【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
今日は鎮守府文化祭(仮)も最終日。
朝から慌ただしく準備が始まる鎮守府ではこの2日間、ゆったりとしてきた俺も慌ただしくしていた。
何故なら、急に新瑞から手紙があったのだ。
『そちらに皇国に派遣された艦娘を案内する。案内役を余分に用意しておいてくれ。』
との事だった。どういうことだと、俺は首を傾げたが、派遣されたという単語から連想できるのは海外艦だということ。だが、この鎮守府には居なくとも他の鎮守府にはドイツ艦やイタリア艦は存在しているだろうにと思ったが、取りあえず準備を進めた。
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最終日は午後3時から行われる横須賀鎮守府で一番輝いていた艦娘グランプリなるものがあるらしく、訪れた客から投票してもらい、順位を決めるというものだ。これはどうやら警備部が取り仕切るらしい。俺はタイムスケジュールに入れただけで知らない。
そんな事を考えていると、どうやら海外艦が来た様だった。
「すまない急に。」
「いえ、大丈夫です。」
そう言って車から降りてきた新瑞に俺は敬礼をした。
「命令書ではああ書いたものの、本当は提督の艦隊に移籍させてほしいんだ。」
いきなり新瑞はそう口走った。
「えっ?何言ってるんですか?」
「提督の艦隊に移籍させてほしい。」
そう言って新瑞は俺に資料を手渡した。其処には6枚の紙。それぞれに艦娘の顔写真が貼られていて、艦種と武装が書かれていた。
「どういうことですか?」
俺は少しだけ渡された紙を見ると、新瑞にそう訊いた。
「艦娘と鎮守府のイメージアップ戦略のつもりだ。それと大本営が運営する遠征司令部(遠征と鎮守府防衛のみを行う鎮守府)で建造されたのだが、司令部の司令官をその娘らは『提督』と呼ばないんだ。だが君の事は『提督』と呼んだ。だからだ。」
そう言われて少しこんがらがったが、要するに後者が本音ということだそうだ。俺はもう連れてきてしまったものだから追い返すわけにもいかないので、渋々首を縦に振ってしまった。
「そうか。ありがとう。彼女らは次に到着する車に乗っている。艤装は同時に着くトラックに載せてあるので、夜にでも埠頭の方に浮かばせておけばいい。」
そう言って新瑞は手をひらひらとして乗ってきた車に乗って行ってしまった。
俺は受け取った書類を改めて目に通し、溜息を吐いた。どう艦娘たちに説明しようか......。
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私は車に揺られて、遂に念願の横須賀鎮守府に移籍になった。司令部の高官に頼むこと1ヵ月、手配に一週間。どれ程待ち焦がれたことか。
全ては私が見た『提督』の為にだ。
提督の姿を見たのは、司令部にテレビが設置されて間もないころだ。大型艦である私が出撃することなどなく、暇を持て余してテレビを見ていた時、たまたま横須賀鎮守府艦隊司令部の艦隊の観艦式の様子がテレビに映し出された。そこに映った、大本営高官と共に座るあまりにも若い男。彼をあの場に居た艦娘は揃って『提督』と呼んでいた。
私はこの司令部の高官をそんな風に思ったことはないし、指揮を受けようだなって思ってもない。それは私と同じ出身の艦娘も同じようで、私と共に移籍を願った。
「ふふっ......楽しみね。」
私は楽しみで楽しみで、窓から近づいてくる横須賀鎮守府を見るだけで頬が緩んだ。それは一緒に乗っている私と同じことを思った艦娘も同じで、皆嬉しそうにしている。
早く提督に会いたい。私はそんなことを考えて車に揺られた。
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臨時ということで、手の空いていると言った足柄を連れて誰も出入りしていない入口で待っていた。
「提督?一体何なの?」
「まぁ......な。」
俺はそう呟き、門の向こうを眺めた。それはこれからここにやって来る艦娘の為だ。
「まぁ、いいわ。」
そう言って足柄は姿勢を崩して、俺と同じ方向を向いた。
てっきり足柄は事あるごとに絡んでくるものだとばかり思っていたが、それは間違っていて、どうやら好戦的な艦娘でしっかりしているお姉さんみたいに思われているらしい。
だが俺はある事を思い出していた。この足柄、近衛艦隊なのだ。どういった意図で所属しているかは知らないが、近衛艦隊だ。注意を払ってないと、これから来る艦娘に攻撃的になってしまうかもしれない。
俺は空気を余分に飲み込んでしまった。
「あら、提督。何か勘違いしてないかしら?」
「......何が?」
足柄は俺の方を見るなりそう言った。
「私は確かに『近衛艦隊』よ。でもね、好きで居る訳じゃないわ。暴走する那智姉さんと羽黒のストッパー役よ。勿論、妙高姉さんもね。」
そう俺の心を見透かしたように言った。
「そうか......。」
「だから心配しなくていいわ。」
そう言った足柄は俺の肩をポンと叩いた。
そんなことをしていると、門の前に車が止まった。止まった車は新瑞が乗ってきた車と同じ車種だが、大きめだ。そしてその後ろには大きなトラック。間違いない。
「許可を。」
「いいですよ。」
俺は車から降りてきたドライバーにそう言うと、ドライバーは戻って車を門から中に居れた。ちなみに門の開閉は門兵に頼んである。
車は侵入してきて俺の前に止まると、ドアが開かれた。
そこから新瑞から受け取っていた資料の艦娘が出てきて、整列をした。
「私はビスマルク級超弩級戦艦 ネームシップ ビスマルクよ。」
「私は重巡 プリンツ・オイゲンです!」
「駆逐艦 レーベレヒト・マースです!」
「駆逐艦 マックス・シュルツです。」
「潜水艦 U-511......です。」
「グラーフ・ツェッペリン級航空母艦 グラーフ・ツェッペリンだ。」
そう言って彼女らは敬礼をした。
「現時刻を持って貴艦隊に移籍するわ。提督、よろしくね。」
俺は書類を見て分かっていたが、付いて来てもらった足柄は口をポカーンと開けていた。
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俺は足柄を正気に戻した後、執務室に全員を連れてきていた。
「俺は横須賀鎮守府艦隊司令部司令官、提督だ。よろしく。」
そう言って俺は被っていた帽子を取った。
そうするといきなりビスマルクが頭を下げた。
「急な話、ごめんなさいっ!新瑞さんに無理言って移籍させて貰ったの......。」
そう言ったのと同時にプリンツたちも頭を下げた。
「知ってる。だから顔を上げて。」
そう言って俺は6枚の書類を置いた。
「こっちもいきなりだから色々と準備してなくてね、今は催しでどこも手が空いてないんだ。君たちの為の準備は後回しになるが構わないか?」
「えぇ。」
俺は頭を掻きながら言った。
「よし。なら、俺は歓迎する。ようこそ。」
そう言って俺は立ち上がった。
「ありがとう。」
そう言ったビスマルクに続いて他の艦娘も続けざまに礼を言った。
「まぁ詳しい話は後で、今はウチで開かれている文化祭(仮)を楽しんできてくれ。その後にみんなに紹介するから。」
「「「「「「はい!」」」」」」
「足柄は秘密にしておいてくれ。」
「分かったわ。」
「じゃあ解散。それと足柄、もう一つ。」
俺は解散の号令を掛けたら、出て行こうとする足柄を引き留めた。
「ビスマルクたちの案内、頼めるか?」
「えぇ、了解よ。」
足柄はすんなりと頼まれてくれた。足柄が連れて行く6人を見送った後、俺は背伸びをして置いた書類を纏めておくとステージ裏に向かった。
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ステージ裏に向かったのは特に意味はない。
やる事が無かったのと、単なる暇つぶしだ。ここでは午後から行われるグランプリの準備が行われていたので、それを手伝っているに過ぎない。
あれこれと増える仕事に手伝いつつ、懐かしい雰囲気を味わっていると、セットは完成してしまい、準備が整ってしまった。
そして、それのほんの数時間後、グランプリのステージが始まった。
司会進行は昨日も見た記憶のある霧島と、那珂が務めている様だ。最初は2人のトークから始まり、すぐにグランプリ発表が始まった。順位は5位からつけられるらしく、鎮守府全体のスピーカーから音が出るようなので、多分他のところの人たちはラジオ感覚で聞いているのだろう。
「グランプリ、第五位は......。」
ドラムロールのなる効果音の後、艦娘の名前が挙げられる。
「露店 蕎麦屋の夕張!」
そう霧島が言うとワ―と歓声が上がり、モニターには夕張の写真が映し出された。
「えー、選ばれた理由ですが.......回転の速い厨房に比べて焦りながらせっせと運ぶ姿が可愛かった、接客の笑顔が良かった、何もないところで転びかけている姿が微笑ましかった、などでした!」
そう言う風なのかよと内心ツッコみながら聞いている。
「続きまして、第四位は......。」
ドラムロール以下略
「アトラクション、艤装試乗の伊-168、イムヤです!」
「理由ですが......潜水艦に初めて乗った、潜水艦の中の説明が判り易かった、無茶振りでも笑顔で応えてくれた、などです。何をやったか気になるところですが、次に行きましょう。」
霧島は持っていた紙を捲ってマイクを持ち直した。
「第三位は.......。」
「案内役、天龍!」
「理由はですね......外見は怖いけど接してみるととても優しい娘だった、小さい子の面倒見が良くてどこへ案内されるのも安心できた、たまに挟む話もとても面白かった、だそうです。」
どんどんと進んでいくグランプリの結果に気になるところがあった。
警備部が仕切るこのグランプリだが、決めてどうするのかという話だ。俺はミスコンみたいなものかと思っていたが、聞いてる限りそういうものでもない様だ。
「続いて第二位は......!」
ドラムロールの音が大きくなり、ライトも使ってそれっぽい演出が入った。
「露店、戦術指南、時雨!」
「これに関してはコメントが長いものが多かったため、1つだけ読み上げます。......戦術指南を聞いたけど、話の内容は難しく専門用語が多かったが、逐一説明を分かりやすく入れてくれていたのでとても面白かった。時雨さんの様な先生が欲しい。......ですね。」
そして最後になった。最後の発表には結構大がかりで、選ばれた艦娘はステージに上がらなければならないらしい。
「栄えある第一位は......!!」
ドラムロールが第二位の時より一層大きくなり、ライトも演出が激しくなった。
「......露店、榛名!」
第一位だったのは榛名だった。何故選ばれたのかはなんとなくだが、想像はつく。
「コメントが膨大で集計が今でも続いてます。一部、抜粋しますね。......丁寧で笑顔が素敵だった、御淑やかで町中に居たら絶対注目を浴びる、アイドルかと思った......他にもたくさんあります。では、榛名は上がってきてください。」
そう霧島が言うと、顔を真っ赤にした榛名が舞台下に来た。
「霧島......緊張して話せそうにないです......。」
そう言って顔を俯いて言う榛名に構わず霧島は舞台に引っ張り上げた。
「少し彼女は緊張してるみたいですが、彼女が榛名ですね。ちなみに私と同型です!」
そう言って霧島は榛名と自分の頭にあるカチューシャを指差した。
「では、これにてグランプリの発表を終わります!引き続き、鎮守府文化祭(仮)をお楽しみください!」
こうしてグランプリ発表は終わった。選ばれた艦娘は一応景品的なのを貰えたようだが、俺には教えてくれなかった。
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俺が一息ついて舞台裏に出ると、足柄が待っていた。
「ビスマルクたちの案内は終わったわ。一応、聞かれた艦娘たちには『日本在住の外国人の方』って言っておいたけど良かった?」
そう俺に言って来た。
「あぁ、多分大丈夫だ。」
「そう......。そうそう、少しいいかしら。」
そう言われて俺は足柄に着いて行った。
何か話があるようだが、俺は内容は見当がつかないがどういう話になるかはなんとなく想像がついた。
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連れて行かれたのは執務室だ。外のにぎやかさが聞こえてくるが、その場に流れる雰囲気は外とは違っていた。
「『近衛艦隊』について、私から話しておくわね。」
そう足柄は切り出した。
「近衛艦隊についてどこまで知っているかはさて置き、提督に話しておかなくちゃいけないと思ってね。」
そう言って足柄はソファーに座った。
「近衛艦隊は『提督への執着』が強い艦娘によって構成されているって言われてるけど違うわ。『提督への執着』が強く、攻撃的になりやすいのは首領と幹部、那智姉さん、羽黒、名取、暁、雷だけよ。他は監視ね。榛名は金剛と鈴谷を、鳳翔は加賀を、長良と由良は名取を、暁は響、雷は電、神通は那珂、叢雲は全員で監視しているわ。」
そう言って足柄は溜息を吐いた。
「少なからず『提督への執着』が備わっている私たちは提督の身の危険は察知できるわ。でも、金剛や那智姉さんよりは遅い。それにあそこまで攻撃的にはなれないわ。殺したくなる衝動に駆られたのは貴方が撃たれた時だけ。」
俺は足柄の向かいに座った。
「だから勘違いして欲しくなかったの。近衛艦隊が何かをやらかしても私たちは違うって言えるようにね。」
そう言って足柄は首を振った。
「それと言っておかなくちゃならない事があるの。」
足柄は俺の目を見た。鋭い目で、さながら餓えた狼だ。
「金剛と鈴谷は監視していてもダメだわ。すぐに姿を眩ます......。これまでは無かったけど、今後もしかしたら彼女たちの独断で誰か人を殺しかねないわ。」
そう言って足柄は立ち上がった。
「さ、こんな話してたら辛気臭くなっちゃったわ。外行きましょうか。」
そう言われて俺は黙って頷いた。
足柄に言われて思い当たる節がいくつもあった。確かに金剛と鈴谷はどこからともなく現れる。その理由がはっきりとしたのだ。それと俺はやはり『近衛艦隊』を誤解していた様だ。半分が実は監視だったなんて思いもしなかったからだ。そして具体的な名前と人数を聞いたのはこれが初めてだった。
俺は気分を入れ替え、外に繰り出した。
遂に海外艦が登場ですね。今回は特殊という意味で、移籍という理由を使わせていただきました。違和感があれば教えてください。
それと新たに分かった近衛艦隊の実態......。たぶん想像していた人もいるでしょうね。
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