【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第三十五話  工作員、艦娘の怒り。⑤

 

俺は数時間鳳翔の格納庫で警備から捕縛した知らせを待っていたが、一向にその連絡は入らなかった。

そして既に日は傾き、空が紅色に染まろうかという時、暇つぶしに格納庫を見て回っていた俺と番犬艦隊はもう見るものが無くなり、ずっと零戦21型に座っていた鳳翔のところに戻ってきた。

 

「あら提督、満足しました?」

 

「あぁ。以前赤城の艤装にも乗ったことがあったが、あの時は飛行甲板に行っただけだったからな。格納庫には入ったけどよく見えなかったし、良かったよ。」

 

俺はそう言って鳳翔に笑った。これは作り笑いではなく、純粋に楽しんだ笑いだった。

 

「そうですか。ここには零戦と九七艦攻しかありませんのに楽しんでいただけたならうれしいです。」

 

そう言って鳳翔は零戦の翼を撫でた。

 

「......最近提督が始めなさったレベリング艦隊の編成ですが、メインで祥鳳型を使っているという事は水面下で彼女たちのレベリングも兼ねているのでしょうか?」

 

会話が途切れて暇なるのが嫌だったのか、鳳翔は俺にそんな事を聞いてきた。

 

「そうだけど、どうして?」

 

「いえ。あの編成では初撃で艦載機がかなりの数の深海棲艦を撃破できるのが目に見えているのでそうかなと思っただけです。」

 

そう言って鳳翔はフフフと笑った。

 

「旗艦に駆逐、戦艦1、重巡2、軽空母2......。随伴が練度足りずでない限り相手に撃たせる事無く勝利できることもある編成だが、元を辿れば資材の消費をなるべく抑える為に長門が出した案なんだ。これのお蔭で結構助かってるところもある。連日の空母建造にかかる資材に関してもそうだ。」

 

俺はそう言って零戦を見た。

 

「そういう理由もあったんですね。」

 

そう言うと鳳翔は俯いてしまった。

 

「ん?」

 

俺は鳳翔が座っている零戦を見ていたので、鳳翔がうなだれるところも視界に入り声を掛けた。

 

「どうかしたのか?」

 

そう言うと鳳翔は黙ったままだった。

 

「......私は世界初の空母として建造された空母、その名を継いでます。単翼機が無かった時代、私は軍の空母として出撃して戦果を挙げてました。ですが時代が進むにつれて前線から遠のき予備艦になった。この姿で生を受けた時、私は再び大海原で艦載機を発艦し、戦果を挙げ提督に褒めていただく事に期待してましたが今も出撃は両手で数える程度......。提督が暗殺されると言う連絡を聞いてから今度こそ提督の役に立とうと空母のペア編成をするときに瑞鶴さんに声を掛けました。ですがその直後に赤城さんに呼ばれて行ってみるとこの任務。艤装で提督を匿い、艤装に私は座っているだけ。..................私は......本当に必要なのでしょうか?匿うならば重厚な戦艦でも良かったですし、潜水艦の艦娘だっています。厚い装甲板の中や海の中の方がよほど安全だと私は思うんです。」

 

そう語る鳳翔に俺はこれまでの編成なんかを思い出していた。

鳳翔は確かに両手で数えられる程度しか出撃していない。それもメインではなく、交代要員。歴史に関しても俺の把握している程度だが、確かに建造されてからはあちこちで引っ張りだこだったかもしれない。だが赤城や加賀が生まれ、正規空母が生まれ行く時代に次第に鳳翔は前線から離れ、予備艦となった。建造中の大和を隠すという任務もあったが、遥かに大きな大和を小柄な鳳翔が隠せる訳もなく、当時の軍人に罵られたという事だ。

だが彼女は知らない。俺が言ってないだけで、執務を把握している赤城が言ってないだけで、鳳翔はどの作戦にも予備艦として登録されていた。俺が着任してからもずっと予備艦には鳳翔。誰か空母が損傷したら鳳翔が出ることになっていた。だが俺の運あってか、毎度損傷が軽微なまま海域を解放してきたが故に鳳翔は出撃する事が無かったのだ。

俺が俺の居た世界でも空母の交代要員は鳳翔と決めていた。あの時には片手で数えて折った回数よりも少ない数しか交代させてないが、少なからず貢献は出来ていたと俺は感じていた。

そんな事を巡らしていると、黙って聞いていた夕立が俺の横に立った。

 

「鳳翔さん、何を勘違いしているのかしら?」

 

そう言った夕立は表情を変えずに続けた。

 

「鳳翔さん、それはこの任を任せた赤城さんの気持ちを踏みにじってるんですよ。鳳翔さん《だから》任せたのではないのですか?」

 

夕立は『だから』という単語を強調して言った。

 

「そうなんでしょうか.......?」

 

鳳翔は元気を無くしてそう言った。

 

「鳳翔さんは知らなかっただけです。夕立は以前秘書艦として執務室に行った時、提督さんの机に置かれていた編成表にはどれにも鳳翔さんが交代要員として備考に書かれていたんです。夕立がレベリング中だった時にも鳳翔さんの名前はずっとありました。順位はどれも2番。出撃する艦娘の次に出る欄に入っていたんです。」

 

そう夕立が言うものの、鳳翔は相変わらずだった。

 

「夕立や他の皆もその順位には賛成なんです。」

 

そう言って夕立は時雨の元に戻っていった。

 

俺はその場に流れる空気が嫌になり、離れる事にした。それだけ言っても信じてくれずに落ち込んだままの鳳翔を見たくなかったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は鎮守府に背中を向けて夕日を見ていた。鳳翔の飛行甲板には確かに艦娘が立っていない。

潮の音しか聞こえない甲板で俺は溜息を吐いていた。

さっき鳳翔に俺は言ってやれなかった。ただ一言『鳳翔はウチの艦隊司令部に必要な艦だ。』とだけ。

だが俺は言えなかった。確かに鳳翔を俺は予備艦としている。それはあくまで出撃して損傷した空母の代わりという事だが、うちの空母は何故か無傷でいつも帰ってくる。

何でも艦隊が防空にも徹してくれているからだとか。

 

「あぁ......。」

 

今自分の身に置かれた状況も忘れるくらいに俺は悩んだ。

如何すればいいのか。ただそれだけだった。

そのあと、夕立が追いかけてきてくれたのか金属が当たる度に鳴る甲高い音が後ろから聞こえてきた。

 

「夕立......俺はっ......。」

 

そう言って振り返るとそれは夕立じゃない。何か別の人だ。

 

「ここで死ね。」

 

そう言って俺の胸に向かう銃口に俺は成す総べなく捉えられ、瞬間、硝煙の匂いを嗅いだ。

あぁ、なんて臭いだ。

それしか思いつかなかった。胸に激痛が走り、そのまま倒れ込む。

息が苦しくなり、次第に痛みが熱さに変わっていった。熱い、とてつもなく熱いのだ。

 

「ガァッ......。」

 

そこから俺の意識は途切れた。

どうやら暗殺は完遂されてしまった様だった。

 

 





いやぁ......これはアレですわ(白目)
本話はリアルタイム投稿ですので、自作も今から書きます(汗)

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