【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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今回はちょっと長すぎるかもしれません。あと内容がスッカスカですので、ご注意を。


第二十五話  初めての休暇

 

俺は今日という日を待ち望んでいるのが普通なのだろうが、そう言う訳でもない。

連日の遠征や出撃で疲れているんじゃないかと俺は鎮守府全体に休暇を出したのだ。と言っても、普段何もしていない待機艦には代わりに遠征に行ってもらうと通達したが。

 

「はぁ......やっぱこの時間に目が醒めるな。」

 

時計に目をやると針は6時を過ぎた辺りだった。

俺はそのそのと布団から這い出て、休みだがいつもの格好に着替えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝の食堂は思ったよりも艦娘が居た。多分俺と同じ理由だろう。

 

「おはよう、間宮。」

 

「おはようございます。今日は何に致しますか?」

 

「あー、じゃあおまかせで頼める?和でも洋でも良いから。でも中華は朝から出さないよね?」

 

「はいはい。提督それ好きですね~。席にいて下さい。妖精が持って行きますから。」

 

俺はそう間宮に言われて、いつもの席に座った。

俺は朝食を待ちながらいつもなら編成やらを考えている時、別のことを考えていた。

五十鈴の件で鎮守府に何があるのか大体把握できたが、もう少し何かある気がしてならないのだ。

 

「何かないかな?」

 

俺は頬杖をついて考え出した。

先に思いついたのは、事務所と門兵詰所に行ってみる事だ。五十鈴曰く、そこは艦娘の言う人間がいる場所だという。

次は海岸の埠頭にある艤装を見に行く事だ。俺はこれでも軍艦やなんやらの兵器とか好きな人間だ。生で見れるなんてそうそうある事じゃないから見てみる価値はある。

次は妖精と話してみる事だ。これまで妖精とは事務的な事しか話した事がなかった。妖精と何か面白い話でも出来ればと思ったのだ。

俺はその3つから決心した。まずは、妖精と話してみよう、そう考えた。

丁度そんな事を思いついた頃に妖精が俺の朝食を持ってきてくれた。ちなみにお盆に乗せられたのを4人くらいで運んでいる。

 

「ありがとう。」

 

「いえ!これは私たちの仕事ですのでっ!」

 

俺が礼を言うとそう言って妖精はにっこり笑った。俺は目の前にいる妖精を見た。

今ここで話をつけて朝食後にでも話してみようかと考えついたのだ。

妖精が持っているお盆を受け取ると、俺は去ろうとする妖精を呼び止めた。

 

「なぁ、今日暇な妖精っているか?」

 

「そうですねー、というかどうしてそんな事を聞くのですか?」

 

「妖精と仕事以外の事を話してみたくてな。」

 

俺がそう言うと妖精は顎に手をやった。

 

「成る程......。私たちは今日、食堂の当番なのでお相手は出来ませんが、非番の妖精がいますのでそちらに声をかけておきますね。」

 

「ありがとう。君とも今度話してみたい。」

 

「えぇ。私が非番の時なら喜んで!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は朝食を摂り終わり、食器を洗い場まで持っていくと食堂を出ていた。

朝食を持ってきた妖精が話をつけて非番の妖精が執務室に行くと言っていたので俺はその足で執務室に戻っていた。

長門の居ない執務室は案外静かで、朝食が終わったのに雪風は来ない。休暇だからだ。きっと思い思いに過ごしているのだろうと俺が考えていると、執務室に妖精が2人入ってきた。

 

「おはようございます、提督。」

 

「おはようございます。」

 

そう言って入ってきた。

俺はそれに返すと、執務室の机の上まで来た妖精に私室にあった座布団に座らせた。

 

「おはよう。知ってると思うが俺がここの提督だ。今日は非番だそうじゃないか。」

 

「そうですよ。ですが暇する予定でしたので有難いです。提督と話してみたかったものですから。」

 

俺の言葉に返してくれる方の妖精はもう1人の妖精と違って白衣の様な格好をしている。もう1人の妖精は戦闘服、艦載機乗りな様だ。

 

「まぁ話してみたかっただけなんだけどな。」

 

「そうみたいですね。」

 

俺は早速色々聞いてみる事にした。

 

「ちなみに君たちは普段はどんな仕事を?」

 

「普段は工廠の開発担当です。最近調子悪くてすみません。」

 

「私は赤城さんの零戦隊の一番機です。」

 

2人はそれぞれの仕事を言った。最初の白衣の方はやはり非戦闘員で、もう1人は艦載機乗りだった。しかも赤城の零戦隊。

 

「そうか、いつも世話になってる。」

 

「いえ、非戦闘員は楽な方ですよ。戦闘員は艦娘よりも深海棲艦に近付きますからね。」

 

「私は零戦隊なのでそこまで近付きませんが......。」

 

そう俺が言うとフンスと白衣の方が鼻息を力いっぱい出した。

 

「それはそうと、俺は仕事の話をするつもりじゃないんだ。」

 

「と、言いますと?」

 

「俺が別の世界から呼ばれたってのは知ってるだろう?だからこの世界の事をなんも知らないんだ。知ってる事は艦娘の事、それもごく一部くらいだし。」

 

「成程......。つまりこの世界の事を訊きたいと?」

 

「そう言う事だ。」

 

俺がそう言うと白衣の方が話し始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「私たちは艦娘の出現と同時に現れたので、それ以降で知ってることなら。」

 

「今、この国は日本国を改め、日本皇国を名乗っています。国連でも承認済みです。最も、国連も今機能してるかどうかですが。」

 

「世界各地に深海棲艦が出現したんですよ。同時に。」

 

「ですから地球上のあらゆる海洋航路が使えずに貿易が行えない状況です。」

 

「ですが日本とドイツは貿易ができるんですよ。艦娘がいるからです。」

 

「最近ではイタリアでも艦娘が出現したとかなんとかっていうのをドイツの輸送船に乗っていた乗員がそう話したそうです。」

 

「次に国内ですが、物資不足が起きてます。ですが何とか持ってます。艦娘が出現してから私たち妖精によって食料を生産するプラントが開発されたので。ですが資源は人間が直接指揮する1つの鎮守府が遠征によって確保しています。」

 

「ですので物資不足だとは正直思いません。」

 

「次に経済ですが、国内だけで生産消費が間に合っています。ですので多分ですが提督のいらした世界とあまり変わりありません。豊かと言ってもいいでしょう。」

 

「政治ですが、先ほど日本皇国と名乗っていると言いましたがその名の通り、全権を天皇陛下に委ねている形になっております。」

 

そう言うと白衣の妖精は一息吐いて姿勢を崩した。

 

「大まかなこの世界の事です。何か詳しく聞きたい事はありますか?」

 

そう言った妖精に訊いた。

 

「じゃあこの鎮守府を出たら、俺の居た世界と変わらない日本があるって事でいいのか?」

 

「そう取ってもらえてよろしいかと。ですが何等かは違う筈です。」

 

俺は更に訊いた。

 

「この世界と俺の居た世界の違いって艦娘以外にあるのか?」

 

「政治が天皇制という事と、提督の......何ていいましょうか、雰囲気?を見ると私たちが出現する前の日本人の様な感じがするので、そこから説明しますと、自衛隊はありません。」

 

白衣の妖精は続けた。

 

「政党もありません。ですが軍があります。」

 

俺はなんとなく想像していたことを妖精が言った。俺が着任した日。門の前に居た陸上自衛隊の戦闘服に身を包んだ人、あれがとても警備の人間に見えなかった。

 

「陸海空軍ありましたが、深海棲艦によって海軍の保有する艦艇は全て轟沈したので実質、陸空軍しかいません。」

 

「そうか。」

 

「ですが、海軍上層部は残ってます。造船所がありますのでそこで資源を少しずつ溜めながら艦艇を作ってるらしいです。」

 

俺はもう十分な事を訊いた。知りたい事もだ。

そうすると白衣の妖精が唐突に言った。

 

「艦娘と私たち妖精の存在は、国民には秘匿されてます。国民は今も海軍が戦っていると思っている様ですね。まぁ、その通りですが。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が白衣に妖精にこの世界について話をすると、今度は零戦隊の妖精が俺に訊いてきた。

 

「提督のいらした世界はどんなんだったんです?」

 

俺はこれを長門の時の様に話すべきかと思ったが、ここは話の流れにのった内容を話すべきだと考えた。

そう、この世界と俺の居た世界との繋がりだ。

 

「平和な世界だったよ。深海棲艦なんていない......。」

 

「人間たちは深海棲艦に恐れる事無く至って平凡に生活していた。俺もだ。」

 

「日本で平和じゃなかったのは国会と政策に反対してデモを起こしている連中だけ。」

 

俺はそう妖精に話した。

 

「そうですか......。この世界に来た時はどう思いました?」

 

「驚いたさ。椅子に座っていたはずなのに光に包まれて、やっと見えるようになったと思ったらここに居た。」

 

何だか白衣の妖精はバツが悪そうな顔をしている。

 

「『提督を呼ぶ力』ですね......。あれは開発班が管理している力です......。すみません。」

 

「いいさ。あっ......言い忘れてた。」

 

「??」

 

「俺の居た世界の俺ぐらいの年の男は結構、そういうのを想像しているんだ。」

 

俺はそう言ったが恥ずかしかった。

 

「えっ?何をです??」

 

「何だろなー。」

 

恥ずかしくて訊き返されてもちゃんと俺は答えなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

あの後、妖精とは色々な事を話した。

こういう休暇に皆がやっている事や、面白かった事、白衣の妖精は俺が欲しいものを用意してくれるとのことだったので色々と頼んだ。

白衣の妖精と零戦隊の妖精とは2時間くらい話し、2人の妖精は戻っていった。

妖精の居なくなった執務室は静かになり、俺は寂しさに襲われていた。

 

「......皆はどうしてるもんかね。」

 

俺はそれが気になった。妖精との話の中に、鎮守府には娯楽施設の類が一切無いのと、時間を潰せる様なものもない。本は戦術指南書と資料室の一角にある表紙の古びた本しかないらしい。

勿論俺の部屋もそうだったがテレビなんてものも無く、ラジオもないらしい。

 

「これは妖精に頼むか、事務所に行くか......。最悪門兵に賄賂?」

 

俺の思い立った手はこれくらいしかなかった。賄賂に関しては俺が着任した事はその日に人間に書類が送られて、俺への賃金が出たのだ。しかも破額だ。1年提督をやっていた日本人が一生働いて稼げる金の5倍は入る。

あまり部屋から出ない俺にとっては溜まっていく一方の金だった。ならばこうやって使うのも悪くなかった。

 

「普段から妖精には負担をかけているから、妖精に頼まずに行こう。」

 

俺はそう決め、まず鎮守府内にある人間のいるところである事務所に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は鎮守府にある事務所に来ている。鎮守府で人間がいる場所だ。

ここでは、どうやら搬入物資の管理や鎮守府への任務の受理などをしているところらしい。これは長門に訊いたことだが、受けて完遂できた任務は俺が報告書を書き、ここに提出しているという事だった。それの提出は長門がしていると言っていた。

 

「こういうのは慣れないんだよな。」

 

俺はそうぶつぶつ言いながら事務所の扉を開いた。

中には受付的なものがあり、その奥で6人くらいが仕事をしていた。

受付に居る所謂受付嬢は目を点にして慌てて俺に対して敬礼した。

 

「どっ、如何されました?!」

 

ここに提督が来たという事で受付嬢は気が動転し、慌てている。その騒ぎが聞こえたのか、仕事をしていた6人もこちらを見るなり俺に敬礼した。

 

「申請?お願い?みたいなもので来たのですが。」

 

俺はそう言ってそのまま受付嬢に訊いてみた。

 

「物資の要請は出来ますか?」

 

「はい、出来ますが......。何を?」

 

「娯楽品です。」

 

そう言うと奥から人が出てきた。

 

「娯楽品ですか......提督がお使いになるので?」

 

「いや、艦娘たちのです。」

 

そう言うと奥から出てきた人がさっきまで平凡そうな顔をしていたのに途端に怖い顔をした。

 

「......何故です?」

 

「白々しいですね。」

 

俺がそう言うと苦みを感じた様な表情をした。

 

「......。」

 

俺が嫌味を言うと途端に黙ってしまった。

 

「俺はこの世界に艦娘によって呼び出された人間です。勿論、この世界についてはあまり理解が出来てないですが。」

 

「......知ってますよ。」

 

俺はなんとなく目の前の人の身なりを見てみる。

下はビジネスマンが履いている様なビジネススーツ。上にはシャツを着ていて、ジャケットも羽織っている。あまり見たことが無いが、結構高そうなスーツだ。

それに朝、妖精に訊いた話。この世界の日本は豊かだ。だがその豊かさも艦娘や妖精によって成り立っている様なものだ。

 

「そう言えば鎮守府にある施設なのに民間なんですか?ここは。」

 

俺はワザとらしくそう言った。そうすると目の前の人は普通に答えた。ここは海軍の人間が居る。全員海軍所属だ。と。

俺はそれを訊くと続けた。

 

「要請出来ないのなら出来ないと仰って下さい。その代り、昼から民間のトラックが頻繁に出入りするかもしれないのでよろしくお願いします。」

 

俺はそう言って事務所を出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「よく考えたら俺もだな......。」

 

事務所を出て行こうとする俺を止める人などおらず俺は執務室へ戻っていた。執務室には提督が着任した時の為のマニュアル的なものがあるらしい。それに外出やらなんやらの制約などが書いてあるという。

事務所の人に言いかけた言葉を再び俺は頭の中で考えたら、俺もそっち側だったので少し気分が悪かった。

『あなた方を肥やしてるのは艦娘なんですよね?』

その言葉は今の日本皇国海軍と艦娘との関係、ひいては日本皇国そのものと艦娘との関係を一言で表した言葉だ。

艦娘を深海棲艦だと言って隔離するが戦力として深海棲艦という敵を丸投げした国と、母国の土地を侵略されまいと邪険に扱われても尚戦い続ける艦娘。

妖精の話では、現在の日本の経済を回しているのは艦娘だという事。鋼材、油、アルミニウムその他の地下資源を回収してくるのも艦娘。食う食べ物を安定して手に入れるためのプラントは妖精。

訊いてる限り胸糞悪い話だった。

俺もその人間だという事にも同時に気付いていたのだ。

執務室から無機質(※紙は有機物です)に命令を下し戦地に送る。俺も艦娘たちに肥やされてるんだ。

 

「今日は休暇だけど、いつもなら戦地に何人かは居る時間だな。」

 

俺はそう呟いて執務室に入った。

やはり休暇の日なので執務室の中には誰もいない。

 

「確かここに......あった。」

 

俺は机の引き出しを開けて探すと、奥の方にあったマニュアルを引き抜いた。

マニュアルを開いてみると、目次で内容が分かれていて俺の見たところは真ん中らへんのページにあった。

そこを開いてみると、簡潔に纏められていた。外出する際は門兵に何時に戻るかというだけ。護衛に私服で門兵が1人着くらしい。

仰々しい手順が書かれていなかった事に安心して、そのまま門兵詰所に向かった。因みに金はというと、カード払い。俺の居た世界と同じ様だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は門兵詰所の前に来ていた。中では8人くらいの門兵が休憩なのか、雑談をしている。

 

「すいません。」

 

俺はそう言って詰所に入った。そしたら事務所同様の反応をされた。だがこっちの方が敬礼はしっくりくる。

 

「外出したいんですけど、いいですか?」

 

「はい。マニュアルは読まれましたか?」

 

俺がそう言うとどうやら階級の高い隊長的な人が出てきた。休憩中の門兵の中でも一番歳を取っている様にも見える。

 

「読みました。」

 

「買い物ですよね?二等兵っ!護衛だっ!!」

 

「はっ!!」

 

隊長に二等兵と呼ばれた門兵は休憩していた兵の中で一番若い様に見えた。俺とほぼ同年代だ。

 

「よろしくお願いします。」

 

「はいっ!!」

 

俺はこの後、二等兵が私服に着替えてくるのを待って鎮守府を出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「で、まずは私服を買うと?」

 

「そうですね。提督の服装は目立ちますので。」

 

俺は二等兵と一緒に鎮守府から歩いて6分くらいにあるユ○クロに来ていた。この店、俺の居た世界にもあるわ。

 

「というかここで取りあえず私服を買ってからの買い物です。提督の軍装は後で仲間が鎮守府に持って帰りますので。」

 

「分かりました。」

 

俺は適当に服を身繕い、そのまま会計して着替えて出た。そうすると外には私服の門兵が待っていて、ユニ○ロの袋に入った軍装を持って帰っていった。

 

「という事で提督は何の買い物を?」

 

「鎮守府にテレビを繋げようかと。取りあえず20台買って、門兵の監視下で設置します。」

 

「私たちでの監視下でですか?」

 

「艦娘の寮に設置する......つもりですが試験運用です。まずは食堂に設置します。ですので買うのは20台じゃなく1台ですね。」

 

「えぇ!?それって......。」

 

「大丈夫ですよ。業者には艦娘の姿を見せないつもりです。秘匿されてるのでしょう?」

 

「そうです。国民だけでなく、軍でも今では限られた部署にしか知られてない存在ですから。」

 

俺と二等兵がそう話していると、気付いたら目的のテレビのある家電屋に着いた。

 

「じゃあ吟味しますか。」

 

「えぇ。」

 

俺と二等兵は店内に入り、家電コーナーの一際目立つところにあるテレビのコーナーで吟味を始めた。

見ていくテレビのメーカーは俺の居た世界にあるメーカーと同じだった。

その中でこれでいいだろうというのを見つけ、店員に声を掛ける。

 

「すみません。」

 

「はい!」

 

声を掛けた店員は営業スマイルで接客を始めた。張り付いた様な笑顔は判り易い。

 

「このテレビ買いたいのですが?」

 

「はい!では、色々と見積もりを......。」

 

そう言われて俺と二等兵はその店員と話し出した。

本体のサイズはどうするか、電話線は通っているか、どう設置するか......。ほんの20分の間でその話を終え、最後は業者に設置を依頼するかを決めた。

だがここで俺は少し戸惑った。軍事施設に民間の業者を入れていいのかという事だ(※作者の偏見です)。

だが考えるまでもなかった。艦娘の存在など国民が知る由もない。適当に海軍が新設した施設だとごまかせばいい事だ。幸い設置場所は食堂。ごまかせる。

 

「......設置をお願いできますか?」

 

「はい!業者が向かいます。それと、アンテナも設置します。よろしいですか?」

 

「はい。ですがそちらはこちらで用意しますアンテナだけ下さい。」

 

「えぇ......判りました。では会計を。」

 

こうして会計を済ませた。因みにアンテナは軍事施設故、工兵に頼む。門兵に工兵の資格、更に電気工事の出来る人間が居ればの話だが。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と二等兵は家電屋でテレビの話を付けたあと、本屋に来ていた。

テレビの他の娯楽を買うためだ。雑誌なんかは週刊や月刊で常に更新され続けるので、文庫本を片っ端から買い集める。漫画もあった方がいいのかと思い、適当に俺の知っていて女の子の読みそうな本をこれまた買い集めた。

買い物を終える頃には2人では持てない量になっていたので、門兵の隊長が車を回してくれた。

そして俺はその車に乗っている。

 

「ありがとうございます。車を回していただいて。」

 

「えぇ、それにしてもたくさん本を買ったんですね。」

 

「まぁ。提督と言うのは案外暇なものですし。」

 

俺はそう言って答えた。

そうすると俺はタイミングがいいと思い、テレビの件を話した。

 

「すみませんが、テレビを食堂に設置するつもりなので業者の監視を頼めますか?」

 

「はぁ......えらく変な事をするんですね。いいですよ。私がやります。」

 

「それと工兵はいますか?電気工事ができる人。」

 

「そいつが電気工事が出来ます。資格も持ってますよ?テレビのアンテナ設置ですか?」

 

「その通りです。」

 

俺がそうやって会話していると、助手席に座っていた二等兵が慌てだした。

 

「ほっ、ほんとですか?!久々にやるので少し不安なんですが......。」

 

「大丈夫だ!二等兵は軍人になる前、テレビのアンテナ設置を仕事にしてたじゃないか!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

結局一緒に買い物に行った二等兵にアンテナの設置を頼んだ。明日にでも朝からやるといったので俺は頼んだ。

そしてテレビの設置に来る業者に何と言おうかと悩む。

 

「まぁ、秘密にして貰えばいいか。適当に誤魔化せば。」

 

俺はそう思い、運んでもらった本の山に囲まれながら俺は寝た。

因みに隊長の車に積み込んだのはあまりにも多いからと言って段ボールに詰められた本で、それを執務室の横の俺の私室に運んだのは、暇そうにしていた艦娘に頼んで運んでもらったものだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

次の日、俺は艦娘全員に休暇延長を伝えた。今日のテレビの工事の為だ。なので午前中の食堂の出入りを禁じた。

そして今、俺の目の前で目を点にしている業者が居る。

 

「えっ......ここは軍事施設?!」

 

そう業者の男は驚いていた。

 

「えぇ。新設の基地です。兵士の娯楽の為に食堂にテレビの設置を。」

 

俺がそう言うと男は深々と頭を下げた。

 

「軍の基地での仕事っ!?とてもうれしいですっ!!」

 

そんな男に苦笑いする俺と二等兵、隊長であった。

そのあとすぐに二等兵はアンテナの設置、男はテレビの設置をはじめた。

思いの他、二等兵の手際の良さがあって1時間で終わったのには驚いた。業者の方も1時間半で終わらせてくれた。張り切ってやってくれた様で、ありがたい。

 

「では、ありがとうございましたっ!!」

 

そう言って設置を終えた業者の車は走り去った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はいつもなら全体の連絡は艦娘全員が収容できる食堂で行っていたが、業者が帰った後すぐに艦娘を俺は運動場に集合させていた。

 

「あぁー全体への連絡だ。」

 

俺はメガホンを持って話し始める。因みにマイクやスピーカなんかは無く、俺にそんな知識もなかったので致し方なくこれを使っている。

 

「この休暇中、食堂にテレビを設置した。」

 

「この後は昼の時間だと思う。楽しんでくれ。」

 

俺がそう言うと、喜ぶのかと思ったが真逆というか無反応だった。

だがその中で長門と赤城、吹雪など秘書艦経験のある艦娘だけが反応したのが見えた。

 

「......まぁいい。あと資料室に本を貯蔵した。戦略指南書でもない、ただの文庫本や漫画だ。」

 

これには全員が反応した。

 

「資料室に置くことにする。明日から使えるので是非、使ってくれ。では解散だ。」

 

俺がそれを伝えるとぞろぞろと建物に入っていく。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が昼を食べに食堂に来てみると人だかりができていた。

人だかりの先にはテレビがある。だが、電源は点いていない。テレビを見たことのある長門と赤城、吹雪などの秘書艦経験のある艦娘がテレビの前に立ち、何かを待っている様子だった。

 

「どうしたんだ?」

 

俺が長門や赤城、吹雪たちに近づくと、俺に訴えてきた。

 

「これは本当にテレビなんですか?!」

 

吹雪は少し興奮気味にそう言うと続いて赤城も俺に訴えた。

 

「あの、人間が映るやつですよね!?」

 

そして最後に長門が訴えた。

 

「遠目でしか見たことがなかったんだ!どうやって使うんだ!?」

 

そう言うと周りに集まっていた艦娘が俺にこれが何なのかという説明を要求してきた。

俺は説明が面倒だった。正直、テレビが生活の中に当たり前にあるのでどういうものかという説明が難しかった。今までテレビが何かなんて聞いてくる人もいなかったからだ。

頭を回転させた。上手く伝わる説明......。いつも執務室で使っているパソコンなんかも引き合いに出してもいいが、どれ程の数の艦娘が執務室に出入りしたのかも分からないから説明の材料としては不合格だ。

なら、いっそのことどうにか説明するしかなかった。

 

「テレビとは、遠くに映像を電波で送ってそれを受信し、画面に映し出す機械だ。判り易く言えば、『映像無線』と言ったところだろう。」

 

そう言うとおぉーという歓声が上がり、俺にどうやって使うのかという疑問が多くぶつけられる。

そんなに一気に言われても俺が聞き取れないと言うのに。

俺はテレビの横にあるリモコンを取ると、電源を入れた。そうすると、昼時だ。ニュースが流れている。女子アナウンサーによる最近話題のスイーツなんかの紹介がされていた。

それには艦娘全員から歓声が挙がった。

 

「前列には駆逐艦の艦娘を、駆逐艦の艦娘は姿勢を低くして見ろよ。あと、近いと目が悪くなるからな。」

 

俺はそう言ってリモコンをポケットにしまった。

そして昼食を受け取りにトレーを取り、カウンターに行ったが人気が無い。

キョロキョロと見渡すと、間宮がテレビを見ている艦娘の後列に紛れて見ていた。どうやら、間宮もテレビを見るのは初めてだったらしい。

俺はほとぼりが冷めるまで待つことにした。

艦娘が集まり、テレビを見る様は何だか昔映画で見た様な気がしてならなかった。

 

「......何だっけか。......あぁ、Always さっ......。」

 

と言いかけた時に赤城が俺の横に座った。

 

「ん?満足したのか??」

 

「はいっ!余り見ていても時間を取られていく様な気がしたので、スイーツ?の話が切り替わった辺りで切り上げてきました。」

 

そう言って机にトレーを置く。俺と同じでカウンターに行ったのだろうが、間宮が居なくてもらえなかった口らしい。

 

「それで、どうしてテレビがあるんですか?」

 

赤城に訊かれたので素直に話すことにした。

 

「あぁ。鎮守府には娯楽が無いだろう?だから昨日買ってきた。」

 

「そうですか......。そう言えば今日の朝、門から変な恰好をした人間が入っていくのを見ました。提督と門兵も居ましたよね?」

 

「あれはテレビを設置してくれたんだ。門兵は護衛、というか監視だ。」

 

「そうですか。」

 

そういうと赤城は足をパタつかせてテレビの人だかりの方を見つめた。

 

「私、一度だけ門兵詰所にあるテレビを見たことがあったんです。」

 

そう赤城は切り出した。

 

「それは何かと尋ねたら『テレビだ。』と答えてくれて、数分だけ見させて貰ったんです。」

 

「そうか。」

 

「その時に教えて貰ったんです。テレビは娯楽品で、それに材料に鋼材や油が使われている事に。私たちが使っている燃料と装甲と似たもので出来ているもので、この国ではその鋼材や油が少ない事も。」

 

「......。」

 

「テレビを作るためにどれだけ苦労しているのか、艦娘である私は分かったのですよ。この娯楽品は私たちが死と隣り合わせで手に入れたもので出来ているって事に。だけど、私たちの手の届くところには無かったんです。門兵詰所にあって事務所にあって、私たちの近くに無いものでした。」

 

赤城はそう淡々と語っていく。

 

「本の存在はそれよりも以前から知ってました。本の存在を知ったのは事務所です。私が報告書を持って行った時でした。受付の女の人が何かを見ていたんです。それは何かと聞くと、『本だ。』と答えました。どんな物なのかと聞くと、『文字の並んだ読み物。貴女が持っている報告書の様な見た目をしているけど、内容は物語だ。』そう言ったんです。」

 

赤城は足をパタつかせるのをやめた。

 

「娯楽品は鎮守府の中で私たちの手の届くところにはありませんでした。戦闘し、食事し、寝るだけ。そんな生活をずっとしてきて私や長門さんや吹雪さんは娯楽品の存在を知ってしまった。」

 

そう言うと赤城は俺の方を見た。

 

「だから、ありがとうございます。用意して頂いて。」

 

赤城は照れ隠しなのか少し舌を出して俺にそう言った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

テレビはあまり艦娘が集まり、昼の時間も押しているので強制的に電源を落とした。ブーイングが起きたが、長門や赤城、吹雪が止めてくれたことによって昼食が食べれるようになり、俺は空きっ腹にやっと食べ物を入れることができた。

俺が昼食を食べていると、再び赤城が俺の横に座ってきた。どうやら何か話があるようだ。

 

「提督、提督の用意した本やテレビに制限を付けることを提案します。」

 

そう真剣に言った赤城に俺は昼食を頬張りながらただ一言で返した。

 

「無論、そのつもりだ。」

 

そう言って口の中の物を飲み込んだ。

 

「テレビは俺の監視下で朝昼晩の食事時のみに制限するつもりだ。テレビの操作をするリモコン、これの事だがこれは俺が管理する。」

 

そう俺が言うと、赤城は首をコクコクと縦に振った。

 

「本は、用意した本全てを番号で管理、資料室からの持ち出しを禁止する。」

 

これは図書館にある貴重図書の管理法と同じだ。

 

「成程。判りました。では、明日の朝に連絡するといいでしょう。」

 

そう言うと赤城は昼食を食べ始めた。

 

「あっ、夕食の時の方が良さそうです。」

 

そう言って再び赤城は箸を進め始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼食後、俺が執務室で休んでいると様々な艦娘が執務室を訪れていた。勿論、テレビの事だだ。

何でもいつ見れるのかとか言うのだったが、昼食後俺が帰ってきて40分後の事だった。その時に訪れたのは夕立。そして俺に言ったのは『金剛さんがテレビを点けた。』という事だった。

何故それを俺に報告するのかと聞くと夕立は『きっと提督さんが勝手に点けるのはいけないって言うと思った。』とのこと。まぁその通りだが、俺は早速夕立と食堂に向かった。

食堂に点いてみると、案の定人だかりが出来ていた。

 

「提督ですわね。どうされたんですの?」

 

俺が入ってきた事に気付いたのは、溜息を吐いて目頭を押さえていた熊野だった。

 

「夕立から聞いてな。来たんだ。」

 

「やっぱりですわね......。あれはやはり勝手に使ってはいけないものでしたのね。」

 

そう言った熊野は深く溜息を吐くと手を叩いた。

 

「はいはいっ。皆さんこっちを見なさいな。」

 

俺は熊野がこちらを見るように誘導してくれたのかと思い、テレビの周りに集まる艦娘たちのところへ行った。

 

「夕方に言うつもりだったが、今言おう。テレビは朝昼晩の食事時にのみ点ける。それ以外では使わない事にした。それと勝手に点ける事を禁止する。点ける時は俺が点けるからその間は良しだ。」

 

そう言うとブーイングの嵐が起きた。いつ見てもいいじゃないとか聞こえてくるが、俺は少し声を荒げて言った。

 

「食事時以外は仕事に集中して欲しいんだ!俺もなるべく早くに来て点けておくから。」

 

そう言うと理解できたのかバラバラに散っていった。その連中を見ていると、皆比較的最近に進水した艦娘と駆逐艦ばかりだった。

俺に言いに来た夕立をはじめ、テレビを見ていた艦娘に止めるように説得していたのは戦艦勢の一部、空母勢、重巡勢、軽巡の一部と古参組だった。

金剛と比叡はそのテレビを点けた方だったが。金剛よりも後に進水した陸奥は止める説得している側だったのには驚いた。

 

「提督ぅー。どうして自由に見ちゃダメなんですカ?」

 

俺のところに膨れっ面で来た金剛はそう言った。

 

「金剛は自分が出撃してる間、ずっと待機艦がテレビを見ていたらどう思う?」

 

「うーん、私も見たいデス。待機艦はずっと見れて羨ましいデスネ。」

 

「そうだろう?だから食事時だけに制限したんだ。」

 

「平等に......って事デスカ?」

 

「そう言う事だ。」

 

そう言うと金剛は納得したのは機嫌を治し、比叡と食堂を出て行った。それを訊いていた駆逐艦や最近に進水した艦娘たちも納得したのか話しながら食堂を出て行った。

 

「なぁ夕立。」

 

「なぁに提督さん。」

 

「俺、嫌われた気がする。」

 

「それは無いっぽい。例え嫌われたとしても夕立は絶対嫌いにならないよ!」

 

「ははは、ありがとな。」

 

俺は夕食までの時間は夕立と時雨に資料室に居れる本の運搬や整頓を手伝ってもらった。

休憩に夕立と時雨には手伝ってくれたからと言って、本を特別に読ませたりもした。いろんな本がある中で本に番号を書いていき、本棚に入れて行く。

そんな事をして残りの休暇を過ごした。

 





一万字超えちゃいましたw
それと、少し書き方がいつもと違っててすみません。
休日を書きましたが、まるで休暇に娘の為に買い物をして回るお父さんの様なwww
そんな歳でないのにw

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