【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第五十三話  瑞鶴の願い

昨日、赤城の願い『外に出てみたい。』というのを悩んでいた。

どうやって連れ出そうか......。最悪、門兵を付ければいいだろうと考えていたが、結局どうするかは後回しにした。

あの願いを言った後、赤城は『いつでもいいので。』と付け足していたのだ。できるだけ早くに決着はつけようと思っている。

 

「ねー。提督さん?」

 

そう言って俺が赤城の願いについて考えるのをやめた瞬間、声を掛けてきたのは瑞鶴だった。

俺が着任してから進水した比較的最近の艦娘だ。そのためか練度は結構低い。というか、殆ど出ていない箱入り娘状態だった。

 

「どうした?」

 

そう俺が訊くと瑞鶴は時計を指差した。

 

「朝ごはん、行かなきゃ。」

 

俺はそう瑞鶴に諭されて、執務室を後にした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

食堂の朝食にパンが出るようになったのは最近の事だ。これも酒保が出来たおかけだと間宮は言っていた。この頃の食堂のレパートリーの増え方が尋常じゃないので結構心配していたりもする。

 

「パンってぱさぱさしてると思ってたわ。」

 

そう言って横でパンを食べている瑞鶴はいい具合に焼いたトーストにマーガリンを塗って食べていた。ごくごく一般的な食べ方だ。ちなみに提督はマーガリンとあんこを塗って食べるのが好きなので近いうちに酒保にあんこを買いに行くことを検討している。

 

「マーガリン塗ればしっとりするし、そもそもそんなぱさぱさしたパンはないだろう?」

 

「そうなの?見るからにぱさぱさしてそうだったし......。」

 

そう言って瑞鶴はコップに入った牛乳に口をつけた。

 

「しっかし、パンと牛乳って本当に合うわね~。」

 

「ビックリするくらいな。俺も好きだったよ、その組み合わせ。」

 

そう言って俺もトーストを食べていたが、飲み物はコーヒーだ。ブラックは食事時に飲まないと決めているので今飲んでいるのは砂糖とミルクが入ったものだ。

 

「提督さんはコーヒー飲んでるもんね。」

 

そう言ってトーストを瑞鶴は口に運んだ。

 

「......提督さん。」

 

「ん?」

 

話が途切れたかと思って黙っていたが、まだ瑞鶴は続きがあったようだ。

 

「初めてなんだ......。だから失敗もあると思うけど、よろしくね。」

 

「おっ、おう......。」

 

そう何が初めてなのか聞かされなかったので、適当に返した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食を摂り終えた俺と瑞鶴は執務室に戻り、執務を始めていた。瑞鶴は今日が初めての執務であり、秘書艦なので一応赤城に補佐を頼むつもりだったが、そう毎回毎回補佐を頼んでも申し訳ないので俺は直接説明することになった。

説明と言っても俺が作成して纏めた物を事務室に届けたり、ファイルを出し入れするだけだからさして問題ではない。何故か知らないが、瑞鶴はファイルの出し入れは簡単に覚えたからだ。

そう言う事もあり、執務を初めて小一時間するとすべて終わり手持無沙汰になった。これもいつもの事だが。

 

「こんだけなの?」

 

「そうだけど?いつも通りだな。」

 

そう言って俺は背中を伸ばした。

 

「もっと書類が山積みで提督さんとヒイヒイ言いながら片づけるのだとばかり思ってた。」

 

「俺もな、着任したてはそう思ってたよ。」

 

そう言って俺は指を鳴らした。

 

「でもこんなに早く終わるだなんて......。いつも昼の後とか行こうか躊躇してた私バカじゃん。」

 

「それは皆そう言ってるから大丈夫だろ。」

 

俺は続けてあくびをした。最近だが、こうも気の抜けた行動をすることが多くなってきた様な気がしていた。なるべく皆の前ではその姿を見せないようにと動いていたが、やはり時が経てば変わってしまうものだな。

 

「だらしないわよ、提督さん。」

 

そう言って瑞鶴もぐだーと背を伸ばしていた。

 

「瑞鶴が言えた口かよ......。いつもこうだからな。」

 

そう言って姿勢を戻して何かないか探し出した。午前中は暇であろうと仕事を探して片づける事にしていた俺は、いつも通りに動き出した。執務を始めて一時間が経とうとしていた時だった。瑞鶴が唐突に俺に向かって言った。

 

「提督さん!私の願い、聴いてくれる?」

 

「何だ、藪から棒に。」

 

「私の願い......翔鶴姉を進水させてほしいんだ!」

 

そう瑞鶴は力強く言った。

俺は瑞鶴の願いの返事を返そうとした時、瑞鶴はそれを遮って続けた。

 

「私ってたまーに演習で出ることあるでしょ?」

 

「そうだな。」

 

「相手艦隊にはもちろん五航戦の私や翔鶴姉だっているわけじゃない?」

 

「そりゃそうだ。」

 

「相手にいる翔鶴姉は翔鶴姉だけど、私の翔鶴姉じゃない。その鎮守府の私の翔鶴姉。だから、私は翔鶴姉に早く逢いたい!そしていつも不幸だと言ってる自分に提督さんがいる鎮守府に着任できたんだよって言ってあげたい......不幸なんかじゃないって言ってあげたいんだ......。」

 

そう言った瑞鶴の頭に俺は手を置いた。

 

「その願い、瑞鶴の願いだが同時に俺の願いであり、皆の願いだ。瑞鶴が翔鶴が居なくて寂しい思いをしているのを少し小耳に挟むからな(※主に赤城から)。今の運用はボーキサイト温存を優先した使い方だ。翔鶴を迎えるための準備をしている。」

 

そう言うと瑞鶴は笑顔になった。さっきまでの不安を抱えた表情から一変し、あどけない笑顔を俺に見せた。

 

「ありがとっ!提督さんっ!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は瑞鶴の願いを訊いて、少し瑞鶴が席を外した時、懐に隠していたある書類を出して眺めた。

其処には『建造結果報告書』つまり、建造を任せている雪風が出した艦娘の艤装などを知らせる紙だ。持ってる枚数は7枚。挑んだレシピもメモられている。全ての報告書には空母レシピの文字。雪風も気付いているようだが、ウチの鎮守府で通常建造で出る艦娘で出ていない艦娘は1人しかいない。それを挑み続ける提督にそれ以外に目的を見いだせないのだ。

 

「瑞鶴......瑞鶴の願いは何時か叶えてやれる......。いつになるか分からないが。」

 

そう俺は呟いて外を眺めた。

席をはずしていた瑞鶴にどうしたと聞かれても何でもないとだけ言って執務に戻ったが、あと少しで建造結果報告書を見られるところだった。





今日も今日とて眠気との格闘でした......。今日は遅くまで残っていたので始める時間自体遅かったので......。ちなみに毎朝7時半に投稿されている最新話は前日の夜中に作者が書いてます。
新しい艦娘が来ない......。

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