【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

175 / 209
第百五十九話  異動と荷運び

 俺は大本営から届いた書類に目を通していた。今日の執務はいつも通り。相変わらず大本営の鎮守府がレベリングをしているので出撃する事が出来ずにいた。そこそことレベリングしていたのも見つかり、本格的にやる事が遠征以外無くなったウチでは机上演習が流行っていた。

 それはともかくとして、俺はある書類に目をつけていた。

北海道に本隊を置いている艦娘以外で唯一戦っていると言われていた部隊、航空教導団が北方海域制圧の任が解かれ、異動するとの事。本隊も引っ越しだと書いてある。それは理解できた。だがそれ以降の文に問題がある。

 

(異動先は旧羽田空港か......旧って事は一回閉鎖されたんだな。)

 

 旧羽田空港。嘗て国際便が多く行き来していた巨大な空の港だ。そんなところに異動するとはどういうことなのだろうか。

詳しい文がその下に書かれていた。

 

『日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部への深海棲艦の侵攻への初期迎撃の際、戦列に加わる。』

 

 意訳すれば、ウチの艦娘が戦域に到達するよりも前にあらかじめ攻撃をするとの事だった。

無茶苦茶ではないが、かなり無理のある。確かに航空教導団は人類で唯一深海棲艦に抗う事が出来るが、そんな部隊をこっちに寄越すのはいい。だがその主任務を横須賀鎮守府防衛の任となると問題が起きるのではないかと俺は考えた。問題として挙げられるのは『その指揮権がどこに置かれるのか』、『主任務である鎮守府防衛の任以外にも接近する深海棲艦の迎撃にこれまで通りに出てくれるのか』という事だった。それに北海道は調べて分かったのだが、人は変わらずに住んでいるみたいだ。流石に海岸線60km範囲からは退去しているらしいが、それでもそれまで幾度となく接近してくる深海棲艦を迎撃していた部隊が離れるとなると現地民もどう思うだろうか。

 

(確実に抗議があるだろうな......。)

 

 それ以外考えられない。だが書類の続きにはそれについての記述があった。

 

『航空教導団が空けたところは別部隊が駐留することとなる。』

 

 それだけだ。どの部隊がどれだけ駐留するかなど書いていない。

 これは内部での情報共有だが、外への情報はどうなっているか分からない。だが確実にやると思われる事は空けた場所には航空部隊が入る事。それだけだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は今日、鎮守府警備棟にてある会談をしていた。

 

「お初にお目にかかります。航空教導団 団長 水谷(みなたに)です。あ、そちらの自己紹介は結構です。有名ですので。」

 

「そうですか。」

 

 旧羽田空港に異動してきた航空教導団の団長だ。

 

「こちらへの異動の目的と任を確認させていただきます。」

 

 水谷はそう言って確認を始めた。

 

「目的は海軍横須賀鎮守府艦隊司令部防衛の任を全うする事。その際、千歳から遠い事を理由に使われていない羽田空港を基地とする。任は先ほども申しましたが、海軍横須賀鎮守府艦隊司令部防衛で間違いないですね?」

 

「はい。間違いないです。」

 

 そう言うと水谷は副官に指示を出し、副官は説明を始めた。航空教導団についてだ。

 

「提督へ航空教導団の大まかな説明をすると言う指示が出ておりますので、させていただきます。航空教導団は千歳に基地を持っていた元仮想敵機部隊で今では対深海棲艦専門の迎撃部隊です。装備はF-15J改とF-2、整備用大型機械などです。航空教導団にはそれぞれF-15J改が48機に予備機が3機、F-2が36機に予備機が5機あります。」

 

 副官はそう言って説明をした。といってもこれだけだ。俺に教えてくれたのは世間的には知られているところばかりだった。配備数などは公開されていないらしいが。

 

「ありがとうございます。」

 

 礼を言って立ち上がると水谷は俺に座って欲しいと言った。

 

「まだあるんです。......折り入って頼みがあるのですが。」

 

 そう言った水谷は俺に頼んできた。

 

「そちらの航空隊を見せていただきたいんです。もし、初期迎撃の際にそちらの艦載機が航空戦をしていたのなら、現状の情報が無いままだと巻き添えをしてしまう可能性があるからです。それに航空教導団にはそちらの艦載機と深海棲艦の艦載機の見分けがつかない者も居ます。その者の為にも......。」

 

「いいでしょう。こちらが保有する艦載機を全て見せます。詳細や用途などは後日、纏めた書類を送らせていただきますよ。」

 

「ありがとうございます。これで大本営からの任が遂行できます。」

 

 そう言って水谷は笑った。

この後は特に話す事も無かったので、工廠で生産されて屋外に出されていた艦載機を見た後に水谷は旧羽田空港、現羽田基地に戻って行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は水谷が来たことで、執務を午後から始めていた。秘書艦も無理を言って午後からにして貰った。と言うのも、事情を理解してくれる艦娘だったからだ。

 

「お疲れ様です、提督。」

 

「あぁ。だけど執務が増えた。こっちが運用している艦載機の詳細などを纏めたものを作成しなければならなくなった。」

 

「例の羽田の人たちですか?鎮守府防衛の部隊だと提督は仰ってましたよね?」

 

 ペンを走らせながらそう訊いてくるのは秘書艦の榛名だ。

 

「そうだ。しかもこっちには何の話もせずに勝手に決められたみたいだな。まぁ、鎮守府内に基地を置くわけじゃないからいいが。」

 

「それもそうですね。」

 

 俺はそんな事を言いながら書類を進めていく。

そんな時、榛名がまた話かけてきた。

 

「そういえば艦娘寮に調理室がある事をご存知ですか?」

 

 不意にそんな話を振ってきた。たぶん手だけ動かしてても暇なんだろう。

 

「知ってるぞ。でも見たことない。」

 

「そうですよね......。艦娘寮の調理室、色々なモノが少ないんですよ。」

 

「と言うと?」

 

「コンロからシンク、オーブン、道具、ありとあらゆるモノが少ないんです。」

 

 そう榛名は言うが、何故今頃そんな事を言い出したのか。俺が積極的に鎮守府の設備改善をしている時にでも頼めば良かったんじゃないだろうか。

 

「どうしてそんな事が今更......。」

 

「提督が料理するからですよ?決め手はホワイトデーでしたけどね。」

 

「そうなのか。」

 

 その先は榛名は言わなかった。どうしてだろうか。

 

「だからですね、拡張して欲しいんです。」

 

「分かった。妖精にでも頼めばすぐにやってくれるだろう。」

 

「ありがとうございます!」

 

 俺が二の返事をすると榛名は嬉しそうに笑うと書類を今までの速度の何倍で書き終え、俺にある紙を渡してきた。それは妖精への命令書だ。使うのは大体設備修理、拡張の時だけ。殆ど使わないモノだ。多分、書いてほしいんだろう。

 

「......はい。工廠で頼めばいいからな。」

 

 と俺が行った瞬間、榛名は『行ってきますっ!』と言って走って工廠に行ってしまった。

相当拡張して欲しかったんだろうなと俺は内心思いつつ、書類をすぐに終わらせ、艦載機の詳細と用途についての書類作成を始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 榛名が妖精に提出したんだろう。榛名が出て行ってから6分後に外が騒がしくなった。どうやら艦娘寮の工事が始まったみたいだ。

それと同時に榛名が執務室に帰ってきた。

 

「ただいま戻りました。」

 

「おかえり。」

 

「はい。提出したらすぐに始めてくれました。3時間で終わるそうです。」

 

「早いな......。」

 

 俺はそう言って最後に書いていた書類を大きな封筒に入れて封をすると榛名に言う。

 

「書類も終わった。艦載機の詳細についてもだ。事務棟に出してくれ。」

 

「分かりました。ですけど帰りは遅れるかもしれません。」

 

「構わないが、酒保か?」

 

「そうです。私室に机が欲しくて......。」

 

 そう言われて俺は訊いた。

 

「それって地べたに置くものか?」

 

「いいえ、椅子に座って使うやつですね。......それなら椅子も買わないと......。」

 

 そう榛名が言うので欠伸をすると俺は立ち上がった。

 

「机も椅子も重いだろう?俺が運ぶ。」

 

「えっ?!悪いですよっ!それに提督は午前の会談でお疲れじゃ?」

 

「大丈夫だ。女の子は気にせず野郎に重いものは運んでもらっとけ。」

 

「......はい。では、お願いしますっ。」

 

 そんなこんなで俺は榛名と書類を持って酒保に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 先に事務棟に寄った後、榛名と酒保に来た。そして中に入ると家具のブースに入って机と椅子を見始める。

熱心に机と椅子を選ぶ榛名を俺は遠目から何も言わずに眺めていた。何か訊かれたら答えるつもりだが、そんな様子はない。ずっと自分の世界に入り込んで、アレを見たりコレを見たりして榛名は考え、『コレにします。』と言って指差したのは平机だった。次に榛名は椅子を見に別のブースに足を運び、また悩み始める。 

 さっきからうろちょろしているところはデスクチェアのところだ。しかも商品の紹介には『疲れにくいっ!事務作業におすすめッ!!』と書いてある。榛名は一体私室で何をするつもりなのやら。

そんな事をしていると榛名は思い切って選んでいた椅子に座りだした。座っては立ち上がり、別の椅子に座ったかと思うとまた座る。背もたれにもたれてみたり、高さを変えてみたりして10分。ようやく選び終わったみたいだった。

 キープしていたモノを従業員がカートで押して運び、会計を榛名が済ませると俺は脇に椅子、肩に机を乗せた。

 

「ういしょっと......。」

 

 そんな俺に榛名は声を掛ける。

 

「すみません......。持ってもらって......。」

 

「大丈夫だ。さっきも言っただろう?」

 

「はい。では、このまま艦娘寮までお願いします。」

 

 そう言われて俺は脇に椅子、肩に机の組み立て前の箱を持ったまま歩く。そんな事をしていると通る艦娘が俺に何をしているのかと聞いてくる。最初に訊いてきたのはほぼ同時に酒保から出てきた瑞鳳だった。『それは執務室に?』と聞いてくるので俺は素直に『榛名のだ。』と答えるが、特段興味を示さないのか『そうなんですね。頑張ってくださいっ!』と言って先に行ってしまった。

その他も似たようなもので、労いを貰いながら艦娘寮に向かうが、俺、そんなに無理をしているように見えるのか?

 俺はそんな事を考えながら歩くが、身体はそんな事無いのだ。そうこうしていると艦娘寮に着いた。

 

「ありがとうございます。提督。」

 

「いい。」

 

 そう言って俺は入ろうとするが、榛名はそれを止めた。

 

「ここで大丈夫ですよ?」

 

「階を上がるならそこまで持っていくが?」

 

「そうですか?......ならお言葉に甘えて......私の部屋は3階です。」

 

 そう言われて俺は艦娘寮の中に入る。

俺は艦娘寮の中には出来るだけ入らないようにしている。俺のポリシーみたいなものだ。

そんなんだから俺は今回、初めて艦娘寮に入った気がする。中は特段変な訳でもない。普通だ。造りは本部棟と同じでただ違うのは、入り口だろう。鍵が付いている。念のためだろう。

そして艦娘寮の中を移動していると榛名が教えてくれたのだか、それぞれの私室は1人部屋、2人部屋、4人部屋、6人部屋、大部屋とあるらしく、榛名の部屋は4人部屋。金剛たちと一緒らしい。だが、その中でも大型艦という事もあり、それぞれ個人の部屋みたいなものがあるらしい。そこに榛名はこの机と椅子を置きたいとの事だった。更にそれぞれの部屋にはコンセントと空調、トイレが完備されているが、風呂とキッチンは無いとの事。キッチンは昼過ぎに言っていた調理室があるらしい。風呂は大浴場があるとの事。

 

「ここです。ありがとうございます、提督。」

 

「どういたしまして。」

 

 俺はそう言って榛名が言った部屋の前に机と椅子の箱を置いた。確かにこの部屋の入り口の横には"金剛型"と書かれていた。

 

「組み立てで困ったら言ってくれ。作りに来るから。」

 

「はい。では、ひとまず執務室に戻りましょうか。」

 

 そう榛名が言って方向転換したその時、部屋の扉が開いた。

 

「榛名ぁー。今日は秘書艦ダッテ......」

 

 扉を開いたのは金剛だった。普段見ないかなりラフな格好をしている。というかラフを通り過ぎている気もしなくもない。そして金剛は俺が居るのを見た瞬間、顔を赤くした。

 

「エッ?!何で提督がっ?!」

 

「わっ?!すまんっ!!」

 

 そう言って俺は振り返り、先に戻ると榛名に言って走って俺は執務室に帰った。

久々に走った気がする。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務室に戻ってきて、座っていると扉が開いた。どうやら榛名が帰ってきたみたいだ。だが、榛名は誰かを連れていた。

 

「ヘーイ、提督ぅ。」

 

 少し元気のない金剛だった。

 

「なっ、なんだ?」

 

 俺は戸惑いながら返答する。

 

「どっ、どうして艦娘寮に?」

 

「榛名が重い買い物をするって言うから荷物運びに来てたんだ。」

 

 そう言うと金剛は理解できたのか、『そうだったんデスネー。』と言ってソファーに座った。

そんな金剛は俺を目で捉えて言った。

 

「提督ぅー。」

 

「ん?」

 

「私の下着姿見た?」

 

「ンブフッ!!」

 

 金剛は笑いながらそう言った。俺が見た金剛の姿は確かにそうだったかもしれない。

 

「それは、すまない......。」

 

 そう言って俺は速攻、頭を下げる。

そんな俺を見て榛名もだが、金剛も驚いた。

 

「えっ?!そんな、頭を上げて下サイッ!!そもそも私があんな恰好で外に出たからデ......。」

 

「いやっ!?俺が悪いっ!!すまないっ!!」

 

 というよく分からないやりとりを俺と金剛は榛名を挟んで30分くらいやり続けた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「提督、榛名を忘れないで......。」

 

 そんな俺と金剛のやりとりを見ていた榛名はそう呟いた。

 




 今回は新たな人が増えました。と言っても登場回数はどれ程になるのやら......。
後半のは完璧深夜ノリですので気にしないでくださいお願いします(土下座)

それと投票というか調査みたいなものをしようと思います。
現在、番外編でサブストーリー的に展開されている『俺は金剛だ!』ですが、主人公を変えて本編化する事を検討しています。となるとこっちの金剛のは消されるんですけどね......。
という事で、どちらがいいか感想の序でやメッセージで集計しますのでよろしくお願いします。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。