【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百六十話  読書はほどほどに

 

 今日の秘書艦は昨日に引き続き、静かな艦娘だ。

俺的には適度に何か言ってくれるのがありがたいんだが、今日の秘書艦はその適度に話をしてくれる艦娘だ。

 

「良いあっ......降ってなかった......。」

 

「今日は快晴だぞ......。」

 

 そんな抜けた事を言ってるのは時雨だ。もう執務も終わり、時雨が出しに行ってしまったので暇をしている。

今日は何時もに比べて温かく、炬燵に入らなくてもいいと俺は考えていた。なので今日は炬燵ではなく、炬燵が置いてある畳の上で胡坐をかいて座っている。

俺の座っているところは丁度窓から陽が差し込み、じわじわと俺の座っている辺りを温めていた。ちなみに時雨は俺と同じく、畳の上で座っている。

 

「そういえば提督。」

 

「何だ?」

 

 時雨は突然俺に話しかけてきた。

 

「夕立がね、戦術指南書を読破しちゃったんだ。もう読むものが無いって嘆いてたんだけど......。」

 

「アレ、全部読んだのか?」

 

「うん。しかも全部理解して応用できるって言ってた。」

 

 時雨はそう言いながら自分も戦術指南書を開いている。今見ているのは『艦載機運用』の戦術指南書だ。

ちなみに戦術指南書は全て辞書みたいな厚さで結構大きいサイズの本だ。それが約30冊くらいある。読み切ると言ってもどれくらいの時間を使うのやら、俺には想像できない。

 

「今僕が読んでいるのは『艦載機運用』について。本来ならば空母の人が読むものだね。」

 

 そう言いながら時雨はページを捲る。

 

「だけどね、これは対空戦闘にも使えるんだ。」

 

 時雨は俺の方に戦術指南書を向けて、あるところを指差した。

 

「例えばコレ。弱点だ。」

 

「成る程......。」

 

 俺はそのページを見て理解した。艦載機の弱点についての記述があるのだ。

艦載機全てに言えることだが、艦戦も艦爆も艦攻も、ひいては偵察機や水上機までもが共通して持っている弱点があるのだ。翼を打ち抜くだとか言ってもどの部分を打ち抜くかだ。

 

「燃料タンクだな。」

 

「そうだよ。赤城たち空母の艦娘が運用する艦載機の共通弱点は翼の付け根なんだ。」

 

 そう言って時雨は艦載機の特性について書かれたページを付箋でマークしていたのか、そこを開いた。そこには一般的にウチの鎮守府が運用している艦載機の燃料タンクの位置が記載されていた。

 

「一方で深海棲艦の艦載機の弱点はここだ。」

 

 そう言って時雨は開いたページにある零戦52型のコクピット辺りを指差した。

 

「と言っても艦戦だけなんだけどね。他の深海棲艦の艦載機の弱点はこっちの艦載機と同じって言われてる。」

 

「言われてるって事は分かってないのか。」

 

「うん。」

 

 そう言って時雨は戦術指南書を閉じた。

 

「僕がここから何を学ぶかというと、効率の良い対空迎撃だよ。僕たち駆逐艦の標準装備は10cm連装高角砲と魚雷だよね?」

 

「そうだな。」

 

「10cm連装高角砲は対空兵器だ。そうなってくるとこの10cm連装高角砲で積極的に対空戦闘をしなくちゃならないでしょ?」

 

 そう言って時雨は言う。

 

「だから空中で砲弾が炸裂する高角砲を"何処で"炸裂させるかを学ばなくちゃいけないんだ。」

 

「そうか。」

 

 俺はそう言って時雨には何も言わなかった。時雨のしている事は全く、理に適っていた。10cm連装高角砲の砲弾が空中炸裂なのも、弱点を狙うべきだという事もだ。だが、そうは言うものの炸裂してない砲弾が命中すれば艦載機なんて木っ端微塵なのだ。

よくよく考えれば艦載機が迎撃に使う機銃は最低でも7.7mm、大きければ今使っているのなら20mmだ。それに比べて時雨たちが撃ち出す10cm連装高角砲は100mm。当たれば砕ける。

 そんな事を後で思い出しながらも俺は日向ぼっこに興じるのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 午前中は日向でボケーっと過ごした後、昼食を食べ終わり、俺と時雨は執務室に戻ってきていた。

執務室は暖房をつけていないのにも関わらず、太陽の光で温まり、自然な温かさに包まれていた。そんな部屋に居てなることがあるとするならひとつしかないだろう。

 

「やばっ......眠い。」

 

 そう、眠気に襲われるのだ。ここまで温かいとこうなってしまうのも仕方ない。

 

「眠いのかい?」

 

「あぁ。」

 

「なら私室にでも行く?」

 

 そう時雨は訊いてくれるが、俺は断った。私室で寝てしまえば来客があっても起こされないのだ。俺が私室で寝ているからという理由で持ち越しになったりもする。

それを避けるためだ。

 

「いい。ここでボケーっとしているよ。」

 

「そうかい?提督がそれでいいならいいけど......。」

 

 俺はそう言って時雨の返事を聞くと立ち上がり、机に本を取りに行った。だがそんな気分じゃないので俺は私室に入り、漫画を5冊ほど抱えて出てくる。

それを持ったまま、俺はさっきまで座っていたところに戻ってきて座った。

 

「よいしょっと。」

 

 そんな歳不相応の声を出して座って俺は漫画を開く。

俺が私室に戻ってから目で俺を追いかけていたのか、時雨は俺の方を見たままだった。夕立や時雨はときたま俺の私室に来ては本を読んでいる。漫画も然りだ。

だが夕立や時雨はなるべく活字を読むようにしているみたいで、漫画にはあまり触れていなかったのだ。

そんな時雨が俺の読んでいる漫画に興味を持ったみたいだ。

 

「時雨、良かったら読んでみるか?」

 

「えっ?いいの?」

 

「いいさ。時雨はずっと活字ばかりだろう?偶には漫画くらい読んだっていい。」

 

「それもそうだね。ちなみに提督、今読んでるのは何?」

 

 時雨は戦術指南書に栞を挟んで炬燵の天板の上に置くと俺の横まで来て座った。

 

「これはそうだな......連続怪奇事件、失踪事件がある軸を元に連作的に起きていくミステリーだ。この物語には特徴があって前編後編で分かれているんだが前編は書き方や表現、目線、物語の進行が主人公の視点で謎解きをしないんだ。だから主人公が被害者なら被害者の視点で加害者なら加害者の視点で書かれている。後編は謎が明らかになるんだ。第三者の視点やそれ以外の視点を含んで物語を客観的に見るんだ。そうするとその事件が何故起きたのか、どういう風に起きてしまったのかというのが分かるんだが被害者や加害者の心情があまり分からないんだ。」

 

「何だが変だね。前編が被害者や加害者の視点で物語が進んで、後編が事件の真相が分かるなんて。」

 

「そうだろう?だがこの作品は話題になったんだ。」

 

「何が?」

 

「事件はどれも猟奇的で不可解、人の精神や宗教なんかが関わっていたりするんだ。特に事件で起きた連続怪奇事件、失踪事件に関しては問題になったほどで"有害"だと世間で言われたほどだ。」

 

 そう言うと時雨はピクリとも表情を変えずに訊いてきた。

 

「そうなんだ。でもそんなミステリーなんて見たことないよ。」

 

「俺もだ。だから最初見た時、とても引き込まれたよ。謎の多さや何一つ分からないまま物語が進行していくんだ。」

 

「へぇー。という事は探偵かなんかになった気分で見てられるって事かい?」

 

「そうなるな。何だが物語の進行が警察の事件に関するレポート、調査書みたいなんだ。」

 

 そう俺は説明しながらもページを捲っていく。

今読んでいるのは前編で中盤だ。この頃から事件が起き始めるんだ。今見ているのは加害者視点の話だ。

 

「僕も読んでみたいな。」

 

 俺が読んでいると横で時雨はそう言った。

 

「分かった。なら最初の話から読んでいくか?」

 

「ううん。」

 

 俺がそう言って漫画を閉じて取りに行こうと立ち上がった時、そう時雨は答えた。最初から読まないのなら何処から読むと言うのだろうか。

 

「ならどうする?ここにあるのは俺が今読んでいるのが最初だし......。」

 

 そう言うと時雨はとんでもないことを言い出した。

 

「提督と一緒に読むよ。」

 

「は?」

 

 俺が時雨の発言に一瞬思考が停止した瞬間、時雨は俺が胡坐をかいた瞬間を狙って、その間に入ってきた。

そして俺の胸に背中を預けて時雨は俺に言った。

 

「こうすれば一緒に読めるよ?」

 

「こうするって言ってもなぁ......。」

 

 そう言いながら俺は背筋を伸ばした。時雨の身体にあまり触れないようにするためだ。だが時雨は俺の腕を掴んで前に引き出す。それにつられて俺の身体も前に倒れていった。

 

「こうしないと僕が見えないじゃないか。......これでいいよ。」

 

「おっ......おう。」

 

 俺はもう考える事を放棄して漫画を開いた。一応、時雨に合わせて最初から読む。序でにまだ脳味噌で補完出来てない部分の吸収もしよう、そう考えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺が時雨を膝に乗せながら漫画を読み始めて1時間と30分が経った頃、手元に置いていた漫画は全部読み終えた。

俺が持ってきた分は前編後編合わせたものだったので、これで一応終わった事になる。前編は後半に向かっていくに連れて、主人公である加害者の心情がおかしくなっていくのと、周りへの視線もおかしくなっていくのも読み取れた。そして最後には加害者の考えすぎかもしれないが、自分を殺そうとしている被害者を殺してしまったのだ。

後編ではその物語の視点があちこちに向いたり、被害者がどの場面で何を考えていたのかというのが徐々に分かっていった。結果、この物語で起きた事件は加害者の深い思い込みが原因だと分かったが、謎を残していった。被害者の深層心理だ。

 被害者の表面での発言の意味、行動は理解し、読み解くことが出来たが深層心理が分からない。どうしてそんな発現をしたのか、どうしてそんな行動をしたのか......。分からないまま終わってしまっていたのだ。

 

「ふぅ......結構ハードだったね。」

 

「そうだな。」

 

 俺は読み終えた漫画のタワーを見てそう言った。

 

「でも面白かったよ。色々考えながら読むものだから、普通に活字の本を読んでるのと変わらなかった。」

 

「そうだな。」

 

 俺は時雨に降りて貰って立ち上がろうとするが、立てない。

どうやら長時間、時雨を乗せていたせいなのか、痺れていた。無理に立ち上がろうとして俺はふらつき、膝を立てた。

 

「おおっと......あぶねぇ。」

 

「大丈夫かい?足が痺れちゃったんだね......。ごめんね、僕がずっと座ってたばっかりに。」

 

「気にしてない。どうせすぐ直るからな。」

 

「そうかい?」

 

 俺はそう言いながら痺れたところを手でぐりぐりと回してからゆっくりと立ち上がった。

そうすると立つことが出来て、畳に置いてある漫画の山も持ち上げて、私室に戻しに行った。

そんな俺を心配そうに見つめる時雨は半分持つと言って、結局私室について来てしまった。そしてそのまま次に読むものを選び始める。

 どうやら時雨は今日読むものはもう漫画と決めたみたいだ。漫画を並べているところを一生懸命眺めてた。

そして興味を惹かれた本を引き抜いて俺に見せてくる。

 

「これ呼んでいい?15巻くらいまであるから夜ごはんまでには終わると思うんだけど。」

 

 時雨が見せてきたのは、あの物量作戦で戦法が突撃しかない宇宙人と人類がロボットで戦う話を持ってきた。

時雨が持っているものはさっきのよりも更にハードな内容だ。

そんな時雨に俺はやんわりと答えた。

 

「いいぞ。だけど、途中で止めちゃってもいいからな。」

 

「それはどういう意味だい?」

 

 そう時雨は訊いてくるので俺は遠い目をして『その時分かる』とだけ答えて、さっき時雨と読んでいた漫画の別の話を持って執務室に戻った。

 俺と時雨はそうやって夕食まで過ごし、最後の方では片づけるのも面倒だと畳の上にタワーを建設し続けた結果、どこかの摩天楼みたいになった。当たり前だ。

夕食に行く前に時雨と、時雨を呼びに来た夕立と一緒にそれを片づけて食堂に向かった。

 





 今日は読書ネタに。といっても後半は漫画でしたけどね。
ちなみに自分もミステリー系は好きです。唯の推理モノじゃない奴が好きですね。

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