【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百七十五話  正門の大井③

 

 鎮守府正門前から伸びたり負傷したデモ隊が救急車や護送車に運ばれて行った後、俺は大井に艤装を仕舞うように言った。

大井は反抗することなく、艤装を消し、俺の前に立った。

 

「提督っ......。何故彼らを撃ってはいけなかったのですか?」

 

「こちらが殺傷兵器で攻撃すればそれは虐殺だ。分かってくれ。」

 

「はい......。」

 

 そう答える大井の目にはもう光は戻っている。どうやら元に戻ったようだ。

 武下が俺のところに報告に来た。

 

「警察の機動隊が引き上げていきました。完了です。」

 

「ありがとうございます。それでは路上の催涙手榴弾の破片やゴミなどの片付けでもしましょうか。」

 

「えっ?」

 

 武下は驚いた。何故驚いたのか俺にはわからなかったが。

 

「いや、片付けですよ。あれじゃあ交通に障害が出ます。交通整理に門兵を配置して残りで片付けです。」

 

「はい。伝えます。」

 

 俺はそう言って上着を脱いで近くのベンチにかけると、袖を捲り上げた。

 

「よっしゃ!大井っ!!」

 

「はっ、はいっ?!」

 

 ビクッと驚いた大井の後ろに人影が居た。

 

「終わりマシタ?」

 

「終わったー?」

 

 金剛と鈴谷だ。

 

「お、丁度いいところに。金剛と鈴谷、頼まれてくれない?」

 

「何をデスカ?」

 

「酒保に行ってゴミ袋を貰ってきてくれ。」

 

「「了解(デース)!」」

 

 金剛と鈴谷は走って行ってしまった。何も聞かずに行ってしまうということは、何をするのか多分分かっているんだろう。

 

「ほれ、大井。行くぞ。まずは大きい物を一箇所に集めよう。」

 

「えっ、えぇ。」

 

 俺は正門を潜って交通整理の始まったデモ隊の居た場所に散乱する生卵のパックやビニル袋、看板の残骸、のぼり、横断幕を拾い始めた。

どれもこれも、びしょ濡れだがなんだか重みを感じた。俺にはなんの重みか分からない。

 

「どっこいしょっと......。」

 

 そんなおっさん臭い掛け声で集めた看板の破片なんかを持ち上げて、正門前の邪魔にならないところに集めていく。すぐに戻ってきた金剛や鈴谷には卵のパックやらゴミを集めてもらい、気付いたら門兵たちも片付けなどで片手間になった者も掃除をしていた。

皆、嫌な顔はしていない。

黙々と片付けをすると正門の向かい側の歩道から警官が出てきた。そして荷物を運ぶ俺に言ったのだ。

 

「自分も、手伝います。」

 

「ありがとうございます。袋は金剛から受け取って下さい。」

 

「はい!」

 

 どうやらその警官は近くの交番から来ていた人みたいで、交通整理を門兵がやっていて暇をしていた様だ。

自主的に俺に声をかけ、手伝いを買って出てくれたのはとてもありがたいと俺は思った。

次第にそれに釣られてか、周辺で見ていた人たちも片付けを始めて、結局1時間で片付き、俺は武下に指示して放水砲を用意。最小出力で放水して道路全体に水を流してもらった。

 

「皆さん、ありがとうございました。」

 

 俺は手伝ってくれた警官や近隣の人たちに頭を下げ、門の中へと戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私室で俺と大井はテレビを見ていた。きっと今の話題はデモのことが中心になっているだろうからだ。

テレビを点けると俺の予想は的中。報道番組ではデモの話を取り上げており、何かの評論家、教授が話をしている。そんな中、やはり着眼していたのは天皇陛下による勅令、大本営による更なる情報開示だった。

どんな内容なのか、いつ開示されるのかということが話題になっていた。特に内容だった。

招かれていた評論家や教授は様々な憶測を出している。

 

『情報開示では私は半年前から急に日本近海、南西諸島、北方海域、西方海域の奪還が進んだ理由だと考えておる。』

 

『教授。それはどういったところを見たのですか?』

 

『うむ。艦娘との共闘が始まったのは10年以上前の事だ。それからすぐに艦娘は今はない海軍本部によって鎮守府に閉じ込められ、戦争を強いられていた。』

 

『えっ?!』

 

 アナウンサーが間抜けな声を出した。

 

『何、知らぬのか?......艦娘との共闘が始まってからは共に戦い、海を駆けた同志であったが海軍本部の心ない言葉が蔓延、艦娘を閉じ込めてきたのだ。』

 

『心ない言葉とは?』

 

『艦娘も深海棲艦なのではないか、とな。閉じ込められてからは簡単だった。指令書(※誰からとは言ってない)に従い、蛋白に代理戦争をしていたのだよ。艦娘は。』

 

 番組を収録しているスタジオが騒然とする。

 

『そしてそのことは情報統制でタブーとされたのだ。これがデモ隊の言っていた平和の真実だ。私たちは知らずのうちに艦娘の手によって作られた平和の中でのほほんと生きていたのだよ。』

 

 アナウンサーが顔を真っ青にしている。その時、スタッフがアナウンサーの後ろを通り、ある紙を手渡した。

 

『すみません。教授、続けていただけますか?』

 

『うむ。そんな情報統制下で海軍本部は少しの良心でも働いたのだろう。代理戦争をしている艦娘に対して褒美は要らぬのか、とな。』

 

 こう言った教授は黙ってしまった。それにはアナウンサーも戸惑い、聞いた。

 

『それで、それでどうなったのですか?』

 

『ここから先は私の口からは言えぬ。』

 

『何故ですか?』

 

『理由もだ。』

 

 そう教授は言って、続けた。

 

『ここまでの話は真実だ。紛れも無く。それを私たちは忘れていたのだよ。艦娘によってもたらされている平和に。』

 

『あっ......ありがとうございます。先ほどの続きは大本営の情報開示によって分かるのでしょうか?』

 

『うむ。』

 

 俺は画面から視線を外した。大井の方を見た。

大井は特段、何かに反応しているわけでもなく、ただテレビの中で言っていた言葉を聞いていただけだ。

 

「提督。」

 

「何だ?」

 

「このテレビの中の教授はあのデモ隊よりも遥かにものを知ってますね。」

 

「そうみたいだな。」

 

 そう言って俺はテレビの電源を落とした。もう内容が切り替わっていたのだ。

 

「情報開示の内容は確実に提督のことでしょうね。」

 

「それは俺も同感だ。ちなみに嘘偽りなく伝えられる可能性が大きい。」

 

「同感です。」

 

 俺は立ち上がり、私室から出ると執務室の椅子に腰掛けた。

外でデモ隊が騒ぐ前には執務は終わっていたので、今は妖精に出す修繕指令書。場所は正門内側だ。大井の艤装が突き刺さっていたところがえぐれたからだ。

 

「あはは......余計な執務を増やしてしまいましたね。」

 

「いいさ。アレでも効果があったはずだ。デモ隊への艦娘が戦争を強要されているという話が嘘ハッタリだと分かったからな。俺の姿が見えないところで艦娘が出てきてああ言ったのだからな。」

 

「そうですね。......それにしても『提督への執着』というのは凄いですね。」

 

「ん?」

 

 大井は俺の目を捉えていた。そして段々と近づいてくる。

吐息が当たるのではというところまで近づいてきて視界一杯に大井の顔が映る。

 

「これまでにない殺意が込み上げてきました。それと同時に頭の中は提督のことで一杯......。」

 

「おっ、おいっ。」

 

 俺が離れようとしても大井は追いかけてくる。

 

「ふふふっ......でも『提督の執着』がないときはとても幸せです。心が温かい気持ちになりますよ。」

 

「そうか......つか離れろ。」

 

「嫌です。」

 

 幾ら首を振って逃げても大井は追いかけてくるのだ。ついに俺は立ち上がり、逃げようとするが捕まってしまう。

 

「次に来た時は問答無用で殺しますよ。何を言おうと......。でも、提督が止めてくれるのなら、私はやめます。」

 

 大井はぴったりと俺にくっついた。引き剥がそうにも無理があるのだ。俺の背中は壁にあたっていて、正面は大井だ。

 

「大井っ。」

 

「ふふっ、失礼しました。では、提出してきますね!」

 

 すっと離れた大井は机にあった書類をひょいっと持つと執務室から出て行ってしまった。

それを俺は黙って見送る。なんだか『提督への執着』が発現してからというもの、大井が変だ。否、変すぎる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 大井が出て行っている間に、執務室に金剛と鈴谷が訪れた。

 

「へイ、提督ぅ~!」

 

「ちぃーっす。」

 

 彼女らは外の掃除を手伝ってくれた。ちなみに他の艦娘は俺の命令を守って私室待機していたそうだ。

 

「提督、1つ聞きてもいいデスカー?」

 

「いいぞ。」

 

「大井のことデース。あれって『提督への執着』が発現したって事デスカ?」

 

「あぁ。」

 

 どうやら金剛もそれに気付いていた様だ。あの様子を見れば知っていれば誰でも気付くだろうが。

 

「大井には無いってなってたデース。どういう事デスカ?」

 

「デモ隊のこととかを話していたらああなってしまった。突然だ。」

 

「そうなんデスカ。」

 

 俺は席を立ち、お茶を淹れに向かってすぐに戻ってきた。カップは3つ。俺と金剛と鈴谷だ。

2人はソファーに座っていたので、カップを机に置き、俺もソファーに座る。

 

「ちなみに傾向は赤城だ。こみ上げる殺意を理性で抑えれるタイプ。」

 

「なるほどねぇ。こっち側じゃないだけ有難たいわ。」

 

「その通り。」

 

 俺たちはカップに手をかけて傾けると話を続けた。

 

「だが目から光が消える。そう考えると大井は赤城と金剛のハイブリットだな。」

 

「ハイブリット......私と赤城の雑種デスネ。」

 

「あぁ。だが有り難いよ。目から光が消えるのは見分けがつきやすいからな。」

 

 そう言って俺はソファーにもたれ掛かった。

少し疲れているのだ。清掃でかなり体力を使ったのだ。外のが終わった後に門内のゴミと生卵とペットボトルの片付けもやっていたからだ。流石にこちらを近隣の人や警官に手伝ってもらう訳にはいかなかったので、俺たちと門兵だけでやったのだ。かなり時間が掛かった。

 その後も金剛たちと今回の件を話していると大井が帰ってきた。

 

「ただいま戻りました。」

 

「おかえり。」

 

「おかえりなさいデス。」

 

「おつかれぇ~。」

 

 ソファーで寛ぐ俺と金剛たちを見て、大井も座った。

だが場所がおかしい。

 

「なぁ、大井。」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「狭い。」

 

 俺の真横に座ったのだ。ちなみに言っておくと、ソファー1脚で2人掛け。俺の方には座るときに金剛と話していたので鈴谷の横に座ったのだが、大井は金剛の横に座るわけではなく、俺の横に座ったのだ。

 

「アーキコエナイキコエナイ。」

 

「絶対聞こえてるだろう......。」

 

 俺はそんな大井を放おって置いて金剛と話を進めるが、何かあるたびに大井がアクションするのでその時々、話が止まってしまう。

それが3回続くと、金剛も何かの対抗心を燃やしたのか話が逸れていった。そして鈴谷も何故かこちらににじり寄ってくるのだ。

この状況が昼まで続き、開放されたのが昼食が終わる30分前だった。開放してくれたのは北上で、理由はというと、なかなか現れない俺と大井を呼びに来たからだ。

北上の『何やってるのさ。』で皆、ババっと離れて俺はめでたく開放されたのであった。

 





 今回で正門の大井は終わりです。次回は次に移ります。
激動が予想されますので、頭のフル回転でショートしないようにします。
 作者が現実逃避でハーメルンの艦これ二次創作を読んで回ってますので感想を書くかもしれません。その時はよろしくお願いします。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

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