【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百八十五話  提督と艦娘⑦

 

 俺が目をさますと枕元には金剛が居た。起きていて、横に椅子を出して漫画を読んでいた。

俺の私物の漫画だが別に気にしない。

 

「オゥ、起きましたカー?」

 

「あぁ。」

 

「大体3時間くらい経ってマス。それとアイオワは少し寂しがってましたが私に任せてくれマシタ。」

 

「そうなのか?」

 

「ハイ。......その間はアイオワはどうやら酒保に行ったり資料室に行って本を借りたりしてたみたいデス。」

 

 そう金剛が言ったのと同時に私室の扉が開かれた。

開いたのはアイオワだった。

 

「再び、Good morning!アドミラル!よく眠れた?」

 

「あぁ。」

 

 そう俺が身体を起こしながら答えるとアイオワは俺に缶を差し出してきた。ちなみに缶と言ってもボイラーの事ではない。

 

「コーラか。俺に?」

 

「そうよ。」

 

「寝起きにコーラはないと思いマース......。」

 

 横でゲンナリとした表情をしている金剛を尻目に俺は何の迷いもなくコーラを受取る。

 

「ん、ありがとう。......冷えてるな。」

 

「勿論よ!給湯室の冷蔵庫に入れておいたからね。コーラはキンキンに冷えてるのをグイッといくのがサイコーなのよ!」

 

「分かる。」

 

 俺はアイオワに相槌をしながらプルタブを押し、缶の口を開けて飲んだ。

 

「プァハー!んま。」

 

 そんな事を最初の息継ぎの時に言って直ぐにコーラをまた飲む。

コーラをゴクゴクと飲む俺を見て金剛はポカーンとし、アイオワは俺と同じくしてグビグビとコーラを飲んでいた。

 

「カァーッ!!サイコーよ!」

 

「ピザ食いてぇ......。」

 

 そんな事を呟いて俺はベッドから出て椅子に座った。

椅子に座った俺を見た金剛は俺に訊いてきた。

 

「提督ってコーラ、好きなのデスカ?」

 

「あたぼう。でも近いところにコーラが売ってる自販機はないし、酒保に飲みたい時に買いに行ってたら面倒だからあまり買ってなかったんだ。」

 

「フーン。......コーラデスカ。」

 

「あぁ、コーラだ。」

 

 俺は金剛の言葉に返答しながらもコーラを飲み、ほんの数十秒で飲み切った。

 

「まさかアドミラルがコーラ好きだとは思わなかったわ。」

 

「生粋のコーラ好きなんだよ。今まで飲めてなかっただけだ。」

 

 そう言って俺はシンクで缶を洗って逆さにして置く。

 

「さぁ、今何時だ?」

 

「丁度昼デース。」

 

「んじゃあ、昼食だな。行こうか。」

 

 俺はアイオワと金剛を連れて食堂に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 午後は金剛は戻るといって巡回に戻ってしまったので、執務室には俺とアイオワの2人だけだ。

だがいつもと様子が違う。ソファーの机の上にコーラの500ml缶が6本並んでいるのだ。しかも全て空いている。全て俺とアイオワが飲んだものだ。

 

「あ"ー、飲んだ。」

 

「飲んだわねー。」

 

 珍しく執務以外の時間に飲み物をこんなけ飲んだのは初めてだ。金剛と別れた後、俺とアイオワは酒保に行ってコーラの缶を6本買って来て直ぐに開けて飲んでいたのだ。

 

「んー。」

 

 アイオワが背中を伸ばす。

 

「ねぇアドミラル。」

 

「なんだ?」

 

 突然真面目な表情になったアイオワに戸惑いつつ、俺はアイオワの方を向いた。

 

「今鎮守府の中で起きてる事、本当のこと教えてくれない?」

 

「は?」

 

 アイオワは突然そんな事を言ってきた。

今、鎮守府の中で起きている事は1つしかない。『海軍部情報課』による俺の暗殺だ。

 

「不自然なのよ。門兵さんと混成の警備部隊は理解出来るわ。だけどね金剛と鈴谷と赤城が野放しなのがとても気になるの。彼女たちも混成警備部隊にいなくて良い訳?」

 

 どうやらアイオワはこの鎮守府に敷かれている令に違和感を持っていた様だ。

 

「......金剛と鈴谷が特別なのは知ってるか?」

 

「えーと、『提督への執着』が強いって事くらいかしら?」

 

「まぁ、間違ってはないが......そもそもアイオワは気付いてるか分からないがアイオワも......。」

 

 金剛たちと同じだぞと言いかけたところで飲み込んだ。アイオワに言ってしまうのは不味いと直感的に思ったからだ。

 

「ミーが何か?」

 

「なんでもない。......金剛たちが独立しているのは俺が別任務を頼んでいるからだよ。」

 

「赤城が"特務"をしているのは知ってるけど、金剛たちも?」

 

「あぁ。金剛たちには混成警備部隊のする巡回場所以外に行ってもらってる。」

 

「そうなの?」

 

「あぁ。」

 

 アイオワは案外聞き分けが良いというのか、素直に信じてくれた。

 

「そうなのね。分かったわ。」

 

「そうか。」

 

 アイオワはそう言って一旦話を切り上げたが、すぐに別の話題を振ってきた。

 

「オーイが言ってたんだけど、『提督をちゃんと見てあげてくださいね。』ってどういう意味だと思う?」

 

「オーイじゃなくて大井な。というかそれ、俺に言ってよかったものなのか?」

 

 どうやらアイオワ的にはこっちが本題だったようだ。

大井がアイオワに言った言葉は俺の別の悩みごとを刺激した。"気付いた"艦娘たちと移籍組は提督をヒトとして見ているが、他はモノとして見ているという話だ。

今まで暗殺の事で考えてられる余裕が無かったが、今一度頭で考えてしまう。

 

「いいわよ別に。アドミラルが関係してるから。それで、どう思う?」

 

 そうアイオワが聞いてくるが、正直この時の正しい回答は俺自身が言ってはいけない気がする。

 

「そのままの意味だと俺は思うが......アイオワがどう思うかで良いと思うぞ?」

 

「分かったわ。でも言い方が気になったのよ。」

 

 アイオワは肘を突きながらそんな事を言う。

確かにアイオワの言った大井の言い方は含みがあるのは普通に分かる。あからさまではあったが、それが逆に気になるのだ。

 

「『見てあげて』って......それってどういう意味なのかしら?皆口々にアドミラルのこと言ってるのに。」

 

 そう小首を傾げて考えるアイオワに俺は言わない。

それがどういう意味をなしているのか。

 

「さぁ......俺も分からないからなぁ。」

 

 そんな事を言って俺は知らない様に言う。本当は大井が何の事を言っていたのか知っているが言ったところでどうなると言うのだろうか。

 

「まぁいいわ。後でまた考えればいいことだしっ!んしょっと......これからどうするの?」

 

 アイオワはそれまで考えていた事を切り上げて別のことをしようと言い出した。

 

「そうだな......。特段することないんだけど......。」

 

「えー!なんかないの?ほらっ......うーん......ねぇ?」

 

「ねぇって言われてもなぁ......。」

 

 俺は缶を持って給湯室に行くと缶の中を洗って伏せた。

 

「午後はいつも本当にすることがないんだ。これまでの秘書艦は思い思いに過ごしてたぞ。」

 

 そう俺は言って席に座り、その正面にアイオワは立った。

 

「例えば?」

 

「そうだなぁ......読書したり勉強したりお茶会したり外で遊んだり、そんなものだ。」

 

 俺はそう答える。

 

「読書は好きじゃないし、勉強も好きじゃない。お茶会というか似たような事はさっきまでやってたから、外で何かする?」

 

「いや。警戒態勢中に外で遊べるか。」

 

「じゃあどうすればいいのよ。」

 

 俺はそう膨れっ面になるアイオワにある提案をした。

 

「昼寝はどうだ?」

 

「さっきしてたじゃない。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 結局何もすることが無かったので、俺とアイオワは色々な話をした。

といっても俺がアイオワの話を訊くだけだったが。どうやら移籍組は仲良くやっているようで、最近何故か移籍組総出でビスマルクのために勉強会をしているらしい。日本語の読み書きを教えているみたいだ。

他には艦娘寮の調理室が拡張された事でかなりの人数の艦娘がそこで空いてる時間に料理をしているらしい。だが、半分くらいの艦娘は包丁の扱いからみたいで心得のある艦娘が教えて回っているとの事。

アイオワから聞ける話は俺の知らない艦娘のことばかりだった。

 

「アドミラルの腕前がどれくらいか分からないって皆言ってたわ。」

 

「俺の腕前?料理か?」

 

「そう。......皆って言ってもある程度出来る艦娘だけだけどね。」

 

「そうだなぁ......普通に出来るってくらいだが?」

 

「普通がわからないのよ。」

 

 俺がそう答えると呆れ顔でアイオワは返事をしてくれた。

普通じゃダメだったらしい。

 

「うーん......普通に生活するのには十分に出来る、ならいいか?」

 

「それならokよ。それとねぇ、噂になってるんだけどね」

 

 そうアイオワが言いかけた刹那、執務室の扉が開かれた。

入ってきたのは秋津洲だ。多分お菓子を焼いてきてくれたんだろう。

 

「失礼するかも!今日は提督が昼前まで寝てたからおやつで持ってきたよ!」

 

 秋津洲はそう言って俺の目の前にドンといつもの籠を置いた。

 

「じゃああたしは哨戒任務に行ってくるかも!」

 

 そう言って秋津洲は足早に執務室を出て行ってしまった。

そんな秋津洲を目で追っていたアイオワは口を開いた。

 

「その噂ってのが秋津洲のお菓子のことなの。本当だったのね。」

 

「あぁ?......何が?」

 

「秋津洲が艦娘(給糧艦以外)で一番料理が出来るのって。」

 

「他の艦娘の腕前を見たことはないが、秋津洲は自分でご飯作れるぞ?」

 

「そうなのね......。」

 

 アイオワはそう言いながら籠に被せてあった布を捲ってみる。

 

「マドレーヌね。」

 

「今日はマドレーヌだったか。」

 

 俺はそう言いながら籠に手を突っ込んで1つ手に取ると口に放り込んだ。

その光景をアイオワは驚いた表情で見ている。

 

「ん?」

 

「随分と慣れているみたいね。」

 

「ムグムグ......ングッ......いつものことだからな。秋津洲がお菓子を作ってくれるのは。」

 

「そうなのっ?!」

 

 どうやらかなり驚いたみたいだ。どうしてだか俺には分からない。

 

「昼食とかも秋津洲の食堂で食べたいってのもあるんだが、普通に食堂で食べたいってこともあってな。正直、入れ替わりで行きたい。」

 

 そう俺が答えるとアイオワの目が死んだ。物理的ではなく、色がどんどん褪せていったのだ。

 

「秋津洲、なかなかやるわねっ。」

 

「何がやるんだ?」

 

「いいえ、なんでもないわ。」

 

 そう言ってまた別の話に切り替わり、そのまま夕飯まで過ごした。

 夕飯後にアイオワが少し時間をくれというので執務室で待っていたらあるものをアイオワは持ってきた。

 

「食べてくれる?」

 

 そう言って差し出してきたのはカップケーキだ。

とんでもなく食欲をそそらない色をしている。

 俺はそれを手に取ると躊躇してない様に見せながら口に運んだ。

口の中に甘ったるい味が広がり、占領する。そしてその味が残り、同時に後味にケミカルっぽいものを残していくのだ。

だが別に嫌ではない。普通に美味しいというか、食べれる。だが毎日は食べたくないものだった。

 

「どう?」

 

 そう不安そうに聞いてくるアイオワに俺は答えた。

 

「美味しいよ。見た目も楽しめて一石二鳥だ。」

 

 上手く言えたものだと内心思いつつ、俺はアイオワが持ってきたカップケーキ3つを食べた。

アイオワが全部食べていいといったからだ。これが男の意地というものだろう。お腹が一杯である。

 





 今日は前回と時間は少ししか変わってないところからのスタートです。結構長いことアイオワが出てくるので本作でのアイオワがどんな性格かってのを知ってほしいです。
 そして提督が食べていたカップケーキですが、食べたことがないので完璧に想像で書かせていただきました。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

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