【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
大井が口枷を付けられていたのを外そうとしていた時、横には今日の秘書艦が居た。
金剛に止められた後、俺とその秘書艦である青葉は朝食を食べながら話をした。
「大井さん、何かあったんですか?」
「うーん......まぁ、あったな。」
俺はそんな事を答えながら朝食を摂る。今日は変なタイミングで二度寝を起きてしまったのでお腹が減ってない。シンプルにトーストとサラダ、ベーコンエッグの洋食を選んでいた。ちなみに青葉も同じ。
「お聞きしても?」
「あぁ。俺が早く起きてしまって、起き上がろうとした時に執務室で物音がしたんだ。」
「そういえば司令官の私室って執務室の横ですもんね。」
「そうなんだ。それで、何だと思って耳を澄ませてたら大井で俺がそこで声をかければよかったんだが、寝たふりをしてしまったんだ。」
そう話しながら俺と青葉は朝食を食べる。
「そしたら大井が入ってきて、部屋の中を歩き回りながブツブツいっていたかと思ったらベッドに腰掛けて来て、俺が起きてる事に気づいたみたいでデコピンされた。」
「デコピンですか?」
「ん。そしたら大井に抑えられて少しもがいてたら金剛が大井を引き摺って今に至る。」
俺はそんなことをいいながらだが、もう食べ終わった。食べ始めたら案外入るもので、いつもの調子で食べ進めれたのだ。
青葉はというと、まだ半分と言ったところだろう。
「そうなんですかー、あっ、待ってください。」
「分かってる。」
俺はトレーを横に避けて机に肘を突いた。
「昨日の時点で話題にはなってましたからね。大井さんの『提督への執着』発現に関しては。」
「やっぱりそうなのか?」
「はい。あの時、司令官の命令で寮に戻ってましたが、どうしても気になって執務室前の廊下からなら見えるからと集まって見てたんです。そしたら大井さんの艤装が正門の内側に出てきましたからね。」
「へー。」
いい具合に解釈されていたみたいだ。一応、外には出てないから問題ないんだがな。
「まぁよかったと私は思いますよ。発現前は皆に合わせている様子でしたし。」
「そうみたいだな。何を合わせていたのか知らないが。」
「何をってそれは司令官の事ですよ。」
「ん?」
青葉は食べ終わったのか、最後に牛乳をゴクリと飲み込むと言った。
「私たち艦娘同士で話すときの話題は大きく4つあります。1つ目は戦いのこと、2つ目は酒保のこと、3つ目は他の艦娘と何をしていたとか門兵さんや酒保の人と何を話したか、4つ目は司令官のことです。大半は3つ目と4つ目ですけどね。」
「そうなのか。」
ここに来て突然、俺の知らないところの艦娘を知ることになる。
「具体的には3つ目は門兵さんと何を話したか、何して遊んだか。後者はだいたい駆逐艦の娘が話しますね。4つ目は司令官のことなら何でも話してます。」
「はぁ?」
「話の中心になるのはだいたい前日に秘書艦をやった艦娘ですね。秘書艦をやった艦娘は次の日は歩いていればどこでも他の艦娘に捕まって司令官の様子だったり色々聞かれますからね。」
「なにそれ怖い。」
俺はそんな事を青葉から聞きながら大井の方を見た。
俺が見たのに気付いたのか、こっちを見てまた『ん"ー!』とか言ってるけどその姿はもういたたまれない。口枷から唾液がダラダラと出ていて襟をビシャビシャにしている。そして『ん"ー!』と言っている時以外は『フーッフーッ』ってエア漏れみたいな音を出している。そして顔は火照っている。
なんだか見るに耐えない。今すぐ助けてやりたいが、金剛曰く朝食の時だけだとのことなのでもうすぐ終わるから放置。
そして青葉の話だが、俺の話を知らないところで話されていると聞くと少し不安になる。実は悪口を言ってるのではないかと考えてしまう。もし本当ならどうしようか。
「話の内容はー......いつまた司令官の料理を食べれるのだろうかとか、司令官が読んでる本は何かとか、艦娘主観の司令官お気に入り艦娘ランキングだったり」
「はぁ、悪口かと心配してた。」
「そんな事絶対ありえませんよ。全員が『提督への執着』がありますからね。」
「そうか。それより最後のなんだよ。俺のお気に入り艦娘ランキングを艦娘が作ってどうする。」
「それはですねー、誰が一番司令官に頼りにされているかって雷ちゃん発案で週一で発表されるんですよね。ランキング基準は司令官とどれだけ長く話していたか、です!」
すっごいしょうもないランキングだった。ランキングの付け方もなかなか変だ。
そもそもランキングをつけてどうするんだって話になる。
「なんだか変なものだな。」
「そうですか?結構皆さんそれを指標に色々な話をしてますよ?例えばですねー。」
そう言って青葉はポケットから紙を出して開いた。それを覗き込むと上の方に『週刊 お気に入りランキング』と書かれていて、上から1位から5位まで書かれていた。ちなみに1位は赤城でコメントに『揺るがぬ女王。"特務"を提督から任されているのは未だに彼女だけ!』と書かれていた。その下は順に長門、熊野、フェルト、金剛だ。それぞれちゃんとコメントが書かれている。
「司令官も見ます?」
「いい。そのランキングは俺とどれだけ長く話しているか、だったよな?」
「はい、そうです。」
「完璧に正しいな。ぴっくりだ。」
そう言うと俺の背後から声がした。口調からして思い当たる艦娘は1人しか居ない。
「そりゃ鈴谷が作ってるもんねー。」
「鈴谷が?」
このランキングを作ってるのは鈴谷らしい。どうやっているのだろうか。
「うん。まぁ実際に調べているのはイムヤもだけど......。いつもふらふらしてるけど提督は目につくからねぇ。その時々で誰と話しているかメモってるの。」
「そうなのか。......なんか監視されてるみたいだな。」
「そんなつもりは無いんだけどなぁ......でもこれを使って皆で話したりするから楽しいんだよ?」
そう言って鈴谷は懐から『㋪鈴谷の提督ノート』とかいうすっごい目を逸らしたくなる題名の手帳を出した。そして開く。
「このランキングの用途はさっき言ったみたいに艦娘同士のコミュニケーション方法の1つで一番活発なの。まぁ会話内容はだいたい提督の事になっちゃうんだけどね。んで、これでどうしてコミュニケーションが活発になるのかっていうと提督とはあまり話せないってのがあるから、話すときはどれだけ提督の興味を引けるかってのを考えるってのが今のトレンドかな。」
なんだか流行りのファッションみたいな言われようだ。
「これを使って異種艦同士でも情報共有が活発になって来てるから、より一層艦娘同士の絆が強まったんだー。んで、異種艦同士での情報共有の最近あった凄く良い例ってのがあってね。」
なんだが鈴谷が饒舌だがいいのだろうか?さっきから青葉もそうだが俺を挟んで青葉の反対側の衣笠や正面に座っている古鷹たちの様子がおかしい。
「満潮が赤城さんから"特務"内容を聞いて今まで提督が興味を特に持った話なんかを聞き出せたって事かな。私も内容知りたいんだけど満潮ってば誰にも教えてくれなくってね。」
その刹那、鈴谷の背後からなんだか凄いオーラを感じた。
鈴谷もそれに気付いたのか、後ろを振り返るとそこには満潮が立っていた。
「鈴谷ぁー?!あんたねぇ!!」
「おぉーっと!怒らせちゃった!!じゃあ私はこれで!」
そう言って鈴谷は走って行ってしまった。それを追いかける満潮。満潮はなんだか顔を赤くしていたが、なんでだろうか。
「あーん、残念。」
そんな事を俺が考えている一方で青葉たちは残念がっていた。
「ん、何が残念なんだ?」
「鈴谷さんから情報が溢れることもあるんですよー!」
そんな風に青葉は残念がっていたが、それを知ったところでどうするのだろうか。
俺は時間を見て立ち上がると、青葉と執務室に戻った。
ーーーーー
ーーー
ー
執務は早々に終わり、昼間でかなり時間があるということで俺と青葉はあるものを見ていた。
それは俺が青葉にカメラを渡してからずっと青葉は写真を撮り続け、アルバムを作っていたのだ。それを見せてもらっている。写ってる写真は全て皆、平等に映っていて微笑ましいものばかりだ。例えばグラウンドで朝潮、荒潮、満潮、大潮、霰、霞、漣、曙、朧、潮、暁、響、雷、電らが鬼ごっこをしている様子。皆笑っている。そして資料室で熱心に勉強をしている由良や名取。歓迎会やら、楽しいことの写真。
「いいな......。」
「はい。とても皆さんいい笑顔です。」
「大所帯になってきて写真もそれを追って変わってきてるんだな。」
「はい。」
ページを捲っていると必死にレーベとマックスから日本語の読み書きを教わっているビスマルク。とそれを見ながらコーヒーを飲んでいるフェルトにその傍らでウトウトしているユー。オイゲンはと言うとどうやらこの写真を撮った時、秘書艦だったようだ。ということは最近の写真だということになる。
「心が暖かくなるな。」
「はいっ!皆さん、協力的ですからいい写真が撮りやすいんですよね。」
「そうなのか。」
俺はそのアルバムと閉じて青葉に返した。
アルバムを受け取ると青葉は言った。
「このアルバム、皆さんよく見に来るんですよ。そして提督と同じことを言ってくれます。こういう写真が撮れるってのは楽しいです。」
「そうか。」
そう言うと今度は懐から青葉は写真の束を出してきた。
「こっちのは門兵さんたちも写ってるやつです。これなんて面白いですよ。」
そう言って青葉が見せてくれたのはある門兵が川内とバトミントンをしている写真だ。川内の打ったシャトルが顔面に当たった瞬間の写真だ。
「あいつ、俺の技を完璧に盗んだな......。」
「司令官の技ですか?」
「あぁ。フェイントだ。騙し打ち。」
「司令官って運動もするんですか?」
「するさ。球技はバトミントンとバスケットボール。その他だと......特に無いな。」
「バスケットボールですか。」
「あぁ。楽しいぞ。」
そんな事を話していると青葉が俺に訊いてきた。
「写真、撮らせて貰ってもいいですか?」
「ん、いいぞ。」
「じゃあ遠慮無く......。ですけど自然な風にお願いします。」
「分かった。」
青葉はカメラを取り出してソファーの辺りに立ってカメラを構えたので俺は姿勢を正してカメラを見た。
「撮りますよー。」
「あぁ。」
「はい、チーズっ!」
そう青葉が掛け声を出した時、俺は笑った。いつも笑わないからこういう時くらいいいだろうと思って。
青葉は写真を確認すると、こっちに戻ってきた。
「はい。ありがとうございます。」
「いい。」
「時たま勝手に撮りますがいいですか?」
「構わないぞ。」
そう俺が言った瞬間、執務室の扉が開かれた。
「失礼するかもっ!」
「秋津洲か。」
執務室に入ってきたのは秋津洲だった。
最近というか、いつぞや秋津洲からご飯を貰ってからは毎日執務室に秋津洲が来るようになったのだ。
何しに来ているのかというと、おやつを置きに来るのだ。哨戒任務後に艤装でお菓子を作っているみたいで、『お腹が減ったらこれ食べて欲しいの。』と『かも』を語尾に付けずに言ってそれから毎日11時前に置きに来るのだ。
「はいっ!!今日の分。今日は紅茶のクッキーにしてみたかも。」
「おぉー!いい香りがしてるな。後で貰うよ。」
「んふふ~。じゃああたしはこれで失礼するかも。」
「ありがとな。」
そういういつもやっているやり取りをして俺は机に置かれた籠を開けてクッキーを食べる。
「ムグムグ......ん、今日も美味しいな。」
「今日もっ?!」
「何?」
そう俺が言うと青葉が驚いた。
「何ですか今の?!哨戒任務をしてる秋津洲さんですよね?なんで彼女が提督におっ、お菓子なんて?!」
「いや、だから......昼前になると腹が減るって言ったら作って持ってきてくれるようになったんだよ(※作中では言ってません)。」
「提督にお菓子をあげるなんてっ......ぐぬぬっ!!っと、写真いいですか?」
「クッキーか?構わない。」
俺は籠からクッキーを出しては食べている。そしてそのクッキーを青葉は写真に収めた。
特段変なものでもないし、普通の紅茶のクッキーだと思うんだが、何がどうしたのだろう。
「いい匂いですし、美味しそう......。」
「青葉も食べるか?」
「いいんですか?なら遠慮無く。......ムグムグ......おっ、美味しいですね。紅茶の香りが良いです。」
「なー。明日はなんだろう。」
俺はそんなことを呟きながらクッキーを食べる。最近の楽しみのひとつに秋津洲が持ってきてくれるお菓子というのがあるのだ。
その一方で青葉はまた『ぐぬぬっ!』とか言ってるが何なんだろうか。
「まぁいいです......。それじゃあ、また写真を撮りますね。そのまま食べてて下さい。」
「あぁ。」
そんな感じで昼まで過ごし、昼食の時間も至って普通に食べて午後に入ると青葉の誘いで鎮守府の中を散歩に行くことになった。
目的はアルバムの写真を撮る。今回は俺も付いて行ったので、色々やった。お茶会に飛び入り参加したり、グラウンドで走り回ったり、木陰で寝転んだり......。
なんだか懐かしい気分になったのだ。そんな俺や艦娘たちを青葉が黙々と撮っていたので、俺は青葉からカメラを借りて青葉も写す事になり、青葉もとても楽しんだようだった。
夕方に執務室に帰る頃には俺も青葉もヘトヘトで夕食の時に動けなかったのでフラフラして行くと皆に体調を崩したのかととても心配されてしまった。
大井が縛られている描写に関して、彼女はただ縛られているだけですのでご注意を。
青葉のカメラは作中のように働いてます。よくあるようなパパラッチというわけではなく、単純にカメラを携えて自分が求める写真を許可を貰って撮ってるという感じですね。これも本作独自の青葉設定ですのでご理解ください。
鈴谷の作っているランキングに深い意味はありませんよ(真顔)
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