【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百三十六話  遠征艦隊と話して、瑞鶴と話して

 俺は執務が終わると今日の秘書艦である瑞鶴を連れて、埠頭に居た。

何故、埠頭に居るかというと、滅多に会わない遠征艦隊と話をするためだ。大本営の鎮守府がいくら出撃任務をしているとはいえ、資材は溜めなければならないので遠征艦隊にはずっと遠征に行ってもらっている。

 第六駆逐隊の練度が改造可能に達するまでは遠征艦隊に入れていたが、入れ替わりで待機だった第七駆逐隊や、ずっと遠征をしている陽炎型とはあまり話をしてないのだ。今日の遠征は1回で止め、話をしようと思い立ったのだ。

 だが、横で俺と一緒に待っている瑞鶴は少し不機嫌だった。

 

「ねー提督さん。」

 

「何だ?」

 

 俺は埠頭から海を眺めていると瑞鶴が話しかけてくる。

 

「執務室からでも埠頭は見えるし、別にここで待ってなくてもいいんじゃない?」

 

 そう言うのだが、俺が何故埠頭で待つのか、理由がちゃんとあるのだ。

 いつぞや利根に偶には外に出ろと言う様な事を言われたので、それも兼ねている。外の空気を吸い、外を感じているのだ。

 

「外で待ってたいんだ。なんなら瑞鶴だけでも戻ってるか?」

 

 そう言うと更に瑞鶴は不機嫌になる。

 

「いいもん、別にっ!......と言うか結構前に頼んでた瑞鶴のお願いはどうなってるの?」

 

 瑞鶴はそう言いながら腕を組んだ。瑞鶴のお願いというのは多分、翔鶴を進水させてくれという事だ。運動会の景品で俺に頼んできたことだ(※第五十三話参照)。

 

「上手くいってない。翔鶴が進水してないので分かるだろう?」

 

「そうだけど......。」

 

「特に最近は空母レシピでも空母が出る事が無いんだ。」

 

「そうなんだ。」

 

 俺はそう言いつつも海を眺めている。ゆらゆらと揺れる水面は太陽の光を反射していて、とても綺麗だ。

海に反射している光の中に黒いシルエットが浮かび上がってくる。何かとぼーっと見ているとそれは次第にはっきりと目に映りはじめ、それが艤装だと分かった。

 

「帰ってきたな。」

 

 どんどんと近付いてくる艤装が埠頭に接岸すると、艦娘たちが降りてきた。

 

「提督じゃないか。どうしたんだ、一体。」

 

 そう話しかけてきたのは最近、輸送任務で艦隊の旗艦をしている木曾だ。先任の天龍から引き継いでいる為、天龍以外のメンバーはそのままだ。

 

「遠征に出てる艦隊に連絡があってな。今日の遠征任務は終了だ。」

 

「そうか。了解だ。」

 

「聞き分けが良いんだな?」

 

「そりゃな......。お前がそう言うならそうするさ。」

 

 そう言った木曾は全員を並ばせた。

 

「こいつらを引っ張ってきた天龍には頭が上がらないな。」

 

 突然そう切り出した木曾に俺は首を傾げる。

 

「どうしてだ?」

 

「やんちゃ、お転婆、なんだよ。それに加えて、龍田は俺に手を貸してくれるが、一応俺に指導する立場でもあるからあまり口出しをしてこない。だから俺はこいつらの面倒に四苦八苦という訳だ。」

 

 そう言って木曾は朧の頭に手を置いた。

 

「私はお転婆じゃないです。お転婆なのは漣と曙で、私と潮は巻き添えです。」

 

「そうだったな!」

 

 木曾は朧の発言に笑い、不満そうに木曾を見つめる漣と曙。

 

「アンタねぇ!私たちの方が輸送任務の経験は長いのよ!」

 

 そう木曾に抗議する曙に潮が『やめなよ~』という。

 

「そうかもしれないが、俺は軽巡だ。水雷戦隊を組むのなら駆逐艦のお前らじゃなく、俺たち軽巡を旗艦にする。そうだろう?」

 

「そうだな。」

 

「だから俺は旗艦としての経験を積むためにこうして編成されたんだ。俺が編成されてそう感じているのなら、そう言う事だ。」

 

 木曾はそう解釈していた様だが、あながち間違いじゃないかもしれない。俺は教育というかそういう事に関してはからっきしだったので、艦娘の、特に駆逐艦の艦娘への常識の補填などの事は考えていない。

そもそも俺の前によく現れる駆逐艦の艦娘は全員が大体の礼儀や何かは心得ていた。そもそもそんな必要性をはなっから感じていなかったのかもしれない。

 

「私の方が先輩なんだから、多くの知識と経験は私に勝ってないわ。アンタなんて私からみたら進水したてのひよっこよ!」

 

 そう言い放つ曙に木曾は顔色一つ変えずに答える。

 

「その通りだな。俺はまだひよっこだ。だが、お前が俺に輸送任務に関して助言できたとしても、旗艦としての心得を手解く事は無理だ。経験が無いんだろう?」

 

 全く持ってその通りだ。俺は基本的に駆逐艦を旗艦にする編成はレベリング時以外ありえない。あくまで護衛役か夜戦戦力などに使うだけだからだ。

 

「それはクソ提督の采配よっ!いつもいつも軽巡と戦艦、空母しか旗艦にしない上、駆逐艦なんて少数しか前線に出ないじゃないっ!」

 

「それが提督の戦略方針だから仕方ない事だ。」

 

「そんな事分かってるっ!だけど長い間キス島の攻略に手古摺って延々と資材を浪費していたのはどこのどいつよっ!私たちが集めてきた資材が湯水のように無くなっていく様は怒りを覚えたわっ!」

 

 曙はそう言っているが、間違いではない。

今は無いが、富嶽による爆撃でキス島を強行奪還するまでは軽巡と駆逐艦で出撃させていた。だが何度挑んでもダメで、道中に撤退は常だった。俺の小破、中破撤退や、ダメコンを乗せない事が理由で進軍できなかったのだ。

 まさかその時の資材の使い道に遠征艦隊の艦娘にそんな風に思われていたなんて思いもしなかった。

 

「すまなかった。」

 

 俺はそう曙に言った。俺自身、曙の言っている事は正しいと分かっていたのだ。

それに俺の基本戦術に関して疑問を持つのも当然だ。効率が悪いのと、時間が掛かるのは分かっているのだ。その分、資材が浪費されることも。

 

「本当よ、このクソ提督っ!いい加減、戦術やらを学びなさいっ!」

 

 そう言い捨てた曙はフンと鼻を鳴らしてそっぽ向いてしまった。

 

「すみませんご主人様。曙ったら......。」

 

 俺のイメージに無くそう漣が言うが、俺は別にいいとだけ漣に言った。

潮はそんな曙を怒っているが、別に本当に怒っているという訳では無く、『ダメだよ曙ちゃん。そんな事いったら。』という具合だった。朧は何も言わずにただ、待っているだけ。

そんな状況に後ろから声を上げて歩いてきた人がいた。

 

「おい木曾。」

 

 天龍だった。何故ここに居るか知らないが、顔を見ればすぐに分かる。怒っている。かなり。

 

「なんだ?」

 

「曙、借りるぞ?」

 

 そう言った天龍は木曾の有無も聞かずに曙を連れて行った。抵抗する曙を力づくで抑えつけ、天龍は曙を引きずって行ってしまった。

その姿を見ていた龍田が俺に言った。

 

「提督?あまり気にしちゃ駄目よ?」

 

 そう言って龍田は木曾に声を掛けると木曾が号令を出した。解散だ。

そしてその場に木曾が残り、俺に話があると言った。

 

「どうした?」

 

「お前が遠征艦隊に俺を天龍と交代で入れた理由って、アレか?俺が第二次改造で姉貴たちみたいになるっていう......。」

 

「その通りだ。だが、苦戦しているみたいだな?」

 

「まったくだ。」

 

 そう言って木曾はせっかく休みが出たから休んでくると言ってそのまま戻って行ってしまった。この場に残っているのは朧と漣、潮だった。

 

「提督。曙の事は悪く思わないで欲しい。」

 

「曙は口が悪いだけなので、ご主人様っ、気にしないで下さいっ!」

 

「後で耳にタコができるくらい言っておきますから......。」

 

 壮絶な曙抜きの第七駆逐隊からフォローが入った。どうやら俺が曙の評価を下げるのではないかと思ったみたいだ。

 

「俺は気にしてない。曙の言う通り、だったこともあるかもしれないしな。」

 

 そう言って俺は朧たちを見送ってその場に留まる。まだ遠征艦隊は帰ってきてないのだ。

俺がまた海を眺めはじめると、瑞鶴が声をかけてきた。

 

「流石にあの娘、口が悪すぎると思うんだ。」

 

 俺が無反応であるにも関わらず、瑞鶴は話し続ける。

 

「提督さんにクソ提督って......提督さんはどうも思わないの?」

 

 そう訊いてきたので俺は答えた。

 

「どうだろうな。クソって言われるのは嫌だけど、クソ提督って呼ぶのが曙っていう艦娘だろう?」

 

「そうね。」

 

 そう言ったら後ろで瑞鶴が消え入りそうな声で言っている言葉が聞こえた。

 

「あの娘、殺してやろうかしら。」

 

 その時の瑞鶴のオーラに圧倒されて何も言えなかったが、殺してやるのは流石に不味いので俺は止めた。

 

「それはやめろ。俺の艦隊の艦娘で貴重な戦力だ。」

 

「聞こえてたの?......まぁいいわ。だけどあまり酷いと私も我慢できないかも。さっきのでも結構限界だったから。」

 

 そう言って笑う瑞鶴だが、さっきまで何も言わなかったのはそう言う理由だったみたいだ。

 

「頼むから止めてくれよ?」

 

「うん。」

 

 俺はそう瑞鶴に言って、また海を眺めはじめる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 次に帰ってきたのは強行偵察艦隊だ。球磨、多摩、磯波で編成されている。

 

「お帰り。」

 

 そう俺が埠頭で出迎えると、球磨は少し驚いた顔をしてみせた。

 

「珍しいクマ。提督がこんな所にいるなんて。」

 

「たまにはいいだろう?」

 

 そう言うと、球磨も多摩と磯波を並ばせた。

 

「ここに居るって事は何か話があるクマ?」

 

「あぁ。といっても少し話をして、今日の遠征任務は終わりだがな。」

 

「そうクマ。」

 

 結構淡白な球磨に少し戸惑いつつも俺は色々聞いてみた。

 

「そう言えば、球磨たちの練度はもういい頃合いだな。」

 

「そうにゃ。あとちょっとで20になるにゃ。」

 

 俺は少し腕を組んで考えた。

改造可能練度に達したら、遠征艦隊から外して出撃要員にしようかと考えた。だが、後継者がいない。軽巡は多いように思えて案外少ないのだ。

 

「改造まであと少しだな。頑張れ。」

 

「分かってるクマ。」

 

 球磨たちはそういう話を終えると、遠征先であったことを話してくれた。強行偵察艦隊として武力行使をしつつ偵察する任務を負っている彼女たちだからこその話だろう。

一度、別の鎮守府の艦隊を見かけたりだとか、戦闘を目撃する事があるらしい。遠目からの観察らしいが、ウチの鎮守府と同じような感じで戦闘を繰り広げられているらしい。噂だと何処に行ってるか分からない他の鎮守府の艦隊も一応、戦闘をしているとの事。だが、それはどうやら南西諸島や、北方海域、西方海域に限定されるらしい。

 

「ありがとう。球磨たちはもう今日は休んでくれ。」

 

「分かったクマ。」

 

 ひとしきり話をした後、球磨たちと別れたが俺はまだ埠頭に居る。まだ遠征艦隊が戻ってきてないのが1つあるのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 最後に帰ってきたのはボーキサイトの輸送任務をしている名取たちだった。

 

「おかえり。」

 

 俺はそう出迎えた。

彼女たちの艤装にはドラム缶が積まれており、そこにボーキサイトが入っている様だ。

 

「あっ、提督さん。お疲れ様です。」

 

「司令官がお出迎えだなんて、うれしいわ!」

 

 そう言っている名取と長良の後ろでドヤ顔で陽炎たちが立っていた。ニヤニヤしている。

 

「司令っ!拾ってきたよ!」

 

「拾ってきました。」

 

「落ち取ったんやで。」

 

「そんなに欲しかったの?でも結構溜まってきてるよ?」

 

 そう言う陽炎たちの手には家具コインが握られていた。

俺が名取たちに遠征に行ってもらってるのはボーキサイトを一度に大量に運んでこれる遠征任務だ。ボーキサイトの消費が激しいのでずっと行って貰ってるが、その遠征は家具コインももらえるのだ。だからこうして偶に家具コインを持って帰ってくる。

 

「ありがとう。」

 

「どういたしまして!これが欲しいってのは分かってるからねっ!」

 

 陽炎はそう言って笑った。他の不知火や黒潮、秋雲も笑っている。

見た感じ疲れてなさそうだが、分からない。こうやって資材を大量に持って帰ってくる遠征はドラム缶の積み込みと、荷下ろしが大変だと前に誰かから訊いたのを覚えていたので、あまり引き留めるのも抵抗があった。

残念だが、木曾や球磨に任せている艦隊みたいに長い時間話をしている訳にもいかなかった。

 

「そうか。......名取。」

 

「はいっ!」

 

「今日の遠征はこれでおしまいだ。あとは休んでてくれ。」

 

「分かりましたっ。」

 

 そう言うと趣旨が伝わっていたみたいで、足早に全員を連れて戻って行った。経験がものを言うなと思いながらそれを見送って俺は瑞鶴に言った。

 

「瑞鶴。付き合ってくれてありがとう。俺たちも帰るぞ。」

 

「いいって。さっ、帰ろっか。」

 

 俺は瑞鶴と一緒に歩き出した。執務室に戻って、何をする訳でもないがいなくてはならない。艦娘たちが訪れてくるのは分かっているからだ。

 

「ねぇ、提督さん。」

 

「なんだ?」

 

 歩きながら瑞鶴が話しかけてくる。

 

「最近、大井と私が組むこと多いけど、この前の大規模作戦のあとに大井が叫んでたアレ?」

 

「あぁ。何でも早く改二になりたいんだと。」

 

「成る程ねー。」

 

 そう言って唇を尖らせた瑞鶴はどうやら拗ねたらしい。

 

「瑞鶴の練度は改二には程遠いぞ?」

 

「分かってるよ!でも、試製甲板カタパルトは欲しいわ。」

 

「勲章を取るにはまだ練度と経験、装備が無いから無理だ。」

 

「それは......まぁ、そうかもしれないね。」

 

 そんな事を話ながら執務室に帰ると、炬燵に艦娘が数人収まっていたのを見て俺と瑞鶴が固まったのはもう恒例だ。

大体、秘書艦と俺が何か用事で執務室から出ていると、遊びに来た艦娘がそこで温まっているのだ。今日は時雨と夕立。由良だ。

その3人の相手をしつつ、瑞鶴が艦載機の運用とかを訊いてくるのでそれに答えていた。

 瑞鶴曰く、瑞鶴の航空隊には彩雲がいないらしい。やはり良い装備は一航戦に回しているから、そうなっても仕方ない。だが瑞鶴は良く調べている。倉庫で使われていない流星などがある事を知っていた様だ。

改装してやるからとあしらって今日は過ごした。

 




 ギリギリ間に合ったっ!(←6時半に書き終えた人)
寝落ちして早く起きたから書いてましたが、普通に間に合いました。

秘書艦なんかは残している人数が少ないくらい回ったと思いますので、なんか登場回数が会わないっていう艦娘も出てくるかもしれませんが、ご了承ください。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

 と、その前に。イベントの事を本編に書くつもりが無いのでここで知らせておきますね。
 やっと大淀が手に入りました。どうやら大淀掘りが流行ってるらしいですね。簡単に手に入りました!
 という事で、どこかで任務嬢から格上げされた大淀が出てくる予定です。

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