【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百四十五話  来たのは争いの素か平和の素か

 

 金髪碧眼、ピチッとした服に身を包み、こちらに手を振っている少女はアイオワの艦橋から出て来て手すりに捕まると手を振った。

 

「ハーイ、アドミラル。ミーはアイオワ級戦艦 一番艦 アイオワよっ!」

 

 そう言った彼女に俺は目を白黒する。ほんの数時間前まで居たアイオワはやはり予想通りだったと言うのだろうか?

記念艦を使って攻めるのか。

 

「あっ......えーっと......。」

 

 俺の頭はショートしかけていた。

ちなみに他の艦娘や門兵もだ。

 

「あっ、アドミラルって、ウェールズさんの事か?」

 

「ウェールズ?誰それ?」

 

 そうアイオワが言い放ったのを聞いた俺は横で同じくショートしかけている金剛によって耳打ちをした。

 

「マジモンだぞっ!数時間前に居たのに来やがった!!」

 

「本当デースっ!幻想とかじゃないデスヨネっ?!」

 

 そう言って金剛は眉毛を吊り上げた。金剛は疑っているらしい。

 

「ちょっと、アドミラル?何こそこそしてるの?」

 

 そう言って俺と金剛の間にズイッと入ってきたアイオワは心底不満であるように振る舞っていた。

 

「それでアドミラル、話があるんだけど。」

 

 そう言って改まったアイオワに俺は真正面に立った。

金剛もその空気を読んだのか、横に立ち口を閉じた。

 

「私を拾ってくれないかしら?」

 

「何故?」

 

「気付いたら沖に居たのよ。それに私の本能がここに居たいと言っているわ!お願いっ!」

 

 そう言ってアイオワは絡んでくる。俺はそれを必死に押しのけるが効果が無い。関係なしに突っ込んでくるので金剛に助けを求めようと金剛を見たが俺は一瞬にして顔面が蒼白になった。

金剛は指をぽきぽき鳴らしながらこちらに近づいてくる。俺の本能が赤い警告灯を灯しながらサイレンを鳴らしている。危険だと。だがそれは俺に向くことは無かった。

 

「アイオワ、何してるデスカ?色仕掛けとは、許さないネー!」

 

「そんなつもりないけれど、そんな風に見えたの?」

 

「見えたのデース。それに、貴女本当にアメリカの艦娘デスカ?」

 

「えぇ、そうよ?」

 

 そうアイオワが答えると金剛は首を傾げた。どうやら何か違和感があるようだ。それを見ていた俺はアイオワの腕をどけて金剛に話しかけた。

 

「違和感でもあるのか?」

 

「そうなんデース。数時間前に居たアイオワには憎悪?みたなものが渦巻きマシタ。でもここにいるアイオワには不思議と浮かんで来マセン。」

 

「そうか......他の艦娘もそうなのか?」

 

 そう目線を艦娘たちに向けると全員が頷いていた。どうやら昔の記憶があるが、アイオワには関係ないらしい。数時間前のアイオワは艦娘たちの記憶にある軍艦だった頃、砲弾を交えたからこその憎悪だと考えてもいいだろう。この場にいるアイオワは艦娘たちと一度たりとも撃ち合ってない。そう結論付けて問題ない。

 

「なら、アイオワ。」

 

「何?」

 

「ここに居ろ。」

 

「やったー!センキュー、アドミラルっ!!」

 

 そう言って飛びつくアイオワを押しのける俺は金剛に手伝ってもらいながら脱出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は武下、巡田、天見と共に地下牢に来ていた。金剛も居るが、艤装は禁止している。

これから会うのは米艦隊から鎮守府に放たれた兵だ。

 牢に着き俺はある程度離れたところから中を見た。総勢12人。この数をどうやって捕まえたかは聞きたくないがこのまま拘束しているのは問題がある。だが、尋問しない訳にもいかないのだ。

中に座っている兵を見まわして声を掛けた。

 

「1人ずつ名前と所属を言って下さい。」

 

 それを訳す天見の指示に従ったのか、それぞれ1列に並び次々と話し始めた。

所属は決まって陸軍だったが聞くだけ俺はその話を信じられなかった。

 

「全員同じ部隊という事でいいですか?」

 

 そう訊くと全員が頷いた。

 

「では現場指揮官は?」

 

「俺だ。」

 

 そう言って立ち上がったのは30代後半くらいの男が深緑だが門兵や巡田が使う様な戦闘服ではなかった。

 

「アメリカ陸軍 第4旅団戦闘団 第7歩兵連隊。普通部隊ですね。」

 

 天見はそう訳したが、武下は難しい顔をしていた。

 

「本当にその陸軍の普通部隊なんですかね?」

 

「どういう意味ですか?」

 

 俺は武下に訊き返した。

 

「まだ敵陣とは言えませんが、ここに潜入し情報を集め誘拐をしようとしていた......。そんな任務を一般兵にやらせるとは思えません。彼らは特殊部隊なのでは?」

 

 そう言った武下は現場指揮官に睨みを利かせた。

それを見ていた天見はどうやら英語で聞いた様だ。その返答はすぐに帰ってくる。

 

「違うみたいですね。本当に第7歩兵連隊だそうです。」

 

 そう天見は言ったが巡田が持っていたものを天見は借りてニヤッと嗤うと英語で何かを聞いた。

それには現場指揮官は動揺し、視線を逸らした。何のことだか分かっていない俺に天見は持っていたものを俺に見せた。

 

「日本と連絡の途絶える前のアメリカ軍では普通部隊に短機関銃、サブマシンガンは装備されてません。装備されていたのは特殊部隊でした。」

 

 そう言って天見は弾倉を抜き、チャージングハンドルを引いて薬室に入っていた弾丸を抜くと安全装置をかけて俺に銃の先を見せた。

 

「これにはサイレンサー、消音器が付いています。消音器なんてつけるのは特殊部隊の特殊任務中だけですよ。疑わしいです。」

 

「隠密作戦行動中で無ければサイレンサーなんて使いませんよ。」

 

 天見と巡田は揃ってそう言った。言い方からしてみると2人はこの投牢されているのは特殊部隊だと言いたいみたいだ。

でも俺にはそれを見分ける経験や術すらも持っていない。仮に特殊部隊だったとして、情報を盗み、艦娘を攫ってどうするというのか。理由なんて明白だ。盗んだ情報を糧とし、艦娘は米軍で何かに使うのだろう。それは戦闘か研究は定かではない。

 

「天見さん、通訳を。」

 

「はい。」

 

 俺はそう言って天見に通訳再開を言って話した。

 

「本当にその所属なんですか?」

 

「......あぁ。」

 

 歯切れの悪い返答に俺は悩んだ。揺らいでいるのか、分からない。

 

「まぁいいです。何よりこれが物語っているようですからね。」

 

 俺はそう言って天見からサイレンサー付きの短機関銃を受け取った。

 

「鎮守府に解き放たれた貴官の同族は貴官合わせて12人ですか?」

 

「さぁ、どうだろうか。」

 

 そうニヤリと嗤った現場指揮官を見て俺は溜息が吐きたくなった。

 

「金剛。」

 

「ハイ。」

 

「何時間で見つけられる?」

 

「そうデスネ......もう全員捕まって死んでると思いマスネ。」

 

 金剛は俺の訊いた趣旨が伝わったらしく、俺が聞きたかった回答をしてくれた。

それを天見は訳して現場指揮官に伝える。

 

「何だとっ......彼らは潜入任務にっ!!」

 

 どうやら口を滑らせたようだ。

 

「米軍から投入された特殊部隊ですね?違いますか?」

 

 現場指揮官は黙り込んでしまった。沈黙は肯定と成す。俺は天見に目をやる。

 

「合衆国に対し、政府を通して貴官らの送還に関する協議を行うことにします。いつ帰れるか分かりませんが、それまでここで我慢して下さい。場所が悪いですが、休暇だと思えば気は少しは楽になるでしょう。」

 

 そう言って俺は地下牢から出て行った。

珍しく、金剛が暴走しなかったのはどうやら制御ができるようになったらしい。それにこちらには実害はまだない状態だった。もしこれで実害があったのなら金剛はためらわずに何かをしていただろうと予想が安易につく。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 食堂ではパーティーが開かれていた。なんのパーティーかと言うと、アイオワとゴーヤの進水パーティーだ。

久しくしてなかったので皆、盛り上がっている。羽目を外し過ぎないようにとは言ってあるが、別にいいだろうとも思っている。

酒は出るが、皆酔いつぶれるなんて事はしないのだ。そんなことがあったのは大晦日の時だけ。それ以外は皆、それなりに飲んでいただけだったのだ。

 

「ミーはアイオワ級戦艦 一番艦 アイオワよっ!よろしくー!!」

 

 そうマイクを持って叫ぶアイオワに拍手が起こった。どうやら危惧していた事は避けられたらしい。

アメリカ艦だからと言って毛嫌いする事はないらしい。それと、皆フレンドリーにしている。何故か知らないが金剛と仲良くなったようだ。俺の横で静かに肉じゃがを突いている金剛だが普段ならギャーギャーするものの、静かこの上ない。

 

「伊五八、ゴーヤって呼んでね!よろしくっ!」

 

 2人の自己紹介が終わった様で、ワーワーとなり始め、アイオワやゴーヤは艦娘に囲まれる。あれこれと質問をしにごった返すその様はどこかの学校の転校生に寄って集っている様子にそっくりだ。

俺は経験が転校した経験も転校生がクラスに入ってきた経験も無いが、皆こんな風になってしまうのかと頭を抱えていると金剛が話しかけてきた。

 

「提督。私、最初にアイオワを見た時、とても憎く思いマシタ。」

 

「それってあそこのアイオワか?」

 

「イイエ、変な艦長を乗せていたアイオワデース。その艦には今すぐ沈めてやろうかと思う程、憎たらしく思ってましたが、やっぱりあのアイオワにはそういう感情が出て来マセン。」

 

 そう言って金剛は口に肉じゃがのじゃがいもを放り込んで飲み込むと続けた。

 

「私たちに対抗して作られた巡洋戦艦のはずナノニ。デモ、そういう感情が沸かない事は良い事デース。今日から仲間デスカラ!」

 

 そう言って金剛は口に肉じゃがを掻き込むと立ち上がりアイオワを呼んだ。

 

「アイオワー!こっち来るデース!!」

 

「おっ!オケー!今すぐに!!」

 

 アイオワは質問に来た艦娘たちを『また後で聞くわ』と言ってこっちに来た。

 

「どうしたの金剛?」

 

「提督に何か話しておくなら今が良いデス。後にすると中々提督とは話せないデスカラネー。」

 

「そうなのー?アドミラルはそんな偉い人には見えないけど......。」

 

「そんな事ないデース!提督の階級は中佐。佐官ダケド、直接艦隊指揮をしてるのは提督だけデース。他のは大本営とかに居るだけデース。」

 

「それって凄いの?」

 

 俺を挟んで何かが始まった。

 

「凄いデスヨ!それに提督は"救国の英雄"って呼ばれてるデース!今でも危険はありますが海を自由に動けるようになりマシタ。提督の采配で全て深海棲艦から取り返したのデース!」

 

「へぇー!」

 

「まだまだこんなんじゃないデース!陸軍主導デスガ、欧州との貿易も始まろうとしてマスネ。それも提督のお蔭デース!更にっ!つい最近まで大規模作戦を展開してたネー!」

 

「ミーの仕事があぁぁ!!ノオォォォン!!」

 

 何やらよく分からない事になっているが、面白いので静かに聞く事にした。

 

「あちこちと連絡が回復しましたシ、もう残ってるのは中部・南方海域だけネー。」

 

 そう金剛が言い放つと、アイオワは俺を見るなり両肩を掴んだ。

 

「中部・南方海域攻略にはミーも作戦に加えて!」

 

 それを俺と金剛は一刀両断する。

 

「「練度が高まればいい(デース)。」」

 

「じゃあ早速レベリングを組んで!疲労なんて言葉、知らないわ!!」

 

 そう言うと別のところからにょきっと現れた大井がズカズカとやってきて俺とアイオワの間に入った。

 

「今は!私がレベリング中ですっ!貴女に譲らないです!!」

 

「いいじゃない!オーイ!」

 

「何ですかその『オーイ』ってぇ!!」

 

 そう騒ぎ出したので俺はそそくさとその場に紛れて離れた。

離れた先には赤城がいた。いつもの雰囲気だったが、俺を捕まえるなり空いている椅子に俺を座らせた。

 

「提督。前にアイオワさんに憎悪が渦巻くって言ったの覚えてますか?」

 

「あぁ。」

 

 赤城はそう離すと遠い目をしながら金剛とアイオワ、大井が騒ぐ所を見ると言った。

 

「でもあのアイオワさんにはそんな思い、ひとかけらも出て来ません。それはきっと......。」

 

 そう言いかけて赤城は袖を直すと言った。

 

「提督の艦娘だからでしょうか。」

 

「そう......かもしれないな。」

 

「彼女は私たちと戦ってくれる、何処で作られてどこの国のかは関係無いです。昔の連合国やら枢軸国なんて深海棲艦に食わせてしまえばいいんです。」

 

 赤城はそう言って髪を触ると続けた。

 

「彼女を番犬艦隊に加えます。」

 

「は?」

 

 等々にそう言うと赤城から俺に伝えられた。

どうやらアイオワは沖から来たが、もう沖に出れない様だ。これは番犬艦隊であるビスマルクやらのドイツ艦勢と同じだ。だから番犬艦隊として動いてもらうとの事。

 

「本人の同意は?」

 

「得てますよ。ビスマルクさんにも伝えてあります。」

 

「そうか。」

 

 俺は立ちあがり、未だに騒いでいる金剛たちに割って入った。

 

「どうどう、そんな暴れるなって。」

 

「「「暴れてないデス!(です!)(わ!)」」」

 

 そう言ってぜぇはぁ言う彼女たちを見て俺や赤城は笑った。

髪が乱れ、頬を膨らませて言うその様はとても面白かったのだ。

 





 昨日は今日の分も書いていたので更新できませんでした。すみません。
最近スパンが変ですが気にしないで下さい。ネタが浮かばないという事もあるんですけどね(汗)

 ご意見ご感想お待ちしてます。

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