【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
俺は朝起きてから霧島と連絡を取る為に通信室を訪れた。そこで聞いた状況はいつもと変わらずで、もう直ぐ着くとの事。
安心して、執務に入ると内線電話だろう。鳴りだしてフェルトは俺に言った。
「さっき帰ってきたばかりだが、通信室にお呼びだぞ。」
俺はそう言われてなんだろうと、通信室に戻ってみると慌ただしい様子で通信妖精が俺に言った。
「哨戒機より連絡。洋上を飛行する未確認編隊を確認。」
俺はそう言われて帰ってきた霧島たちだろうと思った。たぶん、哨戒に相当数の艦載機を出していたんだろう。だが、『編隊』と妖精は言った。赤城がそんな数の哨戒機を出すとは思えないが、帰ってくる道中に深海棲艦と戦闘でもしたのだろうか。収容前なのかもしれない。
だが、違和感があった。『未確認』という言葉だ。文字通りならそれ則、鎮守府には存在しない集団となる。
俺が考えていると続いて通信妖精が続報を言った。
「続報です。カラーリングはグレー。」
そう言っていた。俺は鎮守府にある航空機の色を全て思い出していた。大体が深緑で腹が白。零戦21型が全面白だ。鎮守府にグレーの塗装がなされた航空機は無い。
「っ!?鎮守府内に警報を鳴らせっ!!鎮守府周辺の住民に避難勧告。鎮守府地下の深度シェルターに収容を始めろっ!!」
そう叫んだ瞬間、隣の司令室で妖精が警報を鳴らした。
不快な気分にさせるサイレンが鳴り響き、その場にいた妖精たちは顔を強張らせる。
「続報まだかっ!」
俺がそう訴えると、通信妖精が報告してきた。
「未確認編隊は......高度12000mを飛行中っ!!現在迎撃に出れるのはアンブッシュイーグルと蒼梟だけですっ!」
「なんだとっ!!?すぐにM61に換装してあるアンブッシュイーグルと蒼梟は全機出撃っ!!疾風は2機小隊にて近海哨戒に出撃だ!!」
俺はすぐに指示を飛ばした。
そして現状を整理する。編隊を発見した哨戒機は近海哨戒に出ていた者だろう。となると、低空では無く登れる高度で哨戒をしていたはずだ。そしてその最中、未確認編隊を発見した。
ここまではいい。
「続報ですっ!!未確認編隊の総数を確認......652機っ!繰り返します、652機っ!!!」
そう言った通信妖精の顔は真っ青になっていた。そしてそれを訊いたその場にいる妖精たちと俺も同様に顔が青くなっていただろう。
侵入してきている編隊は652機だ。そんな数で今まで攻めてきた事があっただろうか。きっと鎮守府に奇襲を食らったとき以来だ。しかもその時よりも数は多い。
「そんな数、アンブッシュイーグルと蒼梟の20機だけで裁けれるか?」
「無理です。1/4も落とさずに弾薬切れです。」
俺は苦肉の策を出した。
「ならMG151のままのも出せっ!」
そう言うと司令部の妖精は首を横に振った。
「今、MG151を装備しているのは全機換装の為に分解中です。」
そう言われ俺は身体の力が抜けたように感じた。もう打つ手がない。たった20機で迎撃しなければならない。
多分、鎮守府上空にこれば高射砲を使って迎撃ができるだろうと考えている者もいるかもしれないが、きっと届かない。それは嘗ての戦争で経験しているはずだ。
「霧島たちの位置は?!」
「遠すぎますっ!」
霧島たちは先ほどのやり取りで分かっているが、まだ中部地方の海岸線を航行中とのこと、今から震電改を飛ばして貰っても間に合わない。
どうするべきなのか......。だがそんな迷っている時間は無い。
「えぇいっ!!アンブッシュイーグルと蒼梟の稼働機は全て出撃だっ!」
「了解っ!!」
俺はそう呼びかけて腕を組んだ。非常に不味い。
本当に不味いのはそんな高高度を飛べる深海棲艦の航空機があったことだ。だが俺はそれ以上の衝撃を受ける事になる。
「提督っ......。」
俺に話しかけてきたのは通信妖精だ。先ほど高高度を飛行する編隊と聞かされて青い顔をしていたが、今度はもう何もかもを諦めた表情をしている。顔に生気が無いのだ。
「敵編隊の構成が判りました......。」
「何だ?」
「大型戦略爆撃機級航空機が大半を占める護衛機付きの爆撃部隊です......。」
俺は視界が真っ暗になった。
大型戦略爆撃機級。つまり、富嶽程のサイズだと言うのだ。富嶽程だったらどれくらい爆弾を積んでいるかなんて容易に想像ができる。
20機で一個艦隊を全滅させれる富嶽が何百機と飛翔してきているのだ。そしてそれらには護衛機が居る。もし、アンブッシュイーグルと蒼梟が突入して乱戦になったとしたらどれだけの数を撃墜してこれるか......。
だが、ここで言うべきはネガティヴな事じゃない。
「大丈夫だ。大型戦略爆撃機級なら、被弾面積も大きいし、燃料タンクも大きいはずだ。すぐに撃墜できる!!」
俺はそう言って指示を出した。
「迎撃を開始する。できるだけ数を減らせっ!!」
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私は提督が鳴らしたのであろう警報を訊き、私室を飛び出していた。
ある場所に向かう為だ。それは工廠。
「はぁはぁ......。」
「どうされました?こんな時に。」
呑気に私にそう言う妖精に私はあるものを作る事を頼んだ。
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通信室には迎撃に向かった航空隊からの通信がひっきりなしに入っていた。
撃墜報告がほとんどだ。どっちを何機撃墜したかという報告だ。これまでには60機まで報告が入っていたが、途中から『弾薬切れの為、帰還します』という報告が増えていった。次第に撃墜報告が減っていき、最期の帰還報告から撃墜報告が途絶えた。どうやら一回の出撃で60機までしか撃墜出来なかったのだろう。迎撃戦をしている最中にも段々と編隊は鎮守府に近づいてきていて、鎮守府に帰り、弾薬補給をしてまた飛び立っても、迎撃に出れるのは精々2回が限度だった。それ以上はもう間に合わない。
「深度シェルターへの民間人の収容、完了しました。」
その報告が司令部から届き、門兵や事務棟や酒保の人たちの避難も終わったという報告を受けた。
「分かった。......哨戒機からの連絡は?」
「ありません。低空には深海棲艦はいない模様。」
俺は考えた。
大型戦略爆撃機はどこから飛んできたのかと。深海棲艦が島を占領している事は偶にあるが、太平洋に関してはそれは無いと考えられる。東南アジア、南アジアには日本皇国の泊地が点在している。そこ以外のところから飛んできていると考えると、太平洋東岸か東南アジアを越えた東アジアの方面。そこまで戦線を拡大しているつもりはないが、現実あり得る話だ。世界の海を蹂躙していると考えるのが正しいのだろう。
「哨戒機は任務を続行。MG151を装備した編隊はどうなった。」
「現在上昇中。接敵まで数分です。」
MG151を装備した機体には弱点がある。命中率の低さと射的距離の短さだ。MG151はM61よりも射程が短く、弾道が山なりなのだ。そして、備え付けの自動照準器が使えない。
そんな機体がそれぞれ50機ずつ飛んで行っているが、どこまで迎撃できるか見当もつかない。
「待機中の艦娘は艤装を装着っ!待機室へ。」
上空の爆撃機で忘れていたが、現在待機中の艦娘に指示を出していなかった。俺はすぐに通信妖精にそれを伝え、外のスピーカーに出力してもらった。
これで皆、艤装を纏って地下に来るはずだ。
『司令官っ!待機室に長門さんたちが来ませんっ!』
そう内線で訴えてきたのは青葉だった。どうやら走ってきたらしく、艤装を纏ったまま息を切らせてそう言ったのだ。
「どういうことだ。」
そう俺が訊くと青葉は衝撃的な事を口にした。
『長門さんたち戦艦が出撃したと他の娘が......。』
青葉は顔を青くして言った。
俺は葛藤した。これはどっちなのか、逃亡か無意味な出撃か.......。だが、言えることがある。俺は出撃命令を出していない。それに長門は前科がある。
「通信妖精っ!長門に繋げろっ!!」
「はいっ!」
俺はすぐに通信妖精に言って長門に繋げてもらった。
受話器を受け取ると耳にあてて、出るのを待つ。だがコールが続くだけで、一向に声が聞こえてこない。意図的に出ていないと考えてよかった。
「提督っ!」
「今度は何だっ?!」
俺は呼ばれた方向を見る。今度は司令室の方だ。
「洋上に出た長門、陸奥、扶桑、山城、伊勢、日向が砲撃っ!同時に迎撃隊が離脱中っ!!」
「何故だっ!!」
俺は叫んだ。このタイミングで離脱は不味い。再び鎮守府に爆撃されてしまうからだ。今度は大型戦術爆撃機だ。それも500機超の。全部頭上に落とされたら再起不可能になってしまう。
「通信......迎撃に出ていた隊長機が帰還します。」
通信妖精は青ざめたままだった。
「意味が判らない。ここを焼かれてもいいっていうのか?戦闘機の妖精たちは......。」
そう言うと続報が入った様だ。通信妖精が口元を震わせながら報告する。
「接近中の......未確認編隊の......殲滅を確認。」
「は?」
俺は通信妖精までもどうかしてしまったのかと思った。
今まで500機超と残っていた編隊が迎撃機が離脱した戦場で殲滅される訳が無い。どういう意味なのか。そして、今起きている事象は嘘だと言うのか。
俺は確かめるべく、その場から走り出し、外に出た。
上空には真昼間なのに流れ星が大量に落ちてきていた。どれも赤色で、時々爆発をしている。それが何を意味しているのかというと、それが撃墜された深海棲艦の大型戦術爆撃機だということだった。
「提督。長門さんから通信です。」
そう俺が飛び出してきたのを追いかけてきていたのか、通信妖精が俺の足元でそう言った。
「......分かった。」
俺は何故今更になって通信をしてきたのか、不信に思いながら通信室に戻って行った。
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結果から言えば、大型戦術爆撃機の編隊はいた。だが、一瞬のうちに全て撃墜したのだ。
どう撃墜したかというと、長門ら鎮守府に残っていた戦艦たちだった。長門はこの騒ぎからまず俺のところに行くのではなく、工廠へ行き、あるものを至急作るよう頼んだそうだ。
頼んだものとは......三式弾。艦これでは主に陸上型深海棲艦の殲滅の際に使われた特殊砲弾だ。だが本来の様とは違う。
発射された三式弾は上空を飛翔。時限信管によってあらかじめ設定されていた時刻になると信管が炸裂、砲弾から焼夷弾子をばら撒く。その用途は主に、対空戦闘時に使うものだ。一撃の砲弾で何機という航空機を破壊することができるのだ。
長門はそれをすぐに生産し、戦艦の艦娘を招集。艤装に三式弾を積ませて俺に断りなく出航したとの事だった。仰角が足りなかったので岩礁にわざと乗り上げて砲撃したという顛末だった。
だからいきなり迎撃機が帰還すると言って通信してきたのだ。
「すまなかった......。」
報告に来ていた長門たちは俺の前でそう頭を下げた。
だが俺もこんな対策を考えていなかった。三式弾の存在は知っていたが、もっぱら対地攻撃用の特殊砲弾だとばかり思っていたからだ。
それに長門の判断が無ければこんなに効率の良い迎撃法は無かった。今頃、鎮守府はまた爆撃を受けていたかもしれない。そう考えると、俺は長門たちを怒る気にはなれなかった。
「いい。寧ろ、独断とはいえ迫りくる脅威を退けた事を良かったと思う。ありがとう。」
俺はそう素直に言って立ち上がった。
「だが、俺に知らせてくれても良かったのでは?」
そう言うと長門は少し目線を逸らした。
「ん?何故目線を逸らす。」
そう俺が訊くと、日向が答えた。
「岩礁に乗り上げた際、艤装が損傷してしまってな、艦底が削れてしまった。入渠しなければならなくなってしまったのだ。」
そう日向は言っただ、更に付け足した。
「それに私たちよりも仰角のとれる長門と陸奥だけで十分だった。岩礁に乗り上げて撃ったのは私たち合わせて24門。乗り上げずに長門たちが縦隊で並び、全門斉射していたら16門だったし、それで足りた。」
そして日向は腕を組んだ。
「結果として私たち伊勢型と扶桑型は出ずとも殲滅できたし、更に岩礁に乗り上げなくても良かった。」
そう言うと山城が続けた。
「そして三式弾を私たちの艤装に満載したけど撃ったのは1回だけ。全速で向かったから燃料も余分に消費したし、迎撃に出た第二波もすることなくすぐに帰還。」
そう日向と山城が言っているのを訊いて反論せずに冷や汗を掻いている長門は震えていた。
「だが、最善の手だった!そうだろう?!日向と山城が言うのは結果論だ!!」
そう言って長門は怒りだしてしまった。
「その通りだ。」
俺はそう言って長門と日向、山城の間に割って入った。
「その時長門が思いついた最善の手だ。それに長門がこの作戦を思いついて行動している間、日向と山城は何をしていた?ただ長門の案に乗り、長門の案に口を出さずにただ従っただけ......違うか?」
そう言うとさっきまで勝気だった日向と山城は俯いてしまった。
「そうだが......。」
「ならいいんだ。艦底が損傷して入渠が必要でも、燃料を無駄に消費してしまっていても、妖精に無駄足を取らせてしまったとしても......あの物量に任せたアホ戦法で攻めてきた深海棲艦共を一撃で消し去れたのならな。」
そう言って俺は長門の方を向いた。
「よくやった。柔軟な対応ありがとうな。」
「あっ、あぁ。」
俺が長門に言うと少し恥ずかしそうに答えた長門を見て俺は席に戻った。
「むしろ日向と山城は長門を責めるべきじゃなかった。三式弾の開発をしておかずに、迎撃に数の揃っていない不完全な最新鋭の戦闘機を使った俺の責任だ。」
そう言って俺は6人に休むように言って執務室から追い出した。
そして自分を責めた。何故三式弾の開発を怠り、その本来の用途を間違った解釈をしていたのかと。
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私は今日の騒ぎの顛末を訊いてある事を思い出していた。
私の艤装から発艦される艦載機、メッサーシュミットとフォッケウルフは高高度性能に優れている事を。
「活躍の機会を逃したっ......。」
私室で私は枕を抱えて凹んだ。何時になったら活躍できるのだろうかと。
今日はいつも通りの時間で無くてすみません。
さっき書き終えたんです(汗) 別に明日に回せばよかったんですが、何だかすぐに出したくてですね......。
まぁそれは置いておいて、今回はそんな話になりました。感想の方に送られてきました考察で合っていた方、おめでとうございます。
何だか長門のイメージがすぐに怒る艦娘みたいなイメージがあるようですが、結構周りを見てるんですよね。流石秘書艦歴が長いだけある。
ご意見ご感想お待ちしてます。