【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
今朝も雪風は執務室に来ていた。
何時もの開発と建造の指示を仰ぐためだ。
「司令ぇ!今日はどうしましょうか?!」
俺はそう言われて考える間もなく、すぐに答えた。最近の開発・建造はレシピが固定化されて結構面白みのないものになりつつあったが、そうは言ってられない状況だ。
またボーキサイトの枯渇が進んでいるのだ。第一艦隊のレベリングもかなりハードな組み込みをしているからだ。
「開発は対潜レシピを4回。建造は空母レシピ1回とレア軽巡レア駆逐レシピを3回だ。」
「了解しましたっ!」
俺の指示を聞いた雪風は早々に執務室を元気よく出て行った。最近は結構調子がいいのか、連続でいい当たりを引いてくる。俺としてもとてもうれしい限りだ。
ーーーーー
ーーー
ー
雪風が出て行った執務室にはまだ艦娘が何人も残っていた。秘書艦と秘書艦補佐、第一艦隊旗艦、それと長門。
今日の秘書艦は神通だ。補佐に五十鈴。第一艦隊旗艦は夕張だ。
「えっと......提督?」
夕張は不思議そうな顔をして俺の事を呼んだ。どうやら呼び出された理由を理解していないらしい。趣旨は伝えたつもりだったんだが。
「夕張、今日からレベリングだ。改になり次第、任を解くけどな。」
そう言うと夕張はパァーと笑顔になった。遂に待ち焦がれたレベリングが来たからだろう。これでよく分からない自分の立ち位置からおさらばできるのだ。
金剛の歓迎会(※第十話参照)で俺から聞かされた準戦闘要員という肩書と、普通なら渡されるはずのない装備に戦闘要員と同等の扱いを受けている夕張はこの瞬間を楽しみにしていたのだ。
「そうですか。でもっ、私は頑張りますよ!!提督の期待に全力で答えます!」
そう言って執務室を出て行こうとする夕張を俺は引き留めた。
「ちょっと待った。まだ随伴艦を連絡してない。」
「あちゃー、すみません。」
元気よく出て行こうとした夕張の出鼻を挫くことになってしまったが、俺は気を取り直して読み上げた。
「随伴には金剛、摩耶、鳥海、祥鳳、瑞鳳を付ける。瑞鳳も序に経験してきてもらうつもりだ。」
「了解しましたっ!では、行ってきますっ!!」
そう言って今度こそ夕張は元気よく執務室を出て行った。
ーーーーー
ーーー
ー
執務を始めて30分。俺が書類を見ていると、視界の端でチラチラとこちらを見る神通が俺に映っていた。
「どうした神通。」
「はい......少し気になることがありまして。」
そう言った神通から吐かれる言葉に俺は驚いた。
「鈴谷さんの歓迎会ってやらないんですか?」
「んがっ!?」
驚いて変な声を出してしまったが、この前の蒼龍とイムヤ、陽炎の件に続いてまた執務室まで案内されなかった艦娘が居たとは思わなかった。
「鈴谷だってぇ!?」
「はい......。4日前くらいから風のうわさで鈴谷さんが進水した事を訊いていまして......。昨日、海岸を歩いていると黄昏た鈴谷さんを見たんですが。」
俺はすぐさま命令を出した。
「五十鈴、赤城、連行。」
「はぁ......了解。」
やれやれと言わんばかりに五十鈴は手を挙げて執務室を出て行った。
ちなみに五十鈴は鎮守府にあった五十鈴の艤装全ての練度を上げて21号電探を回収したので、任務が解かれていた。それが終わったのが昨日だったので、夕張のレベリングが入ったのだ。
「提督。」
「なんだ?」
俺が溜息を吐いて頭を掻いていると、神通がまた俺を呼んだ。
「蒼龍さんのときもこんなことありましたよね?その時も赤城さんを連行したみたいですが、どうしてですか?」
そう言った神通は抱えていた書類を俺の目の前に置いた。抱えていたと言っても数枚だが。
「俺が気紛れで開発と建造を赤城に頼むことがあるんだ。開発は艦載機でって言ってあるが、建造は自由にやって貰っている。俺はそれを『特務』って言ってるけどね。」
「はぁ......。でもなぜ赤城さんに?」
「ウチの傘下の空母の中で一番信頼しているからだな。少しアレだけど。」
そう言って俺は書類に視線を落とした。
ーーーーー
ーーー
ー
「赤城さんを連れてきたわよ。」
そう言って五十鈴が執務室に戻ってきた。
その連れられてきた赤城は五十鈴の影に隠れているが、身長差ゆえに隠れきれてない。
「赤城、また『特務』で......。」
「またやっちゃいました......。今すぐに呼んできますっ!!!」
そう言って赤城は執務室を飛び出していった。その姿は今まで見たことなかったので少し新鮮だったが、神通はポカーンとしていた。五十鈴は古参組なので偶にその姿を見ていたのだろう、やれやれと言った感じで首を振っている。と、その時俺は持っていたペンを机の下に落としてしまった。
コロコロと転がり、座りながらでは届かないところに入ってしまったので俺は椅子から降りて屈んで机の下に潜り込んだ。
そうすると赤城がすぐに鈴谷を連れて戻ってきた。何か話しながら来たみたいだ。
「すみません、鈴谷さん。この前のでここの案内を忘れてました。」
「赤城さんしっかりして下さいよぉ~。って、ここって執務室?」
「はい。」
そう言って赤城は執務室の扉を開いた。
鈴谷は物珍しそうに執務室を見渡して、何で秘書艦が2人もいるんですか?とか赤城に訊いているが、なんで驚かないんだろう。
俺はペンを手に取ると、よっこいせと言って椅子に座りなおすと、鈴谷が何かを言いかけて口を止めた。
「ふーん。やっぱり提督は居ないのかぁ......。もう艦隊司令部レベルも提督着任条件を超えているけど、レア艦がいっぱい進水してたから散々歩き回って探したんだけ......ど......。」
俺の顔を見るなり鈴谷はフリーズした。
なんか不味いものでも見たのかと俺は一瞬不安になったが、鈴谷が瞬時に警戒したのを見て俺は何事かと身構えた。
「っ!?なんでこんなところに人間がいるの!?」
と俺に対する第一声がそれだった。俺は椅子から滑り落ちそうになるのを堪えて、座りなおしたが鈴谷は続けて俺に訴えた。
「そこは鈴谷の提督が座る椅子でしょ!?鈴谷は進水した直後の案内で提督のところに連れてこられなかったから着任してないと思って、それでも少し期待して歩いて探したのにっ!!誰っ!?」
その必死な訴えに俺は質素に返した。
「その提督だけど?」
「はいっ?!」
そう訊き返した鈴谷はみるみるうちに顔が赤くなっていった。
俺はそんな鈴谷から視線を外し、赤城を見る。
「赤城。」
「はい......。」
「彗星と流星......蒼龍に載せ換えようかなぁ。」
「いやっ!!それは私の艦載機ですっ!!」
「次は?」
「もうしません......。」
俺はそれだけすると、鈴谷に視線を戻した。さっきは顔を真っ赤にしていたが、今度は口をパクパクしている。なんか金魚みたい。
「......本当に鈴谷の提督?」
「そうだけど?」
「ここの司令官?」
「そうだけど?」
よく分からないやり取りをすると鈴谷はパァーと笑顔になった。さっきまでも険しい表情や、怒りの表情から一転したのだ。
「ホントのホントに鈴谷の提督なの?!」
「だからそうだって言ってる。」
「やったー!!提督の着任してる鎮守府に鈴谷は進水したんだー!!!」
と最終確認的なのをした後に鈴谷は飛び跳ねて喜んだ。ここに新造艦で来る艦娘全員がこんな感じなので、俺はもう見飽きて来ていたが、鈴谷は俺がど滑りすることを言った。
「確率的に提督の着任している鎮守府に進水する可能性はゼロって言われてたのに、提督のいる鎮守府に進水できるなんて鈴谷、チョーラッキーじゃん!!!って事で明日から鈴谷を秘書艦にしてね!!」
それを訊いた鈴谷以外全員は同じタイミングで言った。
「「「「金剛かコイツ......。」」」」
ーーーーー
ーーー
ー
鈴谷の秘書艦にしてして攻撃はそのあと1時間以上続き、最終的には熊野を呼んでみたところ熊野はプンスカと怒り始めた。
「鈴谷さんっ!提督を困らせちゃいけませんわっ!!さぁ、行きますわよ!!!」
「痛いって熊野ぉ~!!耳っ!耳が千切れるっ!!!提督ぅ~助けてぇ~!!」
と言って強制退出した鈴谷と入れ替わりで雪風が戻ってきた。
今日は何だか雪風の様子がおかしかった。それに、いつも新造艦の艦娘を連れ居るのに今日は1人だった。
「司令ぇ......すみません。雪風、やっちゃいました......。」
そう言って雪風からの報告が始まった。
開発では九三式水中聴音機しか開発できず、他は全部失敗に終わったという事。建造では千歳の艤装、雪風の艤装、羽黒の艤装、神通の艤装を出した様だ。
雪風の艤装を出した辺り、十分幸運な気がするが今までの経歴から考えて今日は失敗という事らしい。
「大丈夫だ。そういう日だってあるんだ。また明日、頑張ってくれ。」
新登場と鈴谷ですが、いろんなSSであるような処○ビッ○とかじゃなく、金剛の性格っぽくしました。私見ではありますが、金剛とどことなく似ている気がするんですよね......。主に性格。
今日は珍しく雪風が雪風しませんでした......。それでもソナーを持ってくるというww
ご意見ご感想お待ちしてます。