【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
日本皇国国内のメディアが湧いた。何で湧いたかというと、先日実行された日米合同作戦『FF』作戦の概要、結果についてだった。
日本皇国が深海棲艦との戦争を始めてから今まで連絡の取れていなかったアメリカとの戦中ファーストコンタクトは既に国民には知られていた。だが、その先は何も知らされていなかったのだ。そこからの日米合同作戦に国民は注目した。
理由は明白だ。強大な軍事力を有するアメリカに日本皇国を窮地から救った横須賀鎮守府、新たに発足された端島鎮守府による大規模攻略艦隊によってアメリカ西海岸の制海権奪還作戦が実行されたからだ。国民は元から戦争意識が無かったが、これまで『何故か』連絡の途絶えていた国外との話だから興味を大いに持った。
日米合同作戦の模様は端島鎮守府から全国に伝播していた。作戦に参加する艦、おおまかな概要については国民は周知していたのだ。
そしてその結果がどう伝えられたのかというと、『我が日本皇国海軍は先日の日米合同作戦に於いて、深海棲艦の艦隊を撃破及び壊滅に成功。"味方"は損害軽微。』と報道されたのだ。"味方"とここまで強調されてはなかったが、そう見て取れた。これは俺からしたら事実の歪曲だ。だが一方で、本当のことを言っているとも捉えられる。
このニュースは俺は私室で見たのだが、食堂では見ないほうがいいだろう。そう感じた。俺は作戦から戻ってからある程度の艦娘には話をしてあり、作戦に参加した艦娘たちも他の艦娘から聞かれて嘘を言わずに答えているだろう。
日本皇国側は損害軽微だったが、アメリカ側は甚大だったのだ。
「提督っ!執務終わりました!」
「あぁ。こっちも終わった。事務棟への提出を頼めるか?」
「はい。」
今日の秘書艦はオイゲンだ。今更だが俺の記憶が正しければオイゲンは提督のことを『アトミラールさん』と呼ぶはずなのだが、個体差なのだろうか?それともただビスマルクの真似をしているだけなのだろうか。正直、考えだしたらきりがないので考えないようにする。
昨日、作戦が終了し、帰投した次の日ということで、夜に宴会が行われた。そも理由というのは俺の初陣と生還だった。
それに関して祝ってくれるのはありがたいが、普通初陣は生還するものだろうと思いつつありがたく楽しんだ。だが、規模がおかしかった。
普段の宴会は食堂で艦娘たちで行ってきて、俺が特別指示を出さなければ門兵や事務棟の人は出てこないのだが、当然話を知っている門兵ら警備部とそこに事務棟の人も加わり更に酒保の従業員も参加、結果、グラウンドで400~500人を超えるバーベキューになってしまった。その光景はとても口では表現できない。そしてそんな大人数でバーベキューはするものではないと実感した瞬間だった。
グリルは20台以上に以前、ミサイルやらを入れた際についでのように置いてかれた仮設調理車やら冷蔵車やらが並んでいたのだ。そしてついでのように赤城がアメリカで空中投下された酒を出してきて振る舞い、どんちゃん騒ぎになった。その騒ぎは11時過ぎまで続き、片付けに更に3時までかかった。
「あ"ー。眠い......。」
そう。俺はその御蔭で寝不足なのだ。ちなみに他にも寝不足な艦娘は居る。
そんな昨日あったことを思い出しつつ、俺はボーッと外を眺めた。こんなことをしていると、考えてしまう。『FF』作戦の被害や、『イレギュラー』に関して。正直、考えたくないのだ。というより、考えても仕方がない。終わりが無いのだ。
作戦で被った被害はもう取り返しのしようがない上、帰還の最中に考え事をしていたおかげで戦闘に関する記憶は何を指示していたかなどしか覚えていないのだ。俺の記憶力に感謝したことはこれほど無いだろう。数時間前のことでも忘れる俺だからだ。
「ただいま戻りましたー!」
「おかえり。今日の執務は終わりだ。」
「はい!これから何します?」
そうオイゲンは聞いてくる。執務が終わってから何をするかなんて訊いてきた艦娘、初めてだ。
「そうだな......。」
俺は考える。いつもなら炬燵に入ってはいるが、もう仕舞ったのだ。気温が気温、もう温かい。厚着をしなくても外を歩ける程だ。むしろ暑いくらいと言ってもいい。
だが、やるといっても何をすればいいのだろうか。ここに来て最初の1ヶ月は私室と執務室を行き来していただけだった。その後も色々やることがあって、執務を終わらせても何かをしていた。手が空くようになってからはもう冷えていたから炬燵で温まっていただけだ。そう考えると、俺は何をやっていたのだろうかと思ってしまう。
「オイゲンは何がしたい?」
結局、俺はオイゲンに答えを出させることにした。本当なら、俺が何か提案してやらねばいけないんだろう。だが何も思いつかないのだ。仕方ないと言ってしまえばそれまでだが、今回ばかりは仕方ない。
「そうですねぇ......。あっ!そういえば本部棟でこの前見つかったって言ってたアレ!使いましょう!」
「アレ?アレって言うと、アレか?」
オイゲンの言うアレというのは鈴谷が大本営から俺への官給品として鎮守府に持ち込んでいたコンピュータの事だ。ちなみに執務室にも2台あるが、完璧に執務用。しかも余分な昨日は全て無いものだ。鈴谷が持ち込んでいたコンピュータはそういった細工はされていない。それを使えば何か出来るのではないか、ということだった。
ちなみにコンピュータがある理由については『大本営からの物資に入っていた。』ということにしてある。そして使用は禁止、置いてある部屋も入室禁止にしてある。念の為というか、俺もだが知識が無いものがそういった物の使い方を間違えば問題になるからだ。
「だがアレは使わないと言ってあるはずだが?」
使用禁止、部屋への入室禁止についてはその対象に俺も含まれている。ちなみにこの命令を出したのは俺だ。
理由は簡単。誰も使ってないなら興味を示さない。俺だけが使っているのなら、何をしているのか気になるだろうからだ。
「えー、でもあるなら使わないと......。」
「アレを使うわけにはいかない。それにアレはパスコードロックが掛かってる。パスコードは武下さんしか知らないんだ。」
「そうなんですか......。残念です。」
俺が使わないようにとわざわざリカバリーした後に武下に設定し直してもらってある。ちなみに俺にパスコード解析は出来ない。
必然的に使えない状況を作り出したのだ。
「でも、そうなるとー......。やること思いつかないですね。」
「あぁ。精々やるなら地下牢を利用した備蓄倉庫の見回りと確認と、じっとしてられないなら散歩だな。」
そう言うとオイゲンは立ち上がった。
「ならそれしましょう!地下牢は確か4つあって、しかも広いんですよね?」
「そうだが?」
「いいじゃないですか!行きましょう!」
「分かった。」
こうして俺とオイゲンは鎮守府にある地下牢の見回りに行くことになった。ちなみに前回行った時から数ヶ月経過している。
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地下牢はジメジメしていてカビ臭い。長い間使われてなかったからだ。使われてなかったとはいえ、今は資源の備蓄に使っている。
俺とオイゲンは電気を点けて、牢を見て回っている。特段変化は無いようで、改善する点も見つからない。
「はぇー。こんな風なんですね。」
「あぁ。ここは最近まで知られてなかった備蓄資源があったんだ。」
「そうなんですか。」
今見て回っているのは鈴谷がイムヤと協力して収集していた資源が備蓄してある地下牢なのだ。
今はその管理がこちらに回ってきている。鈴谷がここを教えた理由は『隠しておいても良かったんだけど、そのうち見つかるだろうからね。』ということらしい。長い間隠し通す自信は無かったようだ。ある程度溜めたなら大本営と連絡をとって俺の目を盗んで民間に売却することになっていたと言っていた。そしてそれを俺に譲渡したという事だ。
俺は受け取ったはいいものの、この事を知っているのは管理していた鈴谷と収集にあたっていたイムヤ、俺とあのメンバーだけだ。書類上、管理する資材の量は的確に把握しなければならないので、執務で処理されるのだが、その書類は秘書艦が見る。
経験のない秘書艦ならいいのだが、経験がある秘書艦なら以前の経験と今回の資材の量では雲泥の差がある。違和感を持ち、何かに感づくやもしれないということになり、『鎮守府として機能させる前からあったものをイムヤと鈴谷が見つけた。』ということにして管理しているのだ。これは彼女らがしていたことを隠すため。そして他の艦娘が自主的に"気づく"為だと念押しされて決めたことだった。
「でもこれだけあれば大型艦建造も出来ますね。」
「あぁ。デイリー任務を全て大型艦建造にしてもいい程だ。」
それくらいの規模の資材がここにあるということだ。だが、ここの資材には手を出さないように運営している。ここの資材を使うときは、ピンチになった時だけだ。抽象的だがそう決めたのだ。
「でもやってないですよね?」
「やってないな。」
「変なのー。」
オイゲンは深くまで言及してこなかった。多分、その程度だと思っているのだろう。
「......終わりましたね。では次、行って見ましょー!」
気付いたらもう戻ってきていた。
俺とオイゲンは階段を上がって、入り口に鍵をかけると次の地下牢に向かった。ちなみに他の地下牢には資材が備蓄されていない。ただの地下牢だ。1つは警備部が使っているので、あと2つだ。
残りを回ったが面白みは全く無かった。だがオイゲンがただ見回っているだけじゃ面白くないとのことで、最後に見回る地下牢は牢の中や部屋を見てみようということになった。
カビ臭い階段を降りて、廊下に出て電気を点ける。まばゆい光に照らされるのはさっきから繰り返し見ている景色だ。長い廊下に牢。
だが今回はただ見るだけじゃない。中を見たりもする。
「おぉー!こんな風になってるんですね!」
そう言いながらオイゲンは牢の入り口を開けて中に入る。中をぐるりと見渡すと、部屋の隅を見たりして満足したら出てきた。俺も中を覗いたが、そんなじっくり見るものじゃない。すぐに廊下に出る。
部屋を一つひとつ見ていくが、途中、鉄柵の牢のところがあり、例外なくオイゲンは入ってみた。
「ほおほお。なかなかイメージ通りですね。牢屋って言うとこんな感じを想像します。」
「俺もだ。」
そう言うとオイゲンはその牢に入ったまま、何故かニーハイソックスを少し下げ、服を着崩し、髪を乱した。そして床に手を付き、俺に向かって言ったのだ。
「くっ......殺せっ!」
どうやら俺の記憶にある何かをしている。すぐにツッコミを入れた。
「オイゲンはいつから女騎士になったんだ?」
「んふふ~。提督ぅー。」
「なっ、何だよ。」
少しニヤニヤしながら着崩した格好を元に戻して、髪を整えると俺の横に立って言った。
「なんでもないですー!」
「何だそれ。」
この後も見て回ったが、ずっとニヤニヤしたままだった。
そしてその最中、俺とオイゲンはある部屋に入った。そこはどうやら看守の休憩所か詰め所みたなところみたいだった。
俺とオイゲンはそこを見渡すとあるものを見つけた。
「これって......門兵さんが持ってる。」
「小銃だな。しかもかなりここに放置されてたみたいだな。」
机の上に置かれていたのは小銃だった。見たことのあるようなもので、門兵が持ち歩いている小銃にそっくりだ。だがなにか違う。
じっくりと観察してみるとその違和感に気付いた。この小銃は門兵たちが使っている小銃の前に使われていた小銃だ。
部品点数が多く、故障も多いと言われていた小銃だ。
「ほぉ......。」
俺はそう言いながら持ち、オイゲンに銃口を向けないように地面に向けてグリップを保持した。
少々、ガタツキがあるが具合が分からない。俺は小銃からは弾倉が抜けているのを確認したので、下を向けたまま安全装置をかけてスライドレバーを下げる。中から薬莢も弾薬も出てこないのでどうやら安全みたいだった。撃鉄を落とすと俺はそれを持ったままオイゲンに声をかける。
「これをここに放置しておくわけにはいかない。警備棟で処理してもらおう。」
「そうですね。」
こうして俺とオイゲンの地下牢巡りは終わった。これで3時間も潰せたのは良かった。
この後はすぐに警備棟に小銃を持ち込んで処理を依頼。その後は食堂で昼食を摂って、昼からはゆったりと過ごした。
先日は完成したのが午前2時過ぎでしたので、予約投稿できませんでした。ちなみに起きたすぐに投稿すれば良かったんですが、出来ませんでした(汗) すみません。
ですので、一日遅れの投稿になります。
今回は第一章のその後、どうなったかを少し書かせていただきました。
提督との協議の結果、ああいう風に処理されたということです。
ご意見ご感想お待ちしてます。