【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百二十三話  operation"typhoon"③

 

「作戦艦隊が帰投した。」

 

そう言って埠頭に出迎えに行っていた俺の目の前に、プスプスと火の粉を出しながら航行している本隊の艤装があった。

どうやら炎上もしていたみたいだ。そんな報告は無かったが、いつ燃えたのだろう。

 

「お疲れ。......損傷艦は入渠、作戦艦隊の艦娘は休息を取るんだ。」

 

「「「「「「了解。」」」」」」

 

見るからに落ち込んでいる。支隊の方はそうでもないが、本隊は直接戦闘をしていただけある。最深部直前まで迫れたというのに、撤退しなければならなかった事が相当悔しかったのだろう。

 

「失敗しても......。」

 

「?」

 

俺は横を通り過ぎようとしていた長門に聞こえる声でそう呟く。

 

「失敗しても、それを糧に乗り越える......。そうだろう?」

 

「......あぁ、誰も轟沈しなかった、それだけで十分だ。」

 

そう言って長門は入渠場に向かっていった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は出迎えの後、警備棟に来ていた。

何のためかというと、霧島と熊野、叢雲の調査が意味をなさなくなってきたので、奥の手だ。

 

「......任務中にすみません。」

 

「いえ、提督がお呼びとあらば。」

 

「大丈夫ですよ。」

 

警備棟のある応接室に俺は巡田と西川に来てもらっていた。

 

「それで、どういった御用件でしょうか?」

 

そう訊いてくる巡田に俺は率直に言った。

 

「巡田さんには鎮守府、本部棟に潜入して艦娘の動向を調査して欲しいんです。」

 

「はい?」

 

巡田は『何言ってんのコイツ』みたいな顔をして返事をした。

 

「ちょっと待ってください。......艦娘の動向を調査ですか?」

 

「はい。と言っても艦娘は指定するので、その艦娘だけですが。」

 

そう言うと、少し考えた後、巡田は引き受けると言ってくれた。

 

「それで、どの艦娘ですか?」

 

「霧島、熊野、叢雲です。」

 

俺が名前を挙げると、巡田がまた考え出した。

 

「......霧島さんと熊野さんは出来ますが、叢雲さんは......。」

 

「やりにくいですか?」

 

「いえ。叢雲さんは感が鋭いのと気配を察知するのに長けているみたいなんです。」

 

巡田の言葉で俺はある事を思い出していた。叢雲は『近衛艦隊』でしかもその中でも異質の存在。立ち位置が分からないんだ。

 

「......出来る範囲で構いません。」

 

「分かりました。」

 

そう言って巡田は机に置かれたコーヒーに手を付けた。

 

「西川さんは休憩の合間、艦娘と話す事があればなんでも構いません。霧島、熊野、叢雲の事をそれとなく訊きだしてくれませんか?」

 

「了解しました。」

 

西川はすぐにやってくれると言ってくれた。

 

「提督、私は本部棟に潜入するだけでいいですか?」

 

「えぇ。ですがくれぐれも注意して下さい。巡田さんに頼む前までも別に調査していた時に分かった事なんですが、本部棟のありとあらゆる空間を金剛が把握しています。ですので普通に知られていないであろう廊下や、通路、部屋に居ても見つかってしまう可能性があります。」

 

「金剛さんですか......。下手したら消されますね。」

 

「多分。......ですので、携帯端末で連絡してください。潜入を始める時と潜入中は10分おき、潜入を中断する時と必ず連絡してください。」

 

「了解しました。」

 

俺と巡田、西川はこうして応接室を出て行った。

もう艦娘を頼って調査なぞ出来ない、そう思い至った結果だ。それに、イムヤの事も気になる。赤城もだ。

一体、鎮守府で何が起こっていると言うのだろうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

全員が集まった会議が空き部屋で行われてます。今日は、私たちが作戦中に会議で出た草案やらを検討する事が目的ですが、案外早く終わりました。

資材、開発資材で建造を行い、自分たちの艤装を近代化改修するというのは駄目になりました。理由は長門さん曰く『提督は近代化改修によって艤装の能力が上がるのを数値で記録している。』だそうです。勝手に近代化改修をしてしまえば、数値との相違が生じ、提督に感づかれてしまうとの事でした。

次に、提督が渋っている大型艦建造をしてこちらで勝手に艦娘を取り込むというものですが、これも駄目です。理由は工廠の妖精はこちら側ではないからです。

結局余りある資材は売り払い、開発資材やバーナーなどはそのまま保管する事になりました。

そして、次の議題になります。

 

「次......こちら側に取り込む艦娘の選定ですか?」

 

私がそう言うと、叢雲さんが誰だか言ってくれました。

 

「強行偵察艦隊を取り込むのはどうかしら?」

 

確かに、彼女たちなら妥当だと私も思います。それに、強行偵察艦隊と言えば、これから先、何か有益な情報を手に入れてくれるかもしれませんしね。

 

「私は賛成です。」

 

そう言ってとんとん拍子で会議が進んでいきました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

こちらで新瑞さんに資材売却は可能かという趣旨の手紙を書き、私はフェルトさんに会いに行きました。

 

「フェルトさん、頼まれてくれませんか?」

 

「あぁ、赤城か。なんだ?」

 

「これを作戦艦隊が出撃した時、執務の書類と一緒に事務棟に提出して欲しいんです。」

 

私は少し不安ではありましたが、フェルトさんは快く受けてくれました。

 

「分かった。預かろう。」

 

「ありがとうございます。」

 

私はそう言ってフェルトさんと別れました。

その後は自室に戻って、色々と考えを巡らせます。この先、どうしていけばいいか。提督の事、作戦の事......。ですけど考えたらキリがありません。今は団体行動で動いているんです。私だけで判断は出来ません。皆で話し合って、より良い選択をする。そうしていた方が、断然いいと思っていますから。

 

「赤城さん。今日の会議の事なんだけど。」

 

「はい?」

 

私室で考え事していると加賀さんが話しかけてきました。

 

「強行偵察艦隊を仲間にするって事だけど、最終的には艦娘全員の耳にこの話を入れるんでしょ?」

 

「多分ね......。」

 

そう確認を取るかのように加賀さんは訊いてきましたが、この後、とんでもない事を言い出しました。

 

「なら全員を集めて、話した方がいいんじゃないの?今やっている作戦が終わった後にでも。」

 

「それは考えましたが、士気が下がる可能性がありますので出来ませんね。全体の士気が下がってしまうと、それこと提督に感づかれてしまいます。」

 

「そうですか......。」

 

加賀さんは残念そうな表情をしましたが、加賀さんの言ってる事は一理あります。一気に広めてしまって、全員で行動する。全員が全員、そうなってしまえば、提督は不安になってしまうかもしれませんが、役割分担をすることでそれを軽減できるかもしれないですね。

ですけど、私の中ではやるべきでないという意見の方が強いです。徐々にこちら側を増やして言った方が良いと思います。

 

「ですが何れ全員知らせなければいけません。」

 

「そうですよね......。」

 

私はそう言って机に向かいます。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「榛名。」

 

「はい。」

 

今日の秘書艦は榛名だ。昨日までは番犬艦隊と番犬補佐艦隊が執務室に居た感覚が抜けてないのか、少し寂しく感じる。

 

「明日、リベンジだ。作戦艦隊に夕食後に伝える。」

 

「分かりました。」

 

榛名は何も聞かずに頷いてくれる。まぁ、有難いと言えば有難いが、損もしている気もする。

そしてある事を訊いてみる事にした。霧島の動きについてだ。

 

「なぁ、榛名。」

 

「はい。」

 

「最近、霧島が変だと思った事、あるか?」

 

そう訊くと榛名は首を傾げた。どうやら思ったことは無い様だ。

 

「うーん......特に変だとは思いません。いつも通りですよ。」

 

「そうか......。」

 

次は熊野だ。榛名は確か熊野と一緒の事が多いと言っていたからな。金剛や鈴谷を見張る為に。

 

「熊野は?」

 

そう訊くと榛名はさっきとは違う反応を見せた。

 

「......熊野さんは少し変です。」

 

やはりそうだった。

 

「どういったところだ?」

 

そう訊くととんでもない事が榛名の口から伝えられた。

 

「よく姿を消すようになりました。そう、鈴谷さんやお姉様の様に。」

 

「......なっ?!」

 

どういうことだ。熊野は自分を『親衛艦隊』だと言っていた。なのにも拘らず、そんな事になっているとは予想を斜め上に行っていた。

 

「ですから榛名もよく探してるんですけど、見つからないんです......。」

 

そうしょんぼりした榛名は秘書艦席に座った。

 

「そうか......。」

 

そう言うと榛名から更に驚く情報が出てきた。

 

「というか熊野さんだけではないんですよ。長門さん、加賀さん、時雨さん、夕立さん、イムヤさんもよくいなくなるって訊きました。」

 

「どういうことだ?」

 

「榛名にもさっぱり分かりません。あ、あと。」

 

榛名は続けた。

 

「霧島から訊いたんですが、霧島って『特務』をしているんですよね?」

 

「まぁ......そうだな。」

 

「叢雲さんや熊野さんも『特務』をしているらしく、『特務』と言ってどこかへ行かれるのは見てましたが、最近は何も言わずに行ってしまうんですよね。ですからそう考えると、霧島や叢雲さん、熊野さんが何かをしているような気がしてならないんですよね。」

 

そう言って榛名は『まぁ、思い違いならいいんですけど。』と言って書類を出しに事務棟に行ってしまった。

一体どうなっているんだろうか。思わぬところで情報を手に入れたが、まだ少ない。様子がおかしいのははっきりしたので、巡田の調査結果によるだろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「領空侵犯だと?!」

 

男は驚いた。久々に慌てて報告が入ったかと思ったら、領空侵犯だった。

 

「それで、どこの国だ?冷戦時代の骨董品で飛び回ってるロシアか?」

 

男は煙草をふかしながらそう部下に訊く。だが一方で部下は青い顔をして男に言った。

 

「違います......日本です。」

 

「は?もういっぺん言ってくれ。」

 

「日本です。」

 

男は口をあんぐりと開けて付けた煙草を灰皿に押し付けた。

 

「日本とは連絡が途絶えているぞ?!横須賀に居た第七艦隊と通信が途絶してから何の音沙汰もないじゃないか!」

 

「ええ、そのはずなんですが......。」

 

そう言って部下は男に写真を見せた。その写真は今の時代、ロシアの冷戦時代の戦闘機よりも骨董品、否、化石とでもいえる代物が映っていた。

 

「これは......レシプロじゃないか!?」

 

「はい。それもこの飛行機、専門家が写真から調査したところ......。」

 

部下はどもった。言うのを渋っている。そんな部下に男は急かした。

 

「なんだ、言ってみろ。」

 

「太平洋戦争時に使われていた日本の艦載機です。」

 

「は?その専門家、一回病院に連れて行け。」

 

「いえ、確かにそうですよ!」

 

そう言って部下は新しい写真を男に見せた。その写真は拡大写真で、解像度も上げてある。

 

「深緑のボディに腹は白色。赤い日の丸......。」

 

「当時はジュディ、正式には彗星と呼ばれていた艦爆らしいです。」

 

「なんでこんなモノが......。」

 

そう男が尋ねると、部下は報告書を読み上げだした。

 

「昨日、アラスカ州沖で深海棲艦が動き出したので、警戒していたところ、未確認飛行物体が接近。サーチライトを照射したところ、逃げ出したとの事です。」

 

「数は。」

 

「1機です。」

 

男は新しい煙草を抜き、ライターで火をつけた。

 

「スゥー......極東は生きているんだな。」

 

「定かではありませんが。」

 

そう言って男は自分の背後にある地図を見た。そこには赤い線が太平洋の東に引かれている。ほぼ大陸の擦れ擦れの位置だ。

 

「『世界の警察』が今では国内の治安しか守れていないな......。一度現れたのならまた現れるだろう。アラスカ州に伝えろ。『また来たらその時は話せ。』と。」

 

「分かりました。」

 

男は立ち上がり、窓の外を眺めた。

 

「もう我々に戦うだけの戦力は残っていない......。助けてくれ。」

 

その声を届くのを願った。

 





はい。昨日は申し訳ありませんでした。
偶にある忙しさですね。これからも続くみたいで困ってます。

別視点が増えましたね。まぁ一発で分かるでしょうけど。

それといつも投稿できない時はTwitterで報告してます。ですけど、まぁ今回のはもうわかっているのでここで......明日の分は出せませんっ!!多分書く前に撃沈すると思うので......。

ご意見ご感想お待ちしてます。

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