「いまでしょ!?」
それでは本編どうぞ
突如叫び声をあげるラウラ。それを目の当たりにして私は後ろに一歩下がる。
「い、一体何が………?」
突然の出来事に状況を飲み込めない。すると、ラウラのISに黒い電撃が走りながら、装甲がグニャリと溶けた。いや、少し違う。黒い泥のようなものはまるでスライムのように動き自身の主、ラウラを取り込んだ。
「鈴! セシリア! これISの機能か何かなの!?」
あまりにもおかしいと感じた私は自分よりも詳しいだろう2人に聞く。代表候補生である彼女たちならこれが何なのか分かると思ったからだ。しかし、2人の答えはNOだった。
≪そんなのこっちが聞きたいわよ≫
≪ISに変形機能なんてありませんわ。ですがこれは……≫
私よりもISについて詳しい2人も分からないと答える。機能とは言ったが、悲鳴を上げるほどのものが機能とは呼べない。そうこう考えているうちに完全にラウラを取り込んだ泥はゆっくりと人の形へと変形していく。何故かそれは良く見知る人に似ていた。
「織斑、先生――?」
そう。その姿は教師の織斑千冬にそっくりだった。そしてこの装備の型は打鉄だろうか?
(マスター! 回避を!)
「―――えッ!?」
一瞬だった。単純な踏込と刺突。しかし一連の動作が異常に素早かった。アーチャーに警告されたにも関わらず、その刃はすでに眼前へと迫っていた。逆に言えばアーチャーが警告してくれたおかげで反応できた。体のバランスを強引に崩し、なんとか右へ無様に転がるように回避した。
地べたを少し這うような体勢になる。左頬に熱を感じ手で触る。左手には血がついていた。あの斬撃で斬られたのだ。
(は、速い……それにさっきまでと動きが)
あの泥に包まれる前と動きがまるで違う!
(追撃来るぞ! 後方唐竹!)
(は!? 唐竹ってなに!?)
(上からの切り落としだ!)
後ろからの完全な奇襲。この時点で斬撃はもう始まっている。今の私は転んで膝を地面に着けた無防備な状態だ。どうする。
黒いISと距離をとるため前方に逃げる―――駄目だ。すぐに追いつかれる。
左右どちらかに避ける―――これも駄目だ。この体勢からじゃそんな動きはできない。
上と後ろからは迫りくる刃と黒いIS。逃げ場がないなら―――!
「こんのぉお!!」
即座にガマリエルを出して、振り返りざまに横にブンッ! と振る。見事凶器に当たり黒いISの手から離れ観客席のシールドに突き刺さった。
「(あれって、もしかしてシールド無効化こうげk)げはっ!」
自身の得物が無くなっても黒いISの攻撃は止まらない。私を押しつぶそうとその巨脚で踏みつける。
「ラウ、ラ……止まって………これ以上は………!」
≪…………………………≫
踏みつける力が強くなる。明らかにこれは試合の範疇を超えている。
≪ちょっとラウラ! あんた何やってんのよ!≫
≪それ以上は白野さんが危険ですわ。止まりなさい!≫
鈴たちの警告など聞かずその力を強くする。それとも聞こえていないのだろうか。
踏まれ意識が朦朧とする中、ガマリエルを前に出す。コントラバス型の大きな盾であるそれは今の状況では全く役に立たない。
なら、これは必要ない。
吐き気に襲われながらありったけの魔力をガマリエルに注ぎ込み、告げる。
「―――壊れろ」
ガマリエルを起点に爆発が起こる。爆炎が2人を包み、爆煙があたり一帯に広がる。盾が爆発するとは知らずそのダメージを受けた黒いISは煙の中から姿を現す。その表面ははっきりとダメージの痕跡が残っていた。が、黒い泥が表面から覆いかぶさり、何事もなかったかのように元の形に戻る。
【鈴視点】
≪試合中止だ! 鳳、オルコット。岸波白野を直ちに救助、避難しろ!≫
「り、了解!」
≪分かりました……! あれはまだヤル気ですの?≫
黒いISは自身の武器を拾おうと突き刺さる刀のある方角へと向かう。戦闘を続ける意思があるということを現していた。緊急事態の警報が鳴る。
≪鈴さんは白野さんの救出を。私はあれの時間稼ぎをします。急いでください≫
「分かったわ!」
黒いISをセシリアに任せて鈴は白野のところへと向かった。センサーを使い、すぐに彼女のいる場所を見つける。彼女の外見は、もうボロボロだった。爆風を至近距離で受けたことで服のような装甲が破れている。
「ごほっ!ごほっ、ごほ」
「あんた、どうやったか知んないけどなんて無茶すんの」
≪ごほっ、ああでもしないと、抜け出せなかったから……それよりも≫
白野は通信を開き、織斑先生へとつないだ。
「織斑先生。質問に答えてください。あれについて何か知っていますか?」
≪知っている。が、口にできない。IS条約の中で厳禁されているものだ。迂闊にはしゃべれない≫
「じゃあ質問を変えます。あれはISの機能の一部ですか?」
≪そうだ≫
「最後の質問です。あれは、織斑千冬を真似るシステムかなにか……違いますか?」
≪………≫
「―――ありがとうございました」
≪待て。きしなみ――≫
通信を切る。
(アーチャー。もしあれが織斑先生を真似るシステムだとすると、どんな影響があるの? アーチャーの憑依経験と同じ仕組み?)
(科学分野の憑依経験が私のものと同じかどうか判断できない。私の場合、その宝具の所有者の成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現する必要がある。もしこれと同様のことが起こっているならば、並大抵の人間では耐えられない。最悪、脳が焼切れる)
白野は目を瞑り頭を掻いた後、その両目を開く。その目は何か覚悟を決めた眼だった。
≪鈴。あれ止める……いや、ラウラを助ける≫
「は? あんた何馬鹿なこと言ってんのよ。あんたがでなくても教師の人たちが後から来るわ。その人たちに任せれば」
≪これ見て≫
白野は自分の左頬を私に見せる。それは先ほどの爆発でやられたものとは違う切り傷だった。
≪あの黒いISの攻撃では絶対防御も何も発動しない。死ぬ可能性がある。それに慣れていない人がまともに戦闘できると思う? しかもあれブリュンヒルデの動きをするんだよ≫
「教師が無理だったらあんたじゃ尚更無理でしょ!」
何矛盾したことを言ってんだこいつはと私は白野に言い返した。実力のある教師たちがダメで、自分は大丈夫って一体何を根拠に言ってんのよ。
≪言ったでしょ? 簡単な話だよ。ブリュンヒルデより強い人を呼べばいい≫
「は……?」
ますます分からなくなってきた。今この場で千冬さんより強い人なんていないのに。
≪くっ! 鈴さん、白野さん。逃げてください!≫
セシリアの声が聞こえてくる。黒いISがセシリアの攻撃を必要最小限の無駄のない動きで回避しながらこちらに向かってくる。
寒気が走る。あれが持っている剣は一夏の雪片弐型と同じ機能を持っているのだ。ただ、一夏のは競技用として出力をダウンさせている。それに対し、こちらは完全な状態。確実にこちらを殺すことのできる凶器だと考えるとゾッとする。
すると、私の前に白野が移動した。そして叫ぶ。
≪鈴! 衝撃砲発射用意!≫
「は!? ならどきなさいよ。あんたまで一夏と同じことするわけ?!」
≪何のことか知んないけど、さっさとする!≫
「分かったわよ!」
言われた通り衝撃砲の準備をする。最初こそ前の一夏みたいな荒業をすると思ったが違うらしい。黒い雪片もどきが白野に振り下ろされる。それに合わせて白野が左手を突き出す。そして―――
≪―――“アイアス”!≫
白野の左手を中心に突如花開く4枚の鮮やかな赤い花弁。その光の膜は黒い雪片の刃を完全に止めていた。
「綺麗……」
自然とそんな言葉が鈴の口から洩れていた。雪片もどきの凶刃を受け止める別の何か。その美しさに鈴は心奪われそうになる。
鈴が知るよしもない。
その盾の名は“
ギリシャ神話におけるトロイア戦争の英雄アイアスが所持していた、英雄ヘクトールの投槍を唯一防いだと言われる盾をモデルにしたアーチャー自身がアレンジした結界宝具。投擲武器あるいは相手の手から離れた武器の攻撃に対して無敵に等しい防御力を誇る。
シールドに対して最強の刃を持つ雪片でも、神代の最強の盾には敵わない。
せめぎ合う2つの力がぶつかり合い、当然の如く白野に軍配が上がる。弾かれ後ろに一歩下がる黒いISにしっかりと衝撃砲の照準を合わせる。
≪鈴。手足か頭を狙って!≫
「オッケーッ発射ぁ!」
溜りに溜めたエネルギーをとっておきの一発にする。放たれたそれは顔面。織斑千冬を真似た顔を狙うも左手を犠牲にして防がれた。
「ちょっと。もっと損傷あってもいいんじゃないの?」
≪後ろに飛んで衝撃をやわらげたんだ≫
さすが織斑先生を真似ただけある。その動きはかつてのブリュンヒルデの栄光を手に入れた当時と変わらないだろう。
≪お二人とも大丈夫ですの!?≫
≪今のところはね。でも―――うん。分かってる。急いだほうがいい≫
「…? ハク。あんた誰としゃべってんの?」
独り言のようで、まるで誰かとしゃべっているように話す彼女を見ておかしく見る。そして、彼女は深呼吸をする。まるでこれからが本番だというように。何かに全神経を集中する様に。
≪―――イン『うおおおおおお!』へっ!?≫
白野が何か言葉を紡ごうとしたとき、観客席のシールドが切り裂かれ誰かが雄叫びを挙げながらアリーナへと躍り出た。あの声で誰が入ってきたかなんてすぐに分かった。
≪一夏さん!?≫
「なにやってんのよあのバカ!」
突然の一夏の行動にセシリアは驚き。私はあいつの浅はかな行動に舌をかむ。白野がいつもの陰陽のショートソードを両手に持ち、一夏のところへ、黒いISの方へと疾走していった。
(なんてむちゃくちゃな真似を―――!)
白野は一夏の突然の行動に毒づきながらすぐさま干将・莫邪を構え、一夏のもとへと疾走した。一体何を思ってこんなことしたのだろうと考える。が、真っ当な理由が思いうかばらず本人にこのあとで問いただしたほうがいいと判断。頭から切り離した。一夏の雪片弐型の一太刀が黒いISに振り下ろされる。があんなに目立った攻撃じゃ相手にバレバレだ。やはりというべきか、一夏の一撃は横にそれただけで簡単に躱された。がら空きとなった頭に黒いISが反撃を仕掛ける。しかし、どこか私にしてきたのと比べてそんなに早くないように見えた。
黒いISと一夏の間に入り、凶刃を受け止める。今の状態じゃ力勝負で私が負けている。本当なら刃を受け流したいところだが、そんなことしたら後ろにいる一夏が危ない。一撃でも喰らったら温かいバターを切るみたいにやられてしまう。
なんとか受け止めるも勢いを完全に殺すことが出来ず、右肩に当たり、血が出た。
「いっ、つ~~~~~~~ッ!!」
右肩に傷を負うも受け止めたおかげでそんなに深い傷にはならなかった。それにモデルが織斑先生だったおかげだろう。その剣術は日本剣術……剣道のものだった。これがもし西洋剣術だったら、剣の重さを活かしての斬撃でもっと深い傷になっていたかもしれない。
て、そんな評価なんかしている場合じゃなかった。なんとか抑えているうちに一夏を退避させないと。
「一夏。危ないから下がって。これもう試合じゃないんだよ!」
≪……………るさぃ………≫
「え?」
≪うるせえ! あいつ、千冬姉の真似しやがって! ぶっ飛ばしてやる!≫
「はあ!?」
全然会話が成り立っていないことに場違いな声を出してしまう。こっちが一夏のことを思って言っているのに、私が言ったこと聞かないで黒いISを倒すことしか考えていない。それに自分の姉を真似た何かが許せないのかかなり気が立っている。
「一夏。話を聞いて!」
≪白野どけ! こんな偽物野郎俺一人で十分だ!≫
「話を聞いてって言ってるでしょ!」
だめだ。まったくこちらの話なんて聞くきないんじゃないかと思うくらい頭に血が上っている! ギリギリのバランスで拮抗を保っているのに一夏が後ろからいなくならなくちゃ引くにも引けない状態のままだ。
それに
(アーチャー何分切った!?)
(3分を回ったところだ!)
3分。短い時間だけどラウラを助けるには早めにやったほうが良い。
(アーチャー。準備に入るよ)
(確証はあるのか? もし機能でなくISコアから直接作動していたらどうする?)
(だったらコアぶっ壊してラウラを助ける! ドイツの戦力? 外交問題? そんなの知ったことか!)
(―――フ。君らしい答えだな。だが悪くはない)
「同調、開始―――」
〔心拍数。脳波。共に安全域。同調率必要圏内90%以上まで残り16秒―――〕
アーチャーの声とは違う機械音声が聴こえ、視界の端っこにカウントダウンの数字が表示される。このカウントダウンが終わるまで精神を集中するのにしゃべることとが出来ないし、動くこともできない。相手の刃を防いだままだから現状を保てば一応大丈夫だ。
問題があるとすれば
≪白野! 俺の話を聞いてんのか!?≫
(それはこっちの台詞よ……ッ!!)
右肩にくいこむ刃が少しずつ動き全身に激痛を奔らせる。
≪どかないってんなら………≫
私をどかそうと手が伸びる。残りあと10秒っ!!
≪――――お前もう黙れ。ウザい≫
通信越しに響く、冷徹な言葉のあと、私と一夏の間を妨げるように長い獲物が突き刺さる。これは、薙刀だ。
≪な、なんだ―――ぐえっ!≫
ズシン! と重い音と一夏の声が聞こえてくる。これは誰かに押しつぶされた? もうハイパーセンサーで確認する余裕がないから分からない。
≪さてと、馬鹿はこっちで抑えるから。さっさとやっちまえ≫
「誰だか知らないけど、ありがとう!」
≪ん。いいっていいって≫
礼を言い、目を閉じる。集中しろ。ここは彼に任せて、私は自分の得意分野で戦う!
〔カウントダウン。5 4 3 2 1 0
同調、完了。限定解放、セカンドシフト“錬鉄”スタンバイ―OK―〕
(アーチャー。こっちは任せた!)
(ああ。マスターも気を抜くな)
「――――インストール」
紡がれる解呪の言霊。岸波白野の体は炎に包まれた。
【セシリア視点】
一夏さんが水色の髪をした女性に座られる形で潰されていた。それを見かねて私や鈴。観客席の一夏さんが出てきた場所から箒さんが打鉄を展開して一夏のところに集まる。
「一夏無事か!?」
「お怪我はありませんか?」
「あんたいつまで乗っかんてんのよ!」
「ああ? あんたらもあれ見ろ。面白いもんが始まるぞ」
指を指すほうに白野さんと黒いISが鍔迫り合いになっている。すると、白野さんの方に変化が起きた。
「―――インストール」
彼女を中心に発生する炎の竜巻。それは岸波白野を包むように起こっていた。あまりの熱さに水色髪の彼女以外(一夏は強制的)そこから離れようと後ろに下がる。たった半径1mほどの小さな炎なのに一体どれほどの熱量を持っているのだろうか。黒いISも突然のことに驚き、後方に飛び退いていた。
「………へえ」
ただ一人。彼女だけイスに座り、離れずじっと見つめ口元を歪める。それは邪悪な何かを考える笑みではなく、日常から離れた何かを見つけた悦びを孕んだ顔だった。
黒いISは構えなおして最接近する。熱さなど効かないのかすぐ目の前まで近づき火中のど真ん中にその刃を振り下ろす。
が、ガキンという鉄同士がぶつかる音と同時に止まった。力を込めるも全くビクともしない。
「―――!?…………!!」
炎の渦が次第に治まる。その渦の中心に、“彼女”は立っていた。
赤い外套を纏い。後ろ髪は千本針で髪を結い。なにより、その髪は白かった。
敵の攻撃を陰陽の中華剣で受け止めていた。違いがあるとすれば、先ほどと比べ余裕が見えるところ。
「………ふむ。即席の荒療治だったが、どうやらうまくいったようだな」
彼女は相手の攻撃を受けているというのにその声には全く焦りがない。それに、いつもの彼女の口調と違う。
「これほどの力。さすが
やっとここまで来たあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
この小説で書きたかったお話ラウラ編の最大の見せ場!
最初の案は VTシステムの黒いIS を カンスロット にしようかと思ってました
しかし
アニメ プリズマイリヤ の 黒セイバーVSイリヤ(アーチャー) を見て
「これだ!」と変更&即決しました。
長かった……半年近くかけてやっと書けた(泣)
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回 第22話 「表と裏の戦い」
「チッ……やはりこの体だと限界か」
「それでも――――――命には価値がある」