【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百二十二話  operation"typhoon"②

 

リランカ島に無事到着した私たちは、今からリランカ島から西進してカスガダマ島を目指す。

作戦行動中、潜水艦に遭遇する可能性が高いからという事で、夜戦で大いに働いてくれる雪風と島風に対潜装備を施している。2人がその装備なら一応、夜戦が不得意な私以外に夜戦を行えるのは実質、高雄しかいない。空母の赤城や加賀は勿論夜戦なぞ出来ない。

 

「日が沈む前にカタをつけなくてはいけないな。」

 

私はそう自分に言い聞かせ、朝日に背を向けた。

 

「準備はいいかっ!これよりカスガダマ島に向けて前進する。各支隊は出航後散開、遠征航路を巡航せよっ!」

 

「「「了解。」」」

 

今回は本隊ではなく支隊の旗艦になった陸奥を見て私は少しうれしくなった。

これまで共に戦線を駆け回った仲間でもある陸奥が支援をしてくれる。これ以上無い程、安心できるのだ。今回は居ないが、比叡や霧島の支援も安心できるが、やはり姉妹であり、提督が進水したての陸奥を戦場に放り出してくれたお蔭で、比叡や霧島に引きを取らない程、成長し、強くなった。

鎮守府に来てから期間は短いものの、実績があり、信頼がある。彼女自身、運の悪さやしきりに第三砲塔を気にしてはいるが、不調で砲撃が出来なかったなんて訊いた事も無い。

それと支隊には私の進水以前から居た扶桑、山城がいる。彼女たちは史実で欠陥戦艦だと言われ続け、出撃を殆ど経験したことのない戦艦だったが、それはあくまで史実だ。

私がこの目で見た扶桑と山城は、少ない味方の矛となり、盾となっている姿だった。『私たちは戦艦だから、持ち前の主砲と装甲を使わずして何が戦艦でしょう。』、『私と共に征く仲間たちを沈ませる訳にはいかないの。』そう進水したての私に言っていた。

だから私も死に物狂いで練度を上げ、技術を磨いた。

性能面で見れば私と陸奥、他の戦艦の方が良い事は明白だ。だが、皆が口を揃えて扶桑姉妹を『提督の伝家の宝刀』と言うのには、こうやって自らのすべきことをして、皆を守り、導き、地道に積み重ねてきた努力がそう皆に伝わったのだろう。

 

(先輩が居るんだ......勇ましく戦って、勝利するんだ。)

 

そう私自身に言い聞かせた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

最深部までは支援なしでは戦えないくらいの激戦だった。空母や戦艦がわんさか居る、水雷戦隊の攻撃が経験してきた中で一番激しかった。

駆逐艦の中で夕立は異例だが、夕立を抜けば一番に強い雪風も中破している。島風はまだ大丈夫な様だ。高雄は後部主砲が吹っ飛んでいる。赤城や加賀も少なからず損傷を受けていた。私も第二艦橋が被弾していた。

 

「長門より第一支援艦隊、支援感謝する。」

 

『勿論よ。』

 

第一支援艦隊の陸奥に礼を言って、前進の号令を出した。

 

「この先は最深部だ。......これまでに経験したことのない激戦を潜り抜け、遂に最深部に攻撃を仕掛ける。」

 

そう言って私は通信妖精に鎮守府に繋げてもらい、指示を仰いだ。状況が状況だ。現場で判断は出来ない。

 

「こちら長門、最深部直前に到達した。だが本隊に損傷艦が多数、私や高雄、赤城、加賀は小破だが、雪風が中破している。指示を仰ぎたい。」

 

『お待ちください。』

 

鎮守府の通信妖精がそう言って多分、提督を呼びに行ったんだろう。

数分待つと提督の声が聞こえた。

 

『提督だ。長門、状況は訊いた。雪風に具合は訊いたか?』

 

「あぁ、だがこのままだと進めば轟沈してしまうかもしれない。」

 

そう言うと向こうから声が聞こえなくなった。だがすぐに聞こえてきた。

 

『近くに第二支隊が居るだろう?そこの神通と交代できるか?』

 

「編成を入れ替えるって事か?」

 

『あぁ。』

 

提督は突拍子もない事を言って来た。

いきなり支隊と本隊の編成を変えると言うのだ。そんな事をすれば、システム外行動だ。

 

「それは多分無理だ。」

 

『......だろうな。作戦艦隊は反転、鎮守府で修理と補給だ。』

 

「......了解。」

 

やはりそうなったか。私はそう思った。

いつもの提督だとこういう判断を下す。誰も轟沈を出さないための指示だ。だが、直ぐ目の前まで来ているというのに提督はそれを知った上で指示したのだ。

 

「もっと、『戦艦らしく』だな。」

 

そう呟いて全艦に撤退指示を出す。

 

「長門より作戦艦隊、本隊に損傷艦多数居るためこれより撤退する。」

 

そう伝えたが、皆からは落ち込んだ返事しか返ってこなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

やはりおかしい。

霧島や熊野、叢雲の様子がおかしいのだ。思い上がりかもしれないが、霧島や熊野は頻繁に俺のところに来ては些細な事も報告していたというのにそれが無い。そして叢雲の目に光が見えないのだ。これは俺も見たことがある。金剛が誰かを殺めようとして、俺のところに現れる時と同じだ。

一体、彼女たちに何があったんだろうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今日の番犬補佐艦隊は割とまともだ。

 

「......(執務室にあるファイルを見てる)」

 

俺に『水雷戦隊での編成時の報告書を見せてくれ。』と言って許可出して以来ずっと噛り付くように見てる木曾。

 

「......(戦術指南書を見てる)」

 

対潜戦闘と装備に関する戦術指南書と付箋が貼られまくったノートを持って現れた由良。

 

「阿武隈ー。この時ってどうするんだっけ?」

 

「セオリー通りなら、複縦陣で突撃だと思うよ?」

 

水雷戦隊の運用に関する戦術指南書を囲んで何やら勉強をしている鬼怒と阿武隈。

 

「......(みかんを食べてる)」

 

炬燵でみかんを食べている深雪。

 

「......(ジー)」

 

炬燵で寝転がって頭だけ出ている状態だが、俺の方をじーっと見てるイムヤ。

 

「今日は割とまともなんだな。」

 

今日は割とまともなのだ。

これまでの番犬補佐艦隊はかなりカオスだったからな。

執務も終わり、手持無沙汰になった俺はこたつに入りに行った。たまたま空いているのがイムヤの横だったのでイムヤに横に入っていいか聞いた。

 

「横いいか?」

 

「いいよ。」

 

快く良いと言ってくれたので俺はもぞもぞと入っていく。

そして横で寝転がっているイムヤを見てあることを思い出した。俺の方針だ。

潜水艦の運用法がどれだけあるか分からないが、俺の知っている運用法は『デコイ』と『資源回収』だけだった。『デコイ』は深海棲艦が水雷戦隊で対峙して来ることが分かっている時、攻撃を潜水艦に集中させる為に編成する。『資源回収』は有名所を言えばオリョクル、バシクル、カレクルだろうか。隠密性の高い潜水艦がそう言った資材が大量に確保できる海域で資材を集めるためだけに出撃する事だ。しかも何度も出撃させられるらしい。らしいと言っているのは俺はやった事ないし、見たことも無いからだ。

これ以外に潜水艦の用途があるならぜひ知りたいものだ。

と言う訳で、多分大和型が来ても潜水艦以上に箱入りにならないだろうと言う程出撃を渋っているのだ。俺は。

だからウチの鎮守府で一人だけの潜水艦であるイムヤに心の内を訊こうと思う。

 

「なぁ、イムヤ。」

 

「なに、司令官。」

 

頭だけ出しているイムヤは答える。

 

「出撃したいって思ったことはあるか?」

 

「......そうねぇ。」

 

イムヤは考え出した。そしてすぐに答えを出してくれる。

 

「今はまだいいわ。だけど潜水艦の仲間が増えたら、一緒に色々な海域を見たいって思ってるわ。」

 

「そうか。」

 

どうやら表面上はしたいとは思ってないらしい。でも仲間が増えたら、と言った。確かにここ最近というか年越す前から空母レシピをぶん回していたからレア軽巡レア駆逐レシピを回していない。偶には回してみようか。最近、建造や開発もやっていないから開発資材が少し余裕があるからな。

 

「じゃあ、寂しいって思ったことは?」

 

仲間がと言うなら寂しいと思って居る筈だ、俺はそう思った。回答次第で建造をするつもりだ。

 

「......思うわ。寮に帰っても潜水艦の私室には私しかいないもの。」

 

イムヤは紅い瞳で俺を見つめて言った。

 

「そうか。......なら建造するか!潜水艦。」

 

「本当に?」

 

「あぁ。」

 

俺はそう言って立ち上がり、フェルトに指示を出した。

 

「今すぐ建造だ。レア軽巡レア駆逐レシピを4回だ。」

 

「分かった。今すぐ行こう。」

 

そう言ってフェルトに指示を出す。フェルトは建造結果報告の紙を持って執務室を出て行った。

 

「ありがと、司令官。」

 

「いいさ。」

 

そう言って俺は炬燵に深く入った。そんあ俺にイムヤは話掛けてくる。

 

「ねぇ司令官。」

 

「ん?」

 

俺は何か普通な事を聞かれると思っていた。

 

「『辛い』って思った事、ある?」

 

イムヤが訊いてきた事は、意味が判らなかった。なんだ、辛いって。

 

「......どういう意味だ?」

 

「そのままの意味よ。何か『苦しい』とか、『辛い』とか思った事ある?」

 

イムヤの目はさっきとは変わらないが、明らかに何かの思惑があるような訊き方だ。

 

「そうだな......考えた事も無い。」

 

俺は取りあえず、そう答えた。取りあえずと言っても、確かに考えた事も無かった。この世界に来て、色々な事が起きて、こうして生きている事で精いっぱいって感じだ。

確かに、大きく環境は変わった。だが、そんな事も考えている暇なんてなかった。

 

「そう......。でも『寂しい』って思う事はあるでしょ?」

 

「っ?!」

 

イムヤの意味ありげな『寂しい』はどう考えても何かを含んだ言い方だ。

確かに、『寂しい』と思う事はある。だが、そんな事を言ったのは訊いてきた『叢雲』だけだ。何故、イムヤにそんな事を分かった風に言われたのか分からない。

 

「そりゃそうよね。」

 

「......どういう意味だ?」

 

イムヤは俺から視線を外さずに続けている。

 

「『大半の艦娘は気付いてないわ。今のこの鎮守府での生活をなんも疑問に思ってないもの。』」

 

どういう意味だ?

なんだ、その意味ありげ、否、その言葉自体に意味を詰め込んだ様な言葉は。それに、今のイムヤの様子は見たことがある。

最近、様子のおかしい霧島と熊野、叢雲と同じだ。これだけは断言できる。『イムヤも霧島や熊野、叢雲と同じだ』という事だ。

 

「大半ってどういうことだ?」

 

「そのままの意味よ。『大半の艦娘は気付いていない』わ。」

 

イムヤの目がどんどん淀んでいく。どうなっているんだ。

 

「もう一度、聞くわ。『辛い』って思った事、ある?」

 

俺はこれまで考えていた思考をすっぱり切り捨てて、考え直す。『辛い』と思った事を。

 

「......『辛い』って考える暇がなかった。......じゃだめか?」

 

「ううん、それでいいわ。......考える暇がなかったのなら、一度考えてみた方が良いわよ?」

 

「そう、かもな。」

 

俺はそうイムヤに言われて、考えはじめた。『辛い』と思った事を。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は炬燵に入りながら考えを巡らせた。

先ず、俺は何をしているかだが、『提督を呼び出す力』によってここに呼び出され、艦娘の指揮官を頼まれた。そして俺はそれを受け入れ、指揮官となった。今は横須賀鎮守府艦隊司令部司令官。

直接、『横須賀鎮守府艦隊司令部司令官』という言葉を考えた事は無かったが、よく考えてみれば横須賀鎮守府は鎮守府と呼ばれているが故、軍事施設だ。そして『艦隊司令部司令官』という事は、実質『横須賀鎮守府』の最高責任者だ。

次に、俺はここで何をしなければならないか。俺はここで艦娘を指揮し、深海棲艦と戦い、海を取り戻す。これは俺がこの世界に来る前、『艦これ』でやっていたゲームの設定と同じだな。まぁ判り易く言えば、『戦争をしている』って事だな。

次、自分が指揮官だという事を考えたことがあったか。率直に言ってない。指揮しているという感覚はあるが、どうだろう。

だが、一つ言える事は俺の指示で大勢の人間と艦娘が動く事だ。これはもうしている事が指揮官だ。そして指揮官と言えば責任がかならず付いてくる。失敗した部下の責任、作戦を失敗してしまった責任、色々な責任。これまで色々な責任を負ってきた。一番は鎮守府の外との関係だ。メディアと艦娘がいざこざを起こしたり、自治体と衝突したり、それを俺は全て見てきたし、責任を負った。だが、目に見えているのはそれだけだ。

考えると、俺の双肩にかかっているのは鎮守府で俺の指示に従う人たちや艦娘だけでなく、鎮守府の近くに住んでいる人々、果てはこの国の人々の命を背負っていると言っても過言ではない。深海棲艦は海をつい最近まで支配していた。そして、陸への攻撃も仕掛けている。それ則、俺の裁量次第で鎮守府の背後に居る人々の命を背負っているのだ。もし俺がこの深海棲艦との戦いで負けるような事があれば、じりじりと深海棲艦はにじり寄ってきて、継戦力を失った俺に鎮守府の背後に居る人々はなんて言うんだろうか。

 

ここまで考えて思い出したが、この世界に来るまでは大学合格を目指して受験勉強を一生懸命やっていた。平日は勿論、土日も勉強していた。高校に上がった時からずっとそんな生活をしていた。友達が遊びに行っている間、俺は学校で勉強をしていた。グラウンドで部活動のする声が聞こえているのに俺は勉強をしていた。

それは全て目指している大学合格に向けられていた。ふと、執務室に掛けられていたカレンダーに目をやる。もう、試験日過ぎている。

年越すまでは勉強を隠れてやっていたが、年越した当たりで多分内心諦めていたんだろうな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「『辛い』か......。」

 

「どうしたの、司令官。」

 

俺はそう口に出していた様だ。

 

「そうかもしれないな。」

 

「なんで?」

 

「こうして落ち着いて考えると見えてなかった事が見えてきたんだ。」

 

そう思って、最期に辿り着いた。

 

「忙し、くはないが......俺は誤魔化していたんだと思う。」

 

「何を?」

 

俺はイムヤに様に寝転がり、首元まで炬燵に入った。身長が高いので足を折ってだが。

 

「『責任』とかかな......。」

 

「そう......。」

 

「それに忘れてたよ。俺、18なんだよな。」

 

そう言って天井を見上げる。

 

「自分で言ってたじゃない。」

 

「そうだな。......今日って何日だ?」

 

俺はさっき自分で見たのにも拘らず、イムヤに訊いた。

 

「27日よ。」

 

俺に現実を突き付けてくるその日は俺の目指していた日はとうに過ぎていた。

 

「はははっ......。」

 

唯、俺は嗤う事しか出来なかった。

 

「どうしたの?」

 

「『終わった』んだなってな。」

 

そう俺が言うとイムヤは急に炬燵から這い出て俺の横で正座した。

 

「私もね、『責任』っていうか、そんなものを感じているの。」

 

「ん?」

 

かしこまったイムヤに俺は目線を向けた。

 

「だから、司令官......。『終わった』かもしれないけど、諦めないで。先ずは、この戦争を終わらせることを考えましょ。」

 

「そう、だな。」

 

そう言ったイムヤは姿勢を崩すとまた炬燵に入った。

一体、何だったんだろうか。イムヤは俺に何を考えて欲しかったんだろうか定かでないまま、俺の呟いた一言からそう結論付けた。それに『辛い』から『責任』に変わってしまっていたことを何も言わなかった。

どういうことなんだろうか。だが考えた後、また思い出した事がある。

いつだったか覚えてないが、赤城が俺の見ていた数学Ⅲの参考書を興味津々に見ていた事だ。俺はあの時、赤城に『これを勉強して何に使うんですか?』と聞かれた後、『将来使うんだ。』と答え、その後に『もう必要ない』と答えていた。この部分の記憶は確かに残っているから間違いないが、何だかこの会話が引っかかる。

 





提督が遂に考えましたね。
イムヤが唐突に仲間の指示なしに行動しましたけど、どういう意味があるのやら。

一方で作戦は失敗して、艦隊が帰ってきます。直前で撤退命令ですね。うん。

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