【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百二十一話  operation"typhoon"①

 

作戦名『タイフーン』。カスガダマ島沖を牛耳っている西方海域中枢艦隊を撃破するこの作戦は、作戦名の由来通り、深海棲艦に混乱を誘発させる事を目的としている。

別海域の制圧から短期間でこちらの主力を投入した全力攻撃に混乱してもらうのが目的だ。

何故、混乱させるとか考えているのかというと、深海棲艦に戦術思考が増えたからだ。俺がこの世界に来てから起きているイレギュラーの1つを利用させてもらう。

これまで深海棲艦の混乱と言えば、奇襲のみだったそうだが戦術思考が大なり小なりできるようになってからは変わっていると俺や長門ら古参組は見解している。

それと、威力偵察任務を担っている球磨らの意見から『漸撃された深海棲艦側の艦隊にはその都度、補充がある。』というのを訊いてから、作戦が実行される処も多い。補充があるという事は、あちら側の被害を確かめ、鑑みて補充する程度の脳はあるのだ。被害を確かめているという事は、どこにあるか不明の深海棲艦の中枢にも連絡は届いていると俺は考えている。そして末端の各方面の海域を制圧している深海棲艦にもだ。

 

「これより西方海域へ向け、作戦艦隊は出撃。」

 

これから攻める西方海域に北方海域の制圧の連絡も届いている筈だ。

短期間の2方面制圧は無茶がある。それもあちらは分かっているだろう。だからあえて行動するのだ。

 

「目標は最深部、未確認深海棲艦だ。」

 

俺はここに現れる深海棲艦を知っている。だが言うべきではない。それにシステム通りなら連続出撃をしなくてはならいが、どうなっているか分からない現状、言うべきではないのだ。臨機応変に対応するべきだと考えた。

 

「撃破したならばこの大規模作戦は終了となる。心してかかれっ!」

 

「カスガダマまではリランカ島への護衛任務と同じ経路で行く事。」

 

俺は言い聞かせ続ける。

今から出撃する艦隊は前回同様に24隻で出撃、遠征を装い、支援攻撃を加えてもらう。

本隊旗艦:長門、高雄、雪風、島風、赤城、加賀。第一支隊旗艦:陸奥、川内、吹雪、白雪、蒼龍、飛鷹。第二支隊旗艦:扶桑、山城、神通、白露、時雨、飛龍。第三支隊旗艦:愛宕、摩耶、鳥海、村雨、夕立、瑞鶴。

この編成だ。

 

「作戦艦隊は出撃っ!目標、カスガダマ島っ!」

 

「「「「「「了解っ!」」」」」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

例の如く、番犬艦隊と番犬補佐艦隊が執務室に居る。

 

「提督、カスガダマ取り返したら、あの辺掃討してドイツと大きい貿易ができるわねっ!」

 

「これまで以上に貿易品が増えますよっ!」

 

半興奮気味にそうビスマルクとプリンツは喜んでいた。一方、他の艦娘はというと。

 

「旨い......。」

 

俺の真横でコーヒーを飲んでいるフェルト。

 

「これ、面白いよ。」

 

「そうね......。」

 

机に置いてあった俺の本を見ているレーベとマックス。

 

「......(俺の手元を凝視)」

 

相変わらず不思議ちゃんのユーだ。ちなみに全員艤装を身に纏っている。ビスマルクとフェルトの艤装は大きいので細心の注意を払っているらしい。

それと番犬補佐艦隊はというと......。

 

「ふんふーふん♪」

 

楽し気にお茶を汲んでいる鳳翔。

 

「九九艦爆の足がとっても可愛いのっ!」

 

「瑞鳳、今積んでるのは彗星でしょ?彗星の妖精さんがまた拗ねちゃうわよ?」

 

炬燵で艦載機に関する本を開いている瑞鳳と、その横でみかんを剥いている祥鳳。

 

「......(戦術指南書を見てる)」

 

黙って戦術指南書、水雷戦隊に関する物をすごく真剣に読んでる夕張。

 

「......(爆睡中)」

 

「もぉー......。」

 

炬燵で爆睡している初雪の面倒を見ている磯波。

 

「うむ......。」

 

言わずともカオスだと分かっている俺だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「どうぞ、提督。」

 

俺が執務をしていると、鳳翔が俺の机に湯呑を置いた。

 

「ん?」

 

「お茶です。」

 

「あぁ、ありがとう。」

 

そう言って俺が湯呑を手に取り、口につけた瞬間、鳳翔の後ろでお盆を持って止まっているフェルトが居た。

お盆の上には多分自分のコーヒーと、チラッと見えたがもう一つカップが乗っていた。

 

「......(ズズッ)」

 

チラッとしか見えなかったが、多分あれは俺の周りに居る誰のでもないだろう。ビスマルクやレーベ、マックス、ユーは自分のカップを執務室に置いて行くようになったし、フェルトも然りだ。

俺は執務室に元からあるカップを使っている。どうやら長門がずっと昔から用意していたものらしい。

それがチラッと見えたという事は、多分フェルトは気を利かせて淹れてきてくれたのだろう。

 

「あっ、フェルト?」

 

「......む、何だ?」

 

少し目を赤くし始めているフェルトに声を掛けた。

 

「ミルクと砂糖、一杯ずつ入れてくれないか?」

 

「あぁ......。」

 

そう言ってフェルトがあっちを見た瞬間、俺は手に持っていた湯呑を一気に飲み干し、喉を通って行った熱いのを我慢した。

それを見ていた鳳翔は慌てる。

 

「あっ、あのっ......大丈夫ですか?」

 

「大丈夫......多分。」

 

淹れてくれたお茶を残す訳にもいかずに一気飲みしたが、熱い。

 

「......。」

 

そんな鳳翔とのやりとりを訊いていたフェルトは無言で俺の前にカップを置いて俺の横に立った。

 

「あ、ありがとう。フェルト。」

 

「あぁ。」

 

必死に表情が変わるのを堪えているが、口角が上がっている。

そう言えば言い忘れていたが、ドイツ艦全員に言えることだが、帽子を室内では取る事にしている。なのでフェルトは勿論、ビスマルクたち全員が帽子を取って生活している。

帽子を取るように言ってから気付いたんだが、フェルトは目つき悪いとか言っていたが、帽子を取ればそうでもない。普通の艦娘、人だ。

まぁ、今も取っている訳で、どうやら帽子で顔を隠す癖があるのか、何かあるたびに頭に手を伸ばして帽子が無いとあたふたしている。これは他のドイツ艦にも言える事だ。

 

「......むぅ。」

 

と、フェルトがあたふたしているのを見ていると、鳳翔が膨れた。

何故膨れたのか分からないが、いつもの優しそうな表情ではなく、ムキになっている様子。ぱっと振り返り、鳳翔はおぼんに俺の飲み切った湯呑を乗せて引っ込んで、再び出てきた。

 

「......。」

 

鳳翔も無言で俺の前に湯呑を置いた。

 

「えっと......コーヒーがあるんだが?」

 

「......(そっぽ向いている)」

 

そしてそれを見ているフェルトも眉を吊り上げている。

一体どういう状況なんだ?

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

作戦発動が通達され、私たち『気付いた』艦娘たちは再び艦娘寮の空き部屋に集まっているわ。

メンバーは私、金剛、霧島、鈴谷、イムヤの5人だけ。他の赤城、加賀、時雨、夕立、吹雪は作戦艦隊に編成されているので、今頃洋上だわ。

 

「さて。赤城たちが居ないけど、取りあえず草案だけでも出しましょうか。」

 

「そうデスネ。」

 

半分が居ない状態で会議が始まったわ。

内容はどうこの先動いて行くか。

 

「まず溜め込んだ資材をどう使うか......これは鈴谷、なんかない?」

 

「うーん。パイプ使って売り払うってのが良いと思うんだけど......。」

 

当初、彼女たちが考えていた使い方だわ。

売り払ったお金を提督の為に使う。そう言う事らしい。だけど、具体的な使い先が無いわ。そう言う私は何一つしてないから言えないけど。

 

「でも売り払った後が問題なんだよねぇ。そのお金を提督の為に使うってのはいいんだけど、どこにどう使えばいいのか分かんない。」

 

そう鈴谷は自分とイムヤが溜め込んだ資材の量を書き込んだ書類を見ながらそう言ったわ。

 

「資材って言っても油、弾薬、鋼材、ボーキだけじゃないわ。集めてくる途中で高速建造材や開発資材、バケツも拾ってきてたんだけど、売り払うことも出来ないの。」

 

イムヤはそう言って頭を抱えていた。

私の考えていた以上に資材を集めている様だわ。

 

「じゃあ鎮守府の倉庫にブチ込んじゃえば......。」

 

「ダメです。」

 

鈴谷がそう言いかけると霧島が割って入ったわ。

 

「あそこにある高速建造材などは全て管理されてます。記録に残ってない出し入れはすぐにバレてしまいます。」

 

そう言ってどっから持ってきたのか、執務室で実際に記録の取られている書類を私たちに見せてきたわ。

 

「だから鈴谷とイムヤはバケツはイムヤが資源回収の時に使って、高速建造材は行った先に置いて来てるんだけど......開発資材がどうしようもないんだよね......。」

 

鈴谷がそう言ったわ。確かに開発資材は貴重なものだから高速建造材みたいに簡単に手に入るからと言って置いてくるなんてできないのは分かる。だけど、本当に使い道がない。

そんな時、金剛が言ったわ。

 

「建造に使いまショウ。」

 

「「「「は?」」」」

 

全員が耳を疑った。建造に使うなんて大々的に出来る訳が無い。そう思っていたけど、霧島が口添えをしたわ。

 

「いや、これならいけます。」

 

そう言って霧島はメガネを上げたわ。

 

「鈴谷さん曰く開発資材は3桁突入してから数えてないという事。相当数の数があると考えていいんですよね?」

 

「うん。」

 

「なら簡単です。資材も山の様にあるのならそれを使って建造・開発をすればいいんです。」

 

そう言った霧島に私含め鈴谷とイムヤは分かっていない。

 

「この鎮守府も大型艦建造じゃない通常建造で建造できる艦はもう翔鶴さんしか残ってません。」

 

霧島は何やら説明を始めたわ。

 

「それ以外のレシピで建造を行い、出てきた艤装を近代化改修に使うんです。」

 

「......そうかっ!それで改修を繰り返して私たちの能力値を上げておくんだね!」

 

「そうです。」

 

そう言う事か。

私たちが勝手に近代化改修をしていても提督は気付かない。値で表されてるらしいが、実際のところ艦娘全員分を把握しているとは到底思えない。何十人と居る艦娘の全員の近代化改修の状況を把握していられるとは思えないわ。

 

「資材は残らないし、当初の目的からは逸れるかもしれマセンガ、私たちの戦闘力を上げておくことは、より戦争を早く終わらせる事に繋がりマス。」

 

金剛はそう言って続けたわ。

 

「今、資金を悩む時ではありマセン。いかに早く戦争を終わらせるか、デス。」

 

そう言う事で、草案の一つとして建造に回して自身の戦闘力を強化するというものが追加されたわ。

その次に霧島が提案してきたのは突拍子もないものだった。

 

「金剛お姉様と同じ建造に関してですが、私たちで大型建造を回し、強力な艦娘を集めておくのはどうでしょう?」

 

そう言った霧島は説明を始めたわ。

 

「『移籍』という名目で居るドイツ艦の皆さんや秋津洲さんは鎮守府の沖に出る事ができません。その理由を私は『この鎮守府で建造されてなくて本来の所有権は司令にないから』だと考えています。そして何故これを説明に出したかというと、叢雲さんは分かると思いますが、司令が着任される今もですが建造開発は艦娘が工廠に赴き、妖精さんに頼んでいます。」

 

そう言って霧島は図を書き始めた。

 

「通常の建造もこの鎮守府に元からいる艦娘の手によってされています。つまり、この鎮守府に元からいる私たちが建造開発をすればその際、建造された艦娘は沖に出れます。」

 

「提督の建造命令は無視するって事?」

 

「はい。と言うか、実際、建造命令も口頭で行われています。建造結果報告は一応書類を提出しますが、扱いは普通の書類です。機密書類にはなりません。ですので、私たちの独断で建造開発ができるんです。その例が、鎮守府上空に飛来してきた深海棲艦の大型戦略爆撃機の迎撃。長門さんが提督に無断で三式弾を開発、迎撃に出たことですね。」

 

そう言われてみればそんなこともあった。

 

「ですから建造自体は出来るんです。幸い、高速建造材も恐ろしい量がありますし。ですので、私は強力な艦娘を私たちの手で極秘に建造し、決戦の時に投入する事を勧めます。」

 

霧島の案も一応、草案の一つとなった。

その後、資金として売り払うという話も草案に加え、資材回収は続行という事で話は続いた。

次は、こちら側を増やすにあたってだわ。これに関してはイムヤが提案した。

 

「次は強行偵察艦隊をこちら側に引きずり込むことはどう?」

 

強行偵察艦隊。

その名の通り、各地の海域の偵察を行っている艦隊だ。主に第三艦隊という書類処理をされているけど、艦娘たちの間ではそう言われている。

威力偵察を行い、深海棲艦の配置や編成を調べてくる。そういう任務を一任している艦隊だ。ちなみに、遠征艦隊括りである。

 

「その意図はなに?」

 

鈴谷がイムヤに訊いたわ。

 

「偵察情報をこっちにも流してもらうの。そして資源回収先に一番手ごろなところも見てきてもらうってのはどう?」

 

「成る程。情報戦と安定した資源確保ですね。」

 

霧島はそう捉えたらしいが、私は違ったわ。

 

「それぞれの海域の弱点を探るのね。幸い、私たちの中には古参組が多く、こういった作戦にも引っ張り凧な状況。強行偵察艦隊の情報を使って効率の良い攻撃方法や作戦を現場で判断していくのね。」

 

「そういう情報の使い方もあるね。」

 

どうやらイムヤは私と霧島が思いついた両方の事を考えていたみたいね。

こうして会議は続いて行った。

幸い呼び出しは無かったので、朝から始まり昼をまたいで日が傾きかけたころまで続いたわ。というか吹雪が何も喋らないのを見ると、多分アイデアが浮かんでないんだろうね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

最近俺は不振に思っている事がある。

霧島からの赤城、金剛、鈴谷の情報が曖昧になってきたというか、濁されている気がしてならないのだ。そして別視点で調査を頼んでいる叢雲と熊野も変な様子な事が多くなった。

一体どうしたのだろうか。

その事に関係があるのか分からないが、深雪が執務室に来て俺に訴えてきた事がある。

 

『叢雲と吹雪がなんかこそこそとしてるんだ!』

 

そう言われて俺は『叢雲なら......』と思っていたが、そこに吹雪が入っているのが疑問に思えた。吹雪には何も頼んでいない。

それに、古鷹からも相談があった。内容は深雪と同じだが、それに更にある一言が加えられていた。

 

『鈴谷さんの監視任務をやってないように見えるんですよね。』

 

一体どういう事だろう。

熊野が任務を遂行しないとは思えない。

一体、彼女たちに何が起きたと言うのか......。

 





いやぁ、提督も何かに気付きはじめましたね。
それと、作戦が始動しました。作戦名に深い意味を求めてはいませんよ?
うん。

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