【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百八十三話  提督と艦娘⑤

 

 昨日の夜に金剛、鈴谷、赤城を頼って色々と伏せた状態で話したところ、協力してくれる事になった。

出て行く時に金剛と鈴谷が妙にテンションが高かったのは特段気にはならなかったのだが、赤城の様子がどうもおかしかった。なんというか、腑に落ちないという雰囲気だったのだ。

 赤城がそんな風に感じていたのは説明がつく。俺が言った情報からそのばで勘ぐったのだろう。

 

(赤城は騙せ無いのか......。やはり優秀だな。)

 

 そんな事を考えながら俺は執務室に出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 今日の秘書艦は幸か不幸か赤城だった。

 

「おはようございます、提督。」

 

「おはよう。」

 

 挨拶を交わし、俺は立ち上がった。

 

「朝行くぞー。」

 

「はい。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 朝食を済ませ、俺と赤城は加賀相手に"特務"をしていた。と言っても加賀相手に講師をしているだけだ。そんな片手間に執務をしている。どちらかと言うと、優先順位は執務なのだがやればすぐに終わるということでメインが加賀の相手になっているのだ。

 

「赤城さん。」

 

「はいはい、何ですか?」

 

「ここなんですけど......。」

 

 そんなやり取りをしていた。赤城の執務は片手間でありながら執務開始数分で片付いていたので加賀は執務の終わった赤城を頼っているみたいだ。

 俺はというと未だに執務をしている。何故、加賀の相手が優先順位が高いのに俺が執務をしているのかというと予想以上に赤城の執務が早く終わったからだ。そんな赤城が俺に『提督は執務に集中して下さい。加賀さんの質問は私が引き受けますから。』と言われたので俺は執務に集中していたのだ。

 

「ここはですね、艦隊全体に無線指示です。それと同時に観測妖精に対空警戒を頼み、艤装の各所妖精さんに伝達します。」

 

「それは分かっています。その後にどうすれば......。」

 

「陣形変換です。旗艦を中心に考えて下さい。」

 

「はい。」

 

 今日は航空母艦の基本ではなく、機動部隊旗艦としての心構えをみていた。どうやら夜に戻った後も1人で勉強をしていたみたいだ。それに加賀の傍らには艦載機運用の戦術指南書も置かれていた。

 

「......ふぅ。」

 

「終わりましたか?」

 

「えぇ。次に入る前に休憩します。」

 

 加賀はソファーから立ち上がると背を伸ばして給湯室に入っていった。お茶でも淹れるのだろう。

 赤城は机に置かれた艦載機運用に関する戦術指南書を手に取ると俺に話しかけてきた。

 

「これ、正直に言えばやる必要ありませんよね?」

 

「内容が内容だからな。」

 

「そうですよね。......基本は多少なりにも理解出来ているはずですから。ですけどこれに載ってない艦載機を私たちは使いますよね?」

 

 赤城が言う乗ってない艦載機というのは雷電改と震電改、試製景雲(艦偵型)、試製景雲(艦戦型)、試製南山の事だ。

 

「使いはするがほとんど出てこない。烈風、流星改、彗星一二型甲、彩雲しか使わないだろう?教えるなら精々、震電改だな。」

 

 俺は最後の書類を書き終えるとそう赤城に言った。

 

「震電改ですか......。加賀さんは漠然と運用法を理解してますね。」

 

「漠然とでは駄目だ。ちゃんと基礎からやってもらわないと十分に能力を発揮できないだろう?」

 

「それもそうですね。......分かりました。何処まで教えればよろしいですか?」

 

「機体の基本構造から頼む。」

 

 俺はそんな事を言う。

赤城はそれを聞いてか準備を始めるが、震電改に関する資料なんて少ない。どう教えるのだろうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ソファーの辺りで艦載機に関する講習会みたいなものが始まった。赤城と加賀のマンツーマンだ。そんな講習会を見ている俺は何もしない。

 

「加賀さんは艦載機の基本運用は覚えてますね?」

 

「勿論です。それぞれの特性なんかも抑えてます。」

 

「ならいいでしょう。ですけど震電改に関してはまだでしょうから、私が教えますから一緒に勉強しましょう?」

 

 そう言って講習会が始まったのだ。

 その一方で俺はただ見て何もしていないだけではない。金剛と鈴谷が来ているのでその対応をしていた。執務室でやっているが、赤城たちからは離れて話している。内容が内容なので加賀に聞かれる訳にはいかないのだ。

 

「定時連絡デス。今のところ確認されマセン。」

 

「門外で立ち往生してると鈴谷は見たよ。」

 

「そうか、ありがとう。」

 

 そわそわとする2人を尻目に俺は考え事をする。

本当にこの2人は気付いてないのか、という事に。経験則から言えば金剛に関しては気付かない訳が無いのだ。だが今回の騒ぎでは金剛はそこまで反応していない様に見える。俺の気のせいならいいんだが、もし本当に気付いてないのなら変な話だ。

 赤城が気付いて金剛と鈴谷が気付かない違いでもあるのでは無いかと仮説立てるがそれでも分からず終いになってしまう。

何か決定的に違うという違いが金剛と鈴谷、赤城にはあるようで無いのだ。

 

「それはそうとサー、提督ぅ。」

 

「ん、何だ?」

 

「その海軍部情報課の連中が本当に鎮守府に情報収集しに来るノ?」

 

「そういう風に聞いたが?」

 

「それだったら大本営にあるんだから大本営とこっちの許可取ればいくらでも出来るんじゃないノ?」

 

 何も言わないと思っていた金剛が訊いてきた。

多分、無意識のうちに疑っているんだろう。

 

「それもそうだが......多分許可取ると俺たちが無意識で隠してしまうところがあるから、そういったところの調査みたいな事がしたいんじゃないかって思う。」

 

「そうなんデスカ......なら、この警備は何デスカ?普段通りしていればいいんじゃ?」

 

 金剛が何かを考えての質問ではなく、純粋な疑問で俺に訊いてきた。

 

「普段通りにしていてもしその情報収集している人間を艦娘たちが反応して捕まえる事になろう事なら面倒事じゃすまない可能性があるんだ。」

 

「それで私たちをあえて刺激して置かせるのデスネ。......でもそれでは本末転倒ダト......。」

 

「あぁ。だからもし捕まえたのなら、海軍部情報課の人員の練度が相当低いということになるな。」

 

 俺はその場で思いついたものをつらつらと言葉に出していくが、そのうち矛盾し始める。もしかしたらもう矛盾しているかもしれないと思った。ここで話を切り替えないと墓穴を掘ることになると思い、話題を切り替えた。

 

「警備態勢はどうなっているか聞いてるか?」

 

「うん。......艦娘と門兵合同の混成警備部隊を幾つか用意してシフト巡回中だったと思う。いつものやつだね。」

 

「なら逮捕権は凍結してないから有効だな。」

 

「そうなるねぇ。......今思ったんだけどさ、逮捕権の凍結って出して以来ずっとしてないよね?」

 

「そういえばそうだったな。」

 

 鈴谷が話の軌道を変えてくれたお陰でボロを出さずに済んだ。

 

「まぁ、艦娘への拘束的な意味では結構働いてるけどね。」

 

 そんな事を言いながら鈴谷は呑気にあくびをした。

 

「それに関しては私も同感デース。アレがなければ鎮守府の敷地内で汚い血が何度か流れてマシタ。」

 

 金剛も鈴谷の話には同感した様だ。俺はというと全く分からないが、それでも逮捕権を凍結せずに居ることが利益になるって事は分かった。今後も継続することにする。

 

「それにしても......"特務"デスカ?」

 

「あぁ。」

 

 会話が途切れたかと思うと金剛がそんな事を訊いてきた。赤城と加賀がしている事を見て言ったのだ。

 

「"特務"があるのは羨ましいデス。」

 

「それは鈴谷も同感。」

 

 2人が声を揃えて言うが、自分らも言うなれば"特務"を任されている事に気付かないのだろうか。

 

「赤城に関しては最初はずっと戦術指南書で勉強してたし、工廠に入って艦載機の構造とか見てたりして忙しそうだったんだが、それがやりたいと言うのなら俺は止めないぞ?」

 

「うへぇ......鈴谷ならまだしも金剛さんはむりっしょ。」

 

「確かにそうデース。艦載機なんて偵察と弾着観測に使う水上機しかないからネ。」

 

 そんな事を言う鈴谷だが、大規模改装をしているのでもう航空巡洋艦なのだ。扱う航空機は水上爆撃機なので、一応艦載機運用に関する勉強は出来るが、鈴谷の様子を見ると全くしてないみたいだ。

 

「やりたいのか、"特務"。」

 

 そう俺が鈴谷に聞くと首を横に振った。どうやら嫌みたいだ。

 

「いいや。そんな時間があるなら警戒態勢のまま巡回してた方がいいよ。じゃあ、鈴谷はそろそろ行くね。」

 

 そう言って鈴谷は執務室から出て行った。残ったのは金剛だけ。

そんな金剛が俺に話しかけてきた。

 

「海軍部情報課ってのは嘘デスネ。」

 

 唐突にそんな事を言い出したのだ。

 

「ん?何の話だ?」

 

「この警戒態勢デス。経験からしてみると一番可能性があるのが『海軍本部残党』デス。違いマスカ?」

 

 真剣な金剛の目に捉えられながら聞かれた。

 

「......あぁ。金剛の言う通りだ。」

 

「じゃあやっぱり......目的は暗殺デスカ?」

 

「今のところそう見てもいい。」

 

 そう言うと金剛の表情が一瞬で険しくなった。

 

「分かりマシタ。これまで以上に気を配って巡回シマス。では、行ってくるネ。」

 

 金剛はそう言って執務室を出て行った。

 一方俺はというと、金剛が違和感だけでまた正解を引き当てたのだ。

流石としか言いようが無い。

 





 第一章の後半みたいになってきましたね。今度は別の組織ですけど......。
 実は金剛も気付いてしまったということです。まぁ、わかりきってたことですけどね。

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