこの私が背後を取られたのだ。楯無を襲名されてまだ数年だが、それなりに修羅場と経験を積んできた。特に殺気に関しては一番敏感になっている。そして、暗部たるもの敵に背後を取られてはならない。
『ここで何をしているのだ。更識家現当主、更識“刀奈”』
その教えを守ってきた彼女は、その時初めて背後を取られた。後ろに立っていたのはスーツ姿の寡黙な男性。それを見て楯無は固まった。
『葛木、宗一郎!』
『今は朽木だ。うむ……なるほど。陰から妹の監視か』
更識家は古くから対暗部用暗部の一族だ。その彼らが一番警戒していた一族がいた。『葛木家』暗部の一族で古くから更識家と対立関係にあった。まさに龍と虎の関係である。そして、『葛木家』の暗殺術は武器を必要としない、体術によるもの。しかもこれに型は存在しないうえ、初見必殺だった。1人1人独自の暗殺体術を習得しているのだ。幾度となく争いで分かっているのは左手が牽制、右手は必殺ということのみ。これはあくまで傾向であり過去には脚技だったのも存在する。『葛木家』の教えは“一人一殺”。対象を殺したら自殺するのが決まり。また、古くから身寄りのいない子供を暗殺者に仕立て上げる方法を取り入れていた。
それほどの相手だったが、今から10年前。その葛木家が一族皆殺しになる事件があった。事件は秘密に処理されたが、分かっているのは死体に次期当主と引き取っていた子供たちが誰一人いなかったことだけ。
『妹を思うなら、過保護のし過ぎは迷惑になるだけだぞ。楯無』
それだけ言った彼は紫髪の女性の所へと行った。
以上が、あの日の顛末だ。
「む~………」
「お気持ちは分かりますが、今は生徒会長としての仕事に専念してください」
「はいはい。分かったわよ」
虚の催促をうけ書類に手を伸ばす楯無。だが、取ろうとしたタイミングでスマホが震えた。相手は更識家諜報部からだった。
「なに?」
電話に出る。数秒後「はあ!?」と驚いた声を上げた。
「亡国機業が………壊滅した?!」
火花が散る
通路は所々崩れ落ちている
物が散乱している
焼けた臭いが充満している
その上から、赤いペンキが塗りたくられている
朱い世界の真ん中で、一人の男が佇んでいた。両手には歪な奇形の剣。そこから血が滴り落ちる。だが、彼の足元に転がっている者達の体に切り傷はあれど、それほど深い傷ではない。それさえ目を瞑れば五体満足と言えるだろう。しかし、それらの顔は絶望した顔で歪んでいた。
ふと、見ると研究者の1人が這いずりながら逃げているのを見つけた。おそらく混乱に紛れ込んで逃げようとしたところ足を怪我し今まで隠れていたのだろう。でも、誰一人として生かしはしない。男はその研究者の背中を足で踏んづけた。
「がっ!」
「逃げられると思ったのか?」
男は右手の剣を構える。
「貴様っ! こんなことをして上が黙っているとでも……!」
「ああ。上の連中はスコールが黙らせに行ったからな。今頃消炭になってるんじゃないか?」
「なん、だと……!? 組織を裏切るのか!」
「裏切るも何も、一度も忠誠を誓ったことない。それに―――お前らのやったことが、俺たちの逆鱗に触れただけだ」
研究者の肩に剣を刺そうと構える。
「
「―――――」
数瞬、動きが止まる。それは彼にとって叶えたい願い。だが、彼の目に宿ったのは怒りだった。
「あの人は、もう、いないっ!」
剣が研究者の肩に突き刺さる。悲鳴を上げる男を余所に彼は呟いた。
「“受け止めよ”」
「あ、あぁ、あアぁぁぁァアあァあぁぁアぁぁっ!」
途端、狂ったように研究者は叫び始めた。傷口から黒いムカデのような何かが身体を蹂躙するかのように動き回る。
「あああああァァァァああああアアああ゙あ゙あ゙ア゙あ゙ア゙あ゙あ゙あ゙――――」
グッタリと研究者は動かなくなる。顔は苦悶の表情に歪んでいた。ムカデ模様も消滅する。剣の血をふき取る。
「合いたいさ。あのときのお礼を言いたいさ。だが、あの人はもう死んだんだ。あの人と同じ姿だとしても、あの人じゃない」
その独り言はまるで自分に言い聞かせるように、彼は呟く。
「こちらホワイト。スコール、掃除は終わった」
≪そう。こちらも今終わったところよ。予定ポイントに合流しなさい、
「了解」
通信を切ったあとボタンを押した。研究所の警報が鳴り響く。証拠隠滅用の自爆装置を作動したのだ。数分後この研究所は消滅する。研究結果もそのデータもなにもかも。だが、それでいい。
急いで脱出する。その後ろ姿をリスの形をした機械がじっと見つめていた。
どうもお久しぶりです。
アニメも始まってそっちに集中してこっちがおろそかになってしまっています。たぶんこれがこの小説今年最後の投稿になります。
それでバーイ(^^)ノシ