【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百三十八話  使節と抗議

 

 アドレーは目の前に映る光景に息を飲んでいた。海に浮かぶ船を目に焼き付けそれを自分の記憶と照らし合わせる。

導き出される答えは、だたひとつ。

 

「こっ、これはっ?!」

 

 明らかに旧世代の軍艦が浮いている。かつて合衆国に小国でありながら挑み、戦った国の軍艦。

その軍艦から人が降りてくる。アドレーのボディーガード、アラスカの米軍基地から派遣された州兵約100人が銃を構え、安全装置を解除する。

 

「貴方が大統領ですね?」

 

 そう言った人は軍服を着ていた。英語で話をしている。

 

「いかにも。」

 

「そうですか。私は日本皇国政府と天皇陛下より承った任務により派遣されました、天見と申します。」

 

 天見はそう言ってアドレーにお辞儀をした。

 

「日本人を見るのはおそらく海が奪われてからでしょう。驚かれているのは分かっております。」

 

 アドレーは何も言わないが、天見は話を続けた。

 

「そちらでも確認されているでしょうが、日本皇国は深海棲艦と未だに戦争をしています。我々も領海を失い、国家存続が危ぶまれておりましたので合衆国がどのような状況か把握しているつもりです。」

 

「未だに、だと?」

 

「えぇ。日本皇国は未だに戦争をしております。私の背後で浮いております軍艦を用い、艦隊戦で深海棲艦と戦い続けております。」

 

「これは、旧世代の軍艦ではないか。何故このようなもので現代科学の結晶である現行艦でさえ太刀打ちできない様な深海棲艦と叩か飼う事が出来るのだ?」

 

「それはお教え出来ません。」

 

「何故だ?」

 

「私たちはこうやって戦っていますが、常に首元にナイフが突きつけられた状態。ナイフを突きつけている者の機嫌を損ねると一瞬にして国土が焦土と化します。」

 

 アドレーや護衛のボディーガード、州兵までもが動揺した。

天見の言っている意味が分からないのだ。

 

「私の任務を遂行せねばなりません。大統領。」

 

「そうか。」

 

 アドレーは動揺を抑え込み、天見に答えた。

 

「先ず、連絡の途絶えていて安否の確認も取れなかった我が国の存在をそちらに確認していただく事です。」

 

「あぁ、確認した。確かに、日本の様だな。そちらに控えている兵の肩にあるワッペンは確かに日本だ。」

 

 天見は少し笑うと続けた。

 

「次に国交、貿易の再開です。」

 

「そうか。だがそれは民間に任せてある。政府からは何もできない。」

 

「そうですか。」

 

 天見はそう言って最後に懐から封筒を渡した。

 

「失礼します。」

 

 ボディーガードがそれを天見から受け取り色々見る。簡易的なX線や、中を透かして見たり、触ってみたりしてからアドレーに渡された。 

 アドレーは受け取ると封を開き、中を確認する。

 

「っ?!」

 

「こちらに駐留していた米軍全部隊は帰る日を夢に見て、当時貧弱であった我々と共に戦い、散りました。米海軍第七艦隊は全滅。空軍は深海棲艦の艦載機を倒すべく、当時の航空自衛隊と共に航空戦を繰り返し、修理不可になった戦闘機のみを残して全滅。陸軍は国内の島々で暮らしている住民救出の為に当時の陸上自衛隊と共に点々と揚陸作戦を繰り返して今残っているのは一個中隊。」

 

「ホットラインが途絶えた訳では無いんです。敗北を繰り返している本国に助けを求める事の出来なかった在日米軍は深海棲艦と戦う決め、日本と共に戦火を交えたんです。」

 

 アドレーは手を震わせながら言った。

 

「ロナルド・レーガンは?」

 

「千葉県の房総半島沖で沈みました。」

 

「本当に全滅したのか?」

 

「いいえ、壊滅です。もう機能を維持できない程にまでなってます。現在は政府の指示で残っている米軍人は全員手厚い対応を受けています。」

 

「そうか......。」

 

 アドレーは封筒を秘書に渡すと天見を見た。

 

「日本皇国はどうしてそこまで出来たのだ。我々よりも遥かに資源の少ない、人もいない、兵器も無い日本にっ?!」

 

「それは私の背後の船たちのお蔭です。」

 

 天見は笑った。

 

「そうか......。」

 

 アドレーはそう言って秘書に話しかけると写真を受け取り、天見に見せた。

 

「この画像に映っている飛行機、これは約1ヵ月前にアラスカで撮られたものだ。これは一体なんだ?」

 

 天見はその写真を受け取り、じっくりと見る。そして答えた。

 

「これは彗星。艦上爆撃機です。」

 

「ほう。」

 

「我が国において、数々の海を深海棲艦から奪い返し、アリューシャンの艦隊を全滅させた艦隊の艦載機ですね。」

 

 その言い方に違和感を覚えたアドレーはまた訊いた。

 

「その言い方、そこの軍艦がやったのではないのか?」

 

「えぇ。こちらに空母は来てますが、この空母の艦載機に彗星はありませんし、なによりこんな良い艦載機を使っていないんです。」

 

「じゃあ何だと言うのだ?」

 

 天見は狙っていたかのように答えた。

 

「横須賀鎮守府艦隊司令部所属の空母機動部隊。先ほど申しましたアリューシャンの深海棲艦を全滅させた艦隊です。」

 

 アドレーは震えた。アリューシャン群島に居た深海棲艦の艦隊。6隻相手に軍が戦っていた時代に、大艦隊を投入していた。総数大小の艦艇合わせて60隻。結果は全滅した。陸上から航空支援として飛び立っていた戦闘機も対空砲火の餌食になったりとかなり損耗した戦いだった。

 

「......ここに来ている艦隊ではないのだろう?ならどんな艦隊があそこを根城にしていた深海棲艦を全滅させたのだ?」

 

「本隊と支援合わせて24隻です。ですが実際に戦っていたのは6隻です。」

 

「なんだとっ?!」

 

 アドレーは空想と現実の見分けがつかなくなっていた。アドレーの中では深海棲艦を1隻轟沈させるのにかなりの被害を出すと言うのに、たった24隻で、しかも戦ったのはたった6隻だ。

 

「ここまで到達するのに撃沈された船の数は?」

 

「0です。」

 

 アドレーは耳を疑った。今、アドレーの目の前に居る人間がなんと言ったのか。アドレーの耳には『0』と聞こえていた。それはつまり生き残った船の事なのだろうか。

 

「もう一度頼む。撃沈された数は?」

 

「0です。」

 

 アドレーは現実を受け入れられなかった。合衆国の海軍が軍艦を沈めに沈めても抗う事が出来なかった深海棲艦相手に被害を0でここまで辿り着けたと言うのだ。

 

「ばっ、馬鹿なっ?!」

 

「本当です。海を駆け回り、あちこちの海を取り戻している横須賀鎮守府艦隊司令部所属艦は1隻たりとも轟沈してはいません。」

 

 アドレーは黙ってしまった。予想を斜め上に行き過ぎたこの話を信じれないと言う反面、それだけの事が出来たからここに辿り着けたのではないかと思う。

 

「さて、大統領。日本皇国政府は提案します。」

 

「なんだね?」

 

 天見がそう切り出した。

 

「政府は深海棲艦に海を奪われて以来のファーストコンタクトに私を派遣しましたが、合衆国はどうされますか?」

 

「......首脳会談の場を設けたい。日本皇国の政府と。」

 

「分かりました。」

 

 天見はアドレーのその言葉を聞くと、これで日本に帰るとだけ言い残し、帰ってしまった。

動き出した旧世代の軍艦たちは海を動きはじめ、地平線へと消えていく。それを見ていたアドレーに報告が入った。

 

「大統領。日本の軍艦に侵入する作戦の結果です。」

 

 戦闘服に身を包んだ男がボディーガードに囲まれながらこちらに来た。

 

「どうであったか?」

 

「作戦失敗。甲板に上がった途端、機銃の銃口をあちこちから向けられ、兵に即時退艦すれば大事にしないと言われました。」

 

 男はそう震えながら言った。

 

「上がった途端だと?」

 

「はい。監視の目が無いところを突いて上がった筈なんですが、カメラも無いのに見つかってしまいました。」

 

 アドレーはますます奇妙に思った。被害を出さずにここまでたどり着けた軍艦に、謎の監視網、旧世代の軍艦を使う意図。全てが分からなかった。

 

「ホワイトハウスに戻る。早急に日本へ送る使節の選定だ。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は遠目から正門を見ていた。

今日も抗議が起きていると聞き、執務が終わるなりここに見に来ていたのだ。

 

「鎮守府を一般開放せよ!」

 

「艦娘についての情報開示を求めるっ!」

 

 そんな叫びが木霊し、それをアクリルの盾で抑え込む門兵は必死に通すまいと押し返している。

 

「提督、どうされましたか?」

 

 見ていた俺に話しかけてきたのは西川だった。

 

「最近毎日のようにあるっていう抗議を見に来たんです。」

 

「見ても面白いモノなんてありませんよ。抗議内容が不順ですし、仲間たちも日に日にイライラを募らせています。幾ら逮捕しても、幾らこちらが押し返しても塊となって立ち上がり、押してきますからね。どんな考えあっての抗議なんでしょうか?」

 

 西川の言葉を聞きながら俺は抗議している人たちを見た。

よく覚えていないが、尋問室で見たような人間がわんさかといる。そして点々とだが、一眼レフを持っているのも居る。

 

「あー......。」

 

 俺はそれを見てなんとなく察した。

 

「どうかしたんですか?」

 

「あいつらの目的が分かりました。」

 

 そう。俺は建前でこうやって抗議している事が分かった。

 

「目的ですか?」

 

「はい。目的は艦娘です。これは西川さんも分かってるとは思います。」

 

「えぇ。」

 

「あいつらは艦娘と接触し、写真を撮るつもりなんですよ。」

 

 そう言うと西川は首を傾げた。

 

「写真ですか?何故写真なんか......。」

 

「艦娘は全員に言えることだが、美人美少女揃いだ。それも絵に描いた様な。だからやつらは求めた。画面の向こうから来たのかと思わせる様な艦娘を写真に収めようと。」

 

 そう言うと西川は滑った。

 

「提督が仰りたいことは分かりましたが、写真を撮ってどうするんですか?」

 

「そうだな......。言いたくはないが、つまり良く無い事だ。」

 

「そうなんですね。」

 

 俺は西川と話しながら門兵と抗議している人間との押し合いを眺めている。

 

「いい加減にしてほしいな。これは公務執行妨害は効きますかね?」

 

「えぇ、十分です。」

 

「一掃します。他の門兵に連絡し、各要所の警備を最小限にし他は抗議している連中の背後と側面を取り全員鎮守府内に引きずり込み、まとめて逮捕します。」

 

「了解しました。」

 

 西川は走り出し連絡に回ってくれた。そんな俺と西川の会話を訊いていた今日の秘書艦である満潮は心底嫌そうな顔をした。

 

「全員逮捕?」

 

「あぁ。」

 

「こいつらを鎮守府の中に居れるのだけは嫌だわ。」

 

「俺もだが、もう一気に捕まえて牢屋送りにした方が世間的にもいいことだ。」

 

「それは言えてるわ。」

 

 少しすると、どうやら動き出した様であちこちからアクリルの盾を持った門兵が抗議している連中を囲み、正門が開かれ入った途端に一気に逮捕が始まった。手錠をするために盾を離すから鎮守府に入ったからと我先に走り出す抗議していた連中を追いかけ平均10秒で逮捕していった。全員逮捕するのに3分もかからなかった上、それを見ていた俺と満潮を手錠を掛けられ連行される連中は気の強い満潮が俺の後ろに隠れる程の視線を浴びせた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 地下牢に満タンになる程の逮捕者のリストを警備部から受け取り、俺は大本営に事の顛末の記した手紙を満潮に送って貰った。

満潮は『早く鎮守府から追い出してほしいわ。』とか言っていたが、それも出来ない。それ相応の対応を取ってからでないと、またあの抗議が始まるからだ。

 

「本当に行くの?」

 

「あぁ。」

 

 帰ってきた満潮に開口一番、俺は地下牢に行く事を伝えた。理由は大人しくしているか、反省をしているのか。

普通の抗議なら俺もちゃんと考える。だが、今回のは唯の抗議じゃない。抗議している言葉から連想されるものは全て、下卑た様に聞こえる。下心が見えるのだ。

 

「護衛はいるでしょ?艤装は?」

 

 満潮はそう俺に訊いてくる。

 

「駄目だ。」

 

 そう言うと満潮は『そう。』とだけ言った。他の艦娘に比べて物わかりが良いのか。

 

「門兵さんにはついて来てもらうんでしょ?」

 

「何を言わずともな。」

 

 俺と満潮はそう言って警備棟に入り、逮捕者たちを見に行った。

全員が牢に入れられ、座り込み、何かの話をしている。俺には何の話をしているのか分からないが、俺たちが入ってきたのを察知すると、すぐに会話は中断され、こちらを全員が凝視した。

 

「提督。大本営に連絡は?」

 

「既にしてあります。ですが今回は、軍では裁けませんね。」

 

 ついて来てくれたのは西川含んだ門兵6人。全員が小銃を携えていたが、地下牢に来る途中で短機関銃に変えていた。

 

「民間人ですものね。ですが民間人とはいえ、軍事施設へのこの行為ですからそれ相応の罰則があるでしょうね。」

 

「分かりませんが、そうなんですか?」

 

「はい。」

 

 西川はそう言いながら俺の横を歩く。

 

「彼らは反省しているんでしょうか?」

 

「こうして牢に入れられてますからね。ここに連れてくるまでは散々騒いでいたらしいですが、入れられた途端にこの様子だそうです。」

 

 俺は地下牢に入れられている逮捕者を一回、見流すように見た。

 

「それと彼らから所持品を全てこちらに渡して貰っています。その中は大体がカメラでした。撮影目的だというのは正解だった様です。」

 

「やはりそうでしたか。」

 

「それと近隣住民からの圧力も何度かあったらしいですが、気にせずやっていたとの事です。」

 

「分かりました。大本営からの結果を待ちましょう。」

 

 俺は満潮を連れて牢の前を歩く気にはなれなかったので、西川と近くを通っただけにした。

 執務室に戻った後、大本営から連絡が入り、すぐに警察から護送車が到着するとの事。門兵がまた逮捕者に手錠をかけ、門の外で護送車に引き渡しが行われた。

 




 
 先にここでお知らせしておきますが、アメリカに行った天見は横須賀鎮守府にいる天見ではありませんので。

 それからはノーコメントで......。すみません。後書きに書くような内容がないですので......。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

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