【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第七十七話  提督の嘆き⑨

青木らが鎮守府で謝罪した翌日。俺は執務室の窓から埠頭を見ていた。

埠頭には一定間隔で並べられた要塞砲が設置されており、その砲門は海を捉えている。鎮守府正面に現れて、攻撃するなぞ考えたくもないが、保険だ。今後どうなるか分からない。俺が現れた事によって発生しているイレギュラーもどれ程の数があるかも想像がつかないからだ。

 

「要塞砲......確か、妖精が操作すると言っていたな。」

 

俺はそんなことをふと思い出して口ずさむと、丁度工廠の開発班の妖精。白衣の妖精が来ていた。

 

「そうですよ。アレは妖精が操作します。」

 

そう言って白衣の妖精は机の上にある適当な段差に腰を掛けた。

 

「見てくれはアレですが、中は安全装置と発射機以外は完全自動化されてます。自動装填、自動旋回、自動仰角修正をやります。」

 

「そうか。」

 

俺は目線を外さずに答えた。

 

「この前搬入された兵器類は全て設置が終わっており、試運転も終わってます。」

 

そう言って白衣の妖精は言ったが、詰まった。何かを言いかけた様だ。

 

「ですが......どうしてもあの戦闘機だけは使えないんです。」

 

そう言って白衣の妖精は俺の顔を見た。

 

「あの戦闘機って?」

 

「F-15J改とF-2です。アレはとてもじゃないですが、妖精には扱えません。」

 

そう言ってやれやれと言わんばかりのジェスチャーをして見せた。

 

「そうか。だが解析はやれるだろう?」

 

「もちろんです。」

 

そう訊くと白衣の妖精は目を輝かせた。その妖精は持ってきたのであろう書類をめくってそのページを見せた。

 

「ジェットエンジンを解析して、噴進動力機構を開発している最中です。完成できれば既存の陸上機には搭載可能です。」

 

そう言って白衣の妖精は不敵に笑った。

 

「そうか......頼んだ。」

 

俺はそう言って白衣の妖精を見送った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

秘書艦が執務室に入ってきたのは白衣の妖精が帰ってから10分後くらいだった。

 

「おはようございます、提督。」

 

そう言って入ってきたのは榛名だった。

 

「おはよう。じゃあ、朝食に行くか。」

 

「はいっ!」

 

俺は榛名を連れて執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今日は演習で長門や赤城らが出て行っている。朝食後に俺のところに来て、意気込んでいた。その理由は、ウチの鎮守府よりも遥かに司令部レベルの高いところと対戦するからだ。しかもあちらの方が全員練度が高いと来た。ここで低い練度でも負けないというところを見せつけると言って出て行ったのだ。

俺と榛名はそう意気込んで行く6人を見送った後だった。

 

「長門さん......ああいうものの、よく自分らよりも格上の艦隊をボロボロにして来るんですよね......。」

 

そう困った表情をして榛名が言った。

榛名の言う通りなのだが、長門らが出る演習は決まって勝ちを取ってくる。普通に演習をしているだけらしいが、何故勝てるのかは分からない。長門曰く『戦術と私たちの経験だ。』らしいが、全くもって意味が判らない。あちらさんだってそれなりに経験をして挑んできているというのにだ。

 

「そうだよな......榛名はここの艦娘が少なかった時代の事を誰かに聞いているか?」

 

そう訊くと榛名は首を横に振った。

 

「そうか......。海域の解放。それこそ鎮守府正面海域の頃から長門は居たんだ。あの頃は今と違って大型艦はあまりおらず、居たのは赤城と霧島くらい......。他は軽巡や駆逐艦ばかりだったんだ。そのころから長門には世話になっている。たぶんそこから来ているんだろうな......経験というものは。」

 

そう言って俺は執務のペンを止めた。

 

「そうなんですか......というか霧島がそんな早くからここに居たのに驚きです。」

 

「霧島は高速戦艦という事で、損傷が出る様な海域で霧島旗艦の高速艦で集めた艦隊で進軍させていたな......。難関である沖ノ島も霧島旗艦の時に突破したんだ。」

 

「霧島って......実はかなりこの鎮守府に貢献しているんでしょうか?」

 

「そりゃな......。初期を支えた最古参の一角だ。」

 

そう言って俺は肘をたてて顎を置いた。

 

「ウチの古参組は濃いが、本当に頼りになる。レベリングだってそうだ。」

 

そう言って俺は頭を掻いて姿勢を戻した。

 

「取りあえず執務に戻ろう。」

 

そう言った刹那だった。鎮守府内に警報が鳴り響いた。俺が訊いた事もない音......ではない。よく映画である様な空襲警報のようなサイレンだった。

そう思った矢先、榛名は血相を変えて俺の手を掴んだ。

 

「空襲ですっ!!......海域を突破してきたようですね、早く避難をっ!」

 

そう言って俺は走らされた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は今、地下にある施設の艦隊司令部に居る。

ディスプレイが所狭しと並び、それを妖精たちが操作をしていた。何とも言えない光景に俺は視線をずらし、俺の肩に乗っている妖精に話しかけた。

 

「状況は?」

 

「はい。先日搬入したSPYレーダーがかなり前に敵影を感知しました。ですので、警報をならせていただきました。」

 

そう言った。

俺はここでこの前搬入した兵器が役立つ時だと思い立ち、指示を出す。

 

「要塞砲、装填開始。」

 

「装填開始します。」

 

俺はまず要塞砲に指示を出した。

 

「対空・対艦噴進砲、起動。目標、敵艦隊。」

 

「目標敵艦隊。」

 

「標的を捉え次第発射。CIWS起動、対空警戒を厳となせ。」

 

「了解しました。」

 

俺は着実に指令を出した。

 

「艦娘は艤装を身に纏った状態でシェルターに退避だ。全員入り次第、隔壁を封鎖だ。」

 

「了解。」

 

そして最後まで指示を出すと、少し体勢を崩した。

 

「まさかな......。」

 

俺は溜息を吐いた。

その瞬間、地面が揺れた。

 

「対空・対艦戦闘開始しましたっ!噴進砲発射っ!!」

 

この前搬入されたミサイル群が飛翔する。それはモニターに映っていて、分かるのだが、様子がおかしい。

 

「......対空・対艦噴進砲、目標を捉えていませんっ!雲の上に出ますっ!」

 

カメラが最大限まで捉えられるところまで中継されたが、最後は映らなかった。

 

「どういうことだっ!」

 

そう言うと、丁度閉鎖を終えて報告に来た武下が言った。

 

「これらは全て、レーダーや人工衛星と接続して使うものです。鎮守府に搬入されたのはどうやらレーダーと同期して使うものだったみたいですね......。」

 

そう言ったのだ。

 

「なら、CIWSも......。」

 

「いやあれは本体にレーダーが内蔵されているので、鎮守府上空に敵機が入ってきたら自動で迎撃してくれるでしょう。」

 

俺はそれを聞いて安心したが、それでも搬入されたCIWSは40基。どれ程の艦載機に襲われるか分からないが、多分大丈夫だろうと俺は考えた。

 

「要塞砲が敵艦隊を補足しましたっ!砲撃開始っ!」

 

そう妖精が言うと、再び地面が揺れ始めた。どうやら要塞砲の砲撃による衝撃波の様だ。

 

「敵艦隊、砲撃開始。目標、鎮守府地上設備及び、防衛火器っ!!」

 

俺はその時モニターを見ていた。遥か遠くに居る深海棲艦が光、刹那、要塞砲の衝撃よりもさらに大きな衝撃で身体がよろめいた。

その時、無線が入った。

 

『提督っ!ココには出撃用のドッグがあるんですよねっ?!私たちを出してくださいっ!』

 

そう叫んでいるのは伊勢ら、戦艦の艦娘と、高雄ら重巡の艦娘たちだ。そしてその後ろには瑞鶴ら空母の艦娘も居る。全員艤装を身に纏った状態で訴えていた。

 

「こんな砲撃戦の最中、出て行ったら撃つ間もなく損傷を受けるぞっ?!それに空母は既に戦場と化している海で何ができると言うのだっ!!」

 

俺が訴えると瑞鶴は叫んだ。

 

『この鎮守府の近くの沿岸に住んでいる住民を救助するわっ!』

 

そう叫ぶ瑞鶴の後ろで蒼龍と飛龍、飛鷹と隼鷹、祥鳳と瑞鳳、鳳翔が頷いていた。

 

「護衛を付けていけっ!それとこっちに戻らずに近くの港に入って住民を下したのち、護衛とともにその海域を死守せよっ!!」

 

『護衛はこっちで勝手に決めていってもいいよね。』

 

「もちろんだ。」

 

そう俺が答えると無線が切られた。

 

「出撃ドッグ解放します。」

 

俺と艦娘との会話を訊いていた妖精が出撃ドッグを開くと言った。

 

「順次、出撃させます。伊勢、日向、扶桑、山城、金剛、比叡、榛名、霧島が出撃します。」

 

そう言うと何かのゲートが開いたのだろう、そのあたりが妙に騒がしくなり、鎮守府を映すモニターに伊勢と日向、続々と戦艦が出て行った。

 

「次、高雄らが出撃します。」

 

霧島が出てすぐ、高雄、愛宕、摩耶、鳥海、最上、鈴谷、熊野、妙高、那智、足柄、羽黒が出て行った。

 

「次、瑞鶴ら出撃します。」

 

羽黒が出て行ったあと、瑞鶴、蒼龍、飛龍、飛鷹、隼鷹、祥鳳、瑞鳳、鳳翔が出て行った。

 

「次、護衛艦が出撃します。」

 

鳳翔が出てると、川内、神通、那珂、五十鈴、夕張、吹雪、白雪、白露、時雨、村雨、夕立が出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

戦闘が始まって数十分。どうやら伊勢ら迎撃に向かった艦娘と奇襲を仕掛けてきた深海棲艦らが接敵した様だ。鎮守府への砲撃が止み、静寂が訪れた。

 

「被害は......。」

 

俺がそう訊くとあちこちから被害状況の報告が入る。

 

「鎮守府本部、半壊。」

 

「警備棟、全壊。」

 

「酒保、軽微。」

 

「その他設備、損傷大。」

 

そして最後に入った報告が一番酷かった。

 

「滑走路、崩壊。格納庫が炎上中!」

 

俺はその報告を訊き、格納庫が写されているモニターに目をやった。

そこでは確かに火災が発生している。格納庫を覆い包む大きさの炎だ。

 

「提督......あの中にあった陸上機は全て......。」

 

「焼けただろうな......。」

 

俺は一気に脱力した。

陸上機は艦娘たちが保有する艦載機よりも遥かに多い数があり、生産にもかなり資材が使われた。一式戦闘機 隼が400機。四式戦闘機 疾風が400機。富嶽 爆撃型が500機。偵察型が5機、輸送型10機が全て焼失。かなりの痛手で、鎮守府の戦闘能力を殆ど持っていかれた。

 

「.......クソッ!」

 

俺は無気力に壁を殴った。ジンジンと痛む拳を抑えながら俺はモニターに映る、深海棲艦の艦隊を睨んだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

演習が終わり、鎮守府に帰る最中、私の電探に反応が出た。

明らかに鎮守府正面海域で海戦が起きている。激しい砲撃戦だ。

 

「何が起きているんだっ!......取りあえず、赤城に偵察機を出して貰おう......。」

 

私は赤城に偵察機を出すように頼むと赤城はすぐに偵察機を出してくれた。

 

『鎮守府で何が起きているかは分かりませんが、絶対良く無い事です。戦闘警戒をしましょう。』

 

そう言って無線を切られた。

私は唯、遥か彼方に続く水面を見つめて思う事があった。

 

「提督......。大丈夫だろう?」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は空母と護衛艦を連れて砲撃戦の最中を突っ切り、鎮守府横の漁港に来ていた。私たちは近隣住民を艤装に乗せて避難させることを提督に頼み、それを任された。

 

「避難する方は兵の指示に従って乗って下さいっ!!」

 

私はメガホンを構えてそう叫ぶ。

何とか入り込めるギリギリまで行き、そこからは連絡艇に乗って指揮を執っていた。

 

「私たちは横須賀鎮守府の艦娘ですっ!!提督の指示を仰ぎ、救助任務を受けていますっ!!速やかに乗艦して下さい!!」

 

私は絶え間なくそう叫んでいる。漁港には国民らが大切なものを抱えて不安そうな表情をしながら並んでいる。そんな中、ある人が叫んだ。

 

「一体どうなっているんだ!!着実に海域を奪回しているんじゃなかったのか!!」

 

「本土近海にまで入り込まれてしまっては海域も本当に取り返したのか怪しいぞ!!」

 

こうなる事は予想はしていたが、本当に言われるとは思わなかった。

 

「今回は想定してなかった深海棲艦の奇襲ですっ!!それも沸いたように現れましたので、仕方ないんです!!それに地上被害は鎮守府だけですっ!!!」

 

そう叫ぶと分かってくれたのか、静かになった。

 

「瑞鶴さん。もうすぐ乗艦完了です。」

 

そう私のところに報告に来たのは連れてきた門兵だ。

 

「ありがとう、門兵さん。次の港に行きましょ!!」

 

私は連絡艇を艤装の近くに停めさせてすぐに艤装に乗り込み、次の港を目指した。

もう結構港を回り、結構な数の人を乗せている。艤装に搭載している艦載機は全部甲板に出し、載せられないのは全て卸してきた。他は全部上空警戒をしている。

 

「瑞鶴さん。もう瑞鶴さんの艤装には乗りませんよ......。」

 

そう報告を受け、私は悩む。他のところはどうなのか、不意に無線を手に取り他に状況を聴いた。

 

「瑞鶴より艦隊。まだ人は乗りそう?」

 

『蒼龍、まだ乗りそうです。』

 

『飛龍、まだ乗りそう。』

 

『飛鷹、もう無理よ。』

 

『隼鷹、甲板のを発艦させればまだ乗りそう。』

 

『祥鳳、無理です。』

 

『瑞鳳、無理そうです。』

 

正規空母は流石大きいから乗るようだが、軽空母は限界か。そう私は思い、一度決心した。

 

「瑞鶴より艦隊。まだ乗りそうな蒼龍さんと飛龍さんはまだ行ってない港に行ってください。無理な私たちは一度、安全な港に行きます。」

 

そう決断を下し、救出艦隊は私の独断で2分することになった。

 




伊勢の予感的中。鎮守府直接攻撃です。
深海棲艦の目的はまだ不明ですが、一体どうなるのやら......。

最近毎日出せなくてすみません......。リアルが忙しすぎて笑えますwww
今日明日は早く、帰りも遅かったので結構疲れてますが、頑張ります!(二週間休みが無いんですよね......)

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