【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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特別編  White Day

 

 俺は夕食が終わると早めに秘書艦を帰し、そそくさと俺は外に来ていた。

理由はひとつしかない。明日、バレンタインデーのお返しを用意する為の買い物に出かけるのだ。と言ってもものを取りに行くだけ。それも酒保にだ。

事前に俺は酒保の食品関連の責任者に別枠で注文しておいたのだ。それに箱や包装も酒保ではあるが別の部門で頼んできてある。それを今から受け取り、私室に運び込むのだ。

 当初は外で買ってくる事も考えていたが、門兵のお世話になる上、そんなに注文するのも嫌だったのだ。

携帯電話で有名洋菓子屋のGO○IV○や、RO○YCE`などのリサーチをしていたんだが、やはり店に出向き、俺が注文する事でバレンタインデーのお返しだという事は察してはくれるだろうが、そんな100に近い数を注文すれば引かれる。というか売って貰えないだろう。

だからこの手を使うのだ。

 用意して貰ったのはアーモンドパウダーに粉砂糖、細かい粒のグラニュー糖、薄力粉、バター。昨日の夜にもものを取りに行き、準備をしていた。

 

「頑張ってくださいね。」

 

「はい。」

 

 俺は遠い目をしながら受け渡してくれた従業員の人に礼を言ってそそくさと執務室に帰った。

 執務室に帰ると俺は冷凍庫からあるものを取り出す。凍った卵白だ。それに冷蔵庫にはボウルに何個にも分けられた卵黄も入っている。

これから何を作るのかというと、マカロンだ。正直、スコーンでもいいかと考えてはいたが、最近どこかで作って出した記憶があったので避けた。

俺は手をよく洗い、気合を入れる。

 

「うっしっ!!やるかっ!!!」

 

 時計をチラッと確認すると9時過ぎ。何時間かかるか分からないが俺はマカロンを作り始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は私室に積み上げられたラッピングされた箱の中で起きた。

まだ眠いがもう秘書艦が来るので着替えなければならない。だがよく見ると俺は昨日と同じ格好をしているどころかエプロンをしたまま寝ていた。

 どうやらラッピングが終わったのと同時に寝てしまった様だ。

 

(やっちまった......。)

 

そう思い、洗面所に行って歯を磨くなど短時間でできる事は全て終わらせて執務室に行く。

 

「おはようございます。」

 

 そう言って俺が執務室に入って座っていると赤城が入ってきた。今日の秘書艦は赤城だった。

 

「おはよう。さて、食堂に行くか。」

 

 そう言って俺は立ち上がり、赤城を連れて食堂に向かった。

 食堂ではいつもと変わらぬ雰囲気が流れている。皆、ワイワイと話をしながら食事を摂っている。最近というかここ2ヵ月くらいは出撃もレベリングのみで遠征も滅多に行かないので遠征組もかなり羽根を伸ばしていた。

 

「今日も皆元気そうだな。」

 

「そうですね。」

 

 赤城とカウンターで注文を済ませ、席で待っていると俺の右隣に加賀が座ってきた。赤城は姉妹艦はいないが、一航戦として加賀とは特別仲が良い。寮も相部屋なのだ。だからだろう。赤城は加賀が反対側に座っても何も言わなかった。

 

「おはようございます、提督。」

 

「おはよう。」

 

 そう言って俺は何の気なしに箸を伸ばしていると正面の席もすぐに埋まった。今度は瑞鶴と蒼龍、飛龍だ。

 

「おはよう、提督さんっ!」

 

「提督。おはようございますー。」

 

「提督、おはようございまーす。」

 

 気の抜けた挨拶をして3人は正面に座るが、ぼーっとしながら食べている俺に瑞鶴が話しかけてきた。

 

「ねぇ、提督さん。」

 

「ん?」

 

「今日、何の日か知ってる?」

 

 そう言う瑞鶴に俺は遠くから聞こえてくるテレビの音を聞いていた。丁度、ニュースがやっていてそこでニュースキャスターが『今日はホワイトデーですね。視聴者の男性は皆さん、お返しを用意してますか?奥さんや会社の女性社員の喜びそうなものを用意していきましょうね!』と言っていた。

それは聞こえているが俺はあえて言う。

 

「子日。」

 

「違うしっ!?」

 

 そう俺が言ったのを聞いてリアクションをしてくれる瑞鶴の横で蒼龍と飛龍は笑った。

それを瑞鶴は恥ずかしく思ったのか少しむくれるので俺は正しい答えを言う。

 

「ホワイトデーだろ?」

 

「そうっ!提督さん、覚えてた?」

 

 瑞鶴は本当に弄り甲斐がある。

 

「うーん......。」

 

 俺はそう言って目を逸らす。と瑞鶴は『ホント?』と言ってくるので、俺は食べ終わった食器の乗ったトレーを持って立ち上がると『楽しみにしててくれ』とだけ言って執務室に帰った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は執務室に帰るなり、私室に入ってひとつ箱を持って出てくる。執務室には赤城しかいない。この箱は赤城へのお返しだ。

 

「はい、赤城。お返しだ。」

 

「これを、私に?......ありがとうございますっ!」

 

 ちなみに1つの箱にマカロンは5つ入っている。となると単純計算で500個作った事になる。昨日の夜中4時までかかったからそうだろう。

 

「あぁ。本当なら貰ったモノよりも2、3倍のお返しをするのが良いんだがな。店で断られるのが目に見えていたから作る事にしたんだ。」

 

「そうなんですか。」

 

 そう言って赤城は秘書艦の机にその箱を置くと俺の部屋を見せてくれと突然言い出した。理由を聴くと、『私室から持ってきたという事は他にもたくさんあるんですよね?』と言った。単純に山積みのお菓子が見たいだけなのかもしれないが、俺は私室を見せた。

 赤城の想像通りだろうが、勿論、箱で山積みになっていて凄い事になっている。

 

「ほー!やっぱりこうなってましたか。」

 

「勿論だ。」

 

 そう言うと赤城はもういいですと言って秘書艦の席に座ると俺の方を見て言った。

 

「それにしても皆同じなんですね。」

 

「どういう意味だ?」

 

「何でもないです。」

 

 少し眉を吊り上げて言うので不機嫌になってしまったのは分かるが、どうして怒ったのだろうか。

 

「それぞれ大小あったら不平等だろう?当たり前だ。」

 

 俺はそう言うがイマイチな様だ。それを置いておいて、執務を始めようとした時、執務室の扉が開けられた。

 

「提督さんっ!」

 

「「提督ぅー!」」

 

 入ってきたのは瑞鶴に金剛、鈴谷だった。

そして秘書艦席に座る赤城の手元を見ると3人揃って俺の方に詰め寄ってくる。

 

「やっぱりっ!!私にはっ?!」

 

「私も欲しいデースっ!!」

 

「鈴谷も―!!」

 

 そう言ってくるが俺は1筆入れてしまった物を書きながら応える。

 

「少し待って。今執務中だ。」

 

 と言いつつ書き終わると俺は立ち上がり、私室に入って箱を3つ持って出てくる。

そしてその箱を3人に渡した。

 

「ほい、お返しだ。」

 

 渡して俺は席に着くが3人とも赤城と同じ反応をした。どういうことなのだろうかと考えるが俺は赤城に指示を出す。

 

「赤城、任務だ。」

 

「はい。」

 

「開発を最低値で4回。建造を空母レシピで1回だ。高速建造材も使え。」

 

「了解しました。」

 

 赤城と同じ反応をした3人を尻目に赤城は足早に執務室を出て行くが、3人は何気に嬉しそうにしていた。

そんな3人の中の金剛はラッピングされた箱の匂いを嗅ぐと中身を答える。

 

「焼き菓子デスネー。何でしょうカ......ふむ......スンスン......。」

 

 そんな金剛の真似をして瑞鶴と鈴谷も匂いを嗅ぎ始める。

 

「スンスン......分かんない。」

 

「スンスン......鈴谷も。」

 

 そう答える2人を無視して金剛は首を傾げていた。まだ考えている様だ。

そんな金剛に俺は声を掛ける。

 

「この後戻ったら他の艦娘全員に執務室に来るように言っておいてくれ。」

 

「分かったネー。」

 

 それを訊いていた鈴谷は『私も声かけておくよー。提督がお返しを用意してるって。ニシシッ。』といって箱を持って執務室から出て行ってしまった。

 金剛は考えるのを辞めたみたいで俺にこの場で開けていいか聞いてきた。俺は勿論と答えるが、瑞鶴は『答えは言わないでね』と言た。金剛もそれを気遣ってか、少し離れたところに行くとラッピングを外して箱の中を見た。

 

「オーウ......そう来ましたカ。」

 

 そう言った金剛は箱の蓋を閉めると戻ってきて俺に言った。

 

「難しくなかったデスカ?」

 

「何が?」

 

「これデスヨ。私も何度か挑戦してるのデスガ、上手く焼けないんデース。」

 

「別に?」

 

 そう言うと金剛は『提督にやっぱり勝てないデース。』とか言って執務室から出て行ってしまった。どうやら皆に声をかけに向かった様だ。そんな中、瑞鶴だけは執務室に残っていた。

 

「どうしたんだ、瑞鶴?」

 

「ううん。ちょっとね。」

 

 そう言うと瑞鶴はソファーのところにある机に箱を置くとこっちに来た。

 

「あのね、提督さん。私思ったんだけど......」

 

 瑞鶴が言いかけた瞬間、執務室の扉が開かれた。鈴谷や金剛から聞きつけた艦娘かと思ったが違う。赤城だ。珍しく慌てている。どうしたのかと尋ねると赤城の背中から1人の見慣れぬ艦娘が現れた。

 

「あの、赤城さん?工廠を出るなり急いでここに......。」

 

 そう言ってひょっこりと出てきた艦娘は俺の顔を見るなり、ぽかーんとしてしまった。それに対して瑞鶴はというと......

 

「えっ......翔鶴姉?......本当に、翔鶴姉?」

 

 その艦娘に歩み寄って行き、抱き着いた。

その脇で赤城は俺に報告した。

 

「翔鶴さんが進水です。やりました。」

 

 俺も頭が追い付いていない。瑞鶴の願いを聞いてから4ヵ月くらい経っている。それまで一時期やってなかった事もあったがそれまではずっと空母レシピで建造をしていた。それが4ヵ月続いた今日、遂に出てくれたのだ。

 

「よしっ!!よくやった赤城っ!!」

 

「はいっ!!」

 

 そう一言赤城に声を掛けて俺は翔鶴に抱き着く瑞鶴の頭を撫でながらオロオロする翔鶴に話しかけた。

 

「いきなりで驚き、更にまた驚いただろうが自己紹介だ。俺はここの提督だ。よろしくな、翔鶴。」

 

「えっ、提督って......本当ですか?鎮守府には提督が居ないって......。」

 

 翔鶴はテンプレの反応をしてくれた。

それには瑞鶴が答える。

 

「違うよ翔鶴姉っ!ここは提督がちゃんといる鎮守府なのっ!に提督さんがいる鎮守府に着任できたんだよっ!不幸なんかじゃないからねっ!!」

 

「うん、そうね瑞鶴。提督、これからよろしくお願いします。」

 

「あぁ。」

 

 そんなこんなでこんな日に翔鶴の建造に成功してしまった。

俺がそう言って離れると瑞鶴はその場で色々な話をする。この鎮守府の事を話し、俺の事を話す。そんな瑞鶴に赤城は加勢した。

 

「私は赤城です。さっきも自己紹介しましたが、改めてよろしくお願いします。」

 

「はい。こちらこそ宜しくお願いします。」

 

「それでですね、恒例のアレを......。」

 

 そう言って赤城は懐からある紙を出した。

 

「翔鶴さんは瑞鶴さんの願いを聞くという約束で提督が建造をし続けた結果、今日、進水する事が出来ました。」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。ですが......。」

 

 そう言って俺がチラッとみたらいたずらっ子みたいに笑う赤城が見えたので嫌な予感がした刹那、翔鶴の顔が青ざめていく。

 

「各資材、60000程吹き飛びました。それにここ5ヵ月間、違う建造は入っていたモノの殆どは空母レシピで建造していました。」

 

 そんな赤城に俺はチョップをかます。

 

「あたっ!?」

 

「珍しく連れて来たかと思えば何言ってるんだっ!!翔鶴、今言った事は忘れてくれ。」

 

「はい......。」

 

「ったく......いつの間にこんなものを用意したんだ。」

 

 そう言って俺は赤城の手からその紙を奪うと折って懐に仕舞い、思い出したかのように私室に戻った。

そして俺は持ってきたものを翔鶴に渡す。

 

「これは?」

 

「本来はあるイベントのお返しとして用意していたものだ。全艦娘に渡しているものだから、翔鶴だけ貰ってないと不公平だ。それでそれを渡す。」

 

「そうなんですか?ありがとうございます。」

 

「あぁ。」

 

 そう俺が言うが翔鶴は首を傾げていた。

 

「どうした?」

 

「鎮守府というものは私たちが帰ってくる場所ですが、訊いていたのと違いますね。なんかもっとこう......質素で暗くて、鉄と油の臭いばかりで執務室は埃っぽいって。でも違いますね。執務室は暖かくていい匂いがして......。」

 

 そう言う翔鶴に瑞鶴は言った。

 

「ここも最初はそうだったらしいよ。だけど提督さんが着任してから変わったんだって!娯楽もいっぱいあるし、買い物ものびのび出来るし、門兵さんは優しいし、なにより提督は私たちを兵器や深海棲艦と同じだって思ってないの!」

 

「そうなの?」

 

「そうですよ。提督のお蔭で私たちは見違える程、良い暮らしをさせて貰ってます。それでも出撃とかはありますが、提督の裁量とかで大破なんてほとんどしませんし......。」

 

 今度は赤城が答えた。2人のいう事は本当だ。恥ずかしいが。

 

「そうなんですか......。楽しみです。」

 

 そう言った翔鶴から瑞鶴は離れ、翔鶴の手を取った。

 

「今から案内してあげる!いってきまーすっ!!」

 

 そう言って瑞鶴と翔鶴は執務室から出て行ってしまった。

 それを見送った俺は秘書艦席に座った赤城の方を見て一言。

 

「いたずらはほどほどに。」

 

「はいっ......。」

 

 いつになったらこの赤城の癖は直るのだろうかと頭を抱える俺であった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 翔鶴が瑞鶴と出て行ったのと同時に艦娘の執務室波状攻撃は始まった。俺からお返しを受け取らんばかりに列を作り、貰っていくと少し居座ってから出て行く。

執務なんてしてる暇がなかった。

皆、結構長い間居座ってから出て行くものだから、昼までかかり、気が遠くなる思いをした。結局全員終わったのが午後2時くらい。昼の後にも1時間ほどかかった。その後は俺は赤城と急いで執務を終わらせてから、酒保の従業員で俺にバレンタインの贈り物をしてくれた人にお返しをして、余ったマカロンは半分は酒保の従業員スペースに置いていき、もう半分は妖精にあげた。妖精もたいそう喜んでいたので、俺は満足して執務室に帰ると赤城に指示を出す。

 

「これから翔鶴の歓迎会の準備だ。たぶん間宮は案内で翔鶴が通ったのを見ているはずだから今日やるって言ってきてくれ。」

 

「分かりました!」

 

 夕方には翔鶴の歓迎会が始まり、かなり盛り上がった。遠征組は何故か涙を流し、赤城と瑞鶴を除いた正規空母は喜び舞い上がり、駆逐艦の質問責めに翔鶴は戸惑っていた。

今回もいつから恒例になったか分からないが、舞台があり、那珂たちが色々なイベントをしてくれた。

そして最後に無茶振りで加賀が舞台に立ち、一言。

 

『一航戦 加賀。歌います。』

 

 加賀が歌ったのだ。演歌風の曲で、歌詞からしてみると加賀の曲というのが分かる。皆手を振ってノリ、盛り上がりを見せた。

多分一番歓迎会で盛り上がったのだろう。大晦日みたいな規模の歓迎会になってしまったのだ。

 そんな中、金剛が俺のところに来て言った事がある。

 

『マカロンの作り方、見てくれますカ?』

 

 断る理由もないので俺は承諾したので、多分どっかの午後に金剛と作る事になる。

 





今日はホワイトデーという事で特別編です。序に翔鶴の建造報告も兼ねてますが......。
皆さんはホワイトデーのお返し、しましたか?自分は身内じゃない方は作中にありました店で買って、身内は手作りです。資金が尽きたんですよ......。
 それと翔鶴はやっと建造できました。本当に時間が掛かりましたよ。かれこれ5ヵ月やってました。これで通常建造で出る艦娘は一通り出たと思いますので、大型艦建造に手をだそうかなぁと思っている次第です。

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