【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第七十八話  提督の嘆き⑩

「最大戦速で突っ込む!我に続け!!」

 

私は無線で艦隊にそう叫んだ。

戦艦と重巡で構成された迎撃艦隊。航空支援も絶望的なこの状況で、危機的状況を打破するにはこうするしかない。頭の中ではその事だけしか考えてなかった。

敵艦隊がどんな編成で、どれだけいるかも知らされてない現状、突撃は死を意味しているが、しなければ鎮守府が何より提督が危険だ。今はシェルターに守られているが、シェルターもいつまで持つか分からない。

それに空母の艦娘が近隣住民の救出を申し出た。私にとってこの皆の行動は異常だ。鎮守府が攻撃されていると言うのに、提督の心配でなく、外の心配をしたのだ。何故だ。

そんな考えが頭の中を巡り、荒らす。

 

「敵艦隊見ゆ!」

 

視界に映る深海棲艦の艦隊。距離的にはそうだろうと薄々感づいていたが、やはりそうだった。戦艦と重巡主軸の水上打撃部隊。しかも数は12。厄介だ。

 

「砲撃戦用意っ!」

 

私の指示で妖精たちが慌ただしく動き始める。給弾、残弾確認、配置確認......。

 

「ここで食い止めるっ!」

 

私は火ぶたを斬りおとし、終わるか分からない戦闘に突入した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「皆......行ったな。」

 

俺はモニターを見ながらそう呟いた。そして自分の非力さを呪った。

艦娘たちの戦闘をこんな近くで感じる事が無かったが、今こうして出撃していった。鎮守府を守るためだ。

モニターには迎撃に出た伊勢と救助に向かった瑞鶴らの艤装がもう点になって見える。この鎮守府に残っているのは北上と大井、それとレベリング待ちの駆逐艦らと古鷹、加古、青葉、衣笠だけだった。

秘書艦も出撃してしまった。

 

「無事に戻って来いよ......。」

 

俺は唯祈る事だけしかできなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は任務、遠征艦隊として資源の運搬を普段しているが、今日の海の雰囲気に違和感を覚えていた。

いつもの静かな海じゃない。直感でそう感じたのだ。

 

『天龍ちゃん?』

 

「あぁ、わりぃ。」

 

僚艦である龍田に心配をかけてしまった。取りあえず、資源は回収してバーナーも手に入った。これで万年枯渇していた資材も少しはマシになるだろう。

一方でお供の第七駆逐隊の艦娘たちは元気な様だ。さっきからずっと無線で会話をしている。その内容は至って普通だ。昨日のご飯は美味しかった、酒保で何を見つけた、今日は提督に会えるか、とても楽しそうだ。

だが俺はとてつもない不安に心が蝕まれていた。

 

「......全艦。」

 

俺がそう呟くと皆は静かになり耳を傾ける。

 

「全艦、持っている資材を破棄しろ。」

 

『えっ......どういう事?』

 

『天龍さん、一体どういうことですか?』

 

『何かあったんですか?』

 

『......。』

 

『......。』

 

皆驚き、質問を飛ばしてくる。

だが2人は違った。曙と潮だ。

 

『了解。資材を投棄します。』

 

『分かりました。』

 

曙と潮の艤装からドラム缶やコンテナが海に投げ出されていく。

 

『一体どういう事。天龍ちゃん。』

 

龍田がそう訪ねてくる。

 

「嫌な予感がする......。最大戦速で鎮守府に向かう!会う深海棲艦は無視だっ!!!」

 

俺は妖精にエンジンを最大まで出力を上げてもらい、鎮守府を目指す。一刻も早くたどり着くためだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が地下に潜ってから3時間以上経った。相変わらずどこの艦隊も戻ってこないが、今の状況が分からない。

 

「状況は。」

 

「依然変わりません。」

 

こちらも手詰まりだ。それに艦砲射撃でSPYレーダーが破壊された様だった。レーダーも使えない。もうこの鎮守府に残されたのはCIWSのみ。伊勢らが撃滅して戻ってくるのを祈るしかなかった。その刹那、CIWSが動き始める。

 

「敵艦載機急降下!」

 

そう妖精が言ったときにはもう遅かった。

半壊していた本部が吹き飛んだ。

 

「敵艦載機群接近!」

 

そう叫びモニターには空を黒く染める艦載機がこちらに向かってきていた。それに応戦するCIWSも発射速度が速いので時間が経てば弾が切れる。次第に動かなくなるCIWSを数え始めるとキリがない。その間もどんどん爆撃は続き、被害のなかったものにまで出始めていた、そんな矢先、無線が入った。

 

『司令官!対空射撃くらいなら出来るわ!』

 

その声は暁だった。そして無線と同期されているモニターには残っていた艦娘全員が映っていた。

 

『陸上で艤装を展開すれば砲台くらいになるさ。』

 

そう響がすまし顔で言った。

 

『大丈夫よ!実は避難中に私たちは対空機銃に換装してあるから!』

 

『大丈夫なのです!』

 

そう雷、電も言った。

 

『心配ないです!』

 

『鎮守府をこれだけ痛めつけられていて黙ってなんてられないわ!』

 

『駆逐艦の底力見せてやろー!!』

 

そうバックで叫ぶ駆逐艦の艦娘。

 

『だから心配しなくていいわ。陸上で艤装を出すなら轟沈の心配もないしね......。司令官、見ててよね!!』

 

そう言って俺の返事を聴く間もなく無線は切られた。

 

「くっ......駆逐艦の艦娘まで......。」

 

俺は机を殴った。

 

「提督っ......。」

 

横に立つ武下も悔しそうな表情をしている。

 

「私たちにはできる事がありません。せめて、せめて無事に帰ってきてくれることを......。」

 

そう武下は言った。

そうしているとモニターに駆逐艦の艦娘たちが映り、運動場に均等に並んだかと思うと、それぞれの身体が光だし、その場に艤装が現れた。そしてそのモニターが丁度音声を拾っていた。

 

『駆逐艦の咆哮よ!!思い知れーーーー!!!』

 

そう叫ぶ暁の声を拾っていた。そしてその掛け声と同時にそれぞれの艤装から火が上がり、対空射撃が始まった。合計何十、何百という対空機銃が火を噴き、上空の深海棲艦の艦載機に襲い掛かる。

そんな様子を見て、視線を下にずらした。運動場の土にそれぞれの艤装が刺さっている。というか喫水線にまで土に埋まり、それが何十とあった。

 

「......。」

 

俺はその光景をただ茫然と見ていただけだった。

そして駆逐艦の艦娘たちを映していたモニターが映らなくなった。どうやらカメラに被弾したのだろう。

次々と消えていくモニターを茫然と見つめていた。爆撃が激しさを増し、駆逐艦の艦娘が身を挺して防空しているにも関わらず、爆撃を許しているという事は、相当な数に襲われているのだろう。俺はこんな風に冷静に分析をしている一方、この状況は実は夢なんじゃないかと思い始めていた。きっと悪い夢だ。そう考える事で現実から逃げ始めていた。

 

「俺は本当にどうすればいいんだ?」

 

そんな考えが頭の中を駆け巡った。

 

「俺には何ができるんだ......!?」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

その頃、島陰に隠れていた黒い塊が動き出した。護衛は駆逐艦のみ。一際大きな艦影を海面に漂わせ、艦橋に立つグレーの髪を揺らす少女は口元を歪ます事無く、腕を挙げた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は葛藤していた。

皆が死と隣り合わせで戦っている。俺はそんな中、何もできずにただ安全なところに居るだけ。皆に守られ、皆に助けられ......。情けない。

 

「俺にやれることは......。」

 

そう言って辺りを見渡す。そしてそれを目に捉えた。

 

「全艦娘に繋げてくれ。」

 

俺はそう言って手に取る。そして口に寄せ、開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦え......戦えっ!!!!戦えっ!!!!!!戦えぇぇぇぇぇえええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

届いたか分からない、俺の叫び。俺がしてやれる精一杯の事だ。それはただ戦う艦娘に戦えと言う事。鎮守府が攻められたから、何か守りたいものがあるのかもしれない。そんな艦娘たちに戦う『意味』を俺は増やした。もしかしたら鎮守府は全壊して、再建不可能に陥るかもしれない。守りたいものを守れないかもしれない。そんな不安定な理由に俺は強固な戦う『意味』を増やした。少なからず『提督への執着』のある艦娘たちに提督である俺が叫ぶ『戦え』という言葉は大きな意味を持つだろう。

これを聴いた人は頭がおかしくなったのかと勘違いするかもしれないが、聴いた艦娘は意味が理解できる筈だ。そう信じたい。

 

「ハァハァ......。」

 

叫んだ俺はマイクを置き、息を整える。その刹那、頭上で爆発音。衝撃波が伝わり、視界が暗くなった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

一際揺れる地面に違和感を覚えつつも対空射撃をしていた私は合間に辺りを見渡した。何となくだが、嫌な予感がする。

 

「妖精さん、継続して対空射撃をお願いします!」

 

そう言って艦橋の窓に走り寄り、辺りを見渡す。さっきまでなかった大穴を私は発見した。場所は.......

 

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__________シェルターの直上

 

 

 

 

「あっ.......あぁぁぁぁぁぁ。」

 

私は思考が停止してしまった。これは何かの間違い、悪い夢のような気がする。

そんな私を心配したのかこの状況をまだ確認していない荒潮が無線を入れてきた。

 

『どうしたの?』

 

「あぁぁぁぁ......あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

叫びながら引っ叩く私の頬はジンジンと痛む。これは現実だ。

 

「あぁぁぁぁぁ.......荒潮っ......荒潮っ!!!」

 

『何っ......よっ......えっ?』

 

荒潮も状況に気が付いた様だ。陥没する地面を見つめているのが艦橋越しでも見える。次第に私の視界はぼやけ、頬を涙が伝う。

 

「あそこは......あそこにはっ!!司令官がっ!!!!司令官がああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

そして私は視線をずらし、妖精に言った。

 

「対空砲火、増強です。早くっ!!!!」

 

そう言うと妖精は慌てて動き出し、走って行ってしまった。

 

「朝潮より防空艦隊......。対空射撃に集中しながら聞いて下さい。......先ほどシェルターの直上の地面が陥没しました......。状況は分かりませんが、あの陥没です......。一刻も早く艦載機を殲滅し、救援を呼びましょう......。」

 

私はそこから上空を見上げ、睨んだ。

 

「攻め入った事、後悔させます......。」

 

殺意が込み上げてきて、もう止めれそうにない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

目の前が真っ暗になったのに気づき、たまたまポケットに入れていた携帯端末のライトの機能を使って辺りを照らした。

辺りは天井が崩れた様だが、機器に全て乗り、九死に一生を得た状態だった。だがここも危険だ。俺は辺りに居る筈の武下を探した。妖精はさっきから足元をちょろちょろしているが、どうやら出口の確保をして居る様だった。

 

「武下大尉!」

 

叫ぶと返事が聞こえる。俺は其処に走り寄ると、頭から血を流した武下を見つけた。ぐったりした様子で持たれている。

 

「大丈夫ですか?!」

 

「大丈夫ですよ。破片で切っただけですので......。」

 

そう言って武下はハンカチを持っていたのか、それで傷口を抑え、姿勢を低くした。

 

「妖精たちが出口の確保をしています。ちなみに妖精は全員健在で、私の部下は救出に出た艦隊に乗り込ませていますのでここに居る人間は私と提督だけですからね。」

 

そう言って武下は笑った。

 

「そうですか......そう言えば、間宮と伊良湖は?」

 

「どうやら救出艦隊、瑞鶴さんに着いて行ったようです。食料を運ぶ設計ですが、人も多分運べますよ。」

 

そう言って武下は滲んだハンカチを裏返し、また傷口にあてた。

 

「すぐに出口は開きます。外に出ましょう。」

 

そう言われて俺は武下の横に腰を下ろした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は不安に押しつぶされそうになりながらも、鎮守府を目指して全速を出していた。艦隊もそうだ。艦隊には私、陸奥、扶桑、山城の低速艦が居るので、かなり機関室に無理をさせている。しかも普段の最大戦速では出せないだろう速度を出している。

 

「赤城っ!」

 

私は無線にそう叫び、今の状況を訊いた。

 

『先ほど、偵察機が帰ってきました......。鎮守府は現在......深海棲艦の爆撃を受けている模様です。』

 

それを訊いた瞬間、私の身体に電流が走った。

朝は何ともなかったかのように思えた鎮守府で今現在、深海棲艦から爆撃を受けているとの事。次第に視界が揺らぎ始め、同時にふつふつと何かが立ってきた。

 

「ここから零戦隊を出せないか!?」

 

『もう出してます!それと偵察機に周辺海域の捜索を頼みました。時期に襲っている艦隊が見つかると思います。良かったです......たまたま装填はしてませんでしたが、実弾が格納庫にあったので。』

 

そう赤城が言う。

 

『......戦艦の私たちは、演習弾しか積んでないわ。行っても役に立つとは思えないわ。』

 

扶桑がそんな消え入りそうな声で言った。

 

『それに私たちの艤装には演習弾で被弾した時のペンキがべっとりと付いてる......海域に入っても目立つだけよ。』

 

山城が続けて言った。

 

「そうだな......だが、何もせずに指を咥えて見ているなど、できるものか!?」

 

そう言って私は近くに居た妖精に訊く。

 

「実弾は弾薬庫に入っているか?!」

 

そう訊くと妖精は頷いた。

 

「私のには実弾が載っている。私だけでも吶喊する!」

 

そう宣言すると、陸奥も無線で答えた。

 

『あら、長門。私のにも実弾が載ってたわ。私も加勢させていただこうかしら?』

 

私はふふっと笑い、息を呑み、口を開いた。

 

「赤城、加賀。私には直援は要らん。鎮守府上空の防空に全て回せ!」

 

『分かりました。』

 

『了解です。』

 

頬を叩き、顔を上げる。そして居るであろう深海棲艦の方向を睨んだ。

 

「扶桑、山城はどうするんだ?」

 

そう訊くと、一応無線は入っている様だが応答を考えている様だった。そしてすぐに答えが返ってくる。

 

『......戦列には加わるわ。』

 

「なにっ?!」

 

演習弾しか積んでいないと言った扶桑がそう言いだした。

 

『でもあくまで戦艦の数で圧倒するだけよ。砲撃はするけど効果のない演習弾。それだけで威嚇にはなるはず......。』

 

そう言って扶桑は妖精に指示を出していた。

 

『私は姉様に着いて行きます。』

 

どうやら山城も参加する様だ。

 

「赤城と加賀は丸裸になるがいいか?」

 

『えぇ。』

 

『大丈夫よ。』

 

2人も返事をくれた。

 

「では、目視出来次第突撃する!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

妖精たちが出口の確保をし始めて1時間ほど経った。その頃には出口が出来、人が這い出る程度の穴が開けられていた。

妖精たちが安全を確認すると言って聞かなかったので、先に行かせたがどうやら安全だった様だ。俺と武下はすぐに呼ばれて、這い出る。だが、出るまでに時間が掛かる。這って5分ほど進むと、光が差し込み視界が開ける。

急に光を見たので見えなかったが、次第に視界が鮮明になっていくのと同時に現状を把握する事が出来た。

崩れた本部棟。跡形もない工廠。辛うじて部分部分残っている酒保。警備棟に関しては更地になっている。そしてその先にある滑走路は未だに黒煙を吐き出して燃えている。何より目に入るのは、シェルターがグラウンドの真下で、その周りを囲む駆逐艦の艤装。どれもあちこち拉げていて、炎上しているものもあった。そして俺が這い出てきたところ、そこは大きく陥没し、その穴を茫然と見つめる駆逐艦の艦娘の姿があった。全員煤を被り、痣だらけ。服は破け、ボロボロになっている。そしてその表情も絶望、ただそれだけだった。

俺はそんな光景に言葉を発することもできず、辺りの状況を見ているだけだった。

 

「司令官......。」

 

そう誰かが呟いた。

 

「勝ちましたよ......。敵機は全部撃ち落としました。総勢200超。これって大戦果ですよね......。」

 

呟いていたのは朝潮だった。

 

「私たち、経験のない駆逐艦がここまでやれたんですっ......。なのにっ............。」

 

朝潮は地面の砂を握った。小さな手は砂を掴み、力を込める。

 

「なのにっ......あんまりですよ......。せっかく............せっかく、司令官に居てもらえるようになったのにっ!!」

 

大粒の涙が地面に降っていた。

 

「こんなのっ......こんなのっ......。あんまりですよ......。司令官。」

 

そう呟いた声で俺は我に返り、歩みを進めた。

朝潮の周りは朝潮と同じようになってしまっている艦娘が居る。数を数えると全員居る様だ。良かった。

 

「司令官っ......。」

 

「なんだ?」

 

俺は朝潮の声に答えた。

 

「司令官?」

 

「そうだが?」

 

そう言うと朝潮は地面を見つめていた顔を上げてこちらを向く。いつもの顔で無く、年相応というか、身体から見た年齢相応の泣き顔。目を腫らし、鼻を染め、口はへの字になっている。皆そうだ。

 

「司令官っ!!!」

 

そう叫ぶと全員が飛びあがり、俺のところに駆け寄ってくる。

 

「のわぁ!!いきなり飛びつかないでくれ......。」

 

「司令官、司令官、司令官......大丈夫だったんですね!!」

 

「あぁ。奇跡的に。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

この後、演習艦隊や伊勢が率いた迎撃艦隊、瑞鶴が率いた救出艦隊、遠征艦隊が続々と帰還してきた。演習艦隊と遠征艦隊は機関に無茶をさせた様でオーバーヒート寸前だったらしいが、間に合ったとの事。迎撃艦隊はどうやら交戦中に敵の背後から長門らが吶喊してきたのを気に一気に押し込み、殲滅したらしい。瑞鶴ら救出艦隊は爆撃が飛び交う最中を近くの港を転々と周り、深海棲艦の攻撃にさらされた人は1人も居なかったとか。護衛艦が身を挺して守り抜き、全員送り届けた頃には鎮守府上空の敵機は居なくなっていたとの事。遠征艦隊は異変に気付いたそれぞれの旗艦、天龍、球磨、名取が資源を投棄して全速力で戻ってきた様だった。

 

「皆......。」

 

俺は瓦礫に座っている。そんな俺の正面に全員が並んでいた。

 

「助かったよ......。それと想定外の事態が連鎖して起きた今回の襲撃は俺の采配ミスだ。」

 

全員が俺の方を見ている。

 

「......長門。」

 

「なんだ......。」

 

俺はある仮説を考えていた。それはこの世界で起きたこれまでの出来事。それを裏付ける話。

 

「俺を......俺を呼び出して、良かったと感じてるか?」

 

「えっ......?」

 

長門は俺の不意な言葉に困惑している。

 

「長門や他にも話した事があるかもしれないが、俺の居た世界の話をしよう。」

 

俺はそう言って服のフォックを外した。

 

「俺の居た世界では......この世界は『艦隊これくしょん』というフィクション、つまり作り話だ。」

 

「そして俺の座る席。それは『艦隊これくしょん』に置いてのプレイヤー、つまり遊ぶ人だ。」

 

「この世界は俺の居た世界では『遊び』だった。」

 

「長門の様な艤装を身に纏った女の子たちを指揮して深海棲艦と戦い、海を解放していく育成型ゲーム。」

 

「プログラムだったんだ。君たち艦娘はカードとなり、編成し、海域に出撃させ、損傷すれば入渠させ、足りなくなれば建造をする。そんなプログラム。」

 

「元は俺は軍艦とかが好きだったってのもあって興味を惹かれた。そして始めたんだ。」

 

そう言って俺は一息ついた。周りは黙って聞いている。

 

「新米少佐から初めて、初期艦は吹雪だったな。」

 

「そこから仲間が増えて......ある日突然目の前が真っ白になった。」

 

「そこから気が付いたらこの世界だ。大淀に連れられ、長門たちと出会い、ここでの生活を始めた。」

 

「最初はここから離れる事も出来たんだ。俺の意思で。だがそれをしなかった。」

 

「何の力でこのような事が起こり、そして今後どのように俺の居た世界に影響を与えるのか......。それがここに留まった最初の理由だ。」

 

「どうだ......元は俺は艦娘の事を考えて残ったわけじゃない。自分の世界を、自分を心配して残った。それにほんの少しの好奇心。」

 

「..................でも今回ので分かったよ。『俺たち』は無責任に他の世界で戦争を強いてきた。」

 

「自らは全く安全な世界に居て、艦娘たちは自らの身を投げ打って深海棲艦と戦う。そんな事をだ。」

 

「だけどそれはこちらに留まる事を決めてからも変わらない。本土が深海棲艦に攻撃されるという脅威はあるものの、艦娘に守られ、艦娘に世話になり、艦娘に戦争を強いた。」

 

俺は込みあげてくるものを必死に抑えた。

 

「話を戻そうか......。俺はそんな中、ある事に気付いた。」

 

俺が言いかけると全員が息を飲む。

 

「......気付いているんじゃないか?長門。」

 

そう俺が訊くと長門は黙って頷いた。

 

「夕立の帰還......雷電改の開発......存在するはずのない富嶽の開発......隼、疾風の開発......鎮守府に滑走路を建設......。そして、深海棲艦に見られたという戦術パターンの変化......今日の深海棲艦の本土攻撃......。何時から始まった?」

 

長門は答えない。俯いたままだ。

 

「それは........................

 

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__________

 

 

 

 

 

 

俺がこの世界に来てからだ。

 

 

 

 

 

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______________________________

 

 

__________

 

 

...........................。」

 

 

「俺がこの世界に来てから起きたことだ。これまでイレギュラーが起きてきたが、全ての元凶は俺だ。夕立が帰ってこれたのも、あるはずのない航空機が出来たのも、滑走路が出来たのも、深海棲艦の戦術が変化したのも.......鎮守府が襲われたのもだ。」

 

そう言って俺は腰に手を掛ける。

 

「数多とある鎮守府は、今日も俺の居た世界から来る指示で進撃し、海域を取り戻しつつあるんだろう?」

 

そう言って俺は立ち上がる。

 

「俺が入り込んだせいで起きたバグだ......。いつかは消される。」

 

俺は腰のものを引き抜いた。

 

「ダメっ!!ダメ、ダメデース!!何考えてるデスカ!?」

 

金剛が俺の手に握られているものを奪いに来る。

 

「良いのかっ!?俺が現れたせいでいろんな事象が変わっているっ!!またいつ起こるか分からないイレギュラーに俺はどう対応すればいいんだっ!!!それにこの世界はたとえゲームの中だとしても生きてる人がいるっ!そんな数えきれない人たちを俺の存在一つと天秤に掛けられるかっ!!!!」

 

「それでも、提督は私たちに必要デス......。帰ってくる場所、帰りを待つ人、そこの提督が居る事が必要なのデス......。」

 

「そりゃ自己中じゃないか......?」

 

「勿論。」

 

そう言われて俺は腕を下す。その手に握られている物を金剛は奪った。

 

「強引じゃないか?」

 

「これくらいで丁度いいデス。こんなモノ、そもそも要りマセン。私たちが居るからネー。」

 

そう言って金剛はポイッと後ろに投げた。

 

「何が起きようと、私たちは提督に着いて行きマス。」

 

「どう変化しようと、私たちは提督から離れマセン。」

 

「帰る場所を失っても帰りを待ってくれる人がいるならば、私たちは戦場に出マス。」

 

「そしてちゃんと帰ってきますカラ......。」

 

そう言った金剛の言葉に俺は決心がついた。

もう迷わない。もう悩まない。この世界から出れないと言うのなら、もがいて生きて行こうと。

 

「......分かった。」

 

俺はそう言ってフォックを締めた。

 

「全員注目っ!!!」

 

そう叫ぶ。

 

「俺たちの家を荒らした馬鹿野郎に仕返しだっ!!!!!」

 

「「「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」

 

そう叫んで返事を返したのは艦娘たち、門兵、鎮守府に務めて救援艦隊の手伝いに着いて行った事務棟の人たち。

 

「だがその前に再建だな。というか腹減った......。」

 

そう俺は腕を下して言うと、全員が滑っていた。この昭和ノリ、俺は嫌いじゃない。

俺は前に突き進むと決めた瞬間だった。

目に映るは壊れた鎮守府、燃え上がる滑走路、ボコボコになった地面。そして笑う艦娘や門兵、鎮守府に務める人たちだった。

 




ちょくちょく書いてましたが、ここまでかかるとは.......。それと、これからが本編な気もしなくもないです、はい。
あちこち視点移動してますが、その都度、誰視点かは一応分かるようにしているので。



【速報!!】
お気に入り登録者1000人突破記念回を予定しております。かなりメタかったり、いつもの書き方でなくなる可能性があります。乞うご期待!!


ご意見ご感想お待ちしてます。

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