IS -錬鉄の女騎士-   作:skyfish

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むちゃくちゃすぎた


後悔はしていない


第18話「準決勝 一夏・箒VS本音・簪」

このタッグマッチでいろんな女子にペアを求められた俺は最初シャルルと組んでいると言った。しかし、機体点検で出れないと言われまた彼女たちに追われる羽目になった。とにかく逃げているときたまたま箒を発見し

 

『すまん。俺箒と組む!』

 

といいなんとかその場を凌いだ。箒にいろいろ言われたが、俺とタッグマッチを組むことを許してくれた。その後、セシリアと鈴にも誘われたが断った。その後二人はペアになりこのトーナメントに参戦している。

 

箒は打鉄を纏い、自分と同じ近接戦闘主体のペアになった。後方支援がないが剣道をやっていた頃の感覚を取り戻した俺と実力のある箒は順調に勝ち進み、ついに準決勝まで辿り着いた。俺たちの試合が終わった後もう一組、白野・ラウラペア対セシリア・鈴の試合が控えている。彼女たちの勝ったどちらかが決勝でぶつかり合うということだ。まあ、それよりも今は目の前のことに集中しよう。

 

「次はのほほんさんかー。相方の人は……4組の人か、名前はえ~っと更識(さらしき)……?」

 

「簪(かんざし)と読むのだ。日本男児たるものこれくらいの漢字ごとき読めるようにしろ」

 

「いやさすがにこれ読めないって」

 

 こんな漢字今まで見たことないし。と言いかけるが心の中に留めた。もうすぐ試合が始まるからだ。箒は打鉄を、俺は白式を起動しアリーナに入る。もう対戦相手であるのほほん・簪さんペアが待機していた。のほほんさんはラファール・リヴァイブ。簪さんは箒と同じ打鉄だ。

 

≪あ。オリムーだ。やっほー≫

 

≪本音。集中して≫

 

≪あ、ごめ~んかんちゃん≫

 

のほほんさん。もとい、布仏本音は笑いながら簪に謝る。

 

(箒。どっちにする?)

 

(一夏は本音の相手をしろ。私は4組の相手をする)

 

ええ? と一夏は思う。セシリアのときと比べれば自分は射撃武器に対しての対処はしやすくなった。しかし、どうにも苦手意識がある。特にマシンガンでただばら撒くような武器にまだ慣れていない。だからなるべくその相手は箒に任せていた。しかし、今回は違うらしい。まあ、ここまでの試合でそれを使う相手に勝ってはいるが少なからず損傷を受けている。いつも通りイグニッションで速攻で決めようと考えた。

 

 

 一方箒はというと相手がどれほどの実力者か見極めていた。今だけでなく一回戦からずっと同じことをしていた。中学剣道で優勝した実力、そして篠ノ之流剣術を体得している彼女は自然と分かる。だから、自然と4組の生徒、更識簪に目が行く。

 

(隙が見当たらない。始まってもいないのに十分こちらを警戒している。こいつは一夏には荷が重い)

 

 箒は簪を意識する。今の平和ボケした日本でここまで隙がない人間が私と同い年の生徒にできるはずがない。なにかしらの武術をやっていたのだろうか。

 

(相手の術が分からない以上迂闊に踏み込めない。ここは後手にしよう)

 

「ここまで来たんだ。絶対優勝してやるぜ!」

 

 箒の慎重な姿勢に対し、ここまで勝ってきたせいである意味有頂天になっている。もうすぐ試合が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 変わって、放送席

 

「さて。織斑・篠ノ之ペア 対 布仏・更識ペアの対決ですがどうでしょうか織斑先生」

 

「ここは織斑ペアが勝つだろう」

 

「といいますと?」

 

「織斑のやつもそこそこ実力をつけている。篠ノ之は自身の流派をすでに体得している。ギリギリの闘いになると思うがな。それに」

 

「それに?」

 

「私が直々に教えているのだ。そう簡単にやられる2人ではない」

 

「いや~それはどうかと思いますよ織斑先生?」

 

「ふぇ! だ、誰ですか?!」

 

突然後ろから現れてきた水色髪の女性を見る。片手に扇子を持ち、そこには『異議あり!』の文字が。

 

「更識、なんの用だ。ここは関係者立ち入り禁止のはずだが?」

 

「あら。この実況企画を考えたのは生徒会長の私ですから十分関係者ですよ」

 

「あのーその生徒会長さんは何でここに?」

 

 持っている扇子を閉じすぐにバッと開いた。そこには『ズバリ』の文字。

 

「確かに織斑君と篠の之さんの実力は高いわ。でもかんちゃんと本音ちゃんもそれは同じ。だから最後に物を言わせるのは……気持ちよ」

 

「気持ち……ですか?」

 

 シャルルの言葉に楯無は「ええそうよ」と答える。

 

「例え相手より性能が低くても、実力が無くても、試合又は戦場で相手を打ち負かすことが起こる。勝ち負けの予想は誰でもできる。でも実際にどうなるか誰にも分からない」

 

 真剣な表情で語る彼女。それを聞き流していた千冬は言う。

 

「で? 結局言いたいことは?」

 

「そんなの決まってます」

 

 楯無は黛のマイクを奪い取ると深呼吸をし

 

 

 

≪簪ちゃーーーーーーーん! がんばってぇぇぇぇぇぇーーーー!!!≫

 

 

 

会場にいる全員が耳を抑えるほどの大音量で楯無は妹である簪に愛の籠った声援を送った。送られた本人も周りの人同様に耳を抑えていたから直接聞こえていないのだが(ISの機能のおかげで音声を感知することが出来るため、何を言っているのかは分かる)

 

「私のマイク貸すから、始めてくれ」

 

「ありがとうございます。それでは試合開始!」

 

 

 

一夏・箒ペア 対 本音・簪ペアの試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「先手必勝!」

 

 開始早々一夏は本音に接近する。前の鈴との試合のときは付け焼刃だった瞬間加速による一撃離脱戦法。しかし、今はそれを十分に体得しここまでの試合全て外していない。

 

(のほほんさんが乗るラファールは実弾装備だがら多少の被弾は無視すれば)

 

 布仏本音が操るラファールは学園がもつISの一つだ。だから装備も他の人と同じものだろうと思っていた。しかし、その予想を本音は笑顔でぶっ壊した。

 

「汚物は~消毒だーーーーー♪」

 

「なあぁ!?」

 

 どこかの世紀末の台詞を言いながら本音が取り出したもの。それは火炎放射器だった。人が扱う物をそのままIS大の大きさにしただけの単純なものだ。ISに対してそんなにダメージを与えられない代物のため世間的には全く使われていないと言って違いない。しかし嫌がらせ程度と地味にダメージを与えることに関しては一番かもしれない。

 

 いきなり目の前に炎が迫る光景に驚いた一夏だがなんとか右に避けそれを躱す。左足がほんの少しだけ間に合わずかする。

 

「やべぇ! 水水!!」

 

 アリーナに水など置いてないことは知っているが条件反射的に口にしてしまう。炎は10秒くらいで消えた。シールドエネルギーはそんなに減っていないが精神的にいろいろ持ってかれる。

 

「おりむーの驚いた顔すごかったよ~。ばっちり保存しておいたから、これを焼き増しして一儲け……ふふふ」

 

「なんつー恐ろしいことやるんだのほほんさん………それと最後何か言った?」

 

 なんでもな~い、と言いながら本音は火炎放射器をしまう。変わりに出した物が通常のラファールの武装とは違うものだった。

 

「ただの棒……?」

 

 本音が出した物。それは黒と白のしましま模様が描かれた棒だった。ISに合うよう造られたのか長さは5mくらいある。

 

「それがのほほんさんの武器?」

 

「私専用に作った打撃武器『夢幻』って言うんだ。本当は背中のユニットが邪魔だけど機動落ちちゃうから無理なんだけどね」

 

 そう言いながら本音は夢幻を手に回す。その動きはよくテレビで見る達人のそれそのものだった。片手だけでグルグルと軽々と回す。しかしどこか窮屈そうだ。

 

「おりむー。右肩いくから、躱してね」

 

「え」

 

訳のわからない、いや、分かるのだが理由が分からなかった。わざわざ自分からどこを狙うかを教えているのだ。挑発しているのだろうが、いつもの笑顔を絶やさない本音からそうとは感じ取れない。

 

「じゃあ―――いくよ」

 

 一夏が警戒し雪片弐型を構えるのと、本音が瞬間加速で一気に接近したのは同時だった。夢幻を構える本音が宣言通り右肩を狙っていることは彼女の目線から分かった。なら逆にそれを利用しようと一夏は考える。本音が扱う武器の長所は攻撃範囲が広いことだが、同時に間合いを詰められたら対処できないという欠点が存在する。右肩を狙っているのならそれをやり過ごして単一能力である『零落白夜』を使えば片が付く。

 

 一夏は夢幻を避けようと動こうとした。が、右肩に衝撃を覚え後ろへ下がる。

 

「なッ(伸びた!?)」

 

「あはは。驚いてる驚いてる」

 

 宣言通り本音は一夏の右肩を狙い見事当てて見せた。やられた一夏は自身が見たことに驚いていた。当たる直前に棒が伸びたように見えたのだ。

 

「それでは。存分に惑わされてね」

 

 天使のような笑顔を浮かべて、本音は一夏に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 放送席

 

 試合開始から両チームは本音対一夏、簪対箒に別れている。そして、苦戦している一夏の戦いが観客の目を引いていた。無論それは放送席にいる人たちも同じ。

 

「織斑一夏くんに焦りの表情が出てます。それほど強力な攻撃ではないのですぐにやられることはありませんが。布仏さんはただ突きを繰り返しているだけですが何が起きているのでしょうか?」

 

「これは夢幻の模様の効果かも知れません」

 

 黛の質問にシャルルが答える。

 

「この武器のしましま模様。このせいで錯覚が発生して、一夏は間合いが掴めてないかもしれません」

 

 なるほど~と言いながら黛は一夏と本音の戦闘を見る。間合いを掴めない一夏は避けるのに精いっぱい。それに対し本音は目の錯覚を利用した攻撃、フェイントを多用し少しずつ一夏のシールドエネルギーを削っていく。

 

「織斑は歯痒い思いだろうな。原理自体はすでに分かっているが対処できないことに焦っている」

 

 本音が操る武器『夢幻』はそれ単体ではただの打撃武器だ。もともとIS整備科で更識家に仕える家系でもあった彼女は更識簪専属のメイドであり、有事の際彼女を守るために戦う心得を幼いころから受けていたためIS用の武器を造ること自体造作もない。楯無は槍、簪は薙刀を得意とする。しかしどちらもその立ち回りを体得するため棒術を習う。そこから槍の、薙刀の武術に移るが本音は棒術だけに留まった。理由は守るだけならそれだけで事足りると判断したからだ。しかし、一夏の雪片弐型の零落白夜みたいな特殊な機能や高い攻撃力はつけられない。そこに本音が加えたのは人為的に作る幻惑。目の錯覚によって生まれる僅かな混乱を利用した武器。ゆえに『夢幻(ゆめまぼろし)』。繰り出す攻撃すべて当たるのかフェイントなのか。相手に幻影を見せる武器が踊る。

 

 

 

 

 

「織斑くんと布仏さんの2人が動き回っているのに対して更識さんと篠ノ之さんのほうですが全く動いていませんね」

 

 黛が言う通り、簪対箒のほうはどちらも日本刀を構えたまま動かない。なにをしているのか分からない彼女に千冬が説明した。

 

「数多ある武術にとって間合いとは自分自身の結界のようなものだ。絶対安全領域であり、必殺の領域でもある。相手の間合いを探っているのさ。不用意に懐に入れば一瞬にバッサリとやられる」

 

「2人とも本能で察しているのね。だから迂闊に踏み込めない。分からないかもしれないけど、熾烈な心理戦を繰り広げているわよ」

 

 千冬と楯無が今の状況について解説する。確かに相手の出方が分からない以上後手に回るのが普通だ。だがそれは双方同じ考え。硬直状態を打開するとすれば、どちらかが何かしらのアクションをするしかない。

 

 そして―――動きがあった。

 

「お? おお? どういうことでしょうか。更識選手血迷ったか!?」

 

 

 

 

 

 

 それを見ていた箒は簪の行動が理解できなかった。

 

(何故だ。何故わざわざ浮遊装甲と脚部装甲をパージする)

 

 更識簪は防御重視の打鉄の命ともいえる武者鎧みたいな装甲を取り外したのだ。今の彼女は腕と脚の部分に部分展開している状態だ。これでは防御が落ち両肩ががら空きである。

 

(誘っているのか。明らかに罠だが……)

 

 罠に違いないが、当てればすぐに勝敗が付く絶好の機会であることもまた事実。どうするべきか悩む箒。

 

(しかしこのままでは埒が明かない。ならあえて策にのってみるか)

 

 仕掛けることを決めた箒はどう攻め込むか思案する。

 

(左右から薙ぎ払いはムリだ。装甲を外した場所を狙うのは危険すぎる。面も無理だな。だとするなら残っているのは……)※剣道用語で面=頭

 

 箒は打鉄の刀を構える。

 

「すー……ふー………」

 

 何かを感じ取ったのか簪は大きく深呼吸をする。共に隣で戦ったいる相方のことなど余分なことを頭からカットし、刹那を見逃さないよう集中する。

 

 そして、箒が動き出した。

 

「はぁぁぁあああーーーー!!」

 

 瞬間加速を発動し、簪に接近。刀を突き立てる。箒が繰り出すのは刺突(つき)。以前でも説明したとおり、刺突は予備動作が分からなく対処が難しい。だからこれを選んだのだ。

20m開いていた間が一瞬にして消える。もう少しで届く瞬間。箒は簪が前に一歩踏み出していることに気が付く。

 

 

 

 それを見て自らの敗北を悟った。

 

 

 

 箒が握る日本刀が手から弾き飛ばされる。箒の日本刀は空中を舞い、振り上げられた簪の日本刀が振り下ろされる。その刃が届く前に一言

 

「―――お見事」

 

 絶対防御が発動し、箒のシールドエネルギーが尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

放送席

 

「ここで箒選手力尽きましたー! ところで一体何が起きたのでしょうか」

 

「更識がやったのは“巻き技”だ」

 

 巻き技とは、相手の得物を右上から押さえつける様にしてそのまま手首をくるりと回し相手の武器を弾き飛ばす技。これは自身の手首がしっかりしていないとできない難易度の高い技である。

 

 アリーナのスクリーンに先ほどのスローモーション映像が映される。確かに簪は手首を器用に動かし箒の日本刀を絡め取っているのが分かった。

 

「でも静止している物じゃなく迫りくるそれを確実に取るなんてすごいです」

 

 シャルルは簪の技量に純粋に驚く。と、一夏が本音の相手を無視して簪に接近した。

 

「おっと!? 織斑選手布仏選手のことを無視して簪に襲い掛かりました!」

 

「あの馬鹿。篠ノ之がやられたことで感情的になってるな」

 

千冬は弟の行動を説明しながら、今日何度目か分からない溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒がやられたことに一夏は驚きながらもパートナーを倒した相手に敵討ちのような感情を抱いて零落白夜を発動した。それを振り下ろす。がギリギリのところで躱された。すぐさま追撃をしようとするが本音の銃撃に妨げられる。

 

「かんちゃんはやらせないよ~」

 

「くっ!」

 

 双方一旦距離を取る。本音は簪に大丈夫かどうか聞いたが返事がない。

 

「かんちゃん?」

 

少し様子がおかしいと思い簪の顔を覗き込む。彼女のメガネ、そのレンズにヒビが入っていた。

 

「「あ……」」

 

 本音と放送席にいる楯無が同時に声を出した。途端本音は簪から離れる。一番遠い場所へ。

 

「え。なにこの空気」

 

「おりむー………」

 

「ん?」

 

「御愁傷様」

 

「なんで!?」

 

 いきなりの死亡宣告に一夏は理解できていない。その答えはすぐに分かった。

 

「うっ!?」

 

 蛇に睨まれた蛙のよう、という例えを一夏は今まで感じたことがないから正直分からない。が、それに近い感覚を覚える。その先にいるのは更識簪だった。彼女はかけるメガネを取り外す。それまで柔らかい目をしていた彼女のそれは、鷹の眼光へと変貌した。

 

 簪は箒が使っていた刀を拾うとそれを一夏向けて投げた。それは槍投げのように真っ直ぐ飛んでいく。それを一夏は雪片弐型で弾く。が――

 

「ってうお! 危ねえ!」

 

 弾いた刀と同じ軌道でもう一つの刀も投げていたのだ。気づくのが遅れながら何とか躱す。大振りの動作になった隙を簪は間合いを詰め雪片弐型を持つ右腕を蹴りあげた。右手から雪片弐型がこぼれる。持ち主から離れた雪片弐型は零落白夜の機能が停止する。しかし、完全に切れるまでラグがあった。

 

 簪は雪片弐型を奪い取り、それを容赦なく一夏に振り下ろした。

 

 

この間、わずか5秒。

 

 

≪白式戦闘不能。よって布仏・更識ペアの勝利!≫

 

試合終了の合図が鳴る。何があったか把握できず呆然とする一夏。

 

 

 

「負けたのか私たちは……ふ、ははは。悔しいな―――」

 

ISを解除し仰向けに倒れている箒は目を隠しながら呟く。言っていることとは裏腹に、彼女の顔は何か憑き物が取れたかのように晴れていた。

 




簪ちゃん。原作性格に+αしちゃいました。短かかったですが書いててノリノリでした自分w

「これもう橙子さんと似てんジャン」と書いてる途中で思い出しました。ホントです。

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