IS -錬鉄の女騎士-   作:skyfish

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超 大変 お待たせしてしまいました

何とか書けた14話を楽しみください



第14話「人形劇・後編」

計画ではあいつを、シャルロット・デュノアを閉じ込めて、ゴーレムⅡでじわりじわりと嬲り殺しにする。それは今も変わらない。私の手にかかれば機体の使用権を奪いとり殺すことなど簡単だ。だけどそれだけじゃ私の気が修まらない。せいぜい苦しんで死んでほしい。

だが、その計画にも綻びが出てきている。ハッキングした学園のデータで無人になる第5アリーナを選んだのにそこに2匹のお邪魔虫がいたのだ。せっかく隠密に済ませる予定だったのにと思うが1人が3人になっただけだ。掃除の手間が増えただけである。計画は順調通り……なのだが、ほんの少し不安材料がある。そう、あの女だ。この前私のゴーレムⅠを破壊したあの女と未知のIS。今はご退場させたがどうにも落ち着かない。

 

「―――まっ、気のせいでしょ。いろいろ済んだらそれ《ISコア》貰うよ」

 

気のせい気のせいと思い画面を見つめながら篠ノ乃束はゴーレムⅡを操作する。大丈夫。もしものときは証拠隠滅を含めた保険もあるんだし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白野さんを残して私たちはアリーナ内部の会場へと到着した。そこは空に光る月明かりのおかげかうっすらと明るい。暗くない分少しだけ安心する。でも何も遮るものな無いように見えるそこにはシールドバリアが存在し内部と外界を遮断している。あれの破壊には高出力のレーザーか、あるいは発進源となっているあの正体不明の敵を破壊するしかない。

 

「よし。急いで助けに行かないと―――」

 

シャルルは時間を稼いでくれている白野のもとに行かないと。そう思ったときアリーナの壁が崩壊した。

 

一体何が、と思い見ると飛ばされる黒いなにかを見つける。白野だ。それに、彼女をこのようにさせた、拳のような大きな物体。ISは部位も人よりも大きくできている。が、これはそれ以上の大きさ、人間ならともかくISほどの大きい物体も握りつぶすかのような巨大鉄の手。

 

それは自身の主のもとへ戻る。敵の姿を確認したとき、シャルルは我が目を疑った。

 

「え…!?」

 

その敵は、どういうわけか知らないがあまりにも自分にそっくりだった。違いがあるとすれば男装していない本来の自分の姿。

 

「親戚の人?」

「違うよ。でもなんで」

 

だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。自分そっくりの敵は切り離した手を取り付け、ゆっくりと私の方へと顔を向けた。すぐに察した。この敵の狙いは、この僕だ。

 

「簪さん。私があれを抑えるからそのうちに彼女を見てやって!」

「う、うん!」

 

簪はぐったりと横たわっている白野の方へと走り寄る。リヴァイブを起動した私は五五口径アサルトライフル《ヴェント》を構え彼女たちと敵の間に立つ。

 

「なんで私と同じ顔なのか知らないけど、これ以上はやらせないよ」

 

敵は俯いたまま何も答えない。このままで見るなら操り人形に見えなくもない。巨大な両手を広げ、突如シャルルへと突進する。彼女を真似た人形の顔は、狂気を孕んだ様に歪み微笑んでいた。

 

 

 

 

 

ようやく気を取り戻した白野はすぐに気を失う直前のことを思い出そうとする。そうだ。私はあの人形から繰り出された巨大な鉄拳にやられたのだ。急いで体勢を立て直そうと体を起こす。だが、目の前に広がる光景は、アリーナではなかった。

 

「え? ちょっと待って。なんで……私ここにいるの?」

 

そこは、かつての私が一度だけ来た場所。美しい装飾に彩られた、ステンドグラスのような床。そして周りを囲むかのように動く光の粒子。息苦しさすら感じるほど荘厳な空間。間違いない。ここは、聖杯戦争の予選で最後に訪れた選定の場。私とアーチャーが初めて会った、あの場所だ。

 

「へえ。こいつは懐かしいやつに会えたな」

 

ふと、背後から声が聞こえた。アーチャーではない。振り返るとそこには、かつて一度だけ共闘した、青い戦闘服装にルーン文字を刻みこんだあの男がいた。忘れるはずもない。

 

「ランサー……いえ、クー・フーリン」

 

「俺の正体を知ってるか。ま、あれから結構時間経ってるから、当然と言えば当然だな」

 

あの時と変わらない軽口で私に話しかける。そして気が付いた。彼の手にあの赤い槍が握られていることに。

 

「下がれ、マスター」

「アーチャー」

「は。やっぱりてめぇもいたか。坊主、いや、アーチャー」

「殺気が籠るその目が見抜けぬ私ではない」

 

アーチャーは干将・莫耶を、ランサーは赤い槍“ゲイ・ボルク”を構える。一触即発の状況だ。

 

「てめぇはてめぇの力で俺ら英霊たちの宝具の偽物を使っている。てめぇ自身の能力だから別に文句はねぇ。だが、そこの嬢ちゃんはタダ乗りしているだけだ。いくらお前のマスターといえど、なんの覚悟もなしに俺のゲイ・ボルクは使わせねぇ」

 

ゲイ・ボルクの切先がゆっくりと私の方へと向く。

 

「我が槍を手にすることは、俺たち『赤枝の騎士団』の誇りを背負うことと同義だ。嬢ちゃんにその覚悟はあるのかい? どんな目的で俺の“ゲイ・ボルク”を使うのか。返答次第では……その心臓、貰い受ける―――!」

 

ギッとランサーの鋭い眼光が私に向けられる。どうやら例え宝具を投影できたとしても本来の持ち主の許可を得ないと真名解放ができない、のだろう。

 

「どいてアーチャー。これは私の問題だから」

「いいのか」

「ええ」

 

アーチャーは真っ直ぐこちらを見つめる。少しした後、溜め息を漏らして道を開けた。

 

「まったく、物好きなマスターだ。正気じゃないのはいつものことだが。もしものときは露払いは任せろ」

 

白野はランサーの前へと出る。

 

「そんじゃ、聞かせてもらおう。何のために、俺のゲイ・ボルクを手にする」

 

「友達を助けるため。私はランサーより弱いし、誇りも高くないし、覚悟なんて薄っぺらいかも知れない。でも……私の目の前で誰かが死ぬのはもう見たくない。私はもう何も無くさないし、奪うこともしない。」

 

「敵も殺さないってか。そんな覚悟で戦うってのかい」

 

「ええ、そうよ。もし殺してしまったとしても……その罪を背負う覚悟はある。もう、あの時とは違う」

 

聖杯戦争。相手を殺すことしかできなかった自分。だから、私はもう誰も殺さない。誰にも殺させやしない。真っ直ぐランサーの眼を見る。例えきれいごとであろうと、それが私の矜持だ。譲るつもりはない。

 

「………っけ、雛鳥だった嬢ちゃんが一端の魔術師の顔しやがって。どことなくマスターと同じ眼をしている」

 

ランサーはゲイ・ボルクの構えを解く。そして、白野にゲイ・ボルグを投げ渡した。まさか投げ渡されると思わず、驚きながらそれを受け取った。

 

「その覚悟。最後まで突き通して見せろ。もし道を間違えるようなら、俺が嬢ちゃんの心臓取りに来る」

 

「いいの?」

 

「勘違いすんじゃねぇよ。俺は嬢ちゃんのことを認めたわけじゃねえ。お前の信条に肩入れしただけだ」

 

こちらを見ず背中で語るランサーに、白野は大英雄の貫録を見た。

 

アイルランドの大英雄。クー・フーリン

多くの功績を得たが、策謀の果てに奪われた自身の槍を受け、死ぬまで戦い続けた英雄。義と誇りを重んじ、自らの破滅を承知しながら槍を手に取った騎士。

 

「さっさと行け。急いでんだろ。こんなところで油売ってんじゃねえ」

 

「ありがとう」

 

「それは終わってから言いな。ったく、あのいけすかねぇ野郎には勿体なさすぎる女だぜ」

 

「な…! なに言ってるのよあんたは!」

 

「そうだぞランサー。もとより世話のかかるマスターには慣れている」

 

「………………」

 

「む、なんだマスター。何かまずいことでも言ったか?」

 

じーーっとなにやら黒い感情を抱きながらアーチャーを見つめる。今ならわかる。今なら

、鈴のことがすごく分かる気がする。

 

「………こいつでブッ刺していいかしら」

 

「なんでさ」

 

「だっはははははは!!! いいぜそれは大歓迎だ!」

 

「うるさいぞランサー」

 

爆笑するランサーと睨み付けるアーチャー。と、ここで時間を潰している訳にはいかない。

 

「と。こうしちゃいられない。帰るよアーチャー」

 

白野とアーチャーはその場所を後にする。急いで自分の体のもとへ戻る。そして選定の場から抜け出るとき後ろから

 

「どうせ嬢ちゃんのことだ。また誰か助けようとしてんだろ? そのお節介さは変わらねえな。俺のとっておきを使うんだ。ヘマやらかしたら承知しねぇぞ?」

 

いつもの、ランサーの軽声が自分を後押しするかのように聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

現実世界。そこではシャルルと自分と同じ外見の人形が死闘を繰り広げていた。六二口径連装ショットガン《レイン・オブ・サタディ》を撃ち相手にダメージを与えようとするが、人形は巨大なアイアンクローを地面に突き刺し、岩盤を持ち上げ盾として使う。そこに今度はロケットランチャーを撃ちこみ岩盤を破壊、間髪入れず五五口径アサルトライフル《ヴェント》を掃射する。しかし、煙が晴れるとそこには、手を大きく広げて防御の体制をとっている敵の姿が現れる。

 

「く、なんて堅い…!」

 

あの敵の外見から、接近戦はまずいと判断したシャルルは装備されている銃を使い応戦していた。しかし、有効な結果が出ず弾切れを起こすものが出始めている。

 

敵が動きだす。巨大な手を広げ、腰を低く姿勢をとる。

 

来る。と思い《デザート・フォックス》五九口径重機関銃を取り出す。案の定、敵はその両手を私に向けて射出してきた。戦って分かったことだが、あの手は基本本体と5㎝くらいの太さのワイヤーで繋がっている。斬っても動けることから必要ないのかもしれないが、今それを考えている場合ではない。

 

とにかく、動いて回避する以外道はない。シャルルはスラスターを全開、瞬間加速を使い、大きく右へと移動する。もとの位置から大きく動いたのであの攻撃は回避できる。すかざず手にした重機関銃を敵に向けた。

 

その刹那、自身のお腹に強烈な衝撃と痛みが襲った。

 

「う゛――!?かッ……ハ―――!!?」

 

気づいたときにはシャルルは手に持つ銃を離し、地面を転がっていた。先ほど自分がいた場所に敵が立っている。両手をズルズルと引きずりながら収納し、私の方へと歩いてくる。一体何が起きたのか分からない。映像を確認したいが、さっきの攻撃で呼吸がままならず身動きが取れない。

 

シャルルは知らない。最初の攻撃、敵が両手を撃ちだし、回避したときそれは手前で止まり地面に突き刺していた。そこから繋がるワイヤーをバネの様に曲げ、シャルルのほうへと体ごとぶつけてきたのだ。さらに瞬間加速を加えてダメージを強化。装甲がないお腹へ頭突きをくらわせた。

 

シャルルは胃からこみ上げてくる胃液を吐きだす。動かなくちゃいけないことは分かっているが治まらない痛みで呼吸が精一杯だった。そんな彼に近づいた彼女は、片足を掴み持ち上げ、容赦なく地面に叩きつけた。

 

「ブ―――!!」

 

一撃、ニ撃と何度も何度も叩きつけられる。どうにかして切り抜けようと薄まる意識の中、シャルルは掴まれている足の装備をパージした。

 

叩きつけられる前に切り離したので振り飛ばされる。ISが解かれ、待機状態に戻る。このままではアリーナの壁に激突してしまう。もうだめか、と思ったとき誰かが私を受け止める。

 

「ありがとうシャル。おかげで時間が稼げた。あとは私たちがやるからゆっくり休んでて」

 

消える意識の中聞こえてくる岸波さんの声。彼女は専用機を持っているが国家代表でも企業に所属している人物でもないただの一般生徒だ。

 

そんなことは分かっているのに、今の彼女は、とても頼りに見えた。

 

 

 

シャルを受け止めた白野は後退し、簪のいるところへと戻った。

 

「簪さん。この子をお願い」

「分かったけど……このお腹の傷じゃあ………」

 

シャルルのお腹は内出血しているのか黒く染まっている。このまま放置するのは危険だ。

 

「すぐに終わらせる」

 

彼女にシャルをお願いし、敵へと振り向く。人形は彼女から切り離された機体の一部を握りつぶしていた。それをゴミの様に投げ捨てる。白野と人形は相対する。その距離は50m。聞こえているか分からないけど、この人形の造り主に一言伝えた。

 

「終幕よ。その心臓、貰います―――!」

 

白野は人形へと疾走する。現在出せるだけの最速で近づく。それを許すまいと人形は右手を撃ちだした。真っ直ぐ向かってくる鉄の塊。それを右手に持つゲイ・ボルグで横に薙ぎ払う。

 

残り、40m

 

「疾ッ!」

 

一閃。たったそれだけで魔の右手は粉砕される。つづけて撃ちだされる左手に、投影した干将を投げつけた。

 

残り、20m

 

「壊れた幻想」

 

左手の真横で爆発させる。それにより若干ブレ、撃ちだされるも起動がずれて白野の横を通り過ぎる。

 

残り、10m

 

(マスター、ゲイ・ボルクに魔力を送れ!)

「投影、強化―――」

 

ゲイ・ボルクに魔力を回すと同時に投影の強化を上げる。より本物に近づくために。

 

残り、5m

 

そして、ゲイ・ボルクはくすんだ赤色から、血の様に赤く輝く禍々しい色へと変化した。

 

残り、3m!

 

(やれ! マスター!)

 

アーチャーの声に心の中で頷く。狙うはこの人形の心臓。それを破壊することに全神経を集中させる。

 

失敗は許されない―――!

 

「――――――刺し穿つ(ゲイ)

 

赤い魔槍はその禍々しい光をさらに強く放つ。槍全体に強力な魔力が帯びる。

 

「―――――死棘の槍(ボルク)―――――!!」

 

放たれた一撃が、人形の胸の中心へと、吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの終わりはあっけなく訪れた。その一部始終を見ていた簪はただの一般生徒である岸波白野が敵を倒したことよりも、彼女が手にする槍が気になっていた。

 放たれる一撃を躱そうと動く敵に対し、槍が屈折して当てたように見えたのだ。岸波さんが気を失っているときにじゃまだからと手から放したが、持ったときその重さに正直驚いた。私の勘が間違いじゃなければ、おそらくあれの材質は鉄だ。その槍がしなるのではなく、くの字に折れ曲がった。だが、敵から引き抜いた今は元通り真っ直ぐだ。私は幻でも見たのだろうか?

 

 そして、私が最も疑問に思うのは、あれがISを展開していない生身の私でも持つことが出来たこと。IS武器は見た目同様かなりの重さだ。それを生身の状態で扱うには訓練が必要不可欠である。わたしも家の関係で特訓はしているが、持つのが精一杯だ。なのに持てた、いやIS武器なのに以上に軽すぎる。それなのに、さっきの戦闘では全く折れなかった。見た目に反して想像以上に頑丈な造りなのだろうか? それを、完全に扱える彼女に疑問が生まれる。

 

本当にただの一般人なのだろうか? いくらなんでも場馴れしている気がする。

 

 岸波白野がこちらに歩いてくる。すでにガラクタと化している敵に背を向けて。だからだろう。それから、何かが光り、出てくる物に気がつかなかった。

 

それは、なんでか分からないけど1-2mくらいの大きさをした人参だった。それが計4つ出てくる。そこには4つのアルファベットが書かれていた。

 

 目を凝らす。いくら夜になり月明かりだけの薄暗いアリーナでも、暗部の家系である私には支障にならない。私の顔を見て気が付いたのか、岸波さんも後ろを見る。

 

「F……AE、B………?」

 

なんだろう? どこかで耳にしたことがあるような気がする。それを確認した岸波さんは血相を変えて私たちのほうへと走り出す。なにやら早口で口を動かしているが分からない。その間にあの人参からガス状の何かが噴き出し始めた。

 そのとき私は思い出した。名前は忘れたが、確か爆弾の中でトップクラスの破壊力と威力、そして殺傷能力の高い爆弾だ。記憶に間違いがなければ私たちは蒸し焼きにされるだろう(ISを展開している白野さんは助かるかもしれないが)

 

 可燃性のガスの臭いがここまで来た。あとは引火するだけ。私たちのそばまで近づいた白野はまだ何かをしゃべっている。

 

「―――――So as I pray」

 

それは、英語だった。何を言っているのか私には分からない。

 

 そして、爆弾に火が付いた。空気中に充満したガスに引火していく。巨大な炎の塊が私たちに襲い掛かる。一瞬の出来事のはずなのに、それはスローモーションのように見えた。そして――

 

「――――unlimited blade works.」

 

最後の一節が唱えられた瞬間、私たちは炎に包まれた。

 




最初はロー・アイアスの予定でしたが、燃料気化爆弾の特性上変更しました。

FAEB×4と密閉アリーナ → 発生した衝撃波が乱反射する

前方からなら大丈夫かもしれないが、後方からなると……と思いまして

感想、批評、評価。じゃんじゃんお待ちします。


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