【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百九十話  提督と艦娘⑫

 

 俺は腕を縛られた状態で『俺』に銃を突きつけられたままなんとか時間を伸ばしていた。

 

「そもそも何故『海軍本部』だった『俺』がこうやって組織的な行動が出来るんだ。母体が無くなったのなら何も出来ないだろう?」

 

「そんな事は無いです。『海軍本部』が無くなったとしてもバックは常に付く様になってましたからね。」

 

「『海軍本部』は直接指揮していた現場指揮本部みたいなものです。」

 

 そう言いながら『俺』は銃を握り直した。

 

「現場指揮本部だと?」

 

「えぇ。所詮、『海軍本部』も上の指示に従っていただけです。その上ってのは大本営にも政府にも知られていませんけどね。」

 

「そんな組織があるのか?」

 

「ありますとも。」

 

 俺は必死に考えた。こんな事をする組織があるなんて考えたこともなかったからだ。

『海軍本部』の母体であり大本営ではない組織......そんな組織からの援助で変わらぬ動きが出来るというのはどういうことなのだろうか。

 

「これから死に征く『俺』が知ったところで何があるという訳ではありませんので、教える必要なんて無いんですよ。」

 

 『俺』が俺の額に拳銃の銃口を押し付け、撃鉄を起こした。カチャリと聞こえ、安全装置が外れるのも同時に聞こえた。

 

「時間を伸ばされましたが、本当にここまでですよ。さぁ、死んで下さい『俺』。」

 

 為す術なく、俺はもう撃ち殺されるのだ。

ここまで来て、この状況で俺の頭の中では走馬灯の様に生まれてからの記憶が蘇る。

小学校、中学校、高校、そしてこの世界に来てから......。辛いことばかりで投げ出すことが何度もあった。辛くても我慢してやり通したこともあった。だがやはりその走馬灯に映る思い出は楽しいことばかりだった。

今まで忘れていた事も、記憶から消え去っていた事も全てが脳裏に再生されていく。

それが懐かしく、愛おしかった。もう俺はこの目でそれを見ることが出来ないのか、もうこの目でこれからあるであろう楽しいこと、辛いことを見ることも出来ないのだろうか。そんな事を考えると、悲しくて悲しくて......。

 

「おや、今まで強がっていたんですね。泣いてしまうなんて......。情けないですよ。死に顔が泣き顔だなんて。」

 

 そう『俺』がいいながら拳銃を少し揺らした。

 

「18にもなって......ですけど、もう泣くことも出来なくなるのですから十分に泣いてくださいね。」

 

 そういった『俺』は額に押し付けていた拳銃の銃口を急にずらして俺の腿を撃ちぬいた。

激痛、熱を感じ、涙でぼやけている視線を自分の腿に落とすとそこには直径1cmくらいの穴が空き、黒い血と赤い鮮血が床に流れ出していた。

 

「グウゥゥゥッ!」

 

「いきなり『俺』を殺すのも面白く無いのでいたぶってから殺します。どこまで持つんでしょうね?」

 

 『俺』に何か訴えようとも痛みをこらえるのに精一杯で何も言えなかった。そんな俺に『俺』は一方的に話をする。

 

「思い出話にでも付き合ってもらいましょうか。」

 

 俺は痛みに悶えているので嫌とも言えなかった。

 

「もう会うこともないでしょうけど思い出話の前に自己紹介を......。私は......」

 

 俺と同じ名前を『俺』は言った。そこまで同じなのか。

 

「歳は26。『海軍本部』諜報課所属。妻子は無し。愛知にある尾張士官学校にて諜報員適性から『海軍本部』諜報課に入りました。」

 

 どうやら『俺』は愛知出身らしい。俺もだ。

 

「家族構成は父母に姉。俺は弟ですね。」

 

 家族構成も同じだ。

 

「中学で辛い思いをしてからというもの、情報収集やその使い方に興味を持ち、高校卒業後に軍に志願しました。」

 

「それからは艦娘に関する情報統制やもみ消しなどをやって来てました。」

 

 ここからは知らない事が多かったが、中学での辛い思いというのも多分同じ事を経験しているのだろう。

 

「『俺』から聞きたいところですが、喋れなさそうですね。」

 

 そう言って俺の腿を見ると今度は拳銃を下に向け、足の甲を撃ち抜いた。

激痛が走るが一瞬だけだ。脳内麻薬でも出ているのだろう。痛みを感じない。だが息は上がっていて話せないのだ。

 

「そろそろ失血しそうですね。どうですか?身体が冷えてきたでしょう?」

 

 『俺』の言うとおり、俺の身体は冷えてきていた。

血を流しすぎたのか、頭の回転もいつもより幾分も遅い上に視界もぼやけてきている。

 

「今度こそ終わりです。」

 

 そう言った刹那、発砲音がしてブラックアウトする俺の視界。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私は提督を探して鎮守府の中を走り回っていました。その道中、あちこちで拘束されていた混成警備艦隊を開放して回ってました。

そんな中、あることを皆が口を揃えて言うのです。

 

『提督ってちゃんと執務室に居るの?』

 

 と。最初私も意味が分かりませんでした。この目で提督は気を失うまでは見ていましたからね。

ですけどおかしいのはそれだけではないんです。秋津洲が混成警備艦隊からの交信途絶がリアルタイムで伝えられていた時に交信途絶した混成警備艦隊も同じことを私に訊いてきました。

どうやら気絶する前に提督を見たとか。しかもいつもの格好ではなかったと。私にはさっぱり分かりませんが、それをほとんどの混成警備艦隊から聞かされたので疑って掛かることにしました。そもそも私の目の前に居た訳ですからそこから離れられるわけが無いんです。

 

「金剛さんっ!」

 

 そう言って私に話しかけてきたのは吹雪でした。

 

「オゥ。どうしたデース?」

 

「私たちの混成警備艦隊を襲ってきたのは司令官でした。」

 

「それは他でも報告を聞いてマス。それを確かめる術はまだないデス。」

 

 そう私は言って探しに戻ろうとしましたが、吹雪は私の腕を掴んで止めました。

 

「司令官の歳って18ですよね?」

 

「そうですケド......それがどうかしたデスカ?」

 

「襲ってきた司令官はタバコの香りがしたんです......司令官ってタバコ吸う人でしたっけ?」

 

「っ?!」

 

 吹雪が言った言葉で全てが一瞬にして分かりました。

これまで混成警備艦隊を襲っていた提督は提督ではありません。提督はタバコをすいませんし、吸う気もないと言ってました。第一、タバコを吸っていい歳でもないんです。

 

「それは提督じゃないデス!よく気付いたネー!!」

 

「そうだったんですか。顔も声も司令官そっくりでしたから司令官だと勘違いして......。」

 

「それがこうも艦隊に混成警備艦隊が全滅した原因だったんデスネ。」

 

「全滅っ?!」

 

「ハイ。全滅したデス。鈴谷と赤城は最後まで連絡は取れてましたけど、他は全員通信が切れたカラ......。」

 

 そう私が言うと吹雪は色々と察したのかさっきとは打って変わって眼の色を変えて私に訴えました。

 

「私も司令官を探しますっ!」

 

「じゃあ散開するデス。定期的に連絡を入れて下さいネ。」

 

「了解っ!」

 

 そう言って吹雪は艤装を身に纏って走り去りました。この後もこの事実に気付いた艦娘たちが続々と鎮守府に散り散りになって提督を血眼になって探しました。

ですが、1時間や2時間経っても提督を見つける事は出来ませんでした。

 陽が傾きかけ、地面が赤くなってきた時、アイオワや探しに散り散りになっていた艦娘が1箇所に集まりました。

それぞれの報告であちこちから混成警備艦隊が見つかったとありましたが、幾ら報告を聞いても提督のことは聞くことが出来ませんでした。全員の報告が終わると、全員が困惑し、焦りを見せました。状況を考えれば今が一番最悪なのは分かることです。

早く見つけないと手遅れになる事は分かってますからね。

 

「本当に全員提督を見つけられなかったのデスカ?」

 

 そう聞くと全員が頷きました。

 

「ミーもダメだったわ。金剛の方も色々とあたってみたの?」

 

「勿論デース。あちこち入っては探しましたけど全くダメデシタ......。」

 

 空気はいわゆるお通夜です。侵入者に警戒をして、提督が姿を消す。こんな事、今までありませんでしたから。

そんな時、あることを思い出しました。この侵入者に対する警戒、赤城だけ何か知っている様子だったんです。私は艤装の無線機から赤城にコンタクトを取りました。

 

「赤城?聞こえマスカ?」

 

『えぇ、聞こえてますよ。』

 

「赤城は今回の騒ぎ、何か知ってるデスカ?提督がいなくなってしまって......。」

 

 そう言うと赤城は渋ったのか少し時間を置いて話しました。その内容はと言うととんでもない話であり同時に私たちの焦りは本物となりました。

 

『今回の侵入者の侵入目的が、提督の暗殺なのでは無いかと私は思ってます。』

 

「は?」

 

『提督が怯えていたのに気付かなかったんですか?』

 

「いえっ......。」

 

 私の想像を180度超えていた回答が返ってきました。私はてっきりデモ関連だとばかり思っていたのですけど、まさか暗殺だとは思いもしませんでした。

 

『それで、どうしたんですか?なんとか私は侵入者から逃げ切って身を隠してますけど、みなさんは?』

 

 どうやら赤城の状況はそうなっていたらしい。最後に交信した時は逃げまわっていたから、そうなっていても不思議は無かった。

 

「大丈夫デス......皆、気絶させられて居たみたいデスガ......。」

 

 私は言い出せませんでした。提督が連れ去られてしまった事を。ですけどそんな事を知らない赤城は私に訊いてきます。

 

「提督はどうなってます?執務室に居ますか?」

 

「......居ない、デス。」

 

『侵入者でも逮捕されたんですか?』

 

「居ないん、デス......。」

 

『お腹でも空かしっ......』

 

「だから居ないんデスッ!!提督がどっかに連れ去られたんデスッ!!」

 

 私はそう言ってしまうと心の奥底にあった感情が溢れ出しました。

提督がいなくなってしまった事に焦りがありましたが、どうせ隠れているのだろうと思っていたんです。ですけど赤城からの話を聞いて確信しました。私たちが気絶させられた後、提督は侵入者によって連れてかれたんです。提督そっくりの人間に。

 

『連れ去られた、ですって?』

 

「ハイ。私たちが提督を中心に輪形陣を取っていたその直後に気絶させられて、気付いたら......。」

 

『その後は?』

 

「捜索中デス......。」

 

 通信機越しでも分かる赤城の殺気に私は怯みました。ここまで赤城が殺気を放てるとは思いもしなかったからです。普段は温厚でおっとりしている赤城がこんな殺気を出すとは誰一人として思い浮かべる事は無いでしょう。

 

『私も出て探しますから、金剛さんも引き続き捜索をお願いします。』

 

「分かりマシタ......。」

 

 殺気を含んだ指示に私は頷き、やれることを再び全体に指示を出します。

 

「再捜索しまショウ!今度は複数で組を作って散って下サイ。」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 私は赤城から聞かされた事を誰にも話さずに皆に指示を出しました。

赤城の言った言葉を皆に伝える事で、提督の捜索が劇的に早くなる事は分かっています。ですけどそれを提督が望んでいるのか......私はそんなことを考えながら行動するようになりました。

 

「絶対探しだして......提督ぅ......。」

 

 私はそう言って気合を入れ、提督を探しに鎮守府に出ました。

 





 まだまだ引きづりますが、もう後が見えてきてますね。
オチに関してはご想像していて下さい。どうなるかをお楽しみに。
ちなみに今週中は続く予定です。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

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