【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百六十五話  『FF』作戦④

 

 早朝。まだ日も出ていない時間に、艦内は静けさと共に緊張感に包まれていた。

うっすらと目を凝らせば見えるところに大きな影があり、音も立てずに浮いている。

 

「......入電あるまで待機。」

 

 俺はそう言って通信妖精に待機を命じ、目の前に浮かぶ影に目を凝らした。

 

「入電。『こちらジョン・F・ケネディ。応答されたし。繰り返す。こちらジョン・F・ケネディ。応答されたし。』」

 

「応答。こちら日本皇国海軍横須賀鎮守府派遣艦隊旗艦 赤城。特殊陣形最後尾にて殿を務める。」

 

「了解。」

 

 どうやら目の前の影はやはり米機動部隊だったみたいだ。

通信妖精が返答をする間、赤城は指示を出していた。

 

「抜錨。」

 

『抜錨ー!抜錨―!』

 

 伝声管だったものから声が聞こえてくる。今はスピーカーが入っていて、すぐ横に受話器が掛かっている。

艤装から鉄を擦る様な音と共に、何かを巻く音が響く。錨を巻き上げているんだろう。

 米機動部隊との連携は日の出と共に開始という事になっている。つまり、陽が上がる前に端島鎮守府派遣艦隊は艦隊先頭に出て来て、その後ろに米機動部隊が付く。そして最後尾に俺たち横須賀鎮守府派遣艦隊が付くのだ。

 

「輪形陣で背後に付く。艦隊に連絡。」

 

「了解。」

 

 通信妖精は慌ただしく艦隊に連絡を入れた。この編成で輪形陣の場合、中心に空母2でその先頭と最後尾に駆逐艦、空母の両脇に戦艦や巡洋艦が並ぶ。今回は典型的な艦隊編成なので、そのままになるだろう。

 陽が上り、明るくなった頃に俺たちの視界に飛び込んできたのは巨大な空母に護衛が何隻も付いた米機動部隊だった。

だがあの艦隊で倒せる深海棲艦はせいぜい駆逐艦級が1隻のみ。そう考えるとただ図体のデカいだけで動けない石像のように思えた。

 

「全艦前進微速。」

 

『全艦前進びそーく!』

 

 赤城が頃合いを見図り、指示を出す。

遂に日米合同『FF』作戦が始まったのだ。だが主に戦うのは日本皇国海軍派遣艦隊なのだがな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 アラスカまでの道のりは端島鎮守府が制圧していたので接敵する事は無かった。ここまで徹底した制圧をしたのかと思うと感心するが、逆にどうして制圧できたのかと疑問が浮上してくる。

艦これにおいて制圧の2文字は無いのだ。

 

「提督。クイーン・シャーロット群島を通過しました。」

 

「そうみたいだな。」

 

 艦隊が面舵を切る指示を出していたのでそれは分かっていた。要塞からクイーン・シャーロット群島までは一直線なので、舵を切る事は無かったからだ。それは海図(※提督は何となくて読んでます)を見て一目瞭然だった。

 

「戦闘用意。全艦に通達して下さい。」

 

『全艦、戦闘よーい!』

 

 突然、赤城はそう指示を出した。どういう意図というのは何となく分かる。端島鎮守府が制圧していたのはアラスカまでの道のりだけだ。だからアメリカはアルフォンシーノ群島に要塞を築けた。だからクイーン・シャーロット群島から面舵を切ったところからは戦闘用意なのだろう。深海棲艦が出てくる予想があるからだ。

 

「提督、私たち艦娘の戦い。見てて下さいね。」

 

「あぁ。」

 

 そう言った赤城はとても凛々しく見えた。普段の鎮守府での赤城はどこに行ったのか分からない。多分皆から信頼されてるのはこういう面があるからだろう。しっかりする場面ではしっかりとし、抜くべきところではしっかりと抜く。そういう状況に合わせた行動ができるからだろう。だがそれだけではあそこまで信頼されるとは思わない。俺が知らないだけで赤城には他にも他人に信頼されるような何かがあるんだろうなと感じた。

 赤城が戦闘用意の指示を出してから派遣艦隊でもどうやら戦闘用意が掛かったみたいだ。加賀の飛行甲板を見ると、後部エレベーターから流星隊が出てきている。中央エレベーターからも続々と烈風隊が出てきているのだ。

加賀の飛行甲板を見てから赤城の飛行甲板を見ると、赤城も同じように甲板に艦載機が上がってきていた。発動機を温めるためなのは自明の理だが、他にも温まった艦載機は偵察に出すのだろう。赤城への観測妖精の報告ではどうやら端島鎮守府派遣艦隊からはもう既に偵察が出ているみたいだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 長門も赤城も居ない鎮守府は代理が立てられています。提督が出撃前に残していったやることリストを消化する為に艦娘たちは動き出しました。

 

「という訳で食堂にお集まりの皆さん。代表指揮は霧島と熊野さん、吹雪さんで執ります。提督が帰ってくるまでにこのリストを消化しましょう!!!」

 

「「「おぉーー!!!」」」

 

 艦娘たちの気合も十分です。指揮はさっき私が言った通りですが、総指揮は私、霧島が担当する事になってます。これも信頼なんでしょうか?やることリストには提督の指揮の指名があったので。

 

「先ずひとつ目!」

 

「「「おぉ?!」」」

 

 皆さんのテンションも高いです。多分ですが、提督の直接の指揮で何かをする事しかしたことが無いからですね。今回は私たち、艦娘が独自に判断して提督が置いて行ったやることリストを消化する訳ですから、気合の入り方も違うでしょう。

 

「えぇーと......『以下の編成で演習を繰り返す事。旗艦:金剛お姉様、比叡お姉様、榛名、私、蒼龍さん、飛龍さん。』です!これは毎日10回行う演習の事ですね。ちなみに空母のお2人は揃って艦載機は零戦52型、彗星一二型甲、流星改を運用するようにとの事です。今から出来る事を全て伝えた後、以下の艦娘はすぐに演習に行きましょう!」

 

 見たところ提督は金剛お姉様のレベリングを始めるみたいですね。先日、大井さんの第二次改装が終わりましたからでしょう。ですが私個人の意見では巡洋艦の育成をさらに進めないといけない気がするんですけどね。

 

「次は......。」

 

 私は受け取っていたリストを見ますが、それ以降がありません。どういう事でしょうか?ですがここで嘘を言っても仕方ないので皆に伝えます。

 

「無いですね。」

 

 そう私が言うと、皆さん見事に滑りました。これも恒例ですよね。提督がここぞという時に言いますけど、多分場を和ませるためでしょうね。大体使っていた場面が真面目な話をしていた時や、暗くなる様な話をしていた時の後でしたからね。

 

「無いんデスカっ?!霧島ぁっ!!」

 

「はい。ありませんよ。」

 

 どうやら皆さん、面を喰らったというか物足りないと言いたそうにしてますね。

無論、私も物足りないです。

 

「霧島さん。ひとつよろしくて?」

 

「はい。」

 

「提督がご帰還なさる予定は何時頃ですかしら?」

 

「分かりません。」

 

 そう言うと熊野さんは少し考えた後、私に耳打ちをしました。

 

「ならその期間中は私たちで自主的に出来る事をしましょう。例えば......。」

 

「「「「「「例えば?」」」」」」

 

 皆、熊野の発言に耳を傾けました。

 

「思いつかないですわ。」

 

 本日2回目です。皆さん滑りました。

 

「取りあえずは金剛お姉様旗艦で演習をしてきましょうか。では、一度解散しましょう。」

 

 私はそう皆さんに指示を出しました。

素直に聞いてくれるのはいいことですね。これも古参のネームバリューでしょうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 金剛お姉様の練度は今、71です。姉妹の中では最後発ですが今は一番練度が高いです。理由はいくつか噂されていますが、私が提督から訊いたものは『金剛が何かしている時期に積極的に金剛を出撃させていた。』からです。これが一番正しいですね。

それによって一番練度が高くなったという事です。ちなみに私は練度69。姉妹の中では一番小さいです。理由は金剛お姉様の理由の逆です。私は提督に言われて内偵やらをしていたという理由ですね。

 

『全艦一斉射っ!ファイヤー!!』

 

 金剛お姉様はこういう指揮の執り方をします。常に無線はつけたまま、リアルタイムで指示を出してくださいます。この指示方法はかなり確実で、指示の修正や連携がとても素早くスムーズに行う事が出来る利点がありますね。ですので、金剛お姉様が旗艦の時は、随伴は全員耳に受話器を当てながら戦闘をしてます。

 

『陣形変換っ!複縦陣に。そして蒼龍たちは攻撃隊発艦ネー!』

 

『『了解っ!』』

 

 ですので進路変更や指示が絶対途切れる事は無いんです。

 

『榛名ーっ!前方の重巡に弾着観測射撃いけマスカ?』

 

『はいっ!偵察機は健在ですのでいけますっ!』

 

『比叡っ!!陣形を保って下サーイ!』

 

『分かりましたっ!!』 

 

 金剛お姉様の勇ましい指揮には皆さん、信頼しています。金剛型は勿論、正規空母の皆さんや雪風さんや島風さんもです。古参組もかなり信頼してますね。

これまであった金剛お姉様の事が無かったかの様に、皆さん金剛お姉様を慕います。それはきっと、提督が私たちのあの行動を止めて下さったからでしょうね。それまでは金剛お姉様は怖がられてましたから、それが抜けた今では皆さんのお姉さんみたいな存在なんでしょう。そんな存在、長門さんや赤城さん、扶桑姉妹もそうなのでもうよく分からない事になってますけどね。

 

「残り、空母だけです!」

 

『トドメは霧島、お願いネー!』

 

「任せて下さいっ!」

 

 妖精さんに指示を出します。主砲に徹甲弾を装填し、弾着観測射撃で確実に直撃させます。

 

「てぇー!!」

 

 爆音に衝撃が身体を揺らし、弾着を知らせる連絡を待ちます。

 

『観測妖精より艦橋。空母脇腹、艦橋に直撃!』

 

 どうやらトドメは刺せたみたいです。

弾着観測射撃様様ですね。

 

『ハーイ!皆サーン!帰投するネー!』

 

『『『『『「はい!」』』』』』

 

 こういう演習をもう何回もやりました。今日の演習はこれにて終わりです。

ちなみに全てA勝利以上です。流石ですね。潜水艦の艦娘が出てきた時は潜水艦以外は全滅させますし、それ以外でも絶対に全艦行動不能にさせますから、私たちに敵なしです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 演習が終わり、艤装を補給させてから戻ってみると皆さんはまだ食堂にいらっしゃいました。

どうやら私たちが演習に出かけてからもずっとここにいたみたいです。

 

「おかえりなさい。どうでした?」

 

 熊野さんはそう私に尋ねてきました。言わなくても結果は分かっているでしょうに。

 

「全て勝利です。当たり前ですよ。」

 

「ですわね。」

 

 そう言った熊野さんは私にメモを渡してきました。

 

「霧島さんたちが演習に行っている間、意見を出し合って決めましたわ。これだけやれることがあります。」

 

 私はメモに目を落とします。

鎮守府内の掃除、戦術勉強会、体力作り......。

 

「成る程......。確かにやれそうですね。特に戦術勉強会は自主的に勉強している艦娘もいますからその艦娘主導に艦種ごとに集まって戦術指南書を使って勉強会ですね。そして体力作りは?」

 

「体力作りはですね......私たちは艤装が無ければひ弱ですよね?」

 

「確かに......。」

 

「ですから体力を作って艤装無しでも最低限、戦えるようにするんですわ。」

 

 そう言うと熊野さんは小さい声で言いました。

 

「これも全て提督の為ですわ。」

 

 私は黙って頷きました。否定する理由なんてありませんから。

これで決まった私たちの提督が帰ってくるまでやる事は決まりました。金剛お姉様のレベリングに鎮守府内の掃除、戦術勉強会、体力作り。どれも楽しみです。

今までやってこなかった事ですからね。

 





 今回から提督の不在の鎮守府の様子も出して行こうと思います。
と言っても、今回ので何やるかは大体分かったでしょうけど。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

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