【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百十八話  operation"AL magic"③

私たちは予定よりも早く進軍してしまった。提督への報告には今日中に水上打撃部隊と交戦と言ったが、既に最深部の艦隊と交戦している。

戦火交える水面には立ち上る炎が辺りを埋め尽くしていた。

飛び交う砲弾と頭上に小うるさい艦載機。聞き慣れた発動機の音では無く、聴くだけで強張る音だ。

 

「全主砲、斉射っ!!」

 

硝煙を気にせずに外を睨む。

遥か彼方で水柱が上がり、観測妖精から連絡が入る。

 

「命中弾4っ!」

 

致命傷を負わせることが出来た筈だ。無線にも次々と報告が入ってくる。

 

『戦艦1隻轟沈っ!』

 

『敵空母の飛行甲板が炎上中っ!』

 

吉報だった。既に報告前には空母を1隻沈めていて、且つ、雷巡も1隻沈めている。残るは発着艦の出来ない的に成り下がった空母と損傷が軽微な戦艦、軽巡だけだ。

 

「本隊旗艦より第一支隊。支援を要請するっ!」

 

『準備出来てるネー。艦載機群がそっちに向かってるヨ。』

 

第一支隊旗艦の金剛が答えてくれた。

 

「有難い。支援砲撃も要請する。」

 

『分かったネ。』

 

通信が切れ、私は戦列を見た。乱れていない。流石は初期を支えた艦娘たちだ。だが、その中で新入りの大井はよくやっている。

進水した日に問題を起こしたと訊いているが、それ以来何もしていないどころか、良い話しか聞かない。駆逐艦の艦娘の面倒を見て、積極的に資料室で戦術指南書を読み、自分の艤装を磨く。とても素晴らしい模範だ。

 

「長門より本隊へ。第一支隊の支援が終了した直後、全速で吶喊するっ!赤城、加賀は艦載機の補給を行いすぐに発艦っ!」

 

『『『『『了解っ!』』』』』

 

敵艦隊の反対側を見ると、艦載機群がかなり接近しており、高速で空気を切り裂く音も聞こえた。

その刹那、敵艦隊に多くの水柱が立ち、艦載機群が襲いかかった。

 

「敵艦隊に突撃を敢行するっ!全艦続けっ!」

 

『『『了解っ!』』』

 

「北上と大井は左右に展開し、ありたっけの魚雷をたらふく食わせてやれっ!」

 

『言われなくてもっ!』

 

『そのつもりですっ!』

 

私と陸奥を追い越していった北上と大井は扇状に雷撃をし、離脱していく。

その雷撃針路に入らない様に進み、私は指示を出した。

 

「目標、敵戦艦っ!ビック7の力、侮るなよっ......撃てぇっ!!!」

 

轟音が身体を震わせ、硝煙が視界を遮る。

そして硝煙が晴れると、視界には燃え盛り、沈みゆく敵艦隊が映って見えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

知らなければならない事が大体分かってきた。

私たちは司令官の着任を快く歓迎し、受け入れたわ。それに司令官は最初に着任拒否を行使できる事も知っていたわ。だけども、そんなことをお構いなしにただ『司令官の着任』を喜んだ。だけどそれは私たちの視点。司令官の視点に立ってみてはどうでしょうね。

ここからは私の勝手な妄想だけど、司令官の視点に立ってみたわ。

この世界に指示を出していただけで、唯の学生だった司令官は突然この世界に呼び出された。そして長門たちに着任しては貰えないだろうかという話を持ち掛けられ、説得されたんでしょうね。それで司令官はここに着任することを決めた。

これは表面上の話よ。

 

(司令官って結構ニブチンだから分からないけど、あの人自体何考えてるかは判り易いのよね。)

 

この世界に留まる事を決め、艦隊の指揮を任され、学生では到底負う事のない巨大な責任をいきなり背負った。その重圧はとんでもないものでしょうね。

 

(もし責任に押し潰されそうになっていたのなら、おかしくなっている筈よね......。)

 

赤城が考えている事が司令官の背負っている責任を軽くするためのものなら待遇改善云々って話はないわ。それに責任に押し潰されそうならもっとわかりやすいアクションがあるはずよ。

次の線は、これが一番現実的よね。

 

(いきなり知らない世界に放り出されて軍隊の指揮を任され、自分も死ぬかもしれない世界に居る事。)

 

これならどっかのタイミングで逃げ出してるわ。もしかしたらそれ以前に着任拒否をしていたかもしれない。

最後に、一番あってほしくない事。そして赤城の言っていた事と照らし合わせると、一番可能性がある事。

 

(家族に引き離されて知らない土地にひとりぼっちで居る。周りには仲間もとい艦娘たちが居るけど、それでも知らない人たちだ。)

 

今のに2つ目を加えたら私にとって最悪な事だわ。

それだったら気付いた赤城たちが気付かない私たちを『司令官の害と判断して排除する』という話は繋がるわ。

だけども、ここまで考えてきたのはいいものの、憶測に過ぎないわ。司令官からその本音を訊きださない限りね。

 

「もう一度、話してみようかしら。」

 

私はそう呟いてその場から離れたわ。向かう先は執務室よ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

執務室には番犬艦隊と番犬補佐艦隊が居るわ。時間的には夕食も終えてそろそろ就寝の準備をしなければならない時刻。

 

「失礼するわ。」

 

そう言って私は執務室の扉を開いた。

丁度、解散しているところだったらしく、私の脇を球磨たちが通り過ぎて行った。

 

「ん?どうした、叢雲。」

 

司令官はそう訊いてきた。

 

「また少し話したくなってね......。いいかしら?」

 

「あぁ、フェルト。私室前に立っててくれ。」

 

「了解だ。」

 

司令官はフェルトにそう言うと私を私室に招き入れた。

 

「どうしたんだ?昼の後のは何かすることがとか言ってなかったか?」

 

「えぇ。もう終わったからね。」

 

そう私が答えると司令官はコップにお茶を注いだのを私の目の前に置いた。

 

「お茶の気分じゃなかったらごめんな。叢雲が帰った後に吹雪が全部飲み切っちゃってないんだ。」

 

「いいえ、お茶が良かったの。丁度いいわ。」

 

私はそう言ってコップを手に取ると、お茶を口に含んだ。

 

「唐突に気になったことがあってね......。」

 

「何でも言ってみろ。」

 

司令官は笑いかけてくれているが、これから話す事はそんな表情を一瞬にして吹き飛ばしてしまうかもしれないと考えると少し怖気づいてしまいかけた。

 

「......司令官さ。」

 

「あぁ。」

 

「『寂しい』って思ったことない?」

 

私がそう言うと司令官は表情を変えずに答えたわ。

 

「全然。皆がいるからね。毎日楽しいよ。」

 

答えた司令官の目を見て私は繰り返した。

 

「本当に?『寂しい』って思ったことないの?」

 

一瞬、司令官の目が泳いだ。これは多分嘘だ。

 

「あぁ。」

 

「本当に本当?」

 

そう畳みかけると司令官は口を開いた。

 

「......少し、思う。」

 

「どんな事?」

 

「......家族と友達が居ない事だ。」

 

どうやら予測的中してたみたい。でも最悪な方だった。そして私の脳裏にある言葉が壊れたように流れ出した。

 

『気付かなかったのなら貴女たちは私たちにとって提督の害になりますよ?』

 

『貴女たちは私たちにとって提督の害になりますよ?』

 

『私たちにとって提督の害になりますよ?』

 

『提督の害になりますよ?』

 

『提督の害。』

 

壊れたテープの様に赤城の声でそれが流れ続けた。『提督の害』。これで全て悟ったと言っていいか分からないけど、確実にあと一歩というところまで来たのは分かった。

 

「どうした?」

 

「......あっ......ああぁぁぁぁ......。」

 

引き戻された私の視界に映るのは司令官。心配そうな表情を私に向けている司令官だった。

 

(『提督の害』......これまでの話を整理すればもう少しよ。)

 

口ではもう何を言っているのか私自身分からないが、思考は正常と言っていいか定かではないが、考えられるだけの力は残っている。

 

(司令官はこの世界に『提督を呼び出す力』で呼ばれた存在。そして司令官は司令官のいた世界では学生。つまり勉学に励み、これからの国を背負っていく若者の一人。年齢は18歳でテレビで見ただけの話だとこれからが楽しい年齢。そして、それぞれが夢を持って突き進んでいる......。司令官はその若者の一人だった。)

 

遂に思考も正常に働いてるのか定かではなかった。司令官の呼びかけにも私は応じる事が出来ずに思考だけは進んでいく。

私の本能がそれを考えてはいけないと警笛を鳴らしているが止められない。

 

(という事は......私たちは私たちの勝手な都合で司令官の人生を奪った?)

 

さっきまで司令官の映っていた視界が一気にシャットアウトした。

思考もそれを考えたっきり止まった。

そして一気に現実に引き戻される。司令官が視界に映りさっきと変わらない心配そうな表情をして私を呼んでいた。

 

「叢雲?どうした??おーい。」

 

「あっ......いやっ......。」

 

思考に流入する情報は全て司令官のものばかりで、視界にも司令官しか映っていない。

 

「叢雲?返事しろよ......。目開けたまま寝たのか?」

 

「あぁぁぁぁぁぁ......ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????」

 

突然激しい頭痛に襲われたのと同時に現実が脳裏に焼き付いた。

これが赤城が気付かなくてはならない事だったのか。私の本能がそう訴えている。そしてそれと同時に本能が自害することを私の身体に命令していた。

 

「いやぁ......いやよっ......。」

 

「おい、どうした叢雲?突然泣き出して......なんかあったのか?」

 

相変わらず司令官はそう私に声をかけてくれる。いつもならうれしい事なのだろうが、私はその声を拒絶していた。それを訊いてしまう事はいけないことだと本能が自害を求めるのと同時に訴えてきているのだ。

 

「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤッ!!!!!」

 

「どうしたっ?!フェルトっ!!フェルトっ!!今すぐ入って来いっ!!!」

 

私はその声を聴いて気を失った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

さっき吹雪型の私室のネームシップだからといってここのリーダーを任されていますが、さっき妖精さんから連絡がありました。

叢雲ちゃんが執務室で突然、錯乱を起こして気絶したと司令官が言っていたという事です。

あの叢雲ちゃんが錯乱するって相当の事。何かあったに違いないけど、一体何なんだろう?

私は叢雲ちゃんが運ばれた医務室に足を運び、叢雲ちゃんが目を醒ますのを待つことにしました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

目を醒ました叢雲ちゃんの目には生気がありません。

一体どうしたのかと尋ねると叢雲ちゃんは私の肩を掴みました。普段ならもっと優しく掴む手も今日に限ってはとても強く、爪が食い込んでしまうのではないかというくらいです。そんな叢雲ちゃんは私に言いました。

 

「赤城が言ってた事......分かったわ。」

 

「本当っ?!」

 

「えぇ......だけど気付いてしまうともう戻れない。目を醒ましてから私の頭の中で誰かの声がずっと私に言ってくるの......『死ね。』、『自害しろ。』って。」

 

叢雲ちゃんの言っている意味が判らなかったです。何故そんな事が聞こえてきたのでしょうか。

 

「えっ?それってどういう意味?」

 

「......そのままの意味、よ。......気付くという事はそう言う事みたいね。そして、赤城の言った通りよ。」

 

叢雲ちゃんはそう言って私の顔を掴んで近づいてきました。

 

「気付かない艦娘は確かに『司令官の害』だわ。......だけどね。」

 

そう続けた叢雲ちゃんの目から大粒の涙が流れました。

泣き顔なんて一度も見せてこなかった叢雲ちゃんが突然泣き出しました。

 

「だけどね......本当は自分もその『司令官の害』の対象で、自分の存在がとても気持ち悪いわっ......。『提督への執着』によって起きる殺意は受容してしまうとこうなってしまうのよ......。」

 

そう言った叢雲ちゃんはベッドにもたれ掛かりました。

 

「それで、なにに気付いたの?叢雲ちゃん?!」

 

そう訊くと叢雲ちゃんは口角を不自然に上げて言いました。

 

「私たち艦娘が最も大事にし、大切に想っている司令官のね......。」

 

叢雲ちゃんは突然震え出しました。それを抑えながら振り絞った声で叢雲ちゃんは言いました。

 

「家族、夢......全てを奪ってしまったのよ。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

長門から作戦完了の報告が入り、支隊が続々と帰還してくる。

支隊は交戦をできるだけ避けてきているはずなので損傷はないが、長門たち本隊が気になるところだ。

 

「祝いは持ち越しだな......。西方海域の奪還の後だ。」

 

そうすぐに祝いをしたがる気持ちを抑えて自分に言い聞かせた。

だがその一方、気になる事があった。

昨日の夜、叢雲が突然錯乱を起こした事だ。話していると突然口を開かなくなり、どうしたのだろうと心配して見ていると突然叫び始めた。錯乱という言葉を書いた事はあったが、使ったことは無かった。見るのも初めてだったし、『壊れた』と思ったのも初めてだったが、何故突然ああなってしまったかが分からなかった。

 

(結局、叢雲のあれは何だったんだ?)

 

それに関してとても気になるところだが、俺は深く考えずに長門たちの返りを待った。

ちなみに今日の番犬補佐艦隊は最上、木曾、長良、名取、白雪、雪風だ。中々まともなメンツで安心していたところだ。

最上は結構マイペースで、一人水上機の運用に関する戦術指南書を読んでいた。木曾は瞑想。長良と名取は物語を読んでいた。白雪はファイルを見ていた。何を見ているかは知らない。雪風はというと、さっきから何故かは知らないが俺の欲しいものが分かるらしい。みかんや温かいお茶を淹れてきてくれる。正直うれしい。

と挟んだはいいものの、叢雲が心配だった。

 




遂に叢雲が気付きました。
これまでの傾向とは少し違っていますね。

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