【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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前回から数日が経っての更新です。




第六十二話  悪夢

僕はいつも通り目を覚ました。

カーテンの隙間から差し込む朝日で、瞳孔の開いたままの目にとっては毒だったので目を細めて洗面所に向かう。

髪を整えて、ゴムで結うと制服に着替えて姉妹たちと部屋を出た。

この朝食の時間はいつも皆、ドキドキしている。時間が合えば提督と同じ時間に食べる事が出来るのだ。ただでさえ提督の周りには他の艦娘が居るのに、僕と言ったら駆逐艦で身体も小さい。提督に近づきたくても近づけない事がよくあるのだ。

今日の朝は外れだ。どうやらもう提督は食べ終わって、執務室に向かってしまった様だ。幸運艦が言ってあきれるな、とか思いつつ朝食を口に運ぶ。これもいつもと同じだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今日の秘書艦は僕がよくお世話になっている神通さんみたいだ。時間になると決まって秘書艦に選ばれた艦娘は事務棟に書類を受け取りに行く。僕も一回だけやったことがあるが、この鎮守府が大きくなる前の事だ。広くなった鎮守府の中を書類を持って歩くことは無かった。

 

「今日の出撃編成表を見に行こうよ!」

 

朝食を摂り終えた後、そう姉の白露が言うので皆で見に行くことにした。たまーにだけど、僕の名前が入ってる事がある。水雷戦隊が編成されるときは提督は必ず僕を入れてくれるんだ。出撃して帰還すると、提督は僕に『お疲れ』ってぶっきらぼうに言うけど、僕はそれがうれしくていつも頑張っているんだ。

掲示板に貼られている出撃編成表の前に来た僕たちは編成を見ながら、どういう意味なのか考えてしまっていた。

出撃編成表には『旗艦 山城、扶桑、最上、時雨、満潮』これは遠い昔の記憶。提督が着任する前の事だ。鎮守府が創立して二週間と経たない時、任務で編成された艦隊だ。その艦隊でオリョール海域を奪回せよという任務。成功すれば報酬が貰えたその任務には、当時資材の少ない事が分かっていた僕たちはすぐに出撃した。

だが、僕の記憶に間違いがあるのではないか?

最上さんは提督が着任してから一か月後に進水していた記憶があるのだ。僕はよくわからない上書きされている記憶に戸惑いながらも、今日の出撃艦隊の旗艦である山城の元に向かった。姉妹にはいつも心配をかけているが、僕はいつも大丈夫だとだけ言って出撃している。提督は小破や中破が出た時点で撤退命令を下すからだ。絶対誰も沈まない。皆そう考えていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

出撃先はオリョール海域。僕の記憶では新しい方ではないが、僕や山城たちにとってこの海域はとても簡単だった。現れる深海棲艦は全て低練度の小型艦ばかり。偶に重巡や雷巡が出るくらいで、ボスに行かなければ航空戦にもならない。今日の出撃では最深部まで到達し、ボスを撃破する事。僕のいる鎮守府で第一艦隊を言わしめる山城と扶桑、僕は水雷戦隊としての経験が豊富だから負けるはずがない。最上だって、提督の現場たたき上げ練度でかなり屈強にはなっている。満潮は遠征任務が多かったせいか、そこまで練度は高くないが、十分に戦えるだけの実力は持っていた。それにこの4人とは面識があるというか、よくお茶を飲んだり話したりするメンバーなので、攻略に向けて進軍する艦隊でも会話が途切れなかった。

 

「オリョールか......あそこは手ごたえがなさすぎるのよねー。」

 

「山城?手ごたえが無いと言っても敵は敵。打つべきなのよ?」

 

「僕はオリョールは久々だから緊張してるけどな......。」

 

「わっ、私は緊張なんかしてないわ!」

 

思い思いに話しているこの4人の背中を見つめて僕は懐かしい気分になっていた。

僕はこの4人の背中を守ると決めていた。僕の中に残されている記憶。嫌な記憶にこの4人の姿を重ねてしまっているからだろう。

 

「満潮、緊張してるじゃないか。僕は平気さ。」

 

そう言って僕は満潮に微笑みかけたが、相変わらず硬い表情をしていた。

 

「そうは言ってもね......本当に私は遠征艦隊上がりだからね!」

 

そう怒る満潮をなだめながら、進路の先に見てくるだろう島を探した。

 

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ーーー

 

 

「旗艦 山城より全艦隊へ。これより戦闘海域に突入する!」

 

その号令と共に僕らはオリョール海域の戦闘海域に突入していった。入ったといってもそう景色が変わるわけでもないが、気を引き締めると言う意味でもこれは必要だと思う。

 

「水上機発進っ!艦隊、単縦陣っ!!」

 

山城の号令で単縦陣に組み直し、進軍する。オリョール海域では何度も枝分かれする海路を辿りながらボスを目指しているが、運が悪ければ逸れてしまう。僕もだが、艦隊の仲間も一緒になって集中し、海路を選んでいく。

 

「水上機より入電。敵艦隊を発見。」

 

流れるように伝える扶桑だが、これが一瞬震えた。こんな扶桑を僕は見たことが無い。

 

「敵艦隊.....戦艦ル級6、その他小型艦合わせて......60っ!?」

 

その数に僕は耳を疑った。これまで深海棲艦が僕らがキス島を攻略した時みたいに6隻を超える艦隊で攻められているのだ。自分がこちらの立場になれば分かるが、とても肝が冷える。

 

「扶桑姉様っ!鎮守府への打電は?」

 

「出来ないわ......。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

助けを呼ぶこともできず、ただ進軍するのみをしていきた僕らにも限界が来ていた。

全員何かしら艤装に損傷を受け、応急処置をしながら進んでいる。妖精さんたちも全員力を合わせて進軍している状態だった。

 

「このままボスまでたどり着けたらいいけど......。」

 

僕は心配になったがそれよりもこの先に起こる事に僕の身体が警戒しているのだ。

オリョール海域にこんなところがあったなんて。そんな風に皆口を揃えて言っている。扶桑はあんなことを言っているが、正直もう撤退しなければならない。

 

「僕は、撤退を進言するよ。」

 

僕はそう訴えた。

 

「私も同感だわ。こんなオリョール、見たことない......。危険すぎる。」

 

山城はそう言うと、艦隊に旗艦として命令した。

 

 

 

 

「全艦隊に告ぐ。艦首反転。撤退せよ。」

 

 

 

 

号令に合わせて回頭を始めるが、もう遅かったのかもしれない。

だって、

........................

................

......

 

目の前に深海棲艦の艦隊がいくつもあるのだから。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

激しい砲雷撃戦の最中、あることを思い出していた。

これは僕の遠い昔の記憶。艦だった頃にあった。

『スリガオ海峡突入』

それと酷似していた。

 

「不味いな......。」

 

僕がそんな事を呟いた刹那、爆発音がした。大きな音だった。

そちらに目をやると、扶桑の艤装が炎上している。艦も傾いている。魚雷を喰らった様だ。

 

「扶桑っ!!被害は!?」

 

「......。」

 

応答が無い。

 

「扶桑っ!!」

 

「......ウッ......機関......停止。」

 

どうやら艦娘の方も大丈夫なようだ。だが機関停止とは痛手だ。扶桑が止まってしまったのなら、山城に曳航してもらうしかない。

 

「まってて!山城をっ!!」

 

そう僕が言うと、扶桑は止めた。

 

「ダメよっ!ダメ......。」

 

「何でっ!?機関が停止したなら曳航してでもっ!」

 

「もう......ダメなのよ......。」

 

そう言った扶桑は離れてとだけ僕に言った。

 

「提督に伝えて......。扶桑は欠陥戦艦だと言われても挺身して戦ってきました。努力は欠陥をも超える事を証めっ......。」

 

轟音が轟き、光に包まれたかと思うと、目の前にあった扶桑の艤装は消えていた。

 

「えっ......扶桑っ、扶桑っ!!」

 

そう僕が叫んでいるのに、他の皆は撤退を続けている。

だが、叫び声を僕は聞いた。

今度は満潮だ。雷撃を受けた様子。

 

「満潮、機関停止。航行不能っ。」

 

「待ってて!僕が曳航するからっ!!」

 

僕が艦首を回頭させてそちらに向かおうとすると、また止められた。

 

「ダメ!来ちゃ、ダメ。」

 

「何でさ!満潮は機関部がやられただけだろう?!」

 

そう僕が叫ぶのにも答えてくれるが、絶対に近づくなと言う。

 

「アンタまで止まっちゃったら、良い的よ......。私を顧みず、前進しなさいっ!!」

 

「嫌だっ!!曳航してでもっ!!」

 

そう叫ぶと、妖精が『雷跡接近っ!』と叫んだ。魚雷が接近しているようだ。僕が振り返ると白い跡を引きながら進む魚雷。その進路の先には満潮の艤装があった。僕が盾になろうとも、今から動いたら間に合わない。

 

「もう、終わりの様ね......。」

 

そう満潮は呟いた。

 

「終わってなんかないよ。アレの進路を変えればっ!」

 

「もう間に合わないっ!!!」

 

そう叫ぶ満潮。

 

「司令に伝えて......。私は何もできずに果てた。碑も要らない。悲しんでくれるのならそれで......。」

 

僕は機関全力運転をして進路に飛び込もうかとしたが、間に合わなかった。吸い込まれるかのように満潮に接近した魚雷は艤装に当たり、爆発。

 

「満潮っ!!!!」

 

もう僕が叫んだ時には遅かった。

魚雷が命中した満潮の艤装は真っ二つに割れて、沈没。艦橋部に居る筈の満潮の姿も見えない。正確に言えば、見る事が出来なかった。衝撃のせいだろう、ガラスが汚れていたのだ。

僕はその場にとどまれないと判断した。ガラスにこびりつくアレはもう、僕には分かってしまったから。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

撤退を続ける僕と山城と最上は、砲弾の飛び交う最中を進んでいた。いつも扶桑の事を気にかけている山城も目に涙を命一杯溜めている。最上も黙って航行と索敵に力を入れていた。

 

「海域を脱出しよう。」

 

僕はそればかりを繰り返していた。明確な目的意識を失うとどうなるか、僕は直観的に分かっていた。何としてもこの地獄から抜け出す。何としても扶桑と満潮の最期を伝えなければならない。そう考えていたが、最悪な事が起きた。

山城の艤装に魚雷が被雷したのだ。1本だけだが、雷撃を喰らうのはそもそも割に悪い。現に山城の艤装は傾斜し始めていた。

 

「山城っ!大丈夫かいっ!?」

 

「えぇ!被雷しただけよ!こんなのいつもと同じっ!」

 

そう言ったのも束の間、再び魚雷が接近してきていた。

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

その叫び声と共に山城の艤装が爆発。

 

「機関室被雷っ!機関停止っ!」

 

そう報告するが、そんな報告必要ない。何故なら、もう山城の艤装は建て直し出来ない程に傾いていたからだ。

 

「山城っ!無理しないでっ!!」

 

「えぇ。でも、最期に......一矢報いてっ!!」

 

轟音が轟き、山城の主砲から噴煙をまき散らして砲弾が飛翔する。だが、深海棲艦には1発たりとも当たらなかった。

 

「それでも、私はっ!!」

 

そう言った山城の視界の端に、魚雷が映る。

魚雷は山城の艤装に当たった。大爆発を起こし、砲塔が吹き飛び、艦が本格的に傾斜を始める。

 

「山城っ!!」

 

「......。」

 

山城からの応答はなかった。砲塔が吹き飛んだ影響で艦橋で火災が発生。火の手が大きくなっていた。

 

「......もう、ダメだ。僕らは残してもらった命を繋ぐんだ。」

 

そう言って僕の艤装の横にピタリと最上が艤装を止めた。

 

「もしかしたら、山城は生きてるかもしれない......。あの艦橋からいつもの様に出てくるかもしれないじゃないか!」

 

そう叫ぶ僕に最上は言った。

 

「そんなのありえないよ!見えるだろう!あの炎っ!」

 

そう指差した最上は、轟轟と燃え上がる炎を見ていった。あの炎の中、生きていられる訳が無い。

 

「僕だって、正直ダメみたいなんだ。砲撃だって当たったし、魚雷だって......。」

 

そう言った最上の方に僕は視線を移した。最上の艤装は艦橋が一部吹き飛び、炎を上げている。それに構造部もボロボロだ。よく戦闘が出来たと言うレベルだ。

 

「消火して鎮守府に戻ろうっ!皆を連れて扶桑たちを探さなきゃっ!!」

 

そう僕は機関をふかし、艤装から煙を上がらせた。だが最上は一方で、煙突から煙が上がってない。

 

「どうしたんだい?早く戻ろうっ!」

 

「もう、ダメみたいなんだ。」

 

そう唐突に切り出す最上。

 

「何が?」

 

「機関が停止してる。目も機能してないんだ。それに、構造体がぐちゃぐちゃで、崩壊寸前。」

 

そう言った最上の上を深海棲艦の艦載機が飛んでいた。

 

「これじゃあ時雨を逃がす盾にもなれやしないな......。」

 

そう言った最上の艤装の上空では深海棲艦の艦載機が急降下を始めていた。

 

「対空射撃っ!最上っ!頭上っ!!」

 

そう叫んで対空射撃をするが、もう間に合わなかった。落ちてくる爆弾には弾が当たらず、最上の艤装に当たった。大穴を開ける威力で、あらゆるものをも吹き飛ばした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

気付けば僕は鎮守府の医務室に居た。

起き上がると、目の前には提督が居た。提督は目を腫らして、疲れ切った顔をしている。

 

「んん......提督っ?」

 

「......あぁ。時雨、おはよう。」

 

そう言った提督は乾いた声で笑った。

 

「おはよう。」

 

僕はそう返して、さっきは気付かなかったが提督の手に握られている物に目をやった。

 

「提督?」

 

「......時雨が単艦航行しているのを遠征から戻ってきていた艦隊の潮が発見したんだ。」

 

そう言って提督が差し出した手のひらにあったのは髪飾り。

 

「時雨は気を失っていて、妖精たちによる独断航行だったんだが、潮が時雨がこれを握っていたのに気づいた。......これって、扶桑と山城の髪飾りだろう?」

 

そう言って提督は僕の頭に手を伸ばした。

 

「......聞かせてくれよ......扶桑の......皆の、最期。」

 

その言葉に僕は現実に引き戻された。僕は生き残った。だが、皆は居ない。提督の口ぶりなら、僕以外にはいなかったんだ。

 

「俺、俺は、気付いていたんだ......。あの日。長門たちが独断で出撃したあの日の報告で。深海棲艦も俺というイレギュラーに反応して変化しているのを。そして俺は、深海棲艦の戦術理論の微かな変わりにも気付いていたっ!!!!なのにっ!!!......これまで何もしてこなかった。」

 

そう嘆く提督の顔が涙でぐしゃぐしゃになっているのを僕は唯茫然と見ていた。

 

「......俺は、提督失格かな。艦娘を4人も死なせてしまった......。こんなに暖かい女の子をっ!?......兵器だ、深海棲艦だと罵られても黙って戦ってきた艦娘たちをこんなに......こんなことあってたまるか!!!」

 

提督はそう言って僕を抱き寄せた。

 

「そうだろう......時雨?」

 

「......。」

 

僕は答える事が出来なかった。ボロボロになった提督を見て、これまで堂々としてきた提督がこんな風になってしまったのを見て。

 

「何か言ってくれ、時雨......。」

 

「判断ミスで殺したと言ってくれ......。」

 

「俺を罵れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

そう言う提督の胸に抱かれながらも僕は何も言えなかった。何故なら、僕が......。僕が..................

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______皆を見捨てたから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夢と現実とが混ざっている状態で時雨は目を覚ました。

部屋には朝日が差し込み、いいコントラストを出している。冬に差し掛かった天気で布団を少し動かしてみると外から冷たい冷気が布団の中に入ってきた。

 

「......夢?」

 

時雨はそう呟いた。

今まで見たビジョン、それは夢だったみたいだ。だが、妙にリアルで、妙なところが多かった。まず、艤装に乗った状態で艦娘同士での会話は基本的に備え付けの無線機だ。だが、あの夢では話しかければ艦橋と艦橋とで話が出来ていた。それに皆が沈んでいった様子だ。時雨が記憶している史実とはかけ離れている。

 

「夢だった......みたいだね。」

 

時雨はそう言って覚めた目を開いて立ち上がった。早起きしてみるのも悪くないと思ったからだ。

 

 

 

 




すみませんでした。今日まで忙しかったんです。この言い訳結構使ってますが、この時期に忙しい人と言ったら分かる人は分かるんじゃないでしょうか?

今回のは少し長いです。一発投稿のものですが、一応、次の話に関連付けさせようかと思います。

ご意見ご感想お待ちしてます。

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