【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第六十一話  鳳翔の願い

俺は外の騒がしさに目を覚ました。

凄いデジャヴを感じるが、布団から這い出て服を着ると外に出た。

 

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がやがやという表現はとても使いやすいと思った(※唐突なメタ発言)。

鎮守府の正門にはいつしかの様にメディアが集まっていた。だが、今回は違う。それぞれが取材陣ごとに固まり、何かを待っている様だった。がやがやしているのも身内で話をしているだけみたいだった。

 

「整理券とかないんですかね。」

 

「アホか。ここはそう言う場所じゃないぞ。艦娘の機嫌を損ねて、更に提督を不快にさせてしまったら物理的に首が飛ぶ。」

 

「アレってマジなんですかね?」

 

「テレビ横須賀から重要文書として会長直々の直筆で書かれたものに書かれてたんだろ?間違いないだろうさ。」

 

「確かあの時、国営放送さんも居ましたよね?」

 

「あぁ。テレビ横須賀のキャスターが金剛さんの怒りを買いました。提督がいらっしゃったから良かったものの、いらっしゃらなかったらその場で斬首。若しくは俺ら毎木っ端微塵でしたよ。」

 

「えぇ!?金剛さんってあの金剛さんですよね?!観艦式の質問コーナでニコニコ答えていた......。」

 

「そうですよ。......私もあの顔しか知りませんでしたから、金剛さんが怒るともう......。マイク1こ片手で折りましたし。」

 

本当の事を言ってるけど、金剛が何か不憫に思えてきた。

 

「そう言えば、艦娘たちの怒りを見分けるポイントがあるらしいんですよ!」

 

「ぜひ教えてください!」

 

「上空を飛ぶ艦載機らしいんですよ。最初は彩雲とかいう偵察機なんですが、一歩手前まで行くと戦闘機と艦上爆撃機に変わります。」

 

「それって......。」

 

「『今すぐにでも殺せるぞ。』って意味らしいです。」

 

「おいおい。今は飛んでないだろう?」

 

「焦りましたよ......。一応押さずに待っているつもりですが、こちらが思ってなくてもあちらが騒ぎだと思われてしまうと......。」

 

「本社毎消されますね......。」

 

確かにそうらしいし、艦載機で見分けれるが『今すぐにでも殺せるぞ。』っていう意味なのだろうかと考えつつ俺は正門前に着いた。

俺を見るなり、話をしていた取材陣は黙り込み、順番的に最初なのだろうか、国営放送のキャスターが門兵に止められるところまで来て話した。

 

「国営放送の者です。大本営の取材許可を得ましたので取材に上がりました。」

 

そう言ったキャスターは女性だが、声も震えている状態で尋ねてきた。

 

「取りあえず落ち着いて下さい......。こちらは大本営からその様な知らせを受けていないので。」

 

そう言って俺は咳ばらいをした。

 

「それより何故こんな早くに集まっているのでしょうか?」

 

俺は正門のこちら側にかかっている時計を見た。時刻にして5時前くらいだ。

 

「朝の......朝のニュースで取り上げようかと思っていたんです。キス島から生還した守備隊の救出に関して。」

 

そうキャスターは言った。

 

「そうか。だからこんな騒ぎになってるんですね......。それより、今すぐここを離れた方がいいと思います。エンジン音です。零戦と彗星でしょうか?」

 

そう俺が言うとざわっとなった。そして空を見上げていた俺がキャスターの方に向き直ると、鳳翔が立っていた。艤装を身に纏っている。

 

「......。」

 

鳳翔は何も言わずに俺の顔を見た後、キャスターの方を向いた。

 

「.......国営放送ですか?」

 

「はひ......、大本営から取材許可を得てますので......。」

 

そう言った瞬間鳳翔はキャスターが何かを言いかけたのに被せて言った。

 

「何時だと思っているのですか?」

 

その瞬間、その場が凍り付いた。俺は普通に鳳翔が言っただけにに感じたが、そうではなかったらしい。

 

「朝の、5時前です。」

 

「こんな明朝に鎮守府に詰めかけて何がしたいんですか?取材ならもっと他に方法がありますよね?」

 

「......。」

 

キャスターは黙りこくってしまった。

 

「そもそもこの場に提督がいらっしゃるという事の意味、分かっていますか?」

 

そう言った鳳翔にキャスターは首を横に振った。

 

「貴女たちが明朝に正門に集まり、門兵さんにお世話になっている騒ぎで提督は目を覚まされたんですよ。私たちはこれを『提督の気を害した』と判断します。」

 

そう言った瞬間、キャスターはガクガク震えだした。俺が現れるまで話していた事、すなわち艦娘の怒りを買ったのを分かった瞬間だった。

 

「あっ............あのっ............私っ......そんなつもりじゃ......。」

 

「貴女につもりが無くても、そうなのデース。」

 

いつの間にか金剛まで現れた。

 

「ガルルルルルルッッッ!!」

 

俺の横にいきなり現れた夕立は威嚇しているのだろうか。犬っぽくなっている。

 

「フフフ......君たちはもう出れないよ?」

 

時雨が夕立の反対側に居た。

それを見ていた門兵は金剛に駆け寄った。止めるのだろう。

 

「金剛さんっ!少し落ち着いて下さいっ!提督からまだ本意を聞いてません!」

 

そう言った門兵は金剛の意識をこちらに向かせた。

 

「提督ぅー?」

 

そうこちらを向いて聞いてきたのはいつもの金剛だった。

 

「たまたま早く起きて散歩してただけだ。何か不味かったか?」

 

俺は今にも殺されるかもしれないキャスターの為、今言える最大限の嘘を言った。

 

「もう......今日も執務なんですから、ちゃんと寝て下さいよ?」

 

そう言った鳳翔は偵察機を発艦させ、零戦と彗星を出しているであろう赤城と加賀のところへ連絡に行かせた。

 

「そうだな......というか何でこんな集まってるんだ?」

 

俺が鳳翔に返事をして後ろを振り返ると、ほぼ全員と言っていい艦娘たちが艤装を身に纏って立ち尽くしていた。

 

「いえ、榛名は提督の身の危険を感じたので。」

 

「提督が呼んでいたような気がしてな。」

 

「身の危険を感じてないし、そもそも日向。抜刀してんじゃない。仕舞え。」

 

「もう仕舞うつもりだったさ。」

 

全員がそう言って構えていた砲や刀を下した。

 

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ーーー

 

 

朝食時。俺は今日の秘書艦である鳳翔と共に食べていた。

 

「それにしても皆早く起き過ぎた。」

 

「正門の騒ぎで皆さん起きたと思いますよ?」

 

そう言って鳳翔は味噌汁を啜っていた。

 

「そうか。」

 

「はい。」

 

俺は今日は珍しく和食を食べていた。たまにこうやって食べるのもいいなと思いながら箸を伸ばす。

 

「今日の執務はどうされますか?」

 

「取りあえず正門前にはまだいるんだろ?大本営に至急確認をとって取材を受けようと思う。但し、俺のメンタル的に1つが限界だ。一番最初に取り付けたところと話そうと思う。」

 

「了解しました。」

 

そう言うと鳳翔は食べ終わったのか、温かいお茶を飲んで言った。

 

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ーーー

 

 

結局、大本営に一番最初に取り付けていた国営放送の取材に応じた。

大量の艦娘に囲まれながらだったが、聞かれたのはキス島解放に関する事だった。それと、帰還した守備隊が口を揃えて言った富嶽についてだった。ここで富嶽の説明をしても仕方がないと思い、『新型の爆撃機です。』とだけ答えて濁した。

取材は1時間で終わり、10時を超える頃には国営放送は撤収していった。見送りに行った時には既に門の前に居た他のテレビ局の取材陣は居なくなっており、空には零戦も彗星も居ない状態だった。

 

「執務はいつもより1時間遅れになってしまいましたね。」

 

そう言って鳳翔は先ほど出来上がった今日の提出書類を脇に抱えて行った。これから事務棟に提出に行く様だ。

 

「だな。たまにはこういうのもいいかもな。」

 

そう言って俺は背中を伸ばした。

 

「そうですね。のんびりと片づける執務もいいですね。」

 

そう言って鳳翔は提出の為に執務室を出て行った。

 

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ーーー

 

 

昼下がりの鎮守府。俺は珍しく外に出ていた。

暖かい訳でもない、むしろ肌寒いくらいの気温の中、俺は海を眺めていた。

これからの戦い。富嶽が出来たことにより、だいぶ楽にはなるだろうが、これがいつまで続くのか。そう考えると気分を落としてしまった。

何も知らされずにこの世界に呼び出された俺は、これまでかなり頑張ってきたと思う。仕事面に関しては元から少ないので問題ないが、艦娘たちとどう接していくかだった。

本来、人間ならば気難しい年ごろであるはずの艦娘は何も言わずに戦場に赴いている。人間にどれだけ蔑まれようが、周りで何が起ころうがだ。そんな艦娘を見てきて、俺は何をしているんだと思うばかりだった。鎮守府から出撃させて俺は鎮守府に籠ってる。男である俺が何をやっているんだと思うばかりだった。

 

「海軍は実質無いに等しいんだったな。」

 

この世界での日本において、船は残ってない。厳密に言えば戦闘艦だが、艦娘出現以前から深海棲艦との攻防で数は減少。艦娘登場後も艦娘の艤装と共に出撃、数を減らしていった。最期の船は高齢艦であった『イージス艦 こんごう』。深海棲艦出現以前からあった船だが、最後の最後まで戦い抜き、この湾内に入られた時、沈んだと言う。

その直後、艦娘が出現した。

どういう因果なのかは分からないが、もう人類には反撃の剣が艦娘しか残っていない状況には変わりがない。世界最強と謳われていた米海軍太平洋艦隊第七艦隊もそのころには全滅していた。

 

「何やってんだよ......。」

 

俺は頭を掻いて立ち上がった。

 

「新しい戦術、新しい編成、新しい海域の解放......。こんなことを考えている場合じゃないが、普段もそんなことを考えていられる時間は違えどこうやって時間を潰してきたな。」

 

その足で俺は執務室に戻った。

 

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ーーー

 

 

俺が執務室に戻ると、鳳翔はずっと待っていたのか、椅子に座って船を漕いでいた。

 

「寝てるし......。」

 

俺はこんなところで寝ると風邪を引くと思ったので、起こした。

 

「ここで寝るな。風邪引くぞ。」

 

そう言って肩を揺らしてやると、次第に目を開いた鳳翔は自分が寝ていた事に気付き慌てて立ち上がった。

 

「すみませんっ!寝てしまって。」

 

「大丈夫だ。午後は基本的に休みみたいなものだからな。秘書艦も。」

 

そう言って俺は席に座った。

 

「それはそうと、俺は外に出るって言ったのになぜ鳳翔は?」

 

「それはですね......。私の願いを聞いていただこうかと思いまして。」

 

そう言った鳳翔は手をもじもじさせながら言った。

 

「願いか......俺の答えられる範囲でなら。」

 

そう言うと意を決したのか鳳翔は言った。

 

「私に提督の昔話を聞かせて下さい。」

 

それだけだった。

 

「えっ?俺の昔話?」

 

「はい。私はもっと提督の事を知りたいと思っていますので、提督の昔話も聞いてみたいと思ってます。」

 

そう言った鳳翔は柔らかい笑みをこちらに向けた。

 

「つまらないだろうけど、いいのか?」

 

「はいっ!」

 

俺は鳳翔に頼まれた願いを叶えてやる事にした。

そのあと、夕食時まで俺は昔話を鳳翔に言って聞かせた。俺の居た世界での出来事。俺が体験した事。鳳翔が興味を持ったものは何でも話した。

それは俺に時間を忘れさせてくれるものでもあった。

 




あと時雨と北上、球磨ですね。
途中途中色々挟みながらでしたが、結構長く感じました。次回からは......お楽しみに(ゲス顔)

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