【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百十一話  三つ巴⑤ 提督編その1

 

夜も更け、消灯時間が刻一刻と迫っている9時半頃。

俺は秘書艦の霧島が真剣な眼差しで俺の合図を待っていた。

 

「赤城?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「もう休んだらどうだ?今日も『特務』を頼んだしな......。」

 

「お気遣いありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます。おやすみなさい。」

 

赤城は最近、自分で持ってくるようになった筆記用具とノートを脇に抱えて執務室を出て行った。

 

「さて......。」

 

俺は椅子の腰掛に思いっきり体重を預けて霧島を見た。

霧島は隠していたのか、ファイルが入っている棚からノートを引っ張り出した。

 

「今日までで分かっている事を報告させていただきます。」

 

霧島はそう言ってノートを開いた。

ちなみに赤城が帰ったのは確認済み。霧島が赤城が出て行ってから少しして、廊下を見たからだ。

 

「始める前に艦娘を呼んでいます。もうそろそろ来ますよ。」

 

そう言われて誰だろうかと待っているとほんの1分で足音が聞こえ、執務室の扉が開かれた。

 

「ども、青葉です。」

 

青葉はそう言って入ってくると扉を閉めて、霧島の横に立った。

 

「前回の写真から青葉さんには『内偵』をしてもらってます。今日は一定数の成果が挙がったのでその後報告を。」

 

そう言った霧島に合わせて青葉は俺の前に写真を並べた。

その写真はどれも草、木、雑草......その辺の野にでも入ったのだろうか。

 

「現在、金剛お姉様が作りましたトンネルの入り口を調査中です。詳しい事は青葉さんから。」

 

「はい。ではひとつずつ説明させていただきます。......先ずはここ2、3日の金剛さんがここらをうろつかない時間帯を狙って入り口を捜索しました。結果は見ての通りです。写真で撮った地図を頼りにその辺りをくまなく調査しましたが、入り口らしい入り口はありませんでした。かなり巧妙なカモフラージュを施していると思います。」

 

そう言って青葉は写真を纏めた。

それに合わせるかのように霧島はノートを見た。

 

「それと同時進行で『親衛艦隊』幹部に協力を要請、聞き込み調査を開始しました。結果、金剛お姉様に関しての情報は『軍手を持っていた。』との情報ありです。それと私の方で確認しましたが、お姉様の手のひらにかなり重いものを長時間持っていた形跡があり、財布から数万円が無くなっていました。使った物も不明です。」

 

霧島がそう言うと青葉はバツが悪そうな表情で言い始めた。

 

「調査中、金剛さんに見つかりそうになりました。が、身を隠したことでバレずに済みましたが、いざ出てみると忽然と姿を消しました。あのあたりに入り口があるのは確実です。」

 

「続けて。」

 

俺はそう言って霧島に続きを話すよう指示した。

 

「次に赤城さんですが、赤城さんは金剛お姉様や鈴谷さんよりセキュリティが甘いがゆえに情報を多数手に入れました。」

 

「こっちも青葉が説明します。」

 

そう言って青葉はまた写真を広げた。

 

「赤城さんはどうやら加賀さんを仲間に引き込むことに成功した様です。そしてその後、資料室に向かい、時雨ちゃんと接触。赤城さんと加賀さんの私室に入りました。青葉は話の内容を聞くためにダクトから押し入れの天井裏まで行きましたが、時雨ちゃんに発見されて追い返されちゃいました。」

 

そう言った青葉はしょんぼりした。

 

「バレたんですかっ?!......ですけど今の状況を見るとあまり問題視されていない様ですね。」

 

「はい......それでそこまでの会話内容から判断しますと、赤城さんの口調や表情から深刻な話をすることは明確でした。」

 

そう言って青葉は1枚の写真を俺に突き出してきた。それは赤城と加賀、時雨が目を紅くしている写真だ。

 

「これは?」

 

「隠し撮りです。赤城さんと加賀さんの部屋から出てきた時のものです。状況から察するに涙を流す深刻な話だったということですね。」

 

青葉は写真を纏めると続けた。

 

「その後、時雨ちゃんを尾行。夕立ちゃんと接触しましたがいつもの様子でしたので、尾行を中断しました。」

 

そう青葉が言い切ったのを訊いた霧島は溜息を吐いた。

 

「最後、鈴谷さんです。......鈴谷さんの情報は全く掴めません。日中どこに居て何をしているのかさえです。鈴谷さんと仲が良く、監視を続行している熊野さんでさえも全く分からないそうです。」

 

霧島がそう言うと青葉が割り込んだ。

 

「1つだけ鈴谷さんの情報を入手しました。これは『親衛艦隊』の聞き込みからではなく、間宮さんからによるものですが、『朝の補給物資搬入中に近くで鈴谷さんをよく見かける。』とのことです。ちなみにその時は鈴谷さんは必ずと言っていいほど、箱を持っているそうです。中身は不明です。」

 

何故箱なのだろうか。というか、その箱には何が入っているのだろうか、気になった。

 

「成る程......情報収集を続行せよ。優先するのは彼女たちのこの一連の動きの目的だ。」

 

「「了解。」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

青葉が出て行って霧島だけになると俺はさっき青葉が居る状態では言えなかったことを言った。

 

「なぁ、霧島。」

 

「はい。」

 

「俺は赤城たちの考えている事が分からない。いきなり何を始めたのかと思ったし、何をしようとしているのかも分からない。......だから俺は赤城たちに何をしているのかと言及する事すらできないでいる......。」

 

そう言って霧島を見た。

 

「私も同じです。お姉様が何を思って始めたのか、目的は何なのか、私はそれが知りたいです。ですが......。」

 

「?」

 

霧島はどもった。

 

「ですが、私はあの3人は方向性は違えど同じ目的をもって行動しているのではないかと思います。」

 

そう言って霧島は秘書艦の椅子に座った。

 

「ここの席、秘書艦の椅子はお姉様が変わられる時まで、座りたがっていた椅子です。『提督の傍で働きたい。』、『提督の執務するところを見てみたい。』、『提督に頑張ったなって褒められたい。』そう仰ってました。ですから提督の都合も考えずに秘書艦にして欲しいと頼んでいたんです。ですけど金剛お姉様は変わられてしまった......。異変は地図を眺め始めた時からです。最初は気にも留めませんでしたが次第に見る地図が私たちでは把握しきれていない鎮守府の施設の細部に渡る地図に変わり、最後は自分で書き始めました。いつもティータイムをしている時間でも、提督の執務室に訪れる時間になっても、金剛お姉様は地図を書き続けていたんです。」

 

霧島は珍しくメガネを外して置いた。

 

「そして地図を書かなくなると、今度は姿を眩ますようになりました。明るく、人懐っこく、皆を引っ張っていくお姉様は何時しか一人でどこかへ行ってしまった様に感じました。」

 

俺は姿勢を崩した。

 

「そこまで人柄を変えてしまう程の強い目的意識があっての行動......これは赤城さんや鈴谷さんにも見られることです。赤城さんはいつもニコニコしていて皆から慕われ、だけど結構お茶目で偶に提督に叱られて......そんな赤城さんが何かに囚われたかのように変わり、遂に加賀さんや時雨さんにまで同じものに囚われてしまった。鈴谷さんは進水当初は私たちが演習でよく相手になって貰ってました別の鎮守府の鈴谷さんのような活発で皆を楽しませてくれる、そんな鈴谷さんだったのに今ではどこかへ忽然と姿を消す、そしてどこに居るのか分からない、そんな風に変わってしまったんです。」

 

そう言って霧島は机に視線を落とした。

 

「......金剛お姉様と鈴谷さんには共通点があります。『近衛艦隊』で唯一、懐柔が出来てない艦娘です。豹変したのがその2人なら私たちは目的が絞れましたが、豹変したのは赤城さんも同じでした。赤城さんは『親衛艦隊』実質首領、私たちの親玉です。そんな赤城さんが壊滅した『近衛艦隊』の2人と同じようになってしまった......。」

 

霧島は変わらず机を見続けている。視線を上げようとはしなかった。

 

「提督には伏せてましたが、良い機会です。」

 

そう言って霧島は顔を上げた。

 

「赤城さんは『親衛艦隊』でありながら、『近衛艦隊』首領並みに『提督への執着』が強いんですよ。これまで様々な事件に巻き込まれ、その度に本能で提督の害を消そうとしたはずですが、赤城さんは理性でそれを抑えていたんですね、きっと。ですけど、今の状況から見るに赤城さんに理性が働くとは思えません。......こんな時に提督の身に何か危険が降りかかれば、横須賀鎮守府所属空母最強の赤城さんの高練度の艦載機群と『特務』で得た突飛な航空戦でどうなってしまうんでしょうね......。」

 

霧島は遂に机の上で腕を組んで伏せてしまった。

 

「私たちはどこに向かっているのでしょうか?......そう考える事が多くなりました。人柄が豹変したお姉様に鎮守府最強空母も人柄が豹変、明るい重巡は何処へ消えてしまい、遂には加賀さんや時雨さんまでそうなってしまうかもしれない......。凄く怖いんです。」

 

そう言った霧島の頭に俺は手をポンと置いた。

慰めっていう訳ではない。霧島にとって気休めになるか分からないが、せめて俺ができる事だ。

 

「......大丈夫だ。きっと3人とも帰ってくる。」

 

俺はそう言って手を動かした。左手の指の間を霧島の髪がすり抜けて行く。

 

「どーせまた金剛は『ヘーイっ!提督ぅー!秘書艦をいい加減私にするのデースっ!』とか言って来たり、赤城が特務失敗して俺に叱られてる姿を見たり、鈴谷が元気に誰かと遊んでいる姿を見せてくれるさ。」

 

そう言ったはいいものの、俺も不安だったりする。あの3人の事を鑑みると、他の事には目もくれずに何かをしようとしているということは、何かがあるということだ。これは紛れもない事実であって、それはとても重大な事。それぞれが何かを思って殆ど誰にも相談せずに動いているというのならば、せめて俺は外から来るお叱りを受けるだけはしよう。そう決めたのだ。

 





すっごい詰まった内容になってしまった......。矛盾点もあるかもしれませんがご勘弁を......。久々の提督視点でしたけど、やっぱりこっちの方が書きやすいですね。これが今回から4回周期で回ってくるって考えると、結構疲れそうです(汗)

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まぁ大体は執筆中の愚痴だとかどうでもいいことを言ってると思いますけどね......(爆)

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