【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第七十三話  提督の嘆き⑤

陽炎はすぐに戻ってきた。普通なら手ぶらなのだが、何故か一枚の紙を持っている。

 

「司令......コレ......。」

 

そう言って俺に渡して来た紙は武下からのものだった。

地下で拘束している兵が煩いと言う。その騒ぎは警備棟の地上階にまで聞こえる。早急な対応を求めるものだった。そして詳しい話はこちらで説明すると。

 

「......。」

 

俺は黙って立ち上がり、執務室を出ようとした。

 

「待って。」

 

腕を陽炎に掴まれた。

 

「護衛は要らないの?」

 

その意味は『私が付いて行かなくていいの?』だ。つまり、とても不安にさせるものだという事。

 

「書かれている通り、無しの方がいいだろう?」

 

そう言って陽炎に腕を放させて俺は警備棟に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

警備棟ではさっきあった時とうって変わって、とても緊張した表情をした西川が迎えてくれた。

 

「大尉のところへ案内します。」

 

そう言って西川はさっきまで持ってなかった自動小銃の安全装置を確認すると歩き出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

案内された部屋は武下が使っている部屋だった。

そしてそこには巡田も居た。

 

「お待ちしてました。提督。」

 

「提督。」

 

2人は俺に敬礼をしたが、すぐに止めてもらった。

 

「敬礼はいいです。それで、艦娘を遠ざけて、どうしたんですか?」

 

そう訊くと武下と巡田は壁に立てかけていたんだろう、短機関銃を手に取った。そして弾倉を差し込み、安全装置を確認する。

 

「見れば判ります。ついて来てください。」

 

そう言って武下は部屋を出て行った。それに着いて行くと俺の後ろに巡田が付いてきた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

新しく出来たばかりの警備棟だが、どうやら地下の牢は以前、巡田を入れていた牢と同じものだ。つまり、ただ繋げただけの様だった。

艦娘が来る度に叩いて行ったという格子も元通りになっていて、その奥に兵がいた。ここまでくる間、ずっと喚く声が聞こえ、不快だったが、近づけば近づくほどに音量は上がっていく。

 

「出せよ!!!こっから出せっ!!!!!」

 

そう言って格子を叩いているのがほとんどだ。これをずっとやっている様だ。但し生理現象の時や食事時には止まるようだ。

 

「おいっ!!!白いの!!!こっから出せよっ!!俺らが何したっていうんだ!!」

 

「揚陸艦から出て歩いただけなのにこんなところに入れられて、意味わからねぇよ!!」

 

「反逆罪的なやつですかぁ?!」

 

そう言っている。それを俺は黙って聞いていた。そうすると巡田が不意に短機関銃の銃口を上に向けると、数発撃った。室内で密閉された空間なので、発砲音は響き、耳鳴りみたいになっている。

 

「貴様等黙れっ!!」

 

そう巡田が言うと武下は短機関銃を肩にかけた。

 

「ここにいらっしゃるのが、横須賀鎮守府艦隊司令部司令官だ!」

 

そういきなりいうものだから俺は少し戸惑った。

 

「そっ、そうです。俺がここの司令官です。皆からは提督って呼ばれてますがね。」

 

そう言うと騒いでいた中の1人が話しかけてきた。

 

「クソガキじゃねぇか......何が司令官だ。......んで、司令官様はここから俺らを出してくれるのか?」

 

そう聞いてきた。俺は少しイラッとしたがそれを抑えた。だが抑えたつもりになっていた様だ。巡田がそれに察知したのか、話しかけてきた兵に銃口を向けた。

 

「おい。......慎め。」

 

「チッ......。んで、出してくれんの?」

 

そう聞いてきたので俺は現状を伝えた。

 

「現在大本営にて貴官らの扱いに関しての書類を提出したところです。明日まで待ってください。」

 

そう言うと兵は格子を叩いた。

 

「はぁ?さっさとしろよ!何で捕まったのかもわからないし、捕まえたのはMPでもなかったから猶更意味わかんねぇんだよ!説明しろ!!」

 

そう言った兵に俺はイライラを抑えつつ説明した。

 

「貴官らの乗り込んでいた揚陸艦には『停泊許可』を出したにすぎません。誰も『上陸許可』を出してませんよ。よって違反です。」

 

そう俺が説明すると後ろから声がした。ここに居る筈のない声の持ち主。

 

「それに私たちの怒りを買いマシタ。命令違反をし、身勝手に歩き回り、艦娘に手を出そうとした。そして、提督を侮辱しマシタ。」

 

金剛が居たのだ。

 

「金剛っ?!」

 

「ハイッ!金剛デース!」

 

そう金剛は俺に笑顔を向けた。

 

「この中に2人、いますよネ?提督に面と向かって侮辱の言葉を投げかけたの......。」

 

そう言って金剛はツカツカと格子の前を歩いて立ち止った。

 

「お前デース......。所属と階級を言いなサイ。」

 

そう言って金剛は格子を蹴った。ガンと高い音が響き、そのあとすぐに静寂に包まれた。

 

「おい金剛......。」

 

そう俺が言うと金剛は姿勢を戻して言った。

 

「こればっかりは提督が許しても、私たちは許せないんデス。私たちの提督を虚仮にした......コイツは私たちの提督をバカにしたんデス。」

 

そう言われ俺は何も言い返せなかった。いくら提督への執着があるとしても、たったこれだけの事でこんなに反応するとは思ってもみなかったからだ。

 

「何とか言え、ファ○ンガイ。」

 

金剛の口調がおかしくなった。片言な口調が無くなったのだ。

 

「やっぱり加賀に頼んで深海棲艦の棲地に落としてもらいますカ?それとも叢雲に頼んで斬首しますカ?それともそれとも標的にして皆で小口径対空機銃の的にしますカ?」

 

そう言った金剛はまた格子を蹴った。

 

「希望はありますカ?」

 

そう金剛が訊くと兵は口を開いた。

 

「牢から......出せ。」

 

そう言った。確かに。微かな声だったが金剛は聞き逃さなかった様だ。

 

「ハァ?......何で出さなきゃいけないんですカ?ファ○ンガイが出るときは深海棲艦に肉弾爆撃する時だけデース。」

 

そう言ってさらに金剛は格子を蹴った。

 

「んだよファ○ンガイって......俺は青木だ。それに何で殺されなきゃいけないんだ。軍法なら命令違反は降格とかだろ?何でいきなり処刑なんだよ。」

 

そう言った青木は金剛を睨んだ。

 

「だから言ったじゃないデスカ。提督を虚仮にしたって。ここでは重罪、いえ。軍法よりも重いルールデース。」

 

そう言って金剛は艤装を身に纏った。

 

「てめぇはどれで死ぬのがいいかって聞いてるデス。肉弾爆撃?斬首?標的?それとも......仲間が見ている目の間で引き裂いてやりましょうカ?」

 

金剛は格子に手を掛けるといとも簡単に格子を歪ませた。兵士じゃ壊せないくらい固く作ってある格子がぐにゃりと曲がったのだ。

 

「ヒッ......馬鹿力女がぁ!コイツに何言おうがてめぇには関係ないだろうが!」

 

青木の言葉に沸点に達したのか金剛から表情と目の輝きが無くなった。

 

「関係ありマス......。」

 

そう言って格子を蹴った。

 

「船一隻作るのにどれだけの資材が居るか知ってマスカ?」

 

「ハァ?何だよいきなり......。沢山だろ?」

 

「てめぇらを肥えさせている食料をどこで作ってるか知ってマスカ?」

 

「意味わかんねぇ。農家の人たちだろ?」

 

「てめぇらがいつも見て下品に笑っているテレビ、どうやって作ってると思いマスカ?」

 

「それは知ってる。工場で作ってんだろ?」

 

「戦場を......知っているんデスカ?」

 

「......。」

 

最後の言葉に青木は黙った。

 

「全部はずれデース。船にはてめぇらが働いても一生稼げない分のお金で買える資材で作られてマス。食料は私たちの仲間が開発した食料プラントで生産されてマス。テレビは私たちと同じ艦娘が、砲弾魚雷が飛び交う最中、必死に集めてきた資材を使ってるんデス。」

 

「それを訊いた理由は何だ?俺が無知だって言いたいのか?」

 

「耳の穴かっぽじってよく聞くデース。......全部てめぇの目の前にいる艦娘のお蔭なんデス。その艦娘が唯一の提督を侮辱するような言葉、聞いて黙っているとでも思ったんですカ?」

 

そう言って金剛は格子を殴った。

 

「そう言えばニュースとか見てますカ?」

 

金剛は突拍子もない事を言い出した。

 

「......見てるぞ。」

 

「人類の生活圏が広がっているのは知ってますヨネ?」

 

「あぁ。」

 

「それに大きく貢献しているのはどこの誰デスカ?」

 

そう言うと青木は震えだした。ガクガクと音を立てて。

 

「......横須賀鎮守府......艦隊司令部......司令官......。」

 

「当たりデース!私たちの提督ネー!」

 

そう言って金剛は目に光をともしてないが笑った。とても不気味だ。

 

「ここはどこデスカ?」

 

「ここはっ......横須賀鎮守府、かんたい、しれいぶ......。」

 

「またまた当たりデース!」

 

そう言って金剛はこれまでの蹴りとは比較にならない程の蹴りを格子にした。格子は聞いた事もない音を出して裂けた。

 

「お前は提督のシマでしでかしたんデス。」

 

そう言って格子の間から金剛は手を入れて青木の髪を掴んだ引っ張った。

 

「ソノクソキタナイクチ、モウヒラカナイホウガイイデス。」

 

そう言った。

その金剛を見て青木は目を必死に動かし、辺りを見た。そして武下に目を付けた。

 

「助けて......ください。」

 

そう今にも泣きだしそうな口で言った。下の口は開きっぱなしで、アンモニア臭が微かにしている。

そんな青木の方に武下が歩きでると金剛の横に立った。

 

「金剛さん......それくらいで。」

 

「......ハイ。」

 

金剛は武下に言われて青木の髪をパッと放すと俺の横に来た。既に目には光が戻っていて、何時もの金剛に戻っていた。

そして金剛は俺に話しかけてきた。

 

「今警備棟の前に艦娘が全員詰めかけていマス。こいつらを殺すと言ってマス。何とか古参組が止めてますガ、何時まで持つか分かりマセン。それと、さっきの私の演技で他のも相当追い詰められた様デス。早急に判断を付けた方がいいデス。」

 

そう言って俺に笑いかけた。だが俺は笑ってられない。警備棟の前に怒り狂った艦娘が沢山いると言うのだ。

 

「提督。如何いたしましょう。」

 

そう聞いてきた武下に一言だけ言った。

 

「大本営からの連絡まで待機です。それと貴官らは静かに待機していて下さい。汚いところですが、休みだと思っていただければ。」

 

そう言って俺は金剛を連れて牢のある地下から出た。武下と巡田はここの特性を伝えると言って残った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と金剛が警備棟から出てくると、古参組が壁を作って他の艦娘を突破させまいとしているところだった。

 

「何やってる。」

 

俺がそう後ろから話しかけると、全員の動きが止まった。

そうすると目を血走らせた赤城が答えた。

 

「殺しかねない勢いだったので止めてました。」

 

「そうか。......戻ろうか。」

 

そう言って俺は歩き出した。

 

「なぁ金剛。」

 

「何デスカ?」

 

横を歩く金剛に訊いてみた。

 

「何であの時、あそこに居たんだ?」

 

そう訊くと金剛は笑顔で答えた。

 

「あいつらを殺すためデス。ですが提督が来たのでやめマシタ。」

 

「そうか。」

 

俺は何の詮索もせずにただ前を向いて歩き続けた。

 




金剛、再びキレる。そしてイメージ崩壊。

このくだり結構やってる気がします。
それと今回は巡田の登場と、二等兵の名前が分かりました。艦娘中心の話でなく、人間たちの話になりましたが、まぁいいでしょう。

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