【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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ここからは三つ巴続編です。


第百十六話  operation”AL magic”①

「これより作戦艦隊は出撃。」

 

早朝の鎮守府はいつもとは違う空気が流れていた。

これまで戦闘停止をしていたが、今日、それを解除する。それと同時に停滞していた戦線を押し上げる攻勢に出るのだ。

だがこれまでは富嶽やシステムに表立って歯向かう様な作戦を展開してきたが故に、『普通』の作戦を展開する今日は作戦艦隊に選ばれた艦娘たちの顔を緊張で強張らせていた。

作戦名『アルフォンシーノの魔法』。アルフォンシーノ列島の辺りではそう呼ばれていた自然現象があるらしい。餌を狙った大量の水鳥が海面を覆いつくす現象の事だ。これの水鳥を艦隊に掛けた作戦名だ。

 

「この作戦の目標は最深部。深海棲艦が塒にしている泊地を攻撃する事だ。」

 

俺は見渡した。出撃する艦娘たちは全員手練れだ。皆戦い慣れているはずだ。

 

「北方海域にはキス島の守備隊を助けに行った以来だ。あの時殲滅した分だけまた復活しているだろう。」

 

皆の顔が歪む。

 

「......今、日本と国交があるのはドイツだけだ。」

 

俺の前に並ぶ作戦艦隊の後ろの待機組に混じっていたドイツ艦勢はピクリと反応した。

 

「大国ロシア、中国、アメリカとの国交はおろか連絡も途絶えたままだ。」

 

俺がそう言うと、見届けに来ていた警備部の門兵たち。それも壮年の門兵たちは頷いた。

 

「この作戦はドイツ以外との国と連絡を取り、国交を回復する事も目的としている。......ちなみにこれは大本営には言ってない。」

 

そう言うと作戦艦隊と門兵たちは滑った。

 

「まぁ、取り返したらあっちの使節を連れてこればいい話だっ!......作戦艦隊は本隊を先頭に出撃っ!目標、アルフォンシーノ列島っ!」

 

「「「「「「了解っ!!」」」」」」

 

「大国に恩を売って来いっ!!」

 

「「「「「「そっちが本当の目的っ?!」」」」」」

 

こうして作戦艦隊本隊機動部隊6隻と支隊18隻はまだ日の上っていない大海原に繰り出して行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は作戦艦隊を見送ると例の如く、囲まれていた。何に囲まれていたのかは言うまでもないだろう。

 

「と言う訳で、また任されたわっ!」

 

ドヤ顔で俺の前にいるのはビスマルクたち、ドイツ艦勢だ。

 

「赤城から『番犬艦隊として提督の護衛』を任された。今度は『番犬艦隊』としての責務を果たすぞ。」

 

そう言うフェルト。

 

「私も金剛にあんな風に見られたくないからねぇ~。提督ぅー。」

 

プリンツがそう言うとレーベとマックス、ユーが頷いた。

 

「分かったから......。」

 

そう言って俺は頭を抱えながら視線を移動させる。その先には艦娘がまだ居た。

 

「番犬補佐艦隊、利根である。」

 

「筑摩です。」

 

「天龍だ。」

 

「龍田だよ~。」

 

「島風ですっ!!」

 

そう自己紹介?をしていく利根たちを見て俺は言った。

 

「補佐は分かったが、なんで炬燵。」

 

そう。執務室の床にはカーペットが敷かれ、その上には大きな炬燵があるのだ。そしてそこに利根たちは入ってぬくぬくとしているのだ。

 

「執務室に12人も艦娘が入るなんて前代未聞だぞ(※特別編で入ってます)。それに炬燵を持ち込むな。」

 

そう言うと利根は膨れた。

 

「なぜじゃぁ~。寒い上にソファーには本命が据わっておるじゃろ?吾輩たちのいる場所がないんじゃ。」

 

そう言うが顔はだらしなくなっていた。他もまた然り。

 

「つうか補佐ってなんだ?」

 

俺は単純にそれを疑問に思った。『番犬艦隊』に補佐を付ける意味がないのだ。常に俺の周りをうろつき、離れない『番犬艦隊』にどうして補佐が。

 

「『番犬艦隊』の補佐ですが、主に提督の針路と背後に距離を取って展開、安全確保をする任務ですね。」

 

筑摩はどこから出したのか、みかんを剥きながらそう言う。

 

「だったら筑摩たちは執務室の外の扉と本部棟の執務室の下に立つべきじゃないのか?」

 

そう考えるのは俺だけではないだろう。離れて護衛ならそれ以外に俺は思いつかなかった。

 

「『番犬艦隊』は赤城が編成させるんだが、今回から補佐を付けることにしたらしいんだ。」

 

天龍はてぺたーっと炬燵のテーブルに頬を付けて言った。

 

「その時に『補佐は提督が執務室にいらっしゃる時のみ傍にいる事を許します。』とか言ってこういう事になったのよぉ~。」

 

龍田は甘ったるい声でそう言った。

 

「それとこの『番犬補佐艦隊』は日替わりですからねっ!!」

 

島風は元気に言うが、身体は炬燵に侵食されている。

 

「はぁー......まぁいいか。」

 

俺は気にしても仕方ないと思い、執務をすることにした。

ちなみに今回からはビスマルクの宣言通り、ぴったりくっついてくるようになったし、俺中心の輪形陣で移動していた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

『支隊』はその特性上、24隻の大艦隊を解くことに意味があるので私たち『本隊』から離脱していった。

かなり遠くに離れ、それぞれの予定航路を前進している。

キス島の攻略に繰り出した時と同じ航路であり、レベリングで何度も通ったところだ。飽きが来ていたこの航路も今は私たちを緊張させている。

いつも頭上を飛んでいる富嶽はもういない。頼もしい大艦隊ではなく通常編成の6隻艦隊だ。

 

(最初は前哨戦だな。......支援は無しで大丈夫だろう。)

 

私はそう思った。だが元から前哨戦に支援は無い事になっていたのでさして問題ではない。

 

「敵艦隊を目視で確認し次第、単縦陣で突撃。一気に畳みかけるぞ。」

 

『『『『『了解っ!』』』』』

 

皆無線で応答してくれた。

 

「前哨戦だっ!」

 

私はそう自分に言い聞かせてこれから始まる激戦に身体を奮い立たせた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私はこの前、夕食後に司令官の執務室に呼ばれた時に赤城さんから訊いた話を思い出していました。

気付かなければならない事。それに気付かなかったのなら私は赤城さんにとって司令官の害となる......。そう頭の中で反芻しては考え、分からなくなり途中でやめるのを繰り返していました。

今は鎮守府で出撃できる数は全て出払っているので遠征任務は何も出来ません。ですので皆、思い思いに過ごしています。私を除いては。

私はあの日に言われてからずっとこのことを考えてきました。

私が提督の害になる。そう言われて何がそう思われる様な事だったのだろうかと、記憶を辿っていく最中、私はある事に気付きました。

 

(そうか。私たちが司令官の害となるということは、司令官にとって私たちの存在が司令官に害をもたらす者という事?)

 

具体的に何かは分かりませんでしたが、ここまではなんとなくですが分かった気がします。

私たちを害とみなす。それ則、私たちが司令官の害となる。それは分かりましたが、何故司令官の害となるのでしょうか?皆目見当もつきません。

 

(そうだ。叢雲ちゃんもあの時居た。訊いてみよう。)

 

そう思い立った私は叢雲ちゃんのところに向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夕食後の赤城の話。赤城の行動を調査していたけど、『提督の待遇改善』がどこに私たちが司令官の害となるのか分からないわ。確かに司令官は軍属にしては待遇が良すぎる。欲しいと言ったものは手に入る。したいと言ったものは出来る。これ程までいち軍人に対する待遇の良さは見たことが無いわ。

だけどこれ以上に赤城は待遇改善を要求していた。赤城は何を思ってそんな事をしたのか分からない。だけど、それを頼んだ大本営もできる限り力を貸すと返答している。意味が判らない。

 

(気付かなくてはならない?)

 

あの時の赤城からは『気付く』という単語が頻繁に出てきた。

 

(私たちは何かに気付いていないと言うことなのかしら?)

 

今のところそれ以外考えられなかった。抽象的な言葉ばかりの内容からここまで引っ張り出せた私にあっぱれと言ってやりたいわ。

だけど、なにに気付かなくてはならないのか全く分からない。

それに『提督への執着』も関連しているとも言っていた。『待遇改善』と『提督への執着』との接点は無いに等しいわ。今のところはね。だけどそれを一緒に並べてきたということは接点があると言う事だと思うわ。

 

(最もすべき事は『何かに気付く』事ね。)

 

最終的に出た答えはこれだけだった。

この答ということは、これの先にまだ続きがあるということ。私はまだ考えなくてはならない。赤城が言った言葉を整理して、記憶して、関連付ける。そうしなければいけない。そう思った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「叢雲ちゃん。」

 

私は同じ部屋で私と同じように考え事をしていた叢雲ちゃんに声をかけました。

 

「なに?」

 

そう言って振り返った叢雲ちゃんは難しい顔をしています。普段も結構仏頂面だけど、それが更に増したような感じ。

 

「赤城さんの言ってた事で分かった事ある?」

 

私は率直に聞いてみました。

 

「吹雪こそ。なんかある?」

 

そう訊き返されたので私はこれまでで考えて分かった事を答えました。

 

「『私たちが司令官の害になる』ことだけかな?叢雲ちゃんは?」

 

そう言うと叢雲ちゃんは私の肩を思いっきり掴んできました。

 

「それよっ!」

 

「へっ?!なにっ!?」

 

叢雲ちゃんは私の肩を話すと説明をし始めました。

 

「赤城は私たちに『気付く』ように言っていたわ。その気付く事は『私たちが司令官の害になる』こと。つまり、私たちは知らなければならない事があるのよっ!」

 

そう言って叢雲ちゃんは私の肩をまたグラグラと揺らしてきました。

 

「知らない事って何ー?というか揺らさないでー。」

 

そう言ってやっと解放された私は一息ついて叢雲ちゃんから説明を訊きました。

 

「知らない事っていうのは、私たちは赤城や金剛、鈴谷が知っていて私たちが知らない事があるの。そしてその知らない事は本来なら知ってなきゃいけない事で、気付いてないといけない事なの。つまり私たちには知らずのうちに何かをしていたという事ね。たぶん。」

 

そう言った叢雲ちゃんは視線を落としました。

 

「何かをしたって?司令官に?」

 

「そうなるわね......。気に障る事をしていたのかもしれないし、司令官の気持ちに気付けなかったのかもしれないけど、気付いた時には私たちは赤城たちみたいになるってことね。」

 

そう言って叢雲ちゃんは手をひらひらさせました。

 

「誰かとの接触を避けながらお金を貯めたり、やってはいけない事をするという事よ。」

 

「そうなの?」

 

「そうなるわ。と言ってもこれだけ分かっても、何の解決にもならないわ。『気付いた時』、お金を貯めてやってはいけない事をする......。『気付いた後』にするという事は、そうしなければならなくなるって事ね。」

 

どんどん叢雲ちゃんは考えを展開していきます。私はそれをただ訊いてるだけです。

 

「そうしなければならくなる......。お金を貯めてしちゃいけない事をしなきゃいけなくなるって、なにに気付いたんだろう?」

 

「さぁね。でも確実に言える事は『全ては司令官』よ。司令官が最大のヒント。司令官に関する事だって考えればいいと思うわ。」

 

そう言って叢雲ちゃんは立ち上がりました。

 

「ありがと、吹雪。貴女のお蔭でかなり分かってきたわ。でもこれから司令官の任務に行くわ。」

 

「事務棟?」

 

「そうよ。じゃあ、また何か気付いたら。」

 

叢雲ちゃんは部屋を出て行ってしまった。

お蔭で私も結構分かってきた気がする。ここは叢雲ちゃんに協力するというか、分かった事をそれなりに教えていった方が良さそうだから教えていきます。

じゃあ私も何かしますか。

 




提督は執務室で溜息。叢雲と吹雪は悩み、長門は考えている暇がないという......。
うひゃーって感じですね。
それと今回から前書きにも書きましたが三つ巴の続編ですね。あれは序章です(白目)
ちなみに題名のAL magicですが、引用はアルフォンシーノの元ネタであるアリューシャンのあたりに起きる自然現象です。大量の海鳥が餌を求めた海面を埋める現象ですね。本編に一応説明ありますがw

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