【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百三十七話  行動と書類

 

 男は大きなカメラの前で咳ばらいをした。これから始める事、普段からやっている事だが、今日は違う。

沿岸部の被害報告や、殉職者の報告、防衛線の状態、他国との連絡、そんなものじゃない。今日言う事は審議され、決められた事。訃報では無いのだ。

 スタッフがカメラに電源を入れ、親指を立てる。合図だ。

 

「私はアメリカ合衆国 大統領、アドレ―・エンフィールド。これはホワイトハウスから国民へ向けた報告です。」

 

 アドレーは一呼吸置いて、続きを話した。

 

「私がこの場に立ち、国民にこの姿を見せる時は必ず悪い報告をしてきました。それは殉職者の名の読み上げ、防衛線の状態。」

 

「これまで本土を侵攻された事のない合衆国をここまで追い詰めた深海棲艦が国民を危険に晒し、それを守るべく武器を取った英霊たちの名をここで読み上げてきました。」

 

「『世界の警察』や『超大国』と合衆国は比喩されてきました。ですが深海棲艦の前では我々は手も足も出なかったです。領海を失い、沿岸部の街は放棄しました。そんな比喩、もう無いんですよ。」

 

 アドレーはマイクに向かって語る。

 

「合衆国未曽有の危機に、国民は先の見えない未来を見ているでしょう。目のほんの数m先は真っ暗で、分からない。そんな中を合衆国は進んできました。」

 

 アドレーはそう言うと、スタッフに指示を出し、画面に画像を表示させた。

その画像はアラスカで撮られた画像だ。

 

「そんな我々に希望の光が差し込んだのです。この写真はアラスカで撮られました。どこかの領空侵犯機でもなければ深海棲艦の偵察機でもないこの写真に写る飛行機は日本です!」

 

「第二次世界大戦中、合衆国と天と地の差をつけた物量でぶつかり合った時代、非凡な日本軍が使っていた船を駆る軍用機です。何故そんな旧世代の骨董品と言えるものが撮られたかは理由は分かりません。見間違いかもしれないです。ですが、合衆国と深海棲艦に海を奪われて以来目にした異国の飛行機はこれが初めてなのです。」

 

 画面から画像が消された。

 

「そこで我々は軍を動かし、調査に出ました。アラスカ州沿岸部の調査。そして......外洋に出たのです。」

 

 そうすると画面に画像が何枚も映し出されていった。映された画像は轟沈され、漂流している深海棲艦や爆散した艤装の一部などが写された。

 

「合衆国が誇る軍を投入してでさえ、殲滅できなかったアラスカ州アルフォンシーノ群島付近の深海棲艦が一掃されていたのです。これは先ほど映しましたアラスカ上空を飛行していた日本の飛行機が現れた後です。」

 

「これが何を意味するか......。」

 

 アドレーはダンと壇を叩いた。

 

「数多の国と連絡の途絶え、カナダやメキシコ、南米と何とか生き長らえてきた合衆国以外にも生きている国があるのです!」

 

「しかも彼らは深海棲艦と今も戦っています。我々が軍を避難させ、殻に閉じ篭っている間も......。」

 

「我々よりも遥かに条件の悪い国が戦っています......。ならば我々合衆国がすべきことは唯一つ!」

 

「数年間で避難させた軍、そしてそれまでに新造された軍艦を使い、深海棲艦に再び立ち向かう事っ!アリューシャンを橋頭保とし、我々の海を取り返すっ!」

 

「ですから国民は協力して下さい。もう殻に閉じ篭っている時は過ぎました。国民全員の力を合わせ、深海棲艦に打って出ましょう!」

 

 そうアドレーが言い切るとカメラのスタッフが止めた合図を出した。

もう合衆国は閉じ篭って等居られない。そう思っての今回の話だった。

 

「今日も素晴らしかったです。大統領。」

 

「そうか。ありがとう。」

 

 アドレーに話しかけてきたのは、アドレーの秘書だ。

 

「ホワイトハウスに取材しに局やカメラマンが集まるでしょうね。」

 

「覚悟の上だ。その他にも覚悟せねばならないな。」

 

 アドレーはそう言ってボディーガードに囲まれながら大統領専用車に乗り込んだ。

 

「えぇ。深海棲艦相手に戦争をしますからね。」

 

「そうだ。先代の大統領は国内治安維持に力を入れていた。私は失ったものを取り戻すのに力を入れよう。」

 

 アドレーが眺める車窓からの景色は灰色。合衆国は活気がある国で有名で、いつも笑いが絶えなかったが深海棲艦が現れてから変わってしまった。最初はハワイを失い、そして合衆国の西岸と東岸で深海棲艦と戦を繰り返し、戦った者たちは殆ど生き残らなかった。

絶望の淵の世界だ。

 

「だが深海棲艦に有効ではない手立てである生き残った軍艦を投入するのはやはり気が進まぬ。」

 

「そうですね。」

 

「深海棲艦の駆逐艦1隻を撃沈させるのにこちらは10隻は覚悟しなくてはならない。戦艦や空母を相手にするというのなら、たとえそれが1隻だったとしても現有するすべての軍艦を投入しても撃沈できる保証はない。」

 

 アドレーはそう言いながら顔を歪めていた。

 

「どうやってアラスカまで到達したのだ、日本は。日本にある軍艦は通信が途絶えた第七艦隊からの最後のホットラインでは最新は3隻。それがどうなったかは知らないが、今生きていたとして、どうやってアラスカまで来ることが出来たのだ?」

 

「それは私も疑問に思っております。」

 

「君はこれにどういう仮説を立てるかね?」

 

 アドレーはホワイトハウスまでの戯れだろう。そう秘書に訊いた。

 

「通信が途切れる前、日本は日本皇国と国名を変更しました。日本皇国。つまりそれまでの日本国とは違い、天皇が一番上だという事です。これまで第二次世界大戦で日本にかけていた足枷が無くなったであろう今、第七艦隊から連絡の途絶えてから我々の想像を絶する軍艦を作り出した、というのはどうでしょうか?」

 

「はっはっはっ!!一番あり得るだろうな。日本という国はおかしなところが多い。工業では類を見ない程の発展を遂げ、我々の想像を凌駕する物を開発する。信頼と安全、コストをバランスよく作るが信頼と安全はかなりのもの。そんな国が本気を出すとどうなるか......私は知らない。」

 

 アドレーはそう言って窓を眺める。

 

「ですがアラスカに居たあの飛行機は骨董品です。もし我々の知る由のないオーバーテクノロジーだというのなら、あの外見にする必要はないでしょう。」

 

「そうだな。」

 

 アドレーと秘書を乗せた大統領専用車はホワイトハウスへと向かっていった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺の手元に大本営からいつもの書類で無いものが来ていた。それは、北方海域までの深海棲艦の殲滅を確認との事。

つまり大本営の鎮守府がレベリング次いでに殲滅をしたという事だろう。

 

(となると次は、使節派遣か受け入れだな。)

 

 その書面を読みながらそんな事を考える。

これは俺が大本営に出向いて話をしてきたことだ。そして政府への連絡も終わっていて、準備も整ったと言うのを数日前に聞かされている。もう動くだけというところまで来ているのだ。

 

(そうなっても大本営の鎮守府が護衛で行くんだろうな。)

 

 今回の書類ともう一つ、書類が同封されていた。

それは深海棲艦との戦いで護衛艦 こんごうを失って以来、建造をしてなかった護衛艦を建造し、完成したという文面のモノと、建造された護衛艦の書類だ。この書類を見ていて思う事があるのだが、未だに護衛艦という名前は離れないらしい。理由は分からないが、もうそういう呼び名はもう違うだろうと俺は思った。

 かざばな型汎用護衛艦1番艦 かざばな。そう名付けられた船はこんごうを失ってから建造された新鋭護衛艦。対潜・対空共に前型たちから良い部分を引き抜いた性能を有している。なのでそれだけの兵装を積むために巨大化。日本の護衛艦は駆逐艦と表現されるが、これは巡洋艦並みだ。

 

(大きさ、兵装の数共に化け物だ。)

 

 率直な俺の感想だった。

そんな俺を見ていた今日の秘書艦、摩耶が俺の顔を覗き込んできた。

 

「それ、なんかあったのか?」

 

 そう訊かれ俺は紙から視線を外した。

 

「あったと言うか、もう既に時遅し、だ。」

 

 俺は見ていた紙を置いて大本営が北方海域の深海棲艦を殲滅した事に関する書類を摩耶に見せた。

 

「ふむふむ......殲滅したぁ?!」

 

「あぁ。レベリングを兼ねて出撃していたそうだ。まぁ、殲滅が目的だったが。」

 

「そうかぁ......しっかし、何故殲滅する必要があったんだ?別にもうあそこには占領に陸の奴らがっ......。」

 

「行ってない。また上層部に置いて行かれると思っているらしく、陸軍のどの部隊もてこでも動かない様だ。軍らしからぬが、仕方ない。」

 

 そう言って俺は机の上にある書類を纏めた。さっき見ていたものの他にも大本営からは普段の執務で処理しなければならないものの他にも届いているのだ。それも目に通さねばならない。

 

「ちょっくら出してくるな。」

 

 そう言って提出する書類を持った摩耶が出て行ったのを見て俺はまだある書類を開封した。

 次の書類はかなり時間が掛かったが、雷電改の報告とどう処置するか、そして他の鎮守府に配備するのかというものだった。

回答は駄目だった。大本営は雷電改を認めたが現状維持。そして他の鎮守府への実装はかなわなかったとの事。やはりそこまで出来ないという事らしい。

 次は、リランカ島の状況だ。

現在、予定していた設備をかなりの数の建造を完了しており、土地の整備などが残っているのと、探索していない島のエリアの探索があるらしい。そしてそれの序での様に入っているのは、リランカ島への補給物資の輸送任務についてだった。たぶん、こっちが本音だろう。

 まだある。大本営前に『艦娘を一般化させよ!』、『縛りつけて戦わせていいのか!』という様な内容の抗議デモが起きているとの事。度が過ぎる事も多くあり、その度に逮捕者が続出するかなり危ない事が起きている様だ。それに関する注意だった。

だがこれはもう遅い。毎日のように正門前で起きているのだ。本部棟までは響いてこないが、度々逮捕者や負傷者が出るとの事。俺も逮捕者の尋問にはよく呼ばれて顔を出すが、何とも言えない。

 

『あんなに可愛い艦娘たちを独り占めだなんてズルいでゴザルッ!!』

 

『鎮守府を一般開放するべきであるッ!!』

 

 と叫んでいた。俺が尋問室に入るなりガタリと立ち上がり、門兵に銃口を突きつけられながらも『ハーレム提督でありますッ!我ら同士が積み上げた屍たちが憎悪のオーラを我らに纏わすッ!』とかよくわからない事を言っていたが全員スルーしていた。

今更ながら考えてみると、かなり不味い事をしているんだろうが、きっと関わりたくなかったのだろう。武下の説教の後すぐに大本営に連れて行かれた。俺はそいつらの顔を覚えていない。

 

(抗議やなんかの活動は何時もあるが、最近加速が激しいな。)

 

 そう思い、考えを巡らせる。そうすると答えが出てきた。たぶん、人前に出る事が数回あったからだろう。それにテレビも何回か映っている。それを見た国民がそう訴えてきているだけだ。たぶん。

 

「たっだいまー。おっ、見終わったか?」

 

「あぁ。1つだけ余計なものが入っていたが、まぁいいだろう。」

 

「余計なもの?どれどれ?」

 

 そう摩耶が興味津々に見て来るので、これならいいだろうと抗議に関する書類を渡した。

それを受け取った摩耶は読みはじめ、読み終わると同時に書類を引き裂いた。

 

「あんのクソ共がぁっ!!思い出したら腹が立ってきたっ......。」

 

 そう言って秘書艦の席に座っていた摩耶は見るからにイライラしている顔をしていた。

実は摩耶はこの抗議をしている連中に絡まれているのだ。

 たまたま摩耶が正門の前を通りかかった時、丁度抗議が行われていてそれを少しみたら色々言われたそうだ。涎垂らしながら。あまりにもその光景がショッキングだったらしく、本当に嫌な思いをしたと言っていた。

 何を言われたのか分からないが、尋問室のを聴いている限り大体予想が付くので黙っておく。

 

「まぁまぁ。もう忘れちまえ、そんな記憶。」

 

「そうだといいが、まだ記憶に新しい。いつになったら忘れれるか分からないな。」

 

 そう不貞腐れた摩耶は立ち上がり、炬燵に足を入れた。

電源を入れて、身体を奥に滑り込ませる。

 

「温かいなぁ~。いいなぁいいなぁ。提督はいつもこれに入って執務してるのか?」

 

「いや、さっき見てただろう?俺はちゃんと机に向かってやっていただろう?」

 

「あははっ......そいやぁそうだったな。」

 

 摩耶はそう言って照れた。

 

「まぁ、何にせよ、色々大本営から届くって事はそれだけ何かが動いてるって事だろう?」

 

「そうなるな。」

 

「そうかっ!......にひひっ。」

 

 ニヤニヤしながら炬燵で暖をとる摩耶を目の前にして俺と摩耶はみかんを食べながら色々と話をした。

途中、鳥海や高雄、愛宕が入ってきて大騒ぎになったりもしたが、こういうのも悪くない。そう俺は思った。

 





 遂に男が分かりましたね。それと思惑もですが......。なんだか無謀な気もしますけどね。

 大本営からの書類を見るという話が殆どでしたが、普段の描写外では大体提督はこうやって大本営から提出の必要のない書類を見ていたりもするという事でした。

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