【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百三十一話  operation"typhoon"⑪

 

交戦を始めてどれ程経っただろうか。

駆逐艦級は轟沈させた。だが、未確認深海棲艦はまだ中破と言ったところだろう。それに装甲空母もまだ小破だ。

一方こちらは痛手を負っていた。まだ夜戦には程遠い時間。だが、空母の艦載機隊が壊滅していた。現在飛べるのは赤城の烈風隊と彩雲。対空しか出来ず、決定打として爆雷撃を出来ずにいた。更にこちらの雪風、島風共に中破。私も中破。高雄は大破している。

 

『まだっ......戦えますっ!!』

 

高雄はそう言って私に無線で言っていたが、彼女の艤装は後部主砲群とカタパルトが吹き飛んでいた。弾薬庫に被弾したのだろう。

 

「長門より第一支隊へ、支援砲撃要請っ!」

 

「はいっ!」

 

通信妖精に無線を通じて、支援砲撃を頼んだが、支援砲撃は面制圧に使うというがここでは当たればラッキーなレベルだ。夾叉がほとんどだ。

 

「昼戦中に装甲空母の砲戦力を削ぐっ!主砲、目標、装甲空母艦首っ!てぇーー!!」

 

爆音が轟き、光の弾が主砲から飛び出し、飛翔する。それはみるみる小さくなり、水柱を上げた。

 

「全弾夾叉っ!」

 

「次っ!誤差修正後、随時砲撃っ!」

 

私はこれまでに経験したことのない焦りを感じていた。

ここまで手痛くやれたのは深海棲艦の機動部隊と交戦した時以来だ。だがその時はあちらの空母は2以上。今は1だ。

なんてザマだ。そう私は言い続けていた。

前々回、最深部前に来て撤退した時の事をまだ私はどこかで根に持っていた。あの時、もっと上手く指揮出来ていれば。提督の注意を十分聞き入れていれば。そんな結果論を並べていた。だが所詮結果論だ。もしかすると私たちはあの時、進軍を選択され、誰かが轟沈していた可能性だってあるのだ。それに比べれば大したこと無いのかもしれない。それでも私は根に持っていた。

撤退の二文字は負けを意味している。

 

「第一支隊の支援砲撃が来ますっ!」

 

通信妖精がそう伝え、第一支隊が居る方向を見た。水平線でいくつも光、光の弾がこちらに向かって飛んでくる。そして深海棲艦の艦隊に降り注いだ。

水柱を大量に上げ、一瞬視界が悪くなったがすぐに晴れ、艦影が見える。

 

「未確認深海棲艦大破っ!轟沈しますっ!」

 

飛沫の中で爆発が起こり、黒煙を上げた。それは未確認深海棲艦だった。

 

「よしっ!」

 

私は黒煙を睨むと続けて通信妖精が話してきた。

 

「雪風さんと島風さんが潜水艦を撃破しましたっ!」

 

「良いタイミングだ。本隊全艦に通達、少し距離を置く。」

 

そう私が言うと、艦橋に居た妖精たちが手や足を止めてこちらを見た。

 

「どうしてですか?今なら戦力がかなり削ぎ落とされています。これ以上攻める機会は無いと思いますが。」

 

「いや、それでもだ。」

 

私はそう言って通信妖精に受話器を受け取り、全艦に繋げてもらった。

 

「長門だ。これより少し後退。夜襲を仕掛ける。」

 

そう言った瞬間、受話器越しでも緊張が伝わってきた。

 

「私と雪風、島風で突撃を敢行する。大破している高雄と赤城、加賀は待機だ。」

 

『待ってくださいっ!』

 

私がそう言っていると高雄が入ってきた。

 

『私も突撃しますっ!探照灯照射くらいできますっ!』

 

そう言った高雄の声からは何か焦りとは違う感情が感じられたが、私はそれを許可しない。

 

「ダメだ。赤城と加賀の護衛を頼む。」

 

『でもっ!!』

 

「大破しているのに何が出来ると言うのだっ!自分の身を守るだけで精いっぱいであるのに、夜襲を仕掛けるなど自殺に等しいっ!」

 

『ぐっ......!』

 

多分高雄は自分の下唇を噛みしめただろう。

私がそう言ったのは高雄の大破は結構重いのだ。受話器越しに聞こえる高雄の妖精たちの報告は酷いものだった。

私が確認した時は後部主砲群とカタパルトが吹き飛んでいたが、さっきの聞こえた報告ではカタパルトデッキも吹き飛び、艦橋下部にも1発食らっている様だ。

 

「大丈夫だ......。安心していろ、高雄。」

 

『?』

 

「忘れたか?鎮守府に艦が少なかった頃、私たちは幾度となく夜戦を繰り返し、勝利をもたらしてきた。」

 

『っ?!』

 

私は艦橋にたまたま来ていた船体のダメージを見て回っていた妖精がしていた報告を聞いていた。

妖精曰く『小破と速報で伝えましたが、軽微です。』だ。

 

「一撃程度食らっても耐えられる。私はビック7だからな!」

 

日が傾きかけた洋上で私の後退の号令が轟いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

番犬艦隊はというと相変わらずで、番犬補佐艦隊は今日は普通だった。

 

「......(本を読んでいる)」

 

多分酒保で買ったんだろう、本を炬燵で読んでいる古鷹。

 

「......(爆睡中)」

 

古鷹の横で爆睡している加古。

 

「北上さん、みかん入ります?」

 

「ありがと~、大井っち~。」

 

炬燵に入り、北上に餌付けをしている大井と炬燵でぼーっとしている北上。

 

「......(みかんを剥いている)」

 

一生懸命になっている理由が分からないが、みかんを剥いている五月雨。

 

「......(爆睡中)」

 

五月雨の横で爆睡している涼風。

1/3が寝てるこの状況も変だが、俺は空いているところに足を入れた。本当なら足を伸ばして入りたいところだが、正面に座っている北上か大井に足が当たってしまうので胡坐で座った。それに大井に足を当てた日にはどうなるか分からない。俺自身もそうだし、大井も、この執務室もだ。理由はそんなもの1つしかない。

そんな俺に最初に話しかけてきたのは古鷹だった。

 

「提督、執務は終わったんですか?」

 

「あぁ。本に集中していたのを途切れさせてしまって済まない。」

 

「いえ、元から集中してませんでしたし。」

 

そう言った古鷹は自分の横で爆睡している加古の顔を見た。加古は頬を炬燵に押し当て、口を開いて寝ている為口から唾液は垂れているし、たまに『ンゴッ』とか言うのでそれは集中できないだろうな。

 

「......後で机、拭いておきますね。」

 

「あっ、あぁ。頼んだ。」

 

そう言うと古鷹は本を閉じた。

 

「それはそうと、昨日はどちらまで?どうやら大本営の車が来てたみたいですけど?」

 

聞いてきた古鷹はどうやら俺たちが出て行くところか、帰ってきたところを見ていたみたいだ。

 

「大本営だ。少し用事があってな。」

 

聞かれた通りに返して俺は頬杖をついた。

 

「招集ではないんですよね?」

 

「そりゃ勿論。」

 

「ではなぜですか?」

 

結構食いつきのいい古鷹に少し圧倒されたが、ここであの話をしてしまってもいいと俺は考えた。どのみち知れるなら別に今教えても問題は無い。

 

「アメリカとの国交回復に向けて動くんだ。」

 

「ですがアメリカとは昔、米海軍第七艦隊が全滅した事で連絡が途絶えていたって......。」

 

「今発動中の大規模作戦の前半、北方海域でアルフォンシーノ群島周辺に屯ってた艦隊を撃破したのは知ってるだろう?」

 

「はい。」

 

「そのおかげでアメリカと連絡が取れる事が分かったんだ。」

 

そう言って俺は立ち上がり、自分の机から書類を持ってきた。

 

「アラスカ上空に本隊の赤城が彗星を偵察に出したんだ。その時、内陸部に町を発見。サーチライトを照射された。」

 

「そんなことが......。」

 

「町を見つけ、サーチライトを当てられたという事は人がいる。そして、深海棲艦が海を支配しているのにも拘らず領土争いをしない限り、この町はアメリカの国に属している。」

 

「そうですね。」

 

「という事はアメリカは生きていると考えてもいい。だから大本営に報告に行ったんだ。ただ、少し時間は経ってるけどな。」

 

そう言って俺は持ってきた書類を古鷹に見せた。それを見た古鷹は読み切ると、俺に返し、質問をしてきた。

 

「という事はこっちから使節を送るか、あちらから使節を連れてくると?」

 

「そういう事になる。」

 

「では、私たちが派遣されるんですね?」

 

そう訊いてきた古鷹にもう一枚俺は書類を見せた。それはいつも送られてくる書類の中に入っていたものだ。

 

「それには大本営が指揮している鎮守府が請け負う事になっている任務だ。殆どが資源輸送任務だが、大型艦が多く任務として出撃する予定のところを見るんだ。」

 

「北方海域ですか?」

 

「そうだ。北方海域にそんな数の出撃があるという事は、俺たちがしなければならない哨戒任務を肩代わりしている。つまり、あの一帯の深海棲艦の残党を殲滅して安全を確保する準備だという事だ。」

 

「という事は私たちは派遣される事は無いと......そういう事ですね?」

 

「あぁ。」

 

そう言って書類を返してくれた古鷹は本をまた開いた。

俺は持ってきた書類を戻しに行こうと立ち上がり、机に置くと今度はプリンツに話しかけられた。

 

「どうした、プリンツ。」

 

「ちょっと提督に話があってね。」

 

そう言って俺にどっから持ってきたのか独和辞典を俺に見せつけてきた。開いたページにプリンツは指を指している。

 

「ん?どうしたんだ、プリンツ?」

 

「だからー、ここ読んで!」

 

そう言われ、俺は指に刺されているところを読んだ。

 

「プリンツじゃないか。」

 

「そうですよっ!って、違います!日本語訳を見て下さいっ!」

 

そう言われて俺は日本語訳を見た。プリンツの日本語訳は"公子"となっている。多分"公子"というのは貴族の男子というのが直訳だと書いてあるが、一般的な日本語訳だと"王子"や"親王"らしい。

 

「へー。そうなんだ、プリンツ。」

 

「だーかーらー、提督は私の事を『王子』とか『親王』って呼んでる事になるんですよ!」

 

俺はここではっと閃いた。つまり、プリンツは俺がフェルトを『グラーフ』と呼んでいた事と同じことになっているんだろう。

 

「分かった、オイゲン。これでいいか?」

 

「うんっ!Danke!」

 

そう言って満足そうに独和辞典を置きに戻ろうとするプリンツを引き留めた。

 

「ちょっと待った。何で今訂正したんだ?訂正するならフェルトの時みたいに言えばよかったじゃないか。」

 

そう言うとオイゲンはモジモジし始めた。

 

「だって、まだあの時は勉強中でしたし......。」

 

「あー、分かった。」

 

俺はそれだけで納得した。勉強中だったのなら仕方がない。

 

「ん?今訂正したって事はオイゲンはまだ勉強中?」

 

「うん。今は応用を勉強中です!日常会話なら大丈夫なのでっ!」

 

そう言って笑ったオイゲンは独和辞典を置きに本棚に向かったが、俺は視線をずらした先にビスマルクが居たので少し観察してみた。

ビスマルクは俺が見た途端あからさまに目を逸らした。という事は、言う事はたった一つ。

 

「ビスマルク。」

 

「なっ、なに?」

 

「勉強しろ。」

 

そう言うとビスマルクは艤装をガチャガチャ言わせながらこっちに来て言った。

 

「大丈夫よ!話せるからね!書けなくたって生きていけるわ!」

 

ビスマルクは胸を張って言うが、書けないのは致命的だという事に気付かないのだろうか。

 

「はぁ......大規模作戦が終わったら通常の運転に戻るだろう?」

 

「そうね。」

 

「秘書艦のローテーションに俺は口出しした事無いが、ビスマルクだけはローテーションに入れるなって言っておく。」

 

俺がそう言って炬燵に入ろうとするとビスマルクが怒って説明を求めてきたのは言うまでも無いだろう。

説明には俺は『字か書けないと秘書艦は勤まらない。』の一転張りで耐えしのいだ。

 





連続でビスマルクが弄られているのは気にしないで下さい。

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