【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百八十二話  提督と艦娘④

 

 起きてみると少し違う空気に違和感を感じた。清々しい朝の筈なのに何だか気分がどんよりとする。だが俺は身支度を整えて制服を着て、執務室に出た。

 今日はどうやら雨のようだ。

それのせいで気分がどんよりとしていたのかもしれない。首を回して背を伸ばして秘書艦を待つ。

 程なくして今日の秘書艦である加賀が入ってきた。加賀は表情は少ないが感情の起伏が激しいというかにじみ出る。そんな加賀からモヤモヤとした感じが見て取れた。多分、加賀も気分がどんよりとしているんだろう。

 

「おはようございます。」

 

「おはよう。」

 

 淡白な挨拶をすると加賀は俺の机に今日の執務の書類を置いた。

 

「今日の分です。それと大本営からです。」

 

 そう言って加賀が別にして机に置いたのは茶封筒だった。宛は書かれていないが、差出人は書かれている。『新瑞』とだけ書かれていてそれ以外は切手もない。

 俺は何も言わずに封筒を開けて中身を出す。便箋が3枚入ってるだけだった。

 

『中部海域への攻撃命令の出処と顛末が分かった。先ず、命令書の出処は海軍部情報課で間違い無い。そして海軍部情報課への言及で"ある程度"の事が判ったが、正直に言えば今ひとつのモノばかりだ。ひとつめは確かに海軍部情報課からの"要請"であった事。ふたつめは総督の印は偽造であった事。みっつめは課内で起きたことにも関わらず責任者が全員しらばっくれている事。よっつめは南方海域の攻略を優先する筈だったのを無理に変更させるつもりだった事。』

 

『話は変わるが、昨日俺が注意を促した理由だが、海軍本部の生き残りが何かをしているらしい。そして今回の騒ぎであった総督の印はその連中から受け取っていたことが判ったんだ。海軍本部がこれまでしてきた事を振り返って考えてみれば何を起こすかなんて簡単に想像できる。』

 

 俺は夢中になって読み進めた。

 

『あるとすればひとつだ。提督、再度提督暗殺計画が進んでいる可能性がある。』

 

 この文を見た瞬間、多分瞳孔が思いっきり開いた事だろう。そんな俺を加賀は見過ごさなかった。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、何でもない。」

 

 俺はそう取り繕って読み進めた。

 

『先日の鎮守府に警戒態勢を敷くことを伝えたのはこのためだ。だが俺は不安要素が拭えないでいる。門兵に明らかに諜報系に長けた特技兵がいないことと、人間の出入りが多い事だ。門兵がそういった事に疎いと侵入者を容易く侵入させてしまうだろう。人間の出入りが多いのは侵入者が紛れて入り込むには絶好だということだ。特に酒保と事務だ。』

 

『だから十中八九、侵入者は提督の前に姿を現すだろう。気を付けておけ。』

 

 それ移行は海軍本部残党の情報や、横須賀鎮守府の塀の外側から見た侵入経路予想が書かれていた。

俺はそれを封筒に仕舞うと立ち上がった。時計を見たらもう朝食の時間だったのだ。

 

「加賀、行こうか。」

 

「分かりました。」

 

 俺はそう言って加賀を引き連れて食堂に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 食堂から帰ってきて俺と加賀は執務を済ませるとそれぞれやりたい事をしていた。

俺は新瑞からの手紙を読み直し、加賀は棚にあるファイルを見ている。

 

(十中八九か......。)

 

 そのことが凄く気になっていた。まだ鎮守府の防衛網は貧弱だということだ。

それに幾ら警備が居ようが諜報員は相手が素人集団なら簡単に抜けていくのだろう。そんな諜報員が居た気がする。眼帯をしてる○○○ボ○とか呼ばれていた諜報員が。

 

(今更増員したところでどうにかなる訳でもないだろう。なら艦娘を頼るしかないな。)

 

 俺の今のところではここが精一杯だった。

艦娘の『提督への執着』に頼るしかない。だが、頼ると言っても限定する。金剛や鈴谷といった『提督への執着』が強い艦娘だ。

 

(思い立っだが吉日だな。だが話をするのは夜の方がいいだろう。)

 

 そう思い、俺は夜を待つことにした。それまでは加賀と違う話をしようと思ったからだ。

 

「加賀。」

 

「はい。」

 

 俺が呼ぶとすぐに加賀は見ていたファイルを片手にこっちに来た。

 

「何を調べているんだ?」

 

「今は赤城さんの航空隊の戦果ですね。......主に報告書からですけど。」

 

「そうなのか。」

 

 勉強熱心というか赤城を目標にすることはいいことなのかもしれない。だが返って無理だとも思う。赤城の航空隊は異常なのだ。

それを手本にしようとするのならそれだけ知識と経験を積まなければならない。

だが今の加賀ならそれも可能だと俺は思っていた。今、赤城に一番近い練度なのは加賀なのだ。差的に言えば7くらいだ。

数字は大きいが、経験してきたものは修羅場の数を数えなければ同じくらいだろう。それなら出来ない訳がないのだ。

 

「ふむ......加賀。」

 

「何でしょうか。」

 

「赤城の"特務"、加賀もやってみたいか?」

 

 そういった途端、加賀は信じられない速度で机の前に立ち、手を付いた。

 

「本当ですか?」

 

「あ、あぁ。だが覚えること、やることがかなり増えるぞ?」

 

「それは普段の赤城さんを見ていますので分かります。」

 

「本当にいいのか?」

 

「えぇ。」

 

 そう加賀は答えた。加賀の目には本気の二文字しか写ってない。

 

「分かった。今からやるか?」

 

「はい。」

 

「なら先ずは今すぐ資料室に向かい、航空母艦に関する戦術指南書を持って来て読むことだ。」

 

 そう俺が言うと加賀は持っていたファイルを片付けると執務室を出て行った。資料室に行って戦術指南書を取りに行くのは分かるが、ここまで持ってくる事が出来るのだろうか。

 程なくして加賀は戻ってきた。その手には戦術指南書があるが航空母艦に関するものだけだが1冊だけだ。

それを開いて席に座る。どうやら加賀は全部いっぺんに持ってくるタイプじゃないみたいだ。

いつぞやの赤城の時は『提督っ!重すぎて重すぎて.....ああぁぁ!!』とか言って執務室の前で戦術指南書の雪崩を起こしていたのだ。それを考えると加賀は結構慎重なタイプみたいだ。それにあんまり持ってきてもどうせ1冊も出来ないのだ。

 今、加賀が見ているのは航空母艦の基本運用に関するものだ。この他にも艦載機運用、艦載機の種類と用途、機動部隊旗艦としての心構えなどがある。加賀は航空母艦の戦術指南書で一番最初に読まなければならないモノを読んでいるだけみたいだ。

 ちなみに戦術指南書を読んだ後、実機での限界や妖精の練度を見たりして戦法を練る。この作業はかなり時間を使う。赤城もそうだったが、あまりにも時間がかかっていたので口出ししてしまったから今回も口出ししようと思う。

 

「......フム............。」

 

 加賀は真剣に戦術指南書を読む。本来ならば皆、読んでいる筈なのだがやはり蔑ろにしている艦娘は多い様だ。勿論それには加賀も含まれている。例外で蔑ろにしてないのは隼鷹と鳳翔だけだった。それでも結構理解できてなかったり、怪しいところが多い。

 

「提督。質問よろしいですか?」

 

「あぁ。」

 

 そんな風に俺と加賀は午前中の余った時間を使った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 昼食の後、午前中の続きで加賀は戦術指南書を見ている。俺はというと特にやることがないので外を見て回ろうかと思ったが生憎の雨がまだ降っている為に出れずにいた。

 なら何をすればいいのかと考えた時、新瑞からの手紙を思い出してあるものを準備しなければならないんだろうなと考えた。何を準備するのかというと護身用火器だ。万が一、艦娘が周りに居ない時に襲われたら自分の身は自分で守らなければならない。だがこちらは素人であちらはプロだ。悪足掻き的にそういった護身用火器は必要になるだろうと思ったのだ。

俺は加賀の目を盗んで机の引き出しを引き出した。皆には黙っていたが、金剛に捨てられた拳銃(※第七十八話参照)以外にも持っているのだ。官給品として支給されたもう1丁だが、捨てられたものよりもコンパクトだ。口径が小さく、装弾数もそこまで多くないものだ。なのでポケットに入るし、そこまで重くない。その拳銃を出して弾倉に弾を詰めて机の引き出しに入れた。もしもの時は威嚇くらいにはなるだろうとそう思ったのだ。

 その後は特に何かをする気にはなれなかったので、いつもの様に小説を読み始めていた。

そんあ時、加賀が声をかけてきた。

 

「提督。」

 

「ん?」

 

「昨日出された鎮守府全体の警戒宣言って一体何があったんですか?」

 

 昼を超えた時間ではあるが、そんなことを訊いてきた。

 

「あぁ。外からの情報でな......危険が差し迫っている。」

 

「そうなんですね。」

 

 加賀はそれだけしか言わなかった。それ以降は特に加賀から何も聞かれることなく、時間が過ぎていき夕食時になったので俺と加賀は夕食を食べに執務室から出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 夕食後、少し時間が経つと加賀を私室に戻し、俺は予め呼んでいた。金剛と鈴谷、赤城だ。

 

「一体どうしたデース?」

 

 そう入室するなり金剛は俺に訊いてきた。それも無理は無いだろう。こんな時間に呼び出しなんてそうそう無いからだ。

 

「あぁ。金剛たちに頼りたくてな。」

 

「「「ん?!」」」

 

 俺の『頼りたい』という単語に過剰に反応した3人を差し置いて俺は話を進めた。

 

「どうやら水面下で海軍本部残党によるある計画が立てられているみたいなんだ。」

 

「どんな?」

 

 食い気味に鈴谷は訊いてきた。ここで率直に言ってもいいんだが、それはこの3人の暴走を誘発しかねないのである程度オブラートに包んで伝えることにした。

 

「ここへの偵察と情報収集だ。」

 

「成る程......ですが一体それをして何をすると?」

 

「まだ分からん。」

 

 俺はそう適当に言った。ここからが本題だ。この3人に情報を与えて警戒をより強固なものにするのだ。

 

「だから俺が3人に頼りたいのはより強固な監視網だ。赤城は艦娘を統制し、組織的な警戒をして欲しい。金剛と鈴谷は独立して行動。俺が警戒していることだから『艦娘の執着』にも過剰に反応するはずだ。」

 

「分かりました。」

 

「「了解(デース)!」」

 

 うまい具合に3人は乗ってくれた。これで未然に防ぐ力が強くなっただろう。

俺は少し掘り下げて話をした後、3人を寮に返して俺は私室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 今日、提督に呼ばれて話を聞きましたが初めて提督に頼られました!

これで私の株は急上昇間違い無しね!最近『提督への執着』が発現した大井の執着っぷりには流石の私も引きましたが、それはそれです。それ以上にアピール出来ればいいんですから。

今回ので分かった事は大井よりも私の方が提督の信頼度は上だと言うこと。しかも"特務"を任されている赤城と同レベルとなれば相当ですね!

ここからが勝負です。

 だけど今回、提督に頼られた話ですが、どうにも腑に落ちない点があります。

海軍本部残党による情報収集にそこまでする必要があるのかという事です。鎮守府周辺に出没するくらいならそこまでしなくてもいいでしょうけど、この騒ぎは本当はタダ事ではないんでしょうね。私も本気出さなくては......。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 初めて提督に頼られたよ!

いや~あ、気分は最高だね!ハイでアガりまくりなんですけど。

 しかも提督の信頼が一番厚いって評判の赤城さんと一緒に呼ばれて一緒の事をするとなると、これはいつの間にか鈴谷は提督の信頼を勝ち取っちゃってた的な?!

 提督から頼まれた事、鈴谷は完璧にこなすよ!

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 "特務"以外で提督に頼まれたのは初めてで少しうれしい気持ちがある反面、内容を聞いただけで頭に血が登りました。

提督は情報収集と仰ってましたが、あの警戒用はタダ事では無いって事はほぼ間違いなしなんです。それが何なのか提督は教えてくれませんでした。

ですが情報から察するに海軍本部残党による提督の暗殺でしょうかね。

 他の2人にも言ってもいいんですが、混乱を招きかねませんん。話を聞いてそのまま理解していたのなら違いに戸惑うでしょうから無しにしました。

多分提督が仰りたいのは護衛と共に番犬艦隊を付けて欲しいといういことですね。多分......。

 





 なんだかいつぞやの話を連想させるような書き方になってしまいました。ですが気にしないでくださいね。

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